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DISK1
第十九話 金曜ロードショー22時40分からの女
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「真木ぃ! またやってくれたな! この前注意したばっかじゃねーか!?」
俺は本社から技術開発部の工場を訪れていた。
工場内に技術部長の怒鳴り声が響き渡る。
真木さんはまた何かやらかしたらしく、部長にすごい剣幕で捲し立てられていた。
「すいません。すいません」
真木さんは頭をペコぺコ下げながら顔を真っ赤にして謝っている。
「ったくよー。これだから女は……」
技術部長は捨て台詞のように吐くとそのまま、真木さんの前から立ち去って行った。
「大変だな……」
俺は項垂れている真木さんの肩を叩いて彼女に声を掛けた。
彼女は一瞬、ビクッとして俺の方を見た。
この前みたいに目が潤んでいる。
「あ! はわわわわ。松田先輩! お疲れ様です!」
「そんなビクビクすんなよ。部長もあの言い方はひでぇよなー! 真木さんが何したかわかんねーけど、パワハラだよ、パワハラ!」
「いえ……。また私のミスで部長に迷惑掛けてしまったんです……」
真木さんは声を上ずらせながらそう言った。
「はぁ……。真木さんは真面目だなー。でもよー、あんな頭こなしに言われたらムカつくだろ? もっと感情おもてに出してもいーんじゃねーか?」
「いやいや! 私が失敗しなければ……」
真木さんは自分が悪いと言うだけだった。
「ま……。真木さんがそれでいいんならいいけどさ……。あ、そーだ! 新商品の設計図預かりに来たんだけど、真木さん持ってる? 今、事務員に真木さんが担当だって聞いたんだけど」
「あ、はい! 持ってます! ちょっと待ってくださいね! 今準備しますから!」
真木さんはそう言うと走って設計図を取りに行ってくれた。
「サンキュ! 助かるよ」
「いえいえ! こちらこそこの前は本当にありがとうございました! 松田先輩と色々と話ができてすごく楽しかったです!」
「ああ、気にしないでいいよ! こっちこそご馳走さん! ……。なぁ真木さん? もし辛いこととかあんなら話しぐらい聞くけど? 大丈夫か? さっきの部長の話し方だと、あんまり技術部とうまくいってねーんだろ?」
俺がそう言うと、真木さんはまた俯いてしまった。
「アハハハ……。正直あんまりうまくいってないんですよね……。でも大丈夫ですよ! 今度は失敗しないように頑張りますから!」
真木さんはそう言いながら辛そうな苦笑いを浮かべた。
「お前さぁ……。無理してるの丸分かりだぞ? よし! じゃあ先輩命令だ! 今日は飯食い行くぞ! 言いたい事とか悩みちゃんと言えよ!」
俺は半ば強引に真木さんを食事に誘った。
以前の俺ならそんなことはしなかったと思う。
ただ、昨日ウラと話して考え方を改めたのだ。
人間関係の悩みは傷口が広がる前に手当てしないと大変なことになる……。
退社後、真木さんとは駅前で待ち合わせした。
彼女は作業着のまま駅までやって来て、俺の姿を見つけると小走りで近づいてきた。
「お待たせしました! すいません今日は……。お気遣いいただいて……」
「お疲れ! いいよ、俺が無理に誘ったんだから気にすんな! それよりどこ行く? 飲みにでも行くか?」
「んー? そうですねー! お酒飲むのもいいですよね!」
そんな話をしていると俺の携帯に着信が入った。
画面には「京極裏月」と表示してあった。
「あ、真木さん悪い! バンドメンバーから電話だ! ……。もしもし?」
『あ、お疲れ大志! 昨日はありがとうねー。仕事終わったぁ?』
「お疲れ! 今終わって同僚と飲み行くとこだけど?」
『そっかぁー。飲み行くんだねー。じゃあ、また後でいいや!』
「なんか急用か?」
『んー……。実はさぁ、大志の会社の近くまで来てるからご飯でも行こうかなぁーって思ったんだよね!』
「そうか……。悪い……。今日は後輩の話聞こうと思っててさ……」
俺とウラが電話で話していると真木さんが俺に話しかけてきた。
「松田先輩! もし用事があるならそっち優先してください! 私は大丈夫ですから!」
真木さんは申し訳なさそうにそう言って右手で軽く髪を掻いた。
『ん? なーに大志? 後輩って女の子?』
電話口からウラの声が同時に聞こえる。
声の調子から冷やかしているようだ。
「ああ、そうだよ! 技術部の後輩なんだけどさ! 人間関係で困ってるっぽいから話聞こうかと思ったんだ!」
『へー……。下心とかあんの?』
ウラは含むような言い方をした。
あの嫌らしい表情が目に浮かぶ。
「そんなんじゃねーよ! 単純に悩み相談だ!」
『ふーん……。まぁいいよ! 大志君モッテモテだねー。いやー。羨ましい限りっすよ!』
「だーかーらー! そんなんじゃねーよ! そんなに言うんならお前も来いよ! 女子が居た方が悩み相談になりそうだし! 近くに居んだろ?」
『いやいや、大志君の恋路を邪魔するわけには……』
「マジお前いい加減にしろ! 今駅前にいるからすぐに来い! いいな!」
俺はウラに変に突っかかられて真木さんの許可もなく呼び出してしまった。
「あの……。松田先輩……。大丈夫ですか?」
真木さんは申し訳なさそうにそう言うと、引き攣った顔になった。
「真木さん悪い! ウチのバンドのヴォーカルが変に突っかかるから勢いで飲みに誘っちまった……」
「えー!? 何でそうなるんですか?」
「本当に悪い……。でもあいつ別に悪い奴じゃないし、もしかしたら真木さんにいいアドバイスくれるかもしんねーから……」
言い訳したものの言っていることはしどろもどろだ。
ウラに変な勘繰りをされたせいで俺は真木さんに事情を話すに話せなかったのだ。
結局、俺たちは駅前でウラが来るのを待つ羽目になった。
「あ、本当に女の子と一緒じゃん!?」
後ろから声を掛けられて振り返るとそこにはウラが立っていた。
予想通りの嫌らしい表情をしている。
「よぉ! お疲れ!」
「お疲れ様! えーと、ハジメマシテ! いつもウチの大志がお世話になってますー! 一緒にバンドしてる京極です!」
ウラは真木さんの姿を舐める様に見るとペコリと頭を下げた。
「は、初めまして! こちらこそいつも松田先輩にはお世話になってます! えっと、後輩の真木です! よろしくお願いします!」
真木さんはたどたどしい口調でウラに自己紹介すると深々と頭を下げた。
「真木さん……。そんなに緊張すんなよ! 一応お前らタメみたいだしさ……」
「えー!? そうなの!? 真木さん私と同い年なんだ!」
ウラはそれを聞くと妙に嬉しそうにしている。
「はい! 今21歳です! 京極さんとは同級生みたいですね……」
ウラとは対照的に真木さんは緊張していた。
俺たちは夕方の街で飲食店を物色して回り、ごく普通の個室居酒屋に入ることにした。
居酒屋に入ると威勢のいい掛け声が聞こえて、俺たちは店員に案内され奥の個室へと向かった。
ウラは居酒屋でバイト経験があった。
だからなのかもしれないが、店員と自然な会話をしている。
どことなく店員の女性もウラに対して愛想がいいように見えた。
「大志はとりあえず生でいい? 真木さんはどうする?」
「俺は生でいいよ!」
「えーと……。じゃあ私はオレンジジュースで……」
それを聞くとウラは慣れた調子で店員にオーダーを通す。さすが元店員。
「それで? 急に私も参加しちゃったわけだけど……。真木さんどうしたの? 仕事のこと?」
ウラは取皿を配りながら真木さんに尋ねた。
その仕草は卒がなく、まるで飲み屋のママのようだ。
「え……。あ、そうなんです……。ちょっと今日仕事で失敗しちゃって……。というよりいつもなんですけどね……」
真木さんが明らかにウラに気を使っていた。
それは仕方ないことなのかもしれない。
真木さんは真面目な会社員。ウラは自称メンヘラクソビッチバンドマン。
普通に生活していたら接点を持つことはないだろう。
