上 下
37 / 59

第37話 草津温泉。

しおりを挟む
 草津につき、まずは、旅館に向かう。
 
 旅館は、温泉街の中心から数分の距離にある。
 細い石畳の路地を抜けた先だ。

 母屋は老舗なだけあり、築何百年も経っていそうな建物だった。正面には純和風の数寄屋門がしつらえられ、『翡翠ひすい館』という看板が掛かっている。

 門を入ると、小さな村のような造りになっていて、お風呂や食堂、客室が独立している。各所には説明文があり、宿泊客が宿の中だけでも楽しめるような工夫が凝らされていた。

 ビンゴの賞品なのに、随分と良い旅館だよなぁ、と思う。やはり、有名大学だからか?
 

 まひると門扉の前にたち写真を撮りまくる。すると、仲居さんに声をかけられた。

 「新婚さん? あなた、ずいぶんと可愛い奥さん掴まえたわねぇ」

 すごいフレンドリーだな、この人。

 いや、まひるが可愛いのは事実だが。
 できれば、俺の事も褒めて欲しい。
 
 老舗旅館というと、もっと気取った感じの接客かと思っていた。たが、旅慣れしていない俺としては、こっちの方が有難い。

 チェックインの時間までまだ少しあるので、フロントに荷物を預け、外に出ることにした。

 温泉街の中心にある湯畑に行く。
 
 翡翠色の冷却路を眺めていると、あたりに硫黄の匂いが舞い上がり、いかにも温泉地にいるという気分になる。

 いつもは俺の部屋で会っているから、今日は、すごく特別な非日常にいる気がして、いつにも増して、まひるを愛おしく感じた。

 まひるがどこかをじっと見ている。
 ふと、その視線を追うと。

 浴衣をきた夫婦が、小さな女の子の手を引いて歩いていた。

 俺と目が合うと、まひるは微笑んだ。

 まひるは、さっき、夫婦に間違われたのが嬉しいらしい。俺のことを「あなた」と呼んでは、身体を左右に振って照れくさそうにしている。


 「くしゅん」

 まひるがくしゃみをした。
 やばい。まひるがノーパンなのを忘れていた。

 早く宿に戻らねば。

 宿に戻って、チェックインする。
 すると、担当の仲良くさんが部屋を案内してくれ、お茶を出してくれた。

 随分と若い仲居さんだな。
 リゾートバイトだろうか。

 仲居さんが部屋を出た瞬間、まひるの目がとろんとする。しまった。我が家のサキュバスをノーパン放置してるのを忘れてた。

 まひるは「我慢できない。頂戴♪」というと、有無を言わさず馬乗りになってくる。

 おれの返答を待たずに、まひるは、息を荒げながら腰を回すように前後に揺らす。
 
 俺が限界に近づいた頃、まひるは俺にキスをした。そして、唇を離すと、舌を出して小悪魔のような顔をして言った。

 「今日、ホルモンのお薬、飲み忘れちゃった。赤ちゃんできちゃうかも」

 えっ。
 俺が驚いた顔をすると、まひるはニコッとした。

 まひるは俺の目を見つめると、またキスをして、一気に腰の動きを早める。

 こいつ、絶対に俺を倒しにきてる。

 『ちょっと』という間もなく、俺は限界になった。言いようもないようなたかぶりに襲われ、大量に出してしまった。

 まひるは、舌なめずりすると、俺のことを抱きしめてくる。そして、甘えたような掠れた声で言った。

 「ナギくんのあったかい。わたしの子宮に沢山だよ。ねぇ。赤ちゃんできたら、産んで欲しい?」

 「うん」

 俺は自然に答えていた。
 不思議に躊躇ためらう気持ちはなかった。


 まひるは、頬をピンクに染めて瞼の力を抜くと、長い睫毛を瞬きさせ、慈しむような眼差しを俺に向ける。

 そして、そのまま、また俺の上でゆさゆさと動き出すのだった。


 ……どうやら、旅は人の心を自由にするらしい。


 (ガラッ)

 俺が旅情緒に浸っていると、急に部屋の襖が開いた。その向こうには、仲居さんが正座で頭を下げている。

 「お寛ぎところ失礼します。先ほど、お伝えし忘れてしまったことがありまして……」
 
 仲居さんが顔を上げる。

 馬乗りで動いているまひると俺、仲居さん、3人の目が合った。


 3人は同時に言葉を発した。


 「アッ……!」

 
 すると、仲居さんは、無言で襖を閉めた。
 俺が駆け寄ると、既に仲居さんはいなくなっていた。

 やばい。
 あの人、この部屋の担当だよね?
 
 気まずすぎるんですが。



  
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

学校の空き教室へ仕掛けた防犯カメラにマズい映像が映っていた

したらき
恋愛
神坂冬樹(かみさかふゆき)はクラスメイトに陥れられて犯罪者の烙印を押されてしまった。約2ヶ月で無実を晴らすことができたのだが、信じてくれなかった家族・幼なじみ・友人・教師などを信頼することができなくなっていた。 ■作者より■ 主人公は神坂冬樹ですが、群像劇的にサブキャラにも人物視点を転換していき、その都度冒頭で誰の視点で展開しているのかを表記しています。 237話より改行のルールを変更しております(236話以前を遡及しての修正は行いません)。 前・後書きはできるだけシンプルを心掛け、陳腐化したら適宜削除を行っていきます。 以下X(Twitter)アカウントにて作品についてや感想への回答もつぶやいております。 https://twitter.com/shirata_9 ( @shirata_9 ) 更新は行える時に行う不定期更新です。 ※《小説家になろう》《カクヨム》にて同時並行投稿を行っております。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

俺がカノジョに寝取られた理由

下城米雪
ライト文芸
その夜、知らない男の上に半裸で跨る幼馴染の姿を見た俺は…… ※完結。予約投稿済。最終話は6月27日公開

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

夜の公園、誰かが喘いでる

ヘロディア
恋愛
塾の居残りに引っかかった主人公。 しかし、帰り道に近道をしたところ、夜の公園から喘ぎ声が聞こえてきて…

恋人の水着は想像以上に刺激的だった

ヘロディア
恋愛
プールにデートに行くことになった主人公と恋人。 恋人の水着が刺激的すぎた主人公は…

我慢できないっ

滴石雫
大衆娯楽
我慢できないショートなお話

放課後の生徒会室

志月さら
恋愛
春日知佳はある日の放課後、生徒会室で必死におしっこを我慢していた。幼馴染の三好司が書類の存在を忘れていて、生徒会長の楠木旭は殺気立っている。そんな状況でトイレに行きたいと言い出すことができない知佳は、ついに彼らの前でおもらしをしてしまい――。 ※この作品はpixiv、カクヨムにも掲載しています。

処理中です...