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第54話 すれちがい。
しおりを挟む救急車に揺られながら考える。
花火の日にスーパーで見かけた男性。
あれはやはり深村先輩だった。
なにか変だと思ったんだ。
俺があのときに話しかけていたら、先輩の『今』は変わっていたのではないか。
そんなことを考えているうちに病院についた。
先輩が、物のように運び出されていく。待合室でしばらく待っていると、医師に呼び出され、先輩の死亡を告げられた。
あおいはその場で泣き崩れた。
その嗚咽は、自分自身を責める叫びの剣ようだった。
待ってる間に、あおいのご両親と連絡がついた。これから空港に向かい、一番早い便で帰ってくるらしい。家に戻ってくるのは、早くても明日の夜だろう。
俺は腕時計を見る。
時計の針は22時を回っていた。
まひる……。
駅前で待ちぼうけさせてしまったのだろうか。
『ずっと待ってます』なんて書いたくせに、当の本人の俺が居ないんだもんな。
どんな気持ちで待たせてしまったのだろう。
ごめん。
とはいえ、こんな状況のあおいを放置はできない。
俺はあれだけ世話になった先輩に、何の恩も返せていないのだ。そして、その機会は永遠に失われてしまった。
明日も警察にいって事情を説明せねばならない。また、検死や葬儀等の手配もある。ご両親が戻るまで、俺にできることは手伝いたい。
あおいの不安を少しでも紛らわせてあげたい。
あおいを家まで送る。
病院からは少し遠かったので、タクシーに乗った。
あおいも少し落ち着きを取り戻し、なんとか会話ができるようになった。
明日のこともある。そこで、おれは先輩について聞くことにした。
あおいは俯いている。その手には、菱形のキーホルダーが握られている。
あれは、昔、俺が先輩と一緒にガチャで引いたものだ。俺の推しキャラだと押し付けたが、先輩、持っていてくれたんだよな。
あおいは、キーホルダーを何度も持ち直すと、ポツリポツリと話し出した。
「おにい……、兄は高校卒業後、誰もが羨むような大手企業に就職したんです。だけれど、内情はすごくブラックな会社で。就職を喜んだ私や両親の手前、すぐに辞めることもできず、兄は、無理を重ねて精神の病気になってしまったんです」
それ以来、先輩は外出もほとんどしなくなり、ゲームやアニメなどの趣味以外には興味を示さなくなったらしい。
あおいは俯いたまま話を続けた。
「わたしは、……小さな時から、お兄ちゃん子だったから、だらし無くなっていく兄が受け入れられなかったんです。またカッコいいお兄ちゃんに戻って欲しかった……」
でも、それが先輩を追い詰めてしまったのかもしれないと後悔しているようだった。
そこまで話すと、あおいはまた目を擦り、肩を震わせる。……泣き出してしまった。
だから以前、あおいは俺に兄の話をしたがらなかったのだろう。
あおいを家まで送る。
腕時計を見ると既に午前0時を回っていた。
今更行ったところで、いるわけがない。
でも、俺は……。
まひるとの待ち合わせ場所に向かった。
駅に着く。
もう、人もまばらだ。
いる訳がないと思いながらも、居ても立ってもいられなくて、あたりを探す。
だが、まひるの姿はなかった。
そもそも来てくれていなかったのか?
俺は連絡板の存在を思い出して、見に行く。
すると、まひるの手書きのメッセージが残っていた。
「もうあなたに会うことはないと思います。 真夜」
おれは額を押さえる。
『ハハ……。そうだよな……』
絶望感で笑うしかなかった。
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