井の頭第三貯水池のラッコ

海獺屋ぼの

文字の大きさ
上 下
37 / 70
第三章 秋川千鶴の場合

しおりを挟む
 自宅に戻るとすぐにシャワーを浴びた。汗とメイクが流れ落ちる。排水溝に今日一日の頑張りと穢れが流れていくようだ。
 身体中隈無く洗う。陰部は特に。他意は大アリだ。ここは私の聖域なのだ。今は誰も立ち入れない場所。もちろんセクシャルな意味で。
 最後に男に抱かれたのは何年前だろう? ふと、そんな疑問が浮かんだ。記憶が確かなら大学卒業してから数年間は割とそういう関係になる男もいた気がする。まぁ、そんな男たちのことなどすっかり忘れてしまったけれど。(実際名前と顔が一致しない程度の記憶しかない)
 別にあの行為に対して抵抗や嫌悪感があるわけではない。ただ好きかと聞かれれば微妙だとは思う。妊娠という結果に繋がらないアレになんの意味があるのだろう? と心の奥底からそう思うのだ。
 多くの女友達は性行為を娯楽として楽しんでいたけれど私にはそれが理解できなかった。確かに快感はあるとは思う。でもアレに依存すればいずれ身を滅ぼすのではないだろうか?
 詰まるところ、私の理性はエンタメ的なセクシャルワークを拒絶したのだ。凸凹。そんな歪な娯楽などやりたくないと。
 髪にロクシタンのシャンプー香りが染み渡る。天然ハーブの香り。この香りを嗅いでいるだけで幸せな気持ちになった。午前中に浴びせられた「これだから行き遅れババアはよぉ」という言葉さえ許せそうになる……。いや、これは感情で許すべき話ではないだろう。あの男は弊社の敵だ。女性の敵だ。下着メーカーの広報部の人間としては最低の部類。制裁を与えてやろう――。そんな不穏な考えが浮かんだ。
 幸せなシャワータイムを終えるとリビングで髪を乾かした。しっかりトリートメントしているお陰で枝毛は少ない。やはり髪は女性の命だと思う。黒くてまっすぐな髪。私の自慢だ。
 髪が乾くと簡単に夕食を済ませた。野菜サラダとコンソメスープ、炭水化物はなし。別に健康を意識しているわけではないけれど夕食はいつもこんな感じなのだ。あまり食べたくない。飲み会ならともかく、自炊でそこまでしっかり食べる必要はないだろう。
 食べ終えるとすぐに食器を洗った。そしてその勢いのまま洗濯機を回し、部屋全体に掃除機を掛けた。普段は週末にまとめてしている家事の前倒しだ。
 そんな風に家事を熟しながら私は思った。ああ、こうして生活出来るのも叔母さんのお陰だなと。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。 そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。 そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説

宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。 美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!! 【2022/6/11完結】  その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。  そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。 「制覇、今日は五時からだから。来てね」  隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。  担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。 ◇ こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく…… ――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

続きは第一図書室で

蒼キるり
BL
高校生になったばかりの佐武直斗は図書室で出会った同級生の東原浩也とひょんなことからキスの練習をする仲になる。 友人と恋の狭間で揺れる青春ラブストーリー。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

1ヶ月限定の恋人を買ってみた結果

こてこて
ライト文芸
「キレイさっぱり消えて、粉になる。粉は普通ごみで捨てられるから心配いらない」 俺の自慢の彼女、それは“ハニーパウダー”であった。 落ちこぼれ大学生の俺に対し、とことん冷たかった彼女。それでも俺たちは距離を縮めていき、恋心は深まっていく。 しかし、俺たちに待ち受けているものは、1ヶ月というタイムリミットだった。 そして彼女が辿った悲痛な運命を聞かされ、俺は立ち上がる。 これは1ヶ月限定の恋人と向き合う、落ちこぼれ大学生の物語。

処理中です...