「ふーん。そっかー、私会社員じゃないからよくわかんないけど……。大変だよねー。ほらさぁ、上司とか結構、横暴なこと言うじゃん? パワハラとかもあるだろうしさぁ……」
ウラは真木さんを安心させるように聞き役に徹していた。
俺は彼女たちの話を聞きながら黙って飲む。
女子が女子を慰めているのを見るのは妙に新鮮だった。
酒のせいかウラはテンションが高い。
ウラの聞き役は控えめに言って天才的だった。
始めは言いよどんでいた真木さんもすっかりウラのペースに乗せられている。
真木さんはかなり饒舌だった。
上司の愚痴を汚い言葉で吐き出し、大笑いしている。
「真木さん!! つーかもう私のこと名前で呼んでいいよー! みんな私のこと『ウラ』って呼んでるからそう呼んでー」
「ありがとー。私のことも『千賀子』って呼んでいーよー!!」
気が付けば、すっかり仲良しのようだ。
さっき会ったばかりのはずなのに既に親友のようになっていた。
お前ら打ち解けすぎだろ……。と心の中でツッコミを入れる。
「もう! 松田先輩ももっと盛り上がりましょうよ!! さっきからずぅーとボッチで飲んでるだけじゃないですか!!」
やれやれだ。真木さんもウラに飲まされてすっかり出来上がっている。
「お前らが楽しいなら俺はいいよ……。真木さんもすっかり元気になったみたいだしさ」
「大志さぁ! 私も決めたよ! もうウジウジしない! はっきり『アフロディーテ』と決別して『バービナ』で大成功する! もう決めた! 今決めた!」
「そうだよ! ウラちゃんすごいもん! 大成功できるって!」
「千賀子―!! ありがとうー! よっしょぁぁ」
昨日、リストカット寸前だったウラを見た俺としては正直安心した。
ある意味、真木さんと会わせたのは正解だったかもしれない。
不可抗力だが……。
「大志! もう私大丈夫だよ! もう悩んだりしない! 悔んだりもしない!」
ウラは以前のような屈託のない笑顔を浮かべて歯をむき出して笑った。
まるで金曜ロードショーのヒロインが22時40分からピンチから形勢逆転するような力強い言葉でそう言うと涙を浮かべた。
昨日までの涙ではない。
覚悟の涙だった――。
俺は本社から技術開発部の工場を訪れていた。
工場内に技術部長の怒鳴り声が響き渡る。
真木さんはまた何かやらかしたらしく、部長にすごい剣幕で捲し立てられていた。
「すいません。すいません」
真木さんは頭をペコぺコ下げながら顔を真っ赤にして謝っている。
「ったくよー。これだから女は……」
技術部長は捨て台詞のように吐くとそのまま、真木さんの前から立ち去って行った。
「大変だな……」
俺は項垂れている真木さんの肩を叩いて彼女に声を掛けた。
彼女は一瞬、ビクッとして俺の方を見た。
この前みたいに目が潤んでいる。
「あ! はわわわわ。松田先輩! お疲れ様です!」
「そんなビクビクすんなよ。部長もあの言い方はひでぇよなー! 真木さんが何したかわかんねーけど、パワハラだよ、パワハラ!」
「いえ……。また私のミスで部長に迷惑掛けてしまったんです……」
真木さんは声を上ずらせながらそう言った。
「はぁ……。真木さんは真面目だなー。でもよー、あんな頭こなしに言われたらムカつくだろ? もっと感情おもてに出してもいーんじゃねーか?」
「いやいや! 私が失敗しなければ……」
真木さんは自分が悪いと言うだけだった。
「ま……。真木さんがそれでいいんならいいけどさ……。あ、そーだ! 新商品の設計図預かりに来たんだけど、真木さん持ってる? 今、事務員に真木さんが担当だって聞いたんだけど」
「あ、はい! 持ってます! ちょっと待ってくださいね! 今準備しますから!」
真木さんはそう言うと走って設計図を取りに行ってくれた。
「サンキュ! 助かるよ」
「いえいえ! こちらこそこの前は本当にありがとうございました! 松田先輩と色々と話ができてすごく楽しかったです!」
「ああ、気にしないでいいよ! こっちこそご馳走さん! ……。なぁ真木さん? もし辛いこととかあんなら話しぐらい聞くけど? 大丈夫か? さっきの部長の話し方だと、あんまり技術部とうまくいってねーんだろ?」
俺がそう言うと、真木さんはまた俯いてしまった。
「アハハハ……。正直あんまりうまくいってないんですよね……。でも大丈夫ですよ! 今度は失敗しないように頑張りますから!」
真木さんはそう言いながら辛そうな苦笑いを浮かべた。
「お前さぁ……。無理してるの丸分かりだぞ? よし! じゃあ先輩命令だ! 今日は飯食い行くぞ! 言いたい事とか悩みちゃんと言えよ!」
俺は半ば強引に真木さんを食事に誘った。
以前の俺ならそんなことはしなかったと思う。
ただ、昨日ウラと話して考え方を改めたのだ。
人間関係の悩みは傷口が広がる前に手当てしないと大変なことになる……。
退社後、真木さんとは駅前で待ち合わせした。
彼女は作業着のまま駅までやって来て、俺の姿を見つけると小走りで近づいてきた。
「お待たせしました! すいません今日は……。お気遣いいただいて……」
「お疲れ! いいよ、俺が無理に誘ったんだから気にすんな! それよりどこ行く? 飲みにでも行くか?」
「んー? そうですねー! お酒飲むのもいいですよね!」
そんな話をしていると俺の携帯に着信が入った。
画面には「京極裏月」と表示してあった。
「あ、真木さん悪い! バンドメンバーから電話だ! ……。もしもし?」
『あ、お疲れ大志! 昨日はありがとうねー。仕事終わったぁ?』
「お疲れ! 今終わって同僚と飲み行くとこだけど?」
『そっかぁー。飲み行くんだねー。じゃあ、また後でいいや!』
「なんか急用か?」
『んー……。実はさぁ、大志の会社の近くまで来てるからご飯でも行こうかなぁーって思ったんだよね!』
「そうか……。悪い……。今日は後輩の話聞こうと思っててさ……」
俺とウラが電話で話していると真木さんが俺に話しかけてきた。
「松田先輩! もし用事があるならそっち優先してください! 私は大丈夫ですから!」
真木さんは申し訳なさそうにそう言って右手で軽く髪を掻いた。
『ん? なーに大志? 後輩って女の子?』
電話口からウラの声が同時に聞こえる。
声の調子から冷やかしているようだ。
「ああ、そうだよ! 技術部の後輩なんだけどさ! 人間関係で困ってるっぽいから話聞こうかと思ったんだ!」
『へー……。下心とかあんの?』
ウラは含むような言い方をした。
あの嫌らしい表情が目に浮かぶ。
「そんなんじゃねーよ! 単純に悩み相談だ!」
『ふーん……。まぁいいよ! 大志君モッテモテだねー。いやー。羨ましい限りっすよ!』
「だーかーらー! そんなんじゃねーよ! そんなに言うんならお前も来いよ! 女子が居た方が悩み相談になりそうだし! 近くに居んだろ?」
『いやいや、大志君の恋路を邪魔するわけには……』
「マジお前いい加減にしろ! 今駅前にいるからすぐに来い! いいな!」
俺はウラに変に突っかかられて真木さんの許可もなく呼び出してしまった。
「あの……。松田先輩……。大丈夫ですか?」
真木さんは申し訳なさそうにそう言うと、引き攣った顔になった。
「真木さん悪い! ウチのバンドのヴォーカルが変に突っかかるから勢いで飲みに誘っちまった……」
「えー!? 何でそうなるんですか?」
「本当に悪い……。でもあいつ別に悪い奴じゃないし、もしかしたら真木さんにいいアドバイスくれるかもしんねーから……」
言い訳したものの言っていることはしどろもどろだ。
ウラに変な勘繰りをされたせいで俺は真木さんに事情を話すに話せなかったのだ。
結局、俺たちは駅前でウラが来るのを待つ羽目になった。
「あ、本当に女の子と一緒じゃん!?」
後ろから声を掛けられて振り返るとそこにはウラが立っていた。
予想通りの嫌らしい表情をしている。
「よぉ! お疲れ!」
「お疲れ様! えーと、ハジメマシテ! いつもウチの大志がお世話になってますー! 一緒にバンドしてる京極です!」
ウラは真木さんの姿を舐める様に見るとペコリと頭を下げた。
「は、初めまして! こちらこそいつも松田先輩にはお世話になってます! えっと、後輩の真木です! よろしくお願いします!」
