46 / 67
第四話 深夜水溶液
7
しおりを挟む
栞との思い出。それは私の核のようなものだ。幼なじみではないけれど、彼女は私のことを私以上に理解していると思う。本来の幼なじみ……。健次とは違った意味で彼女は私の理解者なのだ。
同性だからとか、性格が合うとか以上に彼女とは繋がりを感じた。それはある種の運命……。だと思う。出会うべくして出会った最愛の友達。それが栞だった――。
「おまたせ」
書店前のホールで待っていると栞がやってきた。数年ぶりに見る彼女は以前よりずっと大人っぽく見えた。中学時代には無かった色気のようなものもある。仮に私が男だったら放っておかないだろう。
「早かったなぁ。ひさしぶり!」
「うん。ひさしぶり! 元気そうで何よりだよ」
ああ、栞だ。と私は当たり前のことを思った。目の前にいる綺麗な女性が徐々に栞に戻っていく。そんな奇妙な感覚。どうやら見た目とは裏腹に彼女の中身ははあまり変わっていないらしい。
「せやな。栞も元気そうで良かった」
「えへへ……。ありがとう」
この「えへへ」だ。やはりこの子は変わらない。あの頃のままだ――。
「今月の平日はラジオの仕事あんねん」
「すごーい! すっかり売れっ子だね」
「まぁ……。少しはな。上の人が売り込み上手いから助かるわ」
そんな話をしながら三軒茶屋の街を二人で歩く。目的地はない。
「月子ちゃん本当にすごいよ! すっかりアーティストだもんね」
「いやいや。まだまだやで? それより栞のがすごいて。まさかこんな早く直木賞取るとはなぁ。今更やけどおめでとう」
「ありがとう! うん。私もビックリだよ。まさか取れるとは思ってなかったからさ」
そう言うと栞は苦笑いした。おそらく本当に取れるとは思っていなかったのだろう。
「読ませて貰ったけど良かったで! ……ってかよくあんな話書けたなぁ」
「あ、読んでくれたんだ! ちょっと今までの話とは違うでしょ?」
「ああ、全然違うな。ファンタジーやないし、かなりエグいしな」
栞の受賞作『みっつめの狂気』は決して面白おかしい話ではなかった。はっきり言ってかなり癖が強く、読者を選れぶ作品だと思う。幸いなことに私の肌には合ったけれど、苦手な読者だって一定数いるはずだ。
「エグい……か。まぁ、そうだろうね。私も書いてて不安になったし」
「ハハハ、まぁ気持ちは分かるで。ウチも作詞んときそんな感じや」
「作詞かぁ。作詞できる人ってすごいよね。私には無理だよ。あんなに短い中に全部込めるなんて」
「小説の方がすごいて! ウチは何十万文字も話書けんし」
作詞と小説。おそらくその両方とも難しいのだ。私はたまたま作詞の適性があった。それだけに過ぎない。まぁ、単純に分量だけ考えれば小説の方が何倍も大変だとは思うけれど……。
それから私たちは商業施設を見て回った。中学時代の延長線のようなウインドショッピング。
「なぁ? もしアレやったらウチのアパート来るか? お茶ぐらい煎れるから」
「そうだね……。じゃあお邪魔しようかな」
栞との久しぶりの家デート。懐かしい。何年ぶりだろう。
同性だからとか、性格が合うとか以上に彼女とは繋がりを感じた。それはある種の運命……。だと思う。出会うべくして出会った最愛の友達。それが栞だった――。
「おまたせ」
書店前のホールで待っていると栞がやってきた。数年ぶりに見る彼女は以前よりずっと大人っぽく見えた。中学時代には無かった色気のようなものもある。仮に私が男だったら放っておかないだろう。
「早かったなぁ。ひさしぶり!」
「うん。ひさしぶり! 元気そうで何よりだよ」
ああ、栞だ。と私は当たり前のことを思った。目の前にいる綺麗な女性が徐々に栞に戻っていく。そんな奇妙な感覚。どうやら見た目とは裏腹に彼女の中身ははあまり変わっていないらしい。
「せやな。栞も元気そうで良かった」
「えへへ……。ありがとう」
この「えへへ」だ。やはりこの子は変わらない。あの頃のままだ――。
「今月の平日はラジオの仕事あんねん」
「すごーい! すっかり売れっ子だね」
「まぁ……。少しはな。上の人が売り込み上手いから助かるわ」
そんな話をしながら三軒茶屋の街を二人で歩く。目的地はない。
「月子ちゃん本当にすごいよ! すっかりアーティストだもんね」
「いやいや。まだまだやで? それより栞のがすごいて。まさかこんな早く直木賞取るとはなぁ。今更やけどおめでとう」
「ありがとう! うん。私もビックリだよ。まさか取れるとは思ってなかったからさ」
そう言うと栞は苦笑いした。おそらく本当に取れるとは思っていなかったのだろう。
「読ませて貰ったけど良かったで! ……ってかよくあんな話書けたなぁ」
「あ、読んでくれたんだ! ちょっと今までの話とは違うでしょ?」
「ああ、全然違うな。ファンタジーやないし、かなりエグいしな」
栞の受賞作『みっつめの狂気』は決して面白おかしい話ではなかった。はっきり言ってかなり癖が強く、読者を選れぶ作品だと思う。幸いなことに私の肌には合ったけれど、苦手な読者だって一定数いるはずだ。
「エグい……か。まぁ、そうだろうね。私も書いてて不安になったし」
「ハハハ、まぁ気持ちは分かるで。ウチも作詞んときそんな感じや」
「作詞かぁ。作詞できる人ってすごいよね。私には無理だよ。あんなに短い中に全部込めるなんて」
「小説の方がすごいて! ウチは何十万文字も話書けんし」
作詞と小説。おそらくその両方とも難しいのだ。私はたまたま作詞の適性があった。それだけに過ぎない。まぁ、単純に分量だけ考えれば小説の方が何倍も大変だとは思うけれど……。
それから私たちは商業施設を見て回った。中学時代の延長線のようなウインドショッピング。
「なぁ? もしアレやったらウチのアパート来るか? お茶ぐらい煎れるから」
「そうだね……。じゃあお邪魔しようかな」
栞との久しぶりの家デート。懐かしい。何年ぶりだろう。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる