16 / 70
第二章 菱沼浩之の場合
5
しおりを挟む
相談内容が書かれるまでの間に他愛のない世間話をした。天気だとか都内であった強盗事件だとかそんな話だ。特に意味は無い。間を持たすための時間つぶし。そんな感じだ。
そうこうしているとコメント欄に相談内容が表示された。それを見た瞬間に悟る。『ああ、今日はこいつが当たりだ』と。
『おチヅ』の相談内容
「会社の後輩が全く使えません。彼女はもうすぐ入社三年目なのにまったく成長がないのです。私は彼女が成長できるのように精一杯教えてきたつもりです。でも正直もう限界です。これから私はどうしてたらいいでしょうか?」
俺はそんなコメントを読み上げると氷で薄まったウイスキーを口に運んだ。薄まった味も悪くない。
「うんうん。なるほどね……。相談内容はだいたい分かったよ。で? 『おチヅさん』はどうしたいとかあるの?」
俺はあえて答えが決まりきった質問をした。おそらくこれはリーディング以前の問題だ。
『おチヅ』のコメント
「正直言うと彼女には辞めて貰ったほうがいいと思います。たぶん彼女はウチの会社に合ってないと思うので……」
『思うので……』という主観がかなり弱々しく見えた。不思議なもので配信で相談を受けているとコメントだけで相手の精神状況が手に取るように分かるようになる。特に『……』を使う奴はやばい傾向にあるのだ。
察してくれ。庇ってくれ。私って正しいでしょ? そんな意識が見え隠れする。
「うんとね。じゃあ辞めるように勧めればいいんじゃない? 彼女だって今の職場合ってないなら合ってる場所にいった方が幸せだしさ」
当たり障りのある正論。それだけ言ってコメントを待つ。
『おチヅ』のコメント
「でも私は彼女が頑張りたいなら辞めろとは言えません。だって彼女の人生を決めるのは彼女自身だし……」
「そうね。それはそうだ。じゃあ『おチヅ』さん的には彼女が自主的に辞めない限りどうしようもない。ああ、私は可哀想な奴だ。あーあ、ヤダヤダって思ってるってことでいいかな?」
俺はそんな底意地の悪い言葉を吐いた。真実の言葉。表面上取り繕っても隠しようのない彼女の気持ち。まずはジョブだ。右ストレートまで彼女が粘るかは微妙だけれど。
『おチヅ』のコメント
「なんでそんなこと言うんですか? もういいです」
「もういい? あ、そう。じゃあこれでおしまいね」
ああ、またやってしまった。相談者を邪険に扱ってしまった。
まぁいいだろう。どうせ無料だ。金を貰ってやるならともかく、無償で彼女を気持ちよくしてる義理もないだろう。
「えーと、じゃあ一人キャンセルになったからもう一人抽選するね」
俺は何事もなかったかのようにサイコロを振り直した。気がつくと閲覧数は三〇〇〇人を超えていた――。
そうこうしているとコメント欄に相談内容が表示された。それを見た瞬間に悟る。『ああ、今日はこいつが当たりだ』と。
『おチヅ』の相談内容
「会社の後輩が全く使えません。彼女はもうすぐ入社三年目なのにまったく成長がないのです。私は彼女が成長できるのように精一杯教えてきたつもりです。でも正直もう限界です。これから私はどうしてたらいいでしょうか?」
俺はそんなコメントを読み上げると氷で薄まったウイスキーを口に運んだ。薄まった味も悪くない。
「うんうん。なるほどね……。相談内容はだいたい分かったよ。で? 『おチヅさん』はどうしたいとかあるの?」
俺はあえて答えが決まりきった質問をした。おそらくこれはリーディング以前の問題だ。
『おチヅ』のコメント
「正直言うと彼女には辞めて貰ったほうがいいと思います。たぶん彼女はウチの会社に合ってないと思うので……」
『思うので……』という主観がかなり弱々しく見えた。不思議なもので配信で相談を受けているとコメントだけで相手の精神状況が手に取るように分かるようになる。特に『……』を使う奴はやばい傾向にあるのだ。
察してくれ。庇ってくれ。私って正しいでしょ? そんな意識が見え隠れする。
「うんとね。じゃあ辞めるように勧めればいいんじゃない? 彼女だって今の職場合ってないなら合ってる場所にいった方が幸せだしさ」
当たり障りのある正論。それだけ言ってコメントを待つ。
『おチヅ』のコメント
「でも私は彼女が頑張りたいなら辞めろとは言えません。だって彼女の人生を決めるのは彼女自身だし……」
「そうね。それはそうだ。じゃあ『おチヅ』さん的には彼女が自主的に辞めない限りどうしようもない。ああ、私は可哀想な奴だ。あーあ、ヤダヤダって思ってるってことでいいかな?」
俺はそんな底意地の悪い言葉を吐いた。真実の言葉。表面上取り繕っても隠しようのない彼女の気持ち。まずはジョブだ。右ストレートまで彼女が粘るかは微妙だけれど。
『おチヅ』のコメント
「なんでそんなこと言うんですか? もういいです」
「もういい? あ、そう。じゃあこれでおしまいね」
ああ、またやってしまった。相談者を邪険に扱ってしまった。
まぁいいだろう。どうせ無料だ。金を貰ってやるならともかく、無償で彼女を気持ちよくしてる義理もないだろう。
「えーと、じゃあ一人キャンセルになったからもう一人抽選するね」
俺は何事もなかったかのようにサイコロを振り直した。気がつくと閲覧数は三〇〇〇人を超えていた――。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
熱い風の果てへ
朝陽ゆりね
ライト文芸
沙良は母が遺した絵を求めてエジプトにやってきた。
カルナック神殿で一服中に池に落ちてしまう。
必死で泳いで這い上がるが、なんだか周囲の様子がおかしい。
そこで出会った青年は自らの名をラムセスと名乗る。
まさか――
そのまさかは的中する。
ここは第18王朝末期の古代エジプトだった。
※本作はすでに販売終了した作品を改稿したものです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる