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第三章 秋川千鶴の場合

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 叔母さんから教わったこと。それが私の人生の支えだった。それは信じること、そして諦めないことだ。
 叔母さんはよく『絶対に雨を降らす雨乞い師』の話をした。よくある例え話だけれど、私はその話が好きだった。
『雨を降らすのは簡単なのよ。だって雨が降るまで雨乞いすれば良いだけだから』
 と叔母さんは笑いながら言っていた。下らない話だと思う。屁理屈だし単なる結果論だ。
 でもそんな与太話が私に努力のあり方を教えてくれた。結果が出るまで続ける。それ以外に成果に結びつくことなんてない。これはある種の思考術なのだと思う。見返りを期待すると必ず裏切られた気分になる。だからうまいこと見返りを期待しないようにする。そのための雨乞い師の下らない話。案外、教訓なんてものは下らないものなのかもしれない……。
 
 ヒロの配信は終わっただろうか? ベッドの上で天井を眺めながらそんなことを思った。
 きっと言われたことは何かの間違いだ。そう思い込もうとすればするほどあの言葉が脳内で繰り返し再生された。おそらくどこかで期待していたのだ。彼なら私を理解してくれる。私を受け止めてくれると。
 でも結果は真逆だった。彼も同じだったのだ。他の男連中と何も変わらない。いや、むしろ普通の男よりもタチが悪いかも知れない。
 許せない許せない許せない。こんな理不尽は許されていいはずがない。
「思い知らせてやる」
 そんな独り言がぼそっと口からこぼれる。思い知らせてやる。報復してやる。完膚なきまで叩きのめして二度とネットで活動なんか出来なくしてやる。そして泥水でも啜って細々と生きれば良いのだ。それぐらいされたって文句は言えないだろう。だって彼は私の心をここまで踏みにじったのだから――。

 その日の夜も私はまったく寝付けなかった。朝まで意識だけが残る。そんな暗闇の時間だ。
 まぁいいだろう。叔母さんの言うとおり雨が降るまで雨乞いしてやる。雨が降るまでひたすらに呪い続けてやろう。そう思いながら瞼を閉じ続けた。
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