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第13話
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二人揃って音声を開くと、またぎゃいぎゃいと騒ぎ出した。
「だいたい、俺達に何の罪があるんだ! どうせ生き返らせてくれたんだろ? ハルトさん。殺人なんてない!」
「そうでも、殺人未遂になるのでは?」
ハルトは慎重に答える。
「どうやって裁く? こんなケース裁判所でも警察でもどうにもできないよ」
実際、警察があの後どう対応したのかわからない。説明のしようがないだろう、医者が確実に死を認定し……誰が見ても死んでいた。それが何事もなかったかのように起き上がったのだから。穴の空いたお腹もふさがり、はみ出た内臓も元通りになって!
「だけど彼らもなんとかうまいようにやってくれるでしょう」
ハルトは結構無責任に答えたが、それ以外言いようがないのも確かだった。ツッコまれるかなと内心心配したがスルーされたようだ。
「俺が殺人なんかやれるようになったのは、死んだ俺をハルトさんが生き返らせてくれたからだよ」
「どうせ私が生き返らせるから殺したというわけですか」
「私はただハルト様に会いたかっただけです。その人とは違いますわ」
原が喋った。ハルトはまだ落ち込んでいるメグの姿をちらっと見た。
「あなたは石田さんが殺人を犯すことをわかって依頼したのでしょう?」
「そんなことありませんっ! どんな手段を使ってもとは言いましたが、そこまでとは言っていません!」
「じゃあどうしてそんな人と一緒にいたんです」
「すでに死なせてしまったのだから、それならお会いできなくちゃ仕方ないと思いまして。いえ、そんな狂気とかじゃないんです。ハルト様におすがりするほかないと……」
「私と会ったら私と一緒に死にたいと思ってますよね?」
「まあそれは……」
ハルトはため息をついた。
「その願望は我慢した方がいいと思いますよ。どこの世界でも許されないことです。あなたがその人生で何を経験したからそうなったのか、あるいは生まれつきのものかわかりませんが……こんな平和な世界でそれは少し過激すぎます。平和じゃなかったら良いってわけじゃないけど。死んだら終わりなんですよ。ああ、いや……死んだら……私がいなければね」一度、一息入れてまた喋りだした。「前に言ったじゃないですか、もう会わないよ、これで最後だって! まさか他人を巻き込むだなんて! 私が勇者として戦っていた時は、お前たちのような馬鹿な生き物はいませんでしたよ。でも私が悪いのかもしれませんね、簡単に生き物を生き返らせてしまった私が。いいや、悪いのはお前たちを生き返らせたことであって、その行為そのものではありません」
勢いよくまくしたてられた二人は呆然としてしまった。ハルトは少し姿勢を改めて話を続ける。
「あなた達を殺したりするわけにもいきませんし、記憶を消すというのは非常にめんどくさくて、その手間をかけたくないのです。だから、今現在から一ヶ月前まで(大雑把にそのくらいにしておきます)のことを思い出したり考えようとしたら、体験したことがないほどのひどい頭痛が起きるというようにします。私のことや、殺人のことを思い出すどころではないほどの、そもそも思考の余裕すら絶対にないというほどひどいものです。健康には直接の害はありません。巻き添えで他のことでも頭痛が起きるでしょうけど、まあ我慢して下さい。その後は生きるも死ぬも何をするのもご自由に」
「ちょっと待ってください」原がそう言って、何か言おうとしたが言葉がうまく続かない。「どうかお慈悲を頂けませんか?」
「ありません。もう始めます」
そうすると原智美はのたうち回った。悲鳴も出せないほどにきついらしい。
「待って、一ヶ月は長いよ、正しくは十日くらいだと思うよ、それで勘弁して下さい」とまだ無事な石田誠の方は懇願した。
「そうでしたかね……メグさん、どうしましょう?」
「私に聞かれてもわかんないですけど……」
「ともかく、なるべく多く苦しんだ方がいいですよ、本来なら死刑相当のことをやったんですから」
そうして有無を言う前に彼ものたうち回った。
「そういえば時間止めてたんだった」
ハルトは彼らの様子を見て今更つぶやいた。今現在からだから、今がずっと続くとその間ずっと苦しむことになるのか。
「それはひどい……」
メグがその独り言に返事をした。
ハルトは二人をそれぞれの自宅に送って、服も荷物も届けてやった。幸い、銭湯は入湯料を先払いしていた。あのヘッドホンは買うのだろうか。頑張ってまともに働いてほしい。
すべて終わって、ハルトとメグも銭湯の外の道に出た。メグはこころなしか落ち込んでいる様子だった。さっき、ブスガキなどと言われたことで傷ついているのかもしれない。(なぜ原はそんなことを言ったのか)ハルトには不思議だった。
まるで夢のようにかわいい少女の姿なのだが。意図してか知らずか、性格が悪い人は相手が一番嫌がることを言ってしまうものなのかもしれない。確かにメグは素でかわいらしく可憐だが、その上かなりフリフリした衣装を着ている。そういうところをあえて原は逆を突いたということだった。それ以上は特に理由はない。
「メグさん、どこか良い温泉にでも行きませんか?」
「え? やだな……」
銭湯から発想して、ハルトが元気を出してもらおうと誘ってみたが、テンションが低いままでメグは断った。
「そうですか……」
こんなにメグに落ち込まれていると心配だが、仕方がないと、ハルトは言った。
「じゃあ、おうちまで送りましょう」
メグはうんとうなづいた。ので、家まで移動した。間違えてハルト自身も一緒に家にきてしまった。
「わああ! 目を閉じて! 周りに興味を示すな!」
メグは慌ててハルトの顔を手で覆った。別に何もはずかしいものは……いや、相変わらずあまり綺麗な部屋じゃないし、それに女の子の部屋はやはり急に見せたくない。メグが女の子なのかどうか? 何か文句あるか!
「なんであなた私の部屋に来たがるのよ!」
「そ、そんなに来たがってますか?」
どうだろう、そうでもなかったか。いや、そんなことは今どっちでもいい。
「いいから、もう出てって! ありがとうね!」
ハルトは大人しく退散した。そうなってからメグは一人クスクス笑った。
「温泉か、行っておけばよかったかなあ。後で行きたいって言っても有効かな?」
少しお昼寝をしてから、ハルトに電話をかけた。
「温泉の話、今から行きたいって言ってもいい?」
「本当ですか、嬉しいです。いや、一人で行こうかなと思ってましたけど、やっぱり旅は道連れがいた方が」
本当に嬉しそうな様子だったので、やっぱりこいつ、メグのこと好きだな?と思った。
でもまだわからない。だって、メグはかわいいのは間違いないけど、正体は……古在千華という”ブス”のアラサーなのだ。ハルトは外見は大事じゃないとか言っていたけど、外見が大事だから何事もなくアラサーになったわけだ。まあどんな人間でも生きていればアラサーにはなるのだが、満足に生きていないんだ。
ともかくこれは半ば接待とメグは心得る。せいぜいおしゃれを……いや、温泉に行くのだから上がった後の方がいいか……。どうせ外見は魔法で変えることもできるが、気合を入れなくては。
メグが家の前で待っていたら、ハルトはすぐに来た。彼はいつも通りの散歩に行くような格好だ。前はファンタジーの勇者みたいな服……あるいは鎧……を着ていたが、それは改めたらしい。
「で、どこの温泉に行くの」
軽くネットで調べたが、近くでも結構あちこちにある。
「名前は知らないんですが、この間、お客さんを運ぶ仕事をした時に見つけた場所です」
「へー、有名なところ?」
「いや、誰もいないかも……」
瞬間移動で目の前に現れた場所は、なんというか……山奥としか言いようのない。道もなければ人工物もない。草深い……もう夕方になって、それでも日が完全に沈んでいないはずなのに、木が生い茂りすぎていてかなり暗かった。
「誰もいない……誰もいない! 誰もいない!」
