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第二章 菱沼浩之の場合

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 派遣のティッシュ配りは副業だ。本業は別にある。それは人の心を扱う商売で世間から見れば胡散臭くてスピュリチュアルでそして宗教じみた……。そんな商売だ。(精神科医だとか心療内科医などではない)
 セラピスト、カウンセラー、ヒーラー、占い師……。まぁ、スピュリチュアルの世界にも色々と肩書きはあるけれど、僕はその中でもオラクルカードリーダーという肩書きを名乗っていた。
 小難しく言ったけれど、要はカードを使う占い師だ。業界では細かい区分があるのでそう名乗っているだけで本質的にはタロットカードの占い師と変わらないと思う。
 もっとも、クライアントはそういった違いを知り尽くした猛者ばかりなのだけれど――。 

 仕事を終えると近所のコンビニに寄った。酒とタバコと食料品の仕入れ。生活のための物資補給だ。食料品を買う前に酒を買い物カゴに突っ込む。発泡酒と安いウィスキーのボトル。これが夜の活動の燃料になる。カゴの下に重い商品があるとコンビニバイト君が面倒くさそうにするけれど知ったことではない。(コンビニでの袋詰めは重いものから先に入れるらしい)
 酒とスナック菓子、あとはパウチのお惣菜。そんな感じにカゴが満杯になる。本当ならスーパーで買った方が安いけれど今日は面倒くさいのでコンビニで済まそうと思う。
「いらっしゃいませ」
 僕が買い物カゴをレジに置くと馴染みの男性店員が軽く会釈して会計を始めた。彼は慣れた調子で商品のバーコードがスキャンしていく。
「あと……。すいません。メビウスライトワンカートンください」
「はい!」
 メビウスライト。これは僕の夜の友だ。昼間は一切喫煙しないけれど、夜はコレがないと始まらない。
 昼間はテキパキ動く派遣社員。夜は気だるそうなオラクルリーダー。僕はそういう人間なのだ。まぁ、収入の九割を支えるのは夜の方だけれど……
 それから僕は二袋になってしまったコンビニ袋を抱えて帰った。ブラックニッカのボトルのせいで袋が破けそうになる。
 日が傾く。まもなく夜が来る。魔女が訪れ、神託が下される。そんな夜が。
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