思春期ではすまない変化

こしょ

文字の大きさ
上 下
1 / 10

第1話

しおりを挟む
 中学生になってからのこと、体が急に変な成長をして、親友が距離を取ってくるようになった。オレが女子になったのはそんなに問題か? 姿は変わったかもしれないが、心は何一つ変わっていないのだから、今まで通り接してほしい。
「いや、そりゃ無理だろ……」
 クラスメイトの男子モブAが言う。
「なんで!」
「だって女子と男子じゃ意識しちゃうだろ? しかも、ただの女子じゃないし」
「そうかなあ、じゃあ、お前は? 普通に話してるけど」
「おれは、どうせモブAとしか思われてないから」
 彼は終始明後日の方向に頬杖つきながら答えている。オレは慌てて弁明した。
「そ、そんなことないよ。そんなこと言ってるのはオレじゃないし!」

 オレの体は変わった。意味不明ながら謎の奇病で大人の女性に姿が変わってしまった。そんなことがあっていいのか? 自分の面影なんて全然ないし、家族の誰にも似ていない。先祖をさかのぼればもしかしたらだけど、たぶん調べる方法はない。
 平均的身長のモブAと話していても彼が見上げるほどに背が高い、たぶん170センチ以上はあるかな。なのに胸が大きすぎて足元が見えなくて怖い。女子の制服なんて着れないし元々の男子の制服すらうまく着れないから、ただの私服で普通の白いシャツを着て紺のズボンを履いている。
「俺はさ、氷室、お前がそんなになっても普通に学校に来れてるのが不思議だよ」
「まあ……それは……オレはオレだから」

 オレは気にしないつもりでいる。
 だけど、気にしてるのは周りの方だ。特に親友がオレと目を合わせようとせず、顔より下の方ばかり見ている。あれだけ一緒に遊んでいたのに。
「氷室、姿勢をちゃんとしなさい」
 授業中に先生からそう言われる。ちゃんと、というのは足を開くなというのだ。背が高いから一番後ろの席だというのに、それでも気になって仕方がないらしい。まず椅子が小さいのはどうにかしてほしいって思うけどこれが一番大きいらしいし……。
「別に今何がどうなったというわけじゃないぞ」と先生は付け加える。「ただ、今の状態を自覚して、学校の外でその……あまり隙のある行動をしないようにしないとだからな」
 生徒から、先生エッチ!とでも言われるかと思いきや、みんな神妙に聞いている。オレに対してそういう、配慮してあげようねというのが行き渡っていて、「茶化したらだめだ」となっているみたい。それはそれでなんだか腫れ物扱いで面白くない。

 お昼になったので親友と一緒にご飯を食べようと声をかけた。
「トモキ! 屋上行こうよ」
 今までよくそうしていたし、同じようにしたつもりだったが、トモキの方が同じように答えてくれない。
「悪いんですけど……僕は友達と食べるんで……」
 ビクビクしたように彼は答えた。
「オレも友達だろ!」
 そう言ったが、振り向かせることはできずに彼は行ってしまった。
 多少落ち込んだ気持ちもありつつ、仕方がないので自分の席で弁当を広げて食べる。元々は男の頃から体がでかかったのだが、教室の椅子は自分には小さくて居心地が良くない。
 女子が集まってきた。
「氷室くん、振られちゃったね」
「振られた、って何言ってんだよ、気持ち悪いな、あっちも友達との約束があったんだろうから仕方ないよ」
「うんうんそうだね、わかるよ」
 わかってなさそうに女子は答える。オレは弁当を口に運びながら、左右の女子を見た。
「なんでずっとそこにいるの」
「氷室くん、なんで振られたと思う」
「さあ、わからないよ」オレは首をかしげて答えた。「というかもういいから、どっか行ってよ。邪魔だよ」
「あなたは中途半端なのよ!」
「なんだとぉ……?」
 それを言った女子を睨むと目が合った。女子と目が合うとちょっと照れる。なんていったっけこいつは、アラキさんだったか。
「今照れたでしょ? あなたが感じたのと同じ思いをトモキくんも感じたのだわ。男子は女子と目が合うと照れる!」得意げに自説を披露する。
「! それは盲点だった」感心してしまったが、しかし大きな問題点もある。「じゃあどうしろっていうんだよ、もう親友には戻れないのか……」
「安心して! 私たちはみんなあなたのこと好きだから!」
「え?」
 女子からストレートにそう言われるとドキドキしてしまうが、相手も昂奮して頬が紅潮している。つか周りの女子がペタペタ体を触ってくるのも気になる。
「あなたを最高の女性にしてあげるわ!」
「ん? え、なんだって? 気が散ってて良く聞こえなかった」
 正しくは聞こえてはいたが、頭に入らない。
「逆にどんな男子も目を離せなくなるくらいにキラキラ輝かせてあげたいって言ってんのよ!」
「……??」
 混乱していると、後ろにいる別の女子の声が聞こえる。
「まあ、要はあなたにお化粧したりおしゃれしてあげたいの、だって氷室くんったら理想の女性なんだもん」
「いや、あの……」
「いいでしょ、お願い~」
 そういう甘え声が聞こえたり、体をわざとらしく押し付けてきたりする。さすがにドキドキするしおだてられたりするのに負けて、了承してしまった。

