深夜水溶液

海獺屋ぼの

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第三話 文藝くらぶ

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 冬木紫苑は良くも悪くも有名人だった。『文藝くらぶ』最大の功労者にして、歴代最高ポイント獲得者……。そんな作家だ。
 なぜ彼(彼女かもだけれど)が文くら最大の功労者かといえば、彼が異世界転生ハーレム無双作品の先駆者だからだ。おそらく彼が居なければ私だって文くらに作品を投稿したりはしなかったと思う。
 彼の書く作品は他の全ての文くら作品の基礎なのだ。そして他の模造品とは格がまるで違う。純文学的な表現もくどくない程度に盛り込まれていたし、エンタメ成分も多分に含んでいた。言い得て妙だけれど、文くら作品にしておくにはもったいないくらいの作品だと思う。まぁ……。そもそも文くら系は彼の作った作品の焼き直しばかりなのでそう思うだけなのだけれど。
 だから……。そんな人から感想がきたことで心臓が飛び出すほど驚いた。(ただの同名作家かもしれないと思ってIDを確認したぐらいだ)
 彼の感想を開くとそこには簡単な感想が綴られていた。
 以下、冬木紫苑の感想。

 半井先生
 
 いつも楽しく読ませていただいております。
 先生の『妖精達の平行世界戦争』の更新が毎回心待ちにしております。
 特に地獄編に入ってからの展開の早さと伏線の回収のうまさに感動しました。
 ではお互い執筆活動頑張りましょう。
 
 冬木紫苑

 ……。普通だ。と言うのが感想を読んだ私の感想だった。これと言って面白みもない。常識的で且つ退屈。そんな印象を受ける。とても売れっ子作家とは思えない。
 その常識的な感想は逆に私を動揺させた。いや、一応褒められたのだから嬉しいは嬉しい。でもそれ以上に意味が分からなかった。文くら系のレジェンドの戯れか? それとも何かの間違いか? そう疑いたくなる。
 まぁいい。とりあえず落ち着こう。私は椅子から立ち上がると背伸びして深呼吸した。
 それから意味も無く部屋をグルグル歩き回った。さて、なんて返そう……。
 たぶん私は浮かれているのだ。あの冬木紫苑に構って貰えて嬉しいのだ。ずっと追いかけてきた人。私の憧れの作家……。
 一旦落ち着こう。話はそれからだ――。
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