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第38話 もしかして仲居さんもですか?
しおりを挟む俺とまひるは目を見合わせる。
まひるは、分かりやすくあたふたしている。
不安そうに俺の顔を覗き込む。
「どうしよう。怒られちゃうかも」
って、今さらどうしようもない。
そもそも、自分の部屋で何をしていても自由なハズだし、返事をする前に襖を開けた仲居にも、非はあるのだ。
それに、あんな事があった後だ。
またすぐに来たりはしないだろう。
ってか、むしろ、また来たら堂々と見せつけてやろうではないか。
俺は、身体を離そうとするまひるをぐるんと回転させ、さっき仲居さんがいた方に身体を向けさせると、続けるよう促した。
まひるは、求められたのが嬉しかったらしく、またユサユサと動き始める。
そして、息を荒くしながら顎を上げ、行為に陶酔しているようだ。
まひるはこちらを振り向くと、上唇をペロッとして、上擦った声で言う。
「この部屋、ナギくんのゴミ箱の匂いがするよぉ。わたし、この匂い好き。でも、さっきの可愛い仲居さんにも嗅がれちゃったかな。わたしだけのなのに。妬いちゃうかも」
妬かれるのは嬉しいのだが、うちのゴミ箱について、誤った認識を持たれている気がする……。
だが、まひるの変態っぽい発言に、お互い興奮してしまった。
まひるの動きが早くなる。
あと少し……。
その時。
トントン。
(襖のノック音)
「すみません。お寛ぎのところ……」
またアンタか!!
こっちは旅情緒で忙しいんだよ。
なんだ、混ざりたいのか?
そうなのか?
今日、旅先で複数プレイ初体験か?
すると、仲居さんは続けた。
「何度もすみません。女将からの伝言で、取り急ぎお伝えしたいことが……」
なんだろ。
でも、チェックインの時の伝言だったら、もう小一時間経ってるってことか。
あの仲居さん新人っぽいし、女将から言われたことは無視できんよね。きっと。
そう考えると、客が情事に耽っていて話を聞いてくれない今の状況は、いささか気の毒に感じる。
ちょっと待ってもらって、服を整え換気をした。よし、これで大丈夫そうかな。
まひるは、なんだか拗ねているようだが、話を聞かせてもらうことにした。
仲居さんは、正座を崩さずに話し始めた。
「実は、本日、当館の挙式用のパンフレットを撮影する予定だったんですが、モデルの方が急遽、来れなくなってしまいまして。印刷の都合上、どうしても本日中に撮影しなければならないんです。そこで、初々しいお二人にお手伝いいただけないかと……」
あれ? おれは疑問が湧いた。
「なんで俺たちに? 女将さんとも会ったことありませんし、何が何だか」
すると、仲居さんが首を横に振る。
「入口のところで女将に会いませんでしたか? お二人ならイメージにピッタリだと。女将たっての願いなんです」
入口?
あぁ、あの馴れ馴れしい仲居さんか。
って、あの人、女将だったの?
庶民派すぎて、びっくりだよ。
そういうことなら、前向きに考えたい。
そこでおれは、一番気になること聞くことにした。
報酬?
ノンノン。
俺が聞きたいことは、そんな事じゃない。
ただひとつ。
まひるのコスチュームがどっちか。
つまり、和装か洋装かだ。
俺の必死さに気づいたのか、仲居は少し口元を綻ばせた。
「うちにあるのは神前式の施設なので、和装ですよ。今回は、華のある色打掛をご用意します。新郎様は……」
新郎のことなんてどうでもいい。
おれは、即答で引き受けることにした。
まひるの花嫁姿が見れるなんて。最高の報酬だ。
しかも、着物だよ?
是非もなし。
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