4 / 16
第4話 俺たちは仲が悪い。
しおりを挟む朝、起きる。
階段を降りると、モデルでもできそうな可愛い子が、かいがいしく朝食の配膳をしている。
あぁ。夢みたいだ。
っていうか、夢ならこのまま終わって欲しい。
だが、悲しいかな、これは現実。
少女はこっちを向くと言った。
「レン。アンタ、ソースくらい自分で出せよ」
そうなのだ。
これが現実。
俺たちは仲が悪い。
親父が作った料理ならべてるだけだろ?
なんなんだ、コイツ。偉そうに。
親父は朝から出かけている。
だから、今日の朝食はコイツと2人だ。
食卓につく。
そして、無言で食事をする。
あぁ、気まずい。
早く食べて、一刻も早くこの場を離脱したい。
静謐《せいひつ》な食卓の中、時計の秒針だけがカチカチとなり続ける。
あっ。
だし巻き卵だ。珍しい。
一口かじると、凄まじく塩からかった。
料理上手の親父にしては珍しい。
「しょっぱ」
しまった。無意識に声がでた。
俺は、そろそろと凛を見る。
きっと、見下すような冷たい視線を俺に向けていることだろう。
凛は俯くと、テーブルの上で指を何度も組み直す。
そして、口を尖らせて言った。
「…そっか」
なに、この人。怒ってるの?
女子高生の喜怒哀楽。まじ分からんわ。
いや、コイツが変なだけか。
それから、重い空気はさらに重くなった。
食事が終わると、凛は箸をバンッとテーブルに置いた。
なに物にあたってんの。こいつ。
サイテーなんだけど。
そして食べ終わると凛は。
「片付けはアンタがやって!!」
そう言い捨てて、外に出て行ってしまった。
なんなんだよ。あの態度。
それくらい、言われなくてもするし。
マジで感じ悪いんだけど。
俺が不貞腐れて片付けていると、親父が帰ってきた。
「ただいま~。お、レン。お前が自主的に洗い物なんて珍しいな」
それくらい、俺でもするし。
でも、こんなこと言われるってことは、普段はあまりできてなかったのかも知れない。
あっ。だし巻き玉子。
「親父。だし巻き玉子、しょっぱかったよ。料理自慢なのに腕が鈍った?」
すると、親父は不思議そうな顔をする。
「ん。俺はだし巻き玉子なんて作ってないぞ?」
えっ。
ってことは、あれ、凛が作ったの?
やばい。
文句言っちゃった。
あいつ、それでどこに行っちゃったんだ。こんな炎天下で。
俺は外にでて、凛を探した。
ハァハァ……。
日差しが強くて暑すぎる。
俺が先に倒れちゃいそうだ。
息が苦しくて立ち止まる。公園で水でも飲むか。
すると視線の先に、凛がいた。
ブランコにのって、足の反動で前後に揺れながら、口を尖らせている。遠目だが、目には涙がなみなみと溜まっているようだった。
あー。やっちまった。
今回は、俺が全面的に悪い。
どうしよう。
こんなに暑いのに。あいつちゃんと水分とってるのかな。
俺はコーラを2本買って、1本を凛の前に差し出した。
凛は案の定、目を擦りながら、ひっくひっくしていた。
凛はコーラに気づくと、目を見開きビックリして俺を見上げた。
そして、アタフタと涙まみれの頬を擦る。
今回は、俺が悪い。
素直に謝ろう。俺はバツが悪くて鼻を掻く。
「その。なんだ。さっきは悪かったな。ちょっとしょっぱかったけど、焼き加減もうまかったし、ああいうのは好みもあるもんな。その。ほんとごめん」
凛はコーラを受け取った。
そして、偉そうにお姉さん気取りで、パンパンとスカートの埃を払って立ち上がる。
プシュっという音をさせて、ペットボトルを開ける。すると、コーラが噴水のように勢いよく吹き出した。
溢れ出たコーラで手がビショビショになってるぞ?
しかし、凛はめげない。
あくまで涼しい顔を崩さず、何事もなかったようにコーラを一口飲むと、こちらを振り向く。
……なんだか普通にダサいのに、ドリンクのCMみたいだ。美少女って圧倒的な正義だと思う。これで、性格がまともだったらな……。
そんな俺の考えを察したのか、凛はこちらをキッと睨む。
「べつに。お世話になってるから作っただけ。別にアンタのためじゃないし」
そう言うと、家の方にスタスタと歩き出す。
俺は追いかけて声をかける。
「いや、だから。ありがとう。また作って欲しいんだけど」
凛は答えない。
ただ、一瞬こちらを振り向くと「コーラありがと」と言った。
「なぁ、凛。待ってくれよ」
俺は凛を追いかけて駆け足になる。
ちらっと見えた凛の顔は、少しだけ嬉しそうに見えた。
俺の気のせいだろうか。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる