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第11話 親父の誕生日。
しおりを挟む近くのショッピングモールにむかう。
凛と一緒にプレゼントを選ぶのだ。
考えてみれば、親父の誕生日プレゼントなんて、ずっと買ってなかったかも。
だから、凛に何がいいか聞いてみた。
すると、いつもの見下すような目で言われた。
「あんたのお父さんでしょ? なんで分かんないの? 信じられない」
すみません。返す言葉がありません。
だが、反論はする。
「しょーがねーじゃん。分からないんだからさ」
「らいお父さん。かわいそう。お父さんのネクタイ、使い込んでるのが多い気がするし、ネクタイなんかどう? わたしも半分お金出すから、少し良いのあげようよ」
俺はネクタイなんてありきたりじゃないか? と思ったのだが、凛の考えは違うらしかった。
質がいいのをあげられるなら、普段使いできるものが一番と言うことだった。
スーツ屋さんに入る。
ネクタイっていってもどれがいいかわかんねーよ。俺は親父が好きそうなネクタイを見繕って凛にもっていく。
すると凛は鼻で笑った。
「……ぷっ。これ本気? 戦隊のヒーローじゃないんだからさ」
むかつく。
さっき、良い子とか言ったの撤回。
凛はため息をついた。
「あんたに聞いたのが間違いだった。もういい。わたしが選ぶから」
すると、凛は迷うことなく赤紫に銀のラインが入ったネクタイの前にいった。タグの裏も確認して。国産のシルクのものに絞り込んだようだ。
「ちょっと予算を超えちゃうかな」
凛は頬を押さえて悩んでいる。
俺は、赤紫は良いと思わなかったので凛に伝えた。
「それ、たぶん、親父の趣味じゃないと思うよ?」
すると、凛は「いいの、いいの」と言って、それをレジにもっていく。そして、ちゃっかり予算に収まるように、大幅値引きをひき出して買ったのだった。
そのまま帰るのは、少しもったいない気がして。一緒にアイスを食べるのことにした。
俺は凛にいった。
「買い物付き合ってくれてありがと。どれが欲しい? おごるよ」
すると、凛は「一番、高いの」という。
こいつ……。
すると、たたっとショーケースの前に来て、「これがいいかな」って指差した。
それは、バニラアイスだった。
一番安いやつ。
……気を使わせちゃったかな。
「別にどれでもいいんだよ?」
「わたし、これ食べたいの。あんたばかなの?」
さすが我が家のお嬢様。
そつなく憎らしい。
凛はアイスを受け取ると、大切そうに両手で受け取った。
「ありがとう」
そして、ニコニコして大切そうに食べる。
「あ、そんな。普通に食べてよ」
「だって。あんたお小遣いもらってないでしょ? バイト代で買ってくれたんだもん。嬉しいじゃん」
すると、プイっと向こうを向いてしまう。
あ、そうだ。
俺もチョコアイスを食べながら聞く。
「そういえば、なんであのネクタイなの?」
「お父さんネクタイ、なかなか買わないよね。それはね。節約じゃなくて、きっと大切にしてるんだよ」
それでどうしてあの柄になるんだ?
凛は、アイスを一口食べると、幸せそうな顔をして続ける。
「……きっと、蓮のお母さんにもらったネクタイを使い続けてるんじゃないかなって。亡くなった人にもらったものって。手放せないんだよ」
凛は地面を見つめ、ちょっとだけ寂しそうな顔をした。だけれど、最後の一口をたべると、両手を後ろで握って、笑顔でこっちに向いた。
「……だから、あの柄なのっ」
そして、俺が右手に持っていたアイスが乗ったスプーンを勝手にパクッと咥える。
凛は頬を桜色にして言った。
「うん。チョコも美味しいね」
これって、間接キスなんじゃ……。
すると、凛も何かに気づいたらしい。
バッと俺の右手からスプーンを奪った。
スプーンを握りしめて、下を向く。
耳は赤くなっているように見えた。
凛は、小声で言った。
「アンタは、口でたべて。このスプーンはダメ」
えーっ。
でも、お前が食べた時点で間接キスは成立してるんだけど。それは、いいのかな。
誕生日の当日。
その日は凛が夕食を準備してくれて、親父の誕生日会をした。
海鮮鍋に、サラダ、ビール。それとケーキ。
凛の提案で、クラッカーも鳴らした。
わいわいとした誕生日。
きっと、母さんが生きていたら、毎年、こんな誕生日を過ごせたんだろうか。
親父は海産物が好きなので、海鮮鍋も好きらしい。すごくよろこんでくれた。
俺と2人の時は、こんなことしたことなかったからなぁ。誕生日会をするというと、最初、親父は少し驚いていたけれど、すごく嬉しそうだった。
そして、最後にプレゼントを渡す。
凛と一緒に「お誕生日、おめでとう」の言葉を添えて。
親父はその場でプレゼントを開けてくれた。
そして、ネクタイを手にとると、左手でネクタイを握りしめて、何かを考えて。親父は右腕で両目を覆った。その口元は、一文字になっていて、俺には泣いているように見えた。
俺は、まさか親父が泣くと思わなかったから、びっくりした。
親父は声を震わせて言った。
「……すまん、飲み過ぎちゃったかな。ネクタイが母さんが好きな色だと思ったら、なんだか昔を思い出しちゃってな。ごめんな。凛ちゃん。雫さんがいるのにこんな」
すると、凛は目を閉じて首を横に振った。
「喜んでもらえて良かったです。お仏壇の写真をみていたら、きっとこの色かなって。それに、亡くなった奥様を大切に思ってる、らいお父さんのこと。わたし好きです。きっと、わたしのお母さんのことも大切にしてくれるって思うから」
すると、親父はまた涙を流して、それが落ち着くと、嬉しそうに『うんうん』と頷いた。
その様子を見ながら、俺は思った。
……親っていうものは、こんなに喜んでくれるのか。
おれは勝手に、男同士には、こういうのは不要と思っていた。でも違ったみたいだ。
凛が教えてくれなかったら、きっと俺は一生、気づけなかったかもしれない。
そのあとは、3人で母さんの写真に手を合わせて、お線香をあげた。
ふと、母さんの写真を見る。
写真の中の母さんは、父に寄り添って、幸せそうな顔をしていた。母さんは、赤紫色のワンピースを着ていた。
……あぁ、ネクタイの色は。そういうことか。
俺には母さんの記憶が、ほとんどない。
だから、今日の誕生日会は、親子3人の時間を取り戻せた気がして嬉しかった。
そんな俺に気づいたのか、凛はだまって俺にハンカチを渡してくれる。
母さん。
おれ、雫さん……義母さんのことも大切にするよ。凛がしてくれることを返したい。
いいよね? 母さん。
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