ねこ耳娘の異世界なんでも屋♪

おもち

文字の大きさ
上 下
19 / 29

第19話 ソフィアのねがいごと

しおりを挟む

こんなに気持ちが浮かない夏休み前なんて初めてだ。

いつもなら待ち遠しくて堪らないのに...。

食堂で列に並んでいると、俊也に気づいた一部の生徒がなにやらコソコソ話してる。

黒髪になってるのが珍しいんだと思うけど...髪色の変化くらいで注目を浴びる俊也、て気の毒だな、て感じる。

もし俺が俊也のように金髪で黒髪にしたとしても特に話題なんかにはならないだろう。

不意に食堂を見渡し、視線が辿り着いた先には遥斗くんと和斗くんが並んで食事していた。

仲良さそうな笑顔の二人。
...やっぱり、付き合ってるとかなのかな。

トレイに食事を乗せて貰い、俺は意を決して遥斗くんと和斗くんの前に向かった。

「ちょ、樹」

涼太が驚いた様子で引き止めようとしたけど。

二人の前にトレイを置き、立ち竦んだ俺を二人が見上げた。

その瞬間、なんとも言えない違和感を覚えた。

一卵性の双子だから、同じ顔なのは確かなのに、遥斗くんはきょとん、とした眼差し、兄の和斗くんの瞳は細められ険しかった。

「なに?てか、誰?お前」

...和斗くんのセリフに、遥斗くんは俺の事を和斗くんに話してない事に気づいた。

遥斗くんが、

「知らない。席間違えてない?」

と、まるで、俺をそこから離したいかのようだった。

ゴクリ、喉を鳴らして、席に座った。

「....質問があって」

「....質問?」

和斗くんが険しさを変えずに訝しんだ。

「....徒歩で移動中のあなたですが、うっかり寝坊してしまい、このままでは大事な待ち合わせに遅れてしまいそうです。さて、どうしますか?」

以前、俊也にされた心理テストだ。

その後、涼太からアレはサイコパス診断だと聞いた。
サイコパスは事故や事件を作り上げて理由にするのらしい。

「なにそれ。心理テストかなんか?」

遥斗くんの問いに頷くと、しばらく、遥斗くんは斜め上を向き、うーん、と唸り、

「ごめん、もう一回」

先程の俊也の心理テストを反芻した。

「大事な待ち合わせ、か。相手とかその待ち合わせの事情もあるな。友達とかなら待ってて貰うし、無理なら帰って貰う。けど、大事な人だったり、遊びじゃない、こう、今は学生だけど、仕事とかだったら、上司に連絡したりあるだろうし...」

思いがけず、遥斗くんは真剣に考えてくれた。

「まあ、そうだな。悪い、遥斗、自販機でコーヒー買って来てくんない?いつもの奴」

「えっ、うん、いいけど」

「悪いな」

和斗くんの笑顔に遥斗くんも微笑みを返し立ち上がり、食堂の入口にある自販機に向かっていく。

その背中を見つめた。

「サイコパス診断だろ、それ」

「えっ」

慌てて和斗くんに視線を戻す。

和斗くんは箸を持ったまま口元を歪め、笑みを含んでた。

「しょーもな。てかさ、俺たちをサイコパスとでも思った訳?めっちゃ失礼だよな」

「....ごめん」

「つーか、サイコパスとは無縁なんで、俺はさ」

....俺は?

遥斗くんはどうなるんだろう。

真剣に考えていた遥斗くんとは明らかに違う。

「....和斗くん、このテスト知ってたんだね」

「まあな」

「...遥斗くんを自販機に行かせたのは...診断の内容を知ってたから....?」

はっ、と和斗くんが笑った。

「勘繰りすぎ。サイコパスなんじゃねー?お前」

「....」

唖然とし、言葉を失った。

「お待たせ、兄さん」

「ああ、サンキュ」

「ううん」

途端、和斗くんは狡猾な笑みを消し、遥斗くんを見上げ優しく微笑み、缶コーヒーを受け取った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——? ⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。

木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。 その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。 本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。 リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。 しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。 なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。 竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。 ※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...