真木さんはたどたどしい口調でウラに自己紹介すると深々と頭を下げた。
「真木さん……。そんなに緊張すんなよ! 一応お前らタメみたいだしさ……」
「えー!? そうなの!? 真木さん私と同い年なんだ!」
ウラはそれを聞くと妙に嬉しそうにしている。
「はい! 今21歳です! 京極さんとは同級生みたいですね……」
ウラとは対照的に真木さんは緊張していた。
俺たちは夕方の街で飲食店を物色して回り、ごく普通の個室居酒屋に入ることにした。
居酒屋に入ると威勢のいい掛け声が聞こえて、俺たちは店員に案内され奥の個室へと向かった。
ウラは居酒屋でバイト経験があった。
だからなのかもしれないが、店員と自然な会話をしている。
どことなく店員の女性もウラに対して愛想がいいように見えた。
「大志はとりあえず生でいい? 真木さんはどうする?」
「俺は生でいいよ!」
「えーと……。じゃあ私はオレンジジュースで……」
それを聞くとウラは慣れた調子で店員にオーダーを通す。さすが元店員。
「それで? 急に私も参加しちゃったわけだけど……。真木さんどうしたの? 仕事のこと?」
ウラは取皿を配りながら真木さんに尋ねた。
その仕草は卒がなく、まるで飲み屋のママのようだ。
「え……。あ、そうなんです……。ちょっと今日仕事で失敗しちゃって……。というよりいつもなんですけどね……」
真木さんが明らかにウラに気を使っていた。
それは仕方ないことなのかもしれない。
真木さんは真面目な会社員。ウラは自称メンヘラクソビッチバンドマン。
普通に生活していたら接点を持つことはないだろう。
「ふーん。そっかー、私会社員じゃないからよくわかんないけど……。大変だよねー。ほらさぁ、上司とか結構、横暴なこと言うじゃん? パワハラとかもあるだろうしさぁ……」
ウラは真木さんを安心させるように聞き役に徹していた。
俺は彼女たちの話を聞きながら黙って飲む。
女子が女子を慰めているのを見るのは妙に新鮮だった。
酒のせいかウラはテンションが高い。
ウラの聞き役は控えめに言って天才的だった。
始めは言いよどんでいた真木さんもすっかりウラのペースに乗せられている。
真木さんはかなり饒舌だった。
上司の愚痴を汚い言葉で吐き出し、大笑いしている。
「真木さん!! つーかもう私のこと名前で呼んでいいよー! みんな私のこと『ウラ』って呼んでるからそう呼んでー」
「ありがとー。私のことも『千賀子』って呼んでいーよー!!」
気が付けば、すっかり仲良しのようだ。
さっき会ったばかりのはずなのに既に親友のようになっていた。
お前ら打ち解けすぎだろ……。と心の中でツッコミを入れる。
「もう! 松田先輩ももっと盛り上がりましょうよ!! さっきからずぅーとボッチで飲んでるだけじゃないですか!!」
やれやれだ。真木さんもウラに飲まされてすっかり出来上がっている。
「お前らが楽しいなら俺はいいよ……。真木さんもすっかり元気になったみたいだしさ」
「大志さぁ! 私も決めたよ! もうウジウジしない! はっきり『アフロディーテ』と決別して『バービナ』で大成功する! もう決めた! 今決めた!」
「そうだよ! ウラちゃんすごいもん! 大成功できるって!」
「千賀子―!! ありがとうー! よっしょぁぁ」
昨日、リストカット寸前だったウラを見た俺としては正直安心した。
ある意味、真木さんと会わせたのは正解だったかもしれない。
不可抗力だが……。
「大志! もう私大丈夫だよ! もう悩んだりしない! 悔んだりもしない!」
ウラは以前のような屈託のない笑顔を浮かべて歯をむき出して笑った。
まるで金曜ロードショーのヒロインが22時40分からピンチから形勢逆転するような力強い言葉でそう言うと涙を浮かべた。
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覚悟の涙だった――。
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