(ハルト、ハルトのやつ、騙したな、こんなところに連れてきて何をするつもりだ。いや、もしかしたら私をここに置いていこうとか、こ、殺そうとか……思っているんじゃ……)
「いや、実はこの地面に素晴らしい源泉があるんです。それに自然そのもののパワーもあって、すごいんですよ。びっくりさせたみたいですみません、今から整えますから」
そしたら勝手にそこに穴を掘ったり家が建ったり岩をあれこれ配置して温泉を作り始めた。
「あなたはこういうところがあるわね。温泉っていったら、温泉街があったり、いい感じの旅館があったり、温泉まんじゅうとか……そういうのじゃないの! お湯に浸かればいいと思って!」
「すみません……」
「ま、まあ、異世界人のあなたに言っても仕方ないか……」
とはいいつつ、建物や体裁だけは完璧に素晴らしい温泉ができてしまった。二人だけのためにはもったいないほどの。メグは少し気分を直し、まあこういうのもなかなか味わえないものでかえって良かったかもしれないと思った。それと混浴じゃなくて良かった。まあハルトは紳士だから心配はしていないが……。
ハルトが何やらごちゃごちゃ言ってただけあって、いいお湯であった。なんで蛇口をひねれば水が出るのか不明だが。
「どうですか?」とハルトの声が耳に直接聞こえてきたので、「とってもいい感じよ」と答えた。なんだか十年来の疲労が抜けるような気持ちで、長く深い溜め息をついた。空には月も星も綺麗に見えて、一生の思い出になりそうな雰囲気であった。
その時、浴場の扉が開いて、誰かが入ってくるようだった。思わずメグは絹を裂くような声で叫んだ。誰がって、ハルトしかおるまいが。ついに来たんだ。お色気イベントだ。叫びながらも、若干の覚悟を完了させていた。薄々予感していたんだ。そうだとしたら、この悲鳴はちょっとムードがなかったかな……でもいきなり入ってくるのも悪いし……と思ったら、竹でできた男女の敷居の向こうから、ハルトの声が聞こえた。
「メグさん? どうされましたか?」
「あれ、ハルトくんそっちにいるの? 誰か入ってきたんだけど」
「危なそうですか?」
「いや、わかんない。そこの人、誰? もしかしたら猿が入ってきたとか?」
煙でよく見えなかったが、次第にそれが晴れてくると、目に写ったのは小さな子供だった。どうしてこんなところに?
「だいたい、俺達に何の罪があるんだ! どうせ生き返らせてくれたんだろ? ハルトさん。殺人なんてない!」
「そうでも、殺人未遂になるのでは?」
ハルトは慎重に答える。
「どうやって裁く? こんなケース裁判所でも警察でもどうにもできないよ」
実際、警察があの後どう対応したのかわからない。説明のしようがないだろう、医者が確実に死を認定し……誰が見ても死んでいた。それが何事もなかったかのように起き上がったのだから。穴の空いたお腹もふさがり、はみ出た内臓も元通りになって!
「だけど彼らもなんとかうまいようにやってくれるでしょう」
ハルトは結構無責任に答えたが、それ以外言いようがないのも確かだった。ツッコまれるかなと内心心配したがスルーされたようだ。
「俺が殺人なんかやれるようになったのは、死んだ俺をハルトさんが生き返らせてくれたからだよ」
「どうせ私が生き返らせるから殺したというわけですか」
「私はただハルト様に会いたかっただけです。その人とは違いますわ」
原が喋った。ハルトはまだ落ち込んでいるメグの姿をちらっと見た。
「あなたは石田さんが殺人を犯すことをわかって依頼したのでしょう?」
「そんなことありませんっ! どんな手段を使ってもとは言いましたが、そこまでとは言っていません!」
「じゃあどうしてそんな人と一緒にいたんです」
「すでに死なせてしまったのだから、それならお会いできなくちゃ仕方ないと思いまして。いえ、そんな狂気とかじゃないんです。ハルト様におすがりするほかないと……」
「私と会ったら私と一緒に死にたいと思ってますよね?」
「まあそれは……」
ハルトはため息をついた。
