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第二章 菱沼浩之の場合
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相談内容が書かれるまでの間に他愛のない世間話をした。天気だとか都内であった強盗事件だとかそんな話だ。特に意味は無い。間を持たすための時間つぶし。そんな感じだ。
そうこうしているとコメント欄に相談内容が表示された。それを見た瞬間に悟る。『ああ、今日はこいつが当たりだ』と。
『おチヅ』の相談内容
「会社の後輩が全く使えません。彼女はもうすぐ入社三年目なのにまったく成長がないのです。私は彼女が成長できるのように精一杯教えてきたつもりです。でも正直もう限界です。これから私はどうしてたらいいでしょうか?」
俺はそんなコメントを読み上げると氷で薄まったウイスキーを口に運んだ。薄まった味も悪くない。
「うんうん。なるほどね……。相談内容はだいたい分かったよ。で? 『おチヅさん』はどうしたいとかあるの?」
俺はあえて答えが決まりきった質問をした。おそらくこれはリーディング以前の問題だ。
『おチヅ』のコメント
「正直言うと彼女には辞めて貰ったほうがいいと思います。たぶん彼女はウチの会社に合ってないと思うので……」
『思うので……』という主観がかなり弱々しく見えた。不思議なもので配信で相談を受けているとコメントだけで相手の精神状況が手に取るように分かるようになる。特に『……』を使う奴はやばい傾向にあるのだ。
察してくれ。庇ってくれ。私って正しいでしょ? そんな意識が見え隠れする。
「うんとね。じゃあ辞めるように勧めればいいんじゃない? 彼女だって今の職場合ってないなら合ってる場所にいった方が幸せだしさ」
当たり障りのある正論。それだけ言ってコメントを待つ。
『おチヅ』のコメント
「でも私は彼女が頑張りたいなら辞めろとは言えません。だって彼女の人生を決めるのは彼女自身だし……」
「そうね。それはそうだ。じゃあ『おチヅ』さん的には彼女が自主的に辞めない限りどうしようもない。ああ、私は可哀想な奴だ。あーあ、ヤダヤダって思ってるってことでいいかな?」
俺はそんな底意地の悪い言葉を吐いた。真実の言葉。表面上取り繕っても隠しようのない彼女の気持ち。まずはジョブだ。右ストレートまで彼女が粘るかは微妙だけれど。
『おチヅ』のコメント
「なんでそんなこと言うんですか? もういいです」
「もういい? あ、そう。じゃあこれでおしまいね」
ああ、またやってしまった。相談者を邪険に扱ってしまった。
まぁいいだろう。どうせ無料だ。金を貰ってやるならともかく、無償で彼女を気持ちよくしてる義理もないだろう。
「えーと、じゃあ一人キャンセルになったからもう一人抽選するね」
俺は何事もなかったかのようにサイコロを振り直した。気がつくと閲覧数は三〇〇〇人を超えていた――。
そうこうしているとコメント欄に相談内容が表示された。それを見た瞬間に悟る。『ああ、今日はこいつが当たりだ』と。
『おチヅ』の相談内容
「会社の後輩が全く使えません。彼女はもうすぐ入社三年目なのにまったく成長がないのです。私は彼女が成長できるのように精一杯教えてきたつもりです。でも正直もう限界です。これから私はどうしてたらいいでしょうか?」
俺はそんなコメントを読み上げると氷で薄まったウイスキーを口に運んだ。薄まった味も悪くない。
「うんうん。なるほどね……。相談内容はだいたい分かったよ。で? 『おチヅさん』はどうしたいとかあるの?」
俺はあえて答えが決まりきった質問をした。おそらくこれはリーディング以前の問題だ。
『おチヅ』のコメント
「正直言うと彼女には辞めて貰ったほうがいいと思います。たぶん彼女はウチの会社に合ってないと思うので……」
『思うので……』という主観がかなり弱々しく見えた。不思議なもので配信で相談を受けているとコメントだけで相手の精神状況が手に取るように分かるようになる。特に『……』を使う奴はやばい傾向にあるのだ。
察してくれ。庇ってくれ。私って正しいでしょ? そんな意識が見え隠れする。
「うんとね。じゃあ辞めるように勧めればいいんじゃない? 彼女だって今の職場合ってないなら合ってる場所にいった方が幸せだしさ」
当たり障りのある正論。それだけ言ってコメントを待つ。
『おチヅ』のコメント
「でも私は彼女が頑張りたいなら辞めろとは言えません。だって彼女の人生を決めるのは彼女自身だし……」
「そうね。それはそうだ。じゃあ『おチヅ』さん的には彼女が自主的に辞めない限りどうしようもない。ああ、私は可哀想な奴だ。あーあ、ヤダヤダって思ってるってことでいいかな?」
俺はそんな底意地の悪い言葉を吐いた。真実の言葉。表面上取り繕っても隠しようのない彼女の気持ち。まずはジョブだ。右ストレートまで彼女が粘るかは微妙だけれど。
『おチヅ』のコメント
「なんでそんなこと言うんですか? もういいです」
「もういい? あ、そう。じゃあこれでおしまいね」
ああ、またやってしまった。相談者を邪険に扱ってしまった。
まぁいいだろう。どうせ無料だ。金を貰ってやるならともかく、無償で彼女を気持ちよくしてる義理もないだろう。
「えーと、じゃあ一人キャンセルになったからもう一人抽選するね」
俺は何事もなかったかのようにサイコロを振り直した。気がつくと閲覧数は三〇〇〇人を超えていた――。
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