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第四章 月の墓標
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そうこうしていると西浦さんの机の内線電話が鳴った。
「はい、西浦です。ええ。――ああ、そう。分かったわ。今から行くから待ってて貰って。――うん。丁重にね」
西浦さんはそう言うと受話器を置いて立ち上がる。
「春川さん、お客様よ。鍵山さんのお母様だって」
「海月さん……。ですか」
「そう! ちょうど良かったわ。私も遠藤さんのことで話したかったから」
西浦さんはそう言うとタバコをもみ消した。どうやら今日も長い一日になりそうだ――。
ロビーの応接用ソファーに行くと海月さんが待っていた。小ぎれいな黒のワンピースに白のジャケット。そんなややフォーマルな服装。
「お待たせいたしました」
西浦さんは彼女にそう声を掛けた。
「いえいえ。すいません。アポイントメントもなしに……」
「お気になさらずに。それで……。本日はどういったご用件で?」
西浦さんはわざわざそんな遠回しな質問をした。きっと海月さんと話すのにワンクッション欲しかったのだと思う。
「今日は……。弟と娘のことでお邪魔しました。本当にニンヒア様にはご迷惑お掛けして申し訳ありません」
「いえいえ。それで……。弟さんの容態はいかがですか?」
「今のところは何とも……。お医者様の話では肉体的な怪我は大したことないそうなんです……。ただ目を覚まさないんです。脳の検査をしても特に異常はないそうなんですが」
海月さんはそこまで話すと「すいません」と言って口にハンカチを当てた。彼女としても遠藤さんのことはかなりショックな出来事なのだろう。まぁ当然だ。たった一人の弟が昏睡状態で目を覚ます兆候もない。これじゃあまりにも生殺しだと思う。
「――当方としてもまずは遠藤さんのご回復をお祈りするばかりです。お仕事のことはお気になさらないでください。きっと月音さんもショックでしょうから」
西浦さんは気遣うような素振りで言うと私の方をチラッと見た。
『春川さん。今回の企画は中止にするしかないかも』
言葉にはしないけれど西浦さんの表情にはそんな色が浮かんでいる。
それから私たちは今後について簡単な話をした。と言っても話した内容は中止に向けての打ち合わせだけ……。そんな感じだ。
話し合いの最中。私は様々なことを考えた。遠藤さんは大丈夫だろうか? 月音さんは? これからクリエイター発掘部はどうなるのだろう? 本当に条件次第では退職しようかな……。そんなことが脳裏をかすめていく。
そんな私の思いを余所に西浦さんは淡々と海月さんと話を詰めていった。ああ、どうやらここまでらしい。
「はい、西浦です。ええ。――ああ、そう。分かったわ。今から行くから待ってて貰って。――うん。丁重にね」
西浦さんはそう言うと受話器を置いて立ち上がる。
「春川さん、お客様よ。鍵山さんのお母様だって」
「海月さん……。ですか」
「そう! ちょうど良かったわ。私も遠藤さんのことで話したかったから」
西浦さんはそう言うとタバコをもみ消した。どうやら今日も長い一日になりそうだ――。
ロビーの応接用ソファーに行くと海月さんが待っていた。小ぎれいな黒のワンピースに白のジャケット。そんなややフォーマルな服装。
「お待たせいたしました」
西浦さんは彼女にそう声を掛けた。
「いえいえ。すいません。アポイントメントもなしに……」
「お気になさらずに。それで……。本日はどういったご用件で?」
西浦さんはわざわざそんな遠回しな質問をした。きっと海月さんと話すのにワンクッション欲しかったのだと思う。
「今日は……。弟と娘のことでお邪魔しました。本当にニンヒア様にはご迷惑お掛けして申し訳ありません」
「いえいえ。それで……。弟さんの容態はいかがですか?」
「今のところは何とも……。お医者様の話では肉体的な怪我は大したことないそうなんです……。ただ目を覚まさないんです。脳の検査をしても特に異常はないそうなんですが」
海月さんはそこまで話すと「すいません」と言って口にハンカチを当てた。彼女としても遠藤さんのことはかなりショックな出来事なのだろう。まぁ当然だ。たった一人の弟が昏睡状態で目を覚ます兆候もない。これじゃあまりにも生殺しだと思う。
「――当方としてもまずは遠藤さんのご回復をお祈りするばかりです。お仕事のことはお気になさらないでください。きっと月音さんもショックでしょうから」
西浦さんは気遣うような素振りで言うと私の方をチラッと見た。
『春川さん。今回の企画は中止にするしかないかも』
言葉にはしないけれど西浦さんの表情にはそんな色が浮かんでいる。
それから私たちは今後について簡単な話をした。と言っても話した内容は中止に向けての打ち合わせだけ……。そんな感じだ。
話し合いの最中。私は様々なことを考えた。遠藤さんは大丈夫だろうか? 月音さんは? これからクリエイター発掘部はどうなるのだろう? 本当に条件次第では退職しようかな……。そんなことが脳裏をかすめていく。
そんな私の思いを余所に西浦さんは淡々と海月さんと話を詰めていった。ああ、どうやらここまでらしい。
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