「その願望は我慢した方がいいと思いますよ。どこの世界でも許されないことです。あなたがその人生で何を経験したからそうなったのか、あるいは生まれつきのものかわかりませんが……こんな平和な世界でそれは少し過激すぎます。平和じゃなかったら良いってわけじゃないけど。死んだら終わりなんですよ。ああ、いや……死んだら……私がいなければね」一度、一息入れてまた喋りだした。「前に言ったじゃないですか、もう会わないよ、これで最後だって! まさか他人を巻き込むだなんて! 私が勇者として戦っていた時は、お前たちのような馬鹿な生き物はいませんでしたよ。でも私が悪いのかもしれませんね、簡単に生き物を生き返らせてしまった私が。いいや、悪いのはお前たちを生き返らせたことであって、その行為そのものではありません」
勢いよくまくしたてられた二人は呆然としてしまった。ハルトは少し姿勢を改めて話を続ける。
「あなた達を殺したりするわけにもいきませんし、記憶を消すというのは非常にめんどくさくて、その手間をかけたくないのです。だから、今現在から一ヶ月前まで(大雑把にそのくらいにしておきます)のことを思い出したり考えようとしたら、体験したことがないほどのひどい頭痛が起きるというようにします。私のことや、殺人のことを思い出すどころではないほどの、そもそも思考の余裕すら絶対にないというほどひどいものです。健康には直接の害はありません。巻き添えで他のことでも頭痛が起きるでしょうけど、まあ我慢して下さい。その後は生きるも死ぬも何をするのもご自由に」
「ちょっと待ってください」原がそう言って、何か言おうとしたが言葉がうまく続かない。「どうかお慈悲を頂けませんか?」
「ありません。もう始めます」
そうすると原智美はのたうち回った。悲鳴も出せないほどにきついらしい。
「待って、一ヶ月は長いよ、正しくは十日くらいだと思うよ、それで勘弁して下さい」とまだ無事な石田誠の方は懇願した。
「そうでしたかね……メグさん、どうしましょう?」
「私に聞かれてもわかんないですけど……」
「ともかく、なるべく多く苦しんだ方がいいですよ、本来なら死刑相当のことをやったんですから」
そうして有無を言う前に彼ものたうち回った。
「そういえば時間止めてたんだった」
ハルトは彼らの様子を見て今更つぶやいた。今現在からだから、今がずっと続くとその間ずっと苦しむことになるのか。
「それはひどい……」
メグがその独り言に返事をした。
ハルトは二人をそれぞれの自宅に送って、服も荷物も届けてやった。幸い、銭湯は入湯料を先払いしていた。あのヘッドホンは買うのだろうか。頑張ってまともに働いてほしい。
すべて終わって、ハルトとメグも銭湯の外の道に出た。メグはこころなしか落ち込んでいる様子だった。さっき、ブスガキなどと言われたことで傷ついているのかもしれない。(なぜ原はそんなことを言ったのか)ハルトには不思議だった。
まるで夢のようにかわいい少女の姿なのだが。意図してか知らずか、性格が悪い人は相手が一番嫌がることを言ってしまうものなのかもしれない。確かにメグは素でかわいらしく可憐だが、その上かなりフリフリした衣装を着ている。そういうところをあえて原は逆を突いたということだった。それ以上は特に理由はない。
「メグさん、どこか良い温泉にでも行きませんか?」
「え? やだな……」
銭湯から発想して、ハルトが元気を出してもらおうと誘ってみたが、テンションが低いままでメグは断った。
「そうですか……」
こんなにメグに落ち込まれていると心配だが、仕方がないと、ハルトは言った。
「じゃあ、おうちまで送りましょう」
メグはうんとうなづいた。ので、家まで移動した。間違えてハルト自身も一緒に家にきてしまった。
「わああ! 目を閉じて! 周りに興味を示すな!」
メグは慌ててハルトの顔を手で覆った。別に何もはずかしいものは……いや、相変わらずあまり綺麗な部屋じゃないし、それに女の子の部屋はやはり急に見せたくない。メグが女の子なのかどうか? 何か文句あるか!
「なんであなた私の部屋に来たがるのよ!」
「そ、そんなに来たがってますか?」
どうだろう、そうでもなかったか。いや、そんなことは今どっちでもいい。
「いいから、もう出てって! ありがとうね!」
ハルトは大人しく退散した。そうなってからメグは一人クスクス笑った。
「温泉か、行っておけばよかったかなあ。後で行きたいって言っても有効かな?」
少しお昼寝をしてから、ハルトに電話をかけた。
「温泉の話、今から行きたいって言ってもいい?」
「本当ですか、嬉しいです。いや、一人で行こうかなと思ってましたけど、やっぱり旅は道連れがいた方が」
本当に嬉しそうな様子だったので、やっぱりこいつ、メグのこと好きだな?と思った。
でもまだわからない。だって、メグはかわいいのは間違いないけど、正体は……古在千華という”ブス”のアラサーなのだ。ハルトは外見は大事じゃないとか言っていたけど、外見が大事だから何事もなくアラサーになったわけだ。まあどんな人間でも生きていればアラサーにはなるのだが、満足に生きていないんだ。
ともかくこれは半ば接待とメグは心得る。せいぜいおしゃれを……いや、温泉に行くのだから上がった後の方がいいか……。どうせ外見は魔法で変えることもできるが、気合を入れなくては。
メグが家の前で待っていたら、ハルトはすぐに来た。彼はいつも通りの散歩に行くような格好だ。前はファンタジーの勇者みたいな服……あるいは鎧……を着ていたが、それは改めたらしい。
「で、どこの温泉に行くの」
軽くネットで調べたが、近くでも結構あちこちにある。
「名前は知らないんですが、この間、お客さんを運ぶ仕事をした時に見つけた場所です」
「へー、有名なところ?」
「いや、誰もいないかも……」
瞬間移動で目の前に現れた場所は、なんというか……山奥としか言いようのない。道もなければ人工物もない。草深い……もう夕方になって、それでも日が完全に沈んでいないはずなのに、木が生い茂りすぎていてかなり暗かった。
「誰もいない……誰もいない! 誰もいない!」
(ハルト、ハルトのやつ、騙したな、こんなところに連れてきて何をするつもりだ。いや、もしかしたら私をここに置いていこうとか、こ、殺そうとか……思っているんじゃ……)
「いや、実はこの地面に素晴らしい源泉があるんです。それに自然そのもののパワーもあって、すごいんですよ。びっくりさせたみたいですみません、今から整えますから」
そしたら勝手にそこに穴を掘ったり家が建ったり岩をあれこれ配置して温泉を作り始めた。
「あなたはこういうところがあるわね。温泉っていったら、温泉街があったり、いい感じの旅館があったり、温泉まんじゅうとか……そういうのじゃないの! お湯に浸かればいいと思って!」
「すみません……」
「ま、まあ、異世界人のあなたに言っても仕方ないか……」
とはいいつつ、建物や体裁だけは完璧に素晴らしい温泉ができてしまった。二人だけのためにはもったいないほどの。メグは少し気分を直し、まあこういうのもなかなか味わえないものでかえって良かったかもしれないと思った。それと混浴じゃなくて良かった。まあハルトは紳士だから心配はしていないが……。
ハルトが何やらごちゃごちゃ言ってただけあって、いいお湯であった。なんで蛇口をひねれば水が出るのか不明だが。
「どうですか?」とハルトの声が耳に直接聞こえてきたので、「とってもいい感じよ」と答えた。なんだか十年来の疲労が抜けるような気持ちで、長く深い溜め息をついた。空には月も星も綺麗に見えて、一生の思い出になりそうな雰囲気であった。
その時、浴場の扉が開いて、誰かが入ってくるようだった。思わずメグは絹を裂くような声で叫んだ。誰がって、ハルトしかおるまいが。ついに来たんだ。お色気イベントだ。叫びながらも、若干の覚悟を完了させていた。薄々予感していたんだ。そうだとしたら、この悲鳴はちょっとムードがなかったかな……でもいきなり入ってくるのも悪いし……と思ったら、竹でできた男女の敷居の向こうから、ハルトの声が聞こえた。
「メグさん? どうされましたか?」
「あれ、ハルトくんそっちにいるの? 誰か入ってきたんだけど」
「危なそうですか?」
「いや、わかんない。そこの人、誰? もしかしたら猿が入ってきたとか?」
煙でよく見えなかったが、次第にそれが晴れてくると、目に写ったのは小さな子供だった。どうしてこんなところに?
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