ねこ耳娘の異世界なんでも屋♪

おもち

文字の大きさ
上 下
21 / 29

第21話 エマとわたし

しおりを挟む
 
 わたしはスージーを見上げた。

 スージーは、エマとわたしを交互に見る。
 ミサンガに気づくと、チッと舌打ちした。

 そして、わたしに何かを言いかけた時。

 ガラッ。

 教室の引き戸が開き、担任の先生が入ってきた。

 「チッ」
 
 スージーはさっきよりも大げさに舌打ちすると、不満を隠さず席に戻った。

 先生は教壇きょうだんの前に立つと、わたしに立つように促した。

 「えー、彼女はソフィア。事情があって休学していたが、また学校に通えることになった。皆んな、よろしくな」

 教室にはパチパチと気の抜けた拍手が響く。

 先生の気遣いは嬉しい。

 だけれど、わたしは今ね。
 このまばらな拍手で間接攻撃を受けている気がするんだ。

 ……気のせい?


 そのあとは、普通に授業が行われた。
 数学。母国語。社会。
 どの授業も退屈で、あくびが我慢できない。

 スージーは、そんなわたしの様子を伺っている。でも、チラチラとこちらを見るだけで、何もしてこなかった。

 そして、わたしの唯一の楽しみ。
 お弁当の時間になる頃。

 それは起きた。

 スージーがエマのところにいき、文句を言い始めたのだ。

 やれ、朝に来るのが遅いだの。
 やれ、転校生に媚びているだの。

 完全に言いがかりだ。
 そもそも、わたし転校生じゃないし!!

 ……エマは。
 きっと、今までのトラウマだろう。
 見ていて気の毒になるほどオロオロしてしまっている。

 「エマちゃん。一緒にお昼ご飯しよう」

 わたしは、エマの手首を掴む。
 そして、そのままエマを中庭まで連れ出した。

 エマはホッとする顔をした。

 「ソフィアちゃん。ありがとう」

 「いつもあんな感じ?」

 「ううん。今日はマシな方。いつもは朝からああいう感じになる」

 わたしの時は、まだ外だったから。
 逃げ出してしまえば、嫌な相手と離れることができた。

 だけれど、学校ではそれができない。
 どんなに嫌いでも、どんなに気が重くても。

 教室という牢の中にいなければならない。
 ああいう感じで1日過ごすのは辛いよ。

 エマがここ数ヶ月、どんな学生生活をしていたかと思うと、胸が苦しくなる。

 そのあとは、お昼ご飯を一緒に食べて教室に戻った。

 午後は、取り巻きは別の授業を受けているらしく、スージーは1人だった。そのせいか、それ以上はエマにちょっかいを出してくることはなかった。


 放課後はエマと一緒に帰る。
 同じ隣村っていうのもあるけれど。

 取り決めをした魔法の練習をするのだ。

 ロコ村に帰ると、エマは私服に着替えてわたしの家にやってきた。

 お母さんはエマの来訪に目ざとく気づいたらしい。お茶とお菓子を持ってきてくれた。

 「あらまぁ、エマちゃん。珍しいわね」

 エマは、申し訳なさそうな顔をする。

 お母さんはニコニコして、この部屋に居座りそうだったので、背中を押して部屋から追い出した。

 今日は、理由なくエマを連れてきたのではない。

 専門家ではないからよくわからないが、エマの手を握ったときに魔力の循環を感じた。たぶん、エマには魔法の適性がある。

 だから、これからエマと一緒に練習する。

 わたしは魔法に救われたから。
 エマにも、何かのキッカケになるかと思った。

 まずは、エマに魔法の仕組みを教えることにした。

 全ての生物は魔力をもっている。ただし、その容量と操作感覚には個体差がある。

 この2つは、ダムの貯水量と放水能力のような関係だ。水がなければ放水できないように、片方だけあっても魔法は使えない。両方が揃って初めて、魔法が使える。

 「はい。先生!!」
 
 エマはこちらを見て言った。
 まるですごい人をみるような目をしている。

 次は実践だ。

 机に手をつき魔力を流す。
 すると、机に魔力が行き渡り、円環陣が浮かび上がる。

 エマに手を添えてもらう。
 魔力が流れる感覚を覚えてもらうのだ。
 
 エマは頷いている。
 よかった。何かつかめたみたいだ。


 わたしの方は……。
 エマに触れられたら、円環陣がいびつになってしまった。

 今日、一緒に過ごした。
 そして、エマに対する印象はかなり変わった。
 でも、少し触れられただけで魔力が乱れるほど動揺している。

 これは反射的な身体の反応だ。
 身体は、単純だけれど。
 精神こころよりも繊細なのかもしれない。


 毒を食らわば皿まで。


 一層のこと、本人に聞いてしまうか。
 少なくとも、今のエマは。
 意図的に、悪意のある返事はしないだろう。

 そう思ったら、急にわたしの心拍数は上がった。口の中が乾くのを感じる。

 でも、聞くのだ。
 わたしはエマの目を見る。

 「ね、エマちゃん。あのとき、広場で。なんであんな事を言ったの?」

 わたしの心拍はさらに乱れる。
 机の円環陣は、歪み切って、千切れてしまった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——? ⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。

木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。 その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。 本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。 リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。 しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。 なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。 竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。 ※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

処理中です...