「あの、あんまり胸とか触るのやめてもらえますか。くすぐったいので」
「必要なのよ!(強弁)」
 なすがままの時間が過ぎて、ずいぶんと化粧をされたりまつげをいじられたり。そのうちにいいよと声が聞こえたから目を開けてみると、なんとも厚化粧のやりすぎたギャルの姿が鏡に写っている。
「なんだこれは……」
 アラキさんを始め女子の顔を見ようとするとみんな目をそらす。
「あたしたち……そんなにお化粧が上手じゃないから……だって普段からたくさんやってるわけじゃないし……でも、やってみたかったの!」
「やってみたかったじゃねえよ、どうするのこれ、先生に怒られるだろ、早く元に戻して」
「もったいない! ちょっとやりすぎたけど、でもかわいいよ、まず素材がいいし、私は好きだし。使った道具だって高かったんだから! 先生なんて氷室くんには何も言わないよ!」
 かわいいかわいいと押し切られてまた言うがままになってしまった。これでいいのかオレは?
 休憩が終わるので戻ってきたクラスメイトたちが、オレを見ると一瞬ぎょっとして、すぐ見なかったことにして席に戻っていく。トモキも同じだったので切なかった。オレははずかしくて顔から火が出るかと思った。アラキの方を見ると、にやにや笑っていて、やっぱり騙されたんだと思った。先生も同じように何も言わなかったが……。

「もうやらない! 早く戻して! 家に帰れないから!」
 待ちに待った放課後になって、またおもちゃにされる前にさすがに怒った。
「ごめん、ごめん」とアラキたちは謝った。
「ちょっと調子に乗っちゃった、つい嬉しくなっちゃって。今度はうまくやるから」
「今度とか言うな!」
 やっとのことですっぴんに戻ることができた。まったくたまらないよ。トモキは逃げるように帰ってるし。オレももう帰ろう。

 帰り道に商店街をとぼとぼと歩いていると声をかけられた。またナンパだ。また。男から声をかけられるのはよくあるのだが、高校生とかでも怖いし、大人も怖い。しかも、相手は相手でこちらのことを「お姉さん」なんて呼んでくる。オレはお姉さんではない。視線が、オレの顔の下なのもムカつく。トモキと同じだ。だからいつも走って逃げる。足は速い方なのだ。
 しかしその日の相手は大人の女性だったのでとりあえず様子見で即座に逃げるのは思いとどまった。
「オレ……じゃなくてボクに何の用ですか?」
「ボク!? あいえ……よかったら……お名前を教えてもらえませんか」
「氷室雪ですけど」
「かわいい!」
 やっぱりちょっとコワい。なんなの?
「あの、ごめんなさい、帰りますんで。さようなら」
 走って逃げた。本当に嫌な毎日だ。

 家に帰ったらお母さんがいるが、オレが帰るといつもびっくりされる。まあそれは気にせず、自分の部屋でネットゲームを起動する。
 対戦ゲームでもあり協力ゲームでもあるのだが、トモキもフレンドでいる。
「や! 今日はどうする?」
 チャットで話すと、これをやろうあれをやろうと返ってくる。トモキは当然リア友だが、あとの二人はどこの誰かも知らない。でも大事な友達だ。
「トモキ(正確にはハンドルネーム)がね、学校で話してくれないんだよ最近、ほんとに腹立つよね」
 そういうと、いつも大人っぽい感じのサヤ師さんが答えた。
「なに? トモキとユキ喧嘩中なの? それは良くないなあ、でも今は普通に話してるじゃん」
 するとトモキはムキになったような感じで言い返してきた。
「別に喧嘩なんてしてないよ! ただちょっと……事情があるんです! 仕方なく!」
「複雑なんだね……」
「思春期かな?」
 もう一人のフリスタさんが口を挟んだ。
「違うから! まず俺はホモじゃないし!」
 そう言われるとオレの方はさすがに不愉快になった。学校でもネットでもこんな感じなんて……。それで、しばらく喋りもせずにゲームをした。
 すると、見かねたサヤ師さんが「もう、仲直りしようよ」と言った。「私は事情を知らないから、どっちが悪いのかなんて全然わからないけど、今はゲームして楽しんでる時間なんだから、仲良くしましょう?」
 ……こうなると、仲良くしないとゲームが進まない。でも、オレはなんにも悪くないと思うんだ。だからこちらから謝ったりしたくない。
 気まずい気まずい時間が続いた。トモキはついに耐えかねて「もういいよ!」と文字を打つと、ゲームを切断した。
「なんなんだろうね、あれ」
 フリスタがぽそっとつぶやいた。
「どういったらいいのかな、おかしいんですあいつ」
「心当たりはあるの?」
「はい、ああ、まあ……オレの体が女になったからっていうのはあるかな……」
 そう言うと、「!?」「!?」と二人が同時に文字を出した。
「なにそれ? なにそれ、興味津々なんですけど」
 サヤ師が身を乗り出すみたいに積極的になってきた。
「急にそうなっちゃったんだ。結構私たち近所だったよね? もしよかったら、今度会わない? フリスタさんも。女子会ってことで」
「二人は女子だったんですか?」
「自分は違います」とフリスタが否定した。
「ああ、まあ、女子会はともかく、どう?」
 仲のいい人たちと会ってみたさはもちろんあるので、オレもすぐ乗り気になった。フリスタさんもそのようだ。
「でも、トモキは……」
「まあまあ、今回はとりあえずこの三人にしましょうよ。また次の機会に誘ったらいいし。今回は、ちょっとユキくんが心配だからそのために会いたいってことで。でも三人で会うってことは伝えておくね」
「その方がいいのかなあ、なら隠したままでいいような気もするんだけど」
「それは……ユキくんは隠したままにできるの?」
「ちょっと無理かも」
「じゃあ、私がうまく説明しておくからね」

 心配はあったけど仲良しのサヤ師を信じているので、とりあえず任せていいかな。週末に会うということで、明々後日、その間は学校でもトモキに会うしなんならその時に話せばいいかと思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。  今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

1人だった少年は貴族と出会い本当の自分を知っていく

杜薛雷
ファンタジー
 前世、日本という国で暮らしていた記憶を持つ子供リディルは、知識を使って母親と二人、小さな村で暮らしていた。 しかし前世の知識はこの世界では珍しいもの。どこからか聞きつけた奴隷商人がリディルの元にやって来た。  リディルを奴隷にしようとやって来た商人からリディルを守った母親は殺され、リディルは魔物に襲われて逃げた。 逃げた森の中をさ迷い歩き、森を抜けたときリディルは自分の生き方を、人生を大きく変えることになる一人の貴族令嬢と出会う... ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――  この作品が初めての投稿なので不安しかないです。初めは順調に投稿出来ても後々詰まってしまうと思うのでそこは気長に待ってくれると嬉しいです。 誤字脱字はあると思いますが、読みにくかったらすいません。  感想もらえると励みになります。気軽にくれると有り難いです。 『独りぼっちの少年は上級貴族に拾われる』から改名しました

泥々の川

フロイライン
恋愛
不遇な生活を送る少年、祢留の数奇な半生。

《松葉杖のスピードじゃねえ》

三輪
青春
待ってくれ、青春ってなんだったっけ?

婚約を破棄され辺境に追いやられたけれど、思っていたより快適です!

さこの
恋愛
 婚約者の第五王子フランツ殿下には好きな令嬢が出来たみたい。その令嬢とは男爵家の養女で親戚筋にあたり現在私のうちに住んでいる。  婚約者の私が邪魔になり、身分剥奪そして追放される事になる。陛下や両親が留守の間に王都から追放され、辺境の町へと行く事になった。  100キロ以内近寄るな。100キロといえばクレマン? そこに第三王子フェリクス殿下が来て“グレマン”へ行くようにと言う。クレマンと“グレマン”だと方向は真逆です。  追放と言われましたので、屋敷に帰り準備をします。フランツ殿下が王族として下した命令は自分勝手なものですから、陛下達が帰って来たらどうなるでしょう?

完 暗殺姫は、今日も溺愛王子を殺せない

水鳥楓椛
恋愛
 アザリアは暗殺者だ。  命令があれば誰でも躊躇いなく殺す冷酷無慈悲な暗殺者。  そんなアザリアの次のターゲットは、アザリア以前の暗殺者を悉く退けてきた優秀な第2王子。  華麗に殺して見せようと思っていたのにも関わらず、殺せずじまい。それどころか訓練をつけられている始末で溺愛されている。  さっさと死んでよ!このくず王子!!  勝利の女神はどちらに微笑む?

新しい自分(女体化しても生きていく)

雪城朝香
ファンタジー
明日から大学生となる節目に突如女性になってしまった少年の話です♪♪ 男では絶対にありえない痛みから始まり、最後には・・・。

処理中です...