月不知のセレネー

海獺屋ぼの

文字の大きさ
上 下
33 / 136
第二章 フユシオン

15

しおりを挟む
 その日、私は兄と協力して半井先生に小説の感想を送った。

 半井先生
 
 いつも楽しく読ませていただいております。
 先生の『妖精達の平行世界戦争』の更新が毎回心待ちにしております。
 特に地獄編に入ってからの展開の早さと伏線の回収のうまさに感動しました。
 ではお互い執筆活動頑張りましょう。
 
 冬木紫苑

 そんな当たり障りのない感想だ。最初は気の利いた言葉を考えようとしたけれど、結局この文面に落ち着いた。カッコつけたい。よく見られたい。そんな気持ちがないと言えば嘘になるけれど、そんなことしても半井先生には見透かされそうな気がしたのだ。
「読んでくれるかなぁ?」
 送信ボタンを押し終わると私は独り言のように呟いた。正直な感想ではあるけれどあまりにも普通だと思う。
「大丈夫だよ。半井さんってかなりマメに感想返信する作家さんだからね。この前なんか五〇件くらいあるのに全部に返信してたよ」
 五〇件。なかなかの数だ。私だって一話あたりせいぜい三〇件程度なのに。
「やっぱり半井先生って人気なんだね」
「そりゃそうだよ」
 兄は少し呆れたように言うと「本当に抜かれるかもね」と付け加えた――。

 私が感想を書いてから数時間後。半井先生から返事があった。

 冬木先生
 
 このたびは拙作『妖精達の平行世界戦争』を読んでいただき誠にありがとうございます。
 お恥ずかしい話、地獄編突入後は本当に四苦八苦しながら執筆しておりました。
 手前味噌ですが地獄編は私の集大成のようなパートなのでそう言っていただけて感激です。
 本当にありがとうございました。ではお互い執筆活動頑張りましょう。
 
 半井のべる

 そんな内容だ。控えめに言って普通。もしかしたら半井先生も私と同じような気持ちで返信してくれたのかも知れない。
 私はしばらくその返事を堪能するように頭の中で彼女の言葉を咀嚼した。繋がりを持てた。その実感を噛みしめるように。
しおりを挟む

処理中です...