35 / 59
第35話 鍋パ。
しおりを挟むすると、先輩は前のめりになった。
「パーティー?」
さすがアメリカ帰りの自称パリピ。
パーティーという言葉に反応してきたか。
「そう。パーティーです。まひるとほのかちゃんも誘って、みんなでワイワイやりましょう!!」
先輩は二つ返事でOKしてくれた。
まひるとほのかの都合を聞いて、鍋パーティーは翌週末の予定になった。
ほのかは、最初しぶったが、先輩がくると分かるとOKしてくれたらしい。
よくよく考えてみると、高校で引きこもりだった俺にとって、家で友達と鍋パーティーなど、夢のリア充イベントだ。
……なんだか緊張してきたぞ。
当日の朝、まひるが早めにきてくれて、一緒に準備をする。食器も買い足して、材料を買って。
大体の準備が終わり、おれは部屋を見渡す。
食器よし、ゴミ箱よし、まひる良し、大丈夫!!
あとは、先輩たちが来るのを待つだけだ。
先輩から電話が入る。
ほのかと待ち合わせして一緒に来るらしい。
「先輩たち、最寄りについたらしいよ。あと10分くらいで着く……」
すると、まひるが本棚の方に近づく。
そして、その中の本を1冊手に取った。
「ナギ君これ。宅建? 勉強はじめるの?」
墓参りに行った後、俺なりに色々考えた。
守るってどういうことか。
必要なのはもちろん腕力ではない。
その答えは、まだ分からないけれど、何も持ってない自分を変えたかった。だから、安易ではあるが、仕事柄、勉強しやすい宅建をとることにした。
まひるに答える。
「うん、どうなるか分からないけどな」
そう言って、まひるの方を見る。
すると、すっかり背景と同化している『箱』が見えた。
デンマーが格納されている箱だ。
箱には、デンマー以外にも色々なものが収蔵されている。
おい、これどうするんだよ!!
うちには、これを隠せる場所なぞないぞ!!
やばい。
もう2人が到着してしまう。
まひると箱を持って右往左往していると。
(ピンポーン)
チャイムがなった。
まひるは自分の席に箱を置き、上に座布団を乗せる。椅子って設定かな?
その刹那、まひると目が合う。
まひるは、歴戦の戦士のような鋭い目つきをすると、親指を上にあげて『いいね』のサインをした。
頼もしいが、そもそもお前が駄々をこねて箱を買ったのが原因なんだがな。
苦しいが、この設定で乗り切るしかない。
(ギィ……)
ドアをあけると、2人が立っていた。
ほのかは小さいが、先輩は大きい。
今日のほのかは、メガネをかけている。
俺はおもわず、ほのかの顔をまじまじと見てしまった。
『この子、少し痩せたら、相当な美人だと思う……』
(ギュー)
すると、まひるに頬をつねられた。
痛い。
なんだか頬を膨らませて、こちらを睨んでいるぞ。
うちのセフレが、やきもち焼きなんですが?
先輩たちは、サイズ感が自然で、意外とお似合いだな。ワインを買ってきてくれたらしく、紙袋を渡してくれた。
「かんぱーい」
まずは、ビールで乾杯する。
ほのかはアルコールが苦手らしく、オレンジジュースを飲んでいる。
まひるが作ってくれたのはイタリア風の鍋で、魚介の出汁に、トマトやチーズ、はんぺんがふんだんに投入されていて美味しい。
俺は、はふはふと鍋をつつきながら、2人の様子を観察する。
すると、先輩はいつも通りだが、ほのかは先輩の方を見ている。
って、いつの間にか、ほのかの手にチューハイ(オレンジ)が握られているではないか!!
ほのかは顔を真っ赤にして、どこぞのライブのヘッドバンギングのように、あたまをぐらんぐらんしている。
あの子、大丈夫か?
すると、ほのかは突然、何かを呟きながら先輩に抱きついた。
そして、叫ぶ。
「処女らけどら、付き合ってくだらい!!」
場が静まり返った。
『まずは友達から』でも上出来くらいに思っていたのに、いきなり処女な告白をするとは。
俺とまひるは目を見合わせてしまった。
先輩は……。
鼻の辺りを掻きながら「別に、いいよ」と答えた。不器用な言い方だが、先輩の方も、まんざらでもなさそうだった。
まひるは、ほのかに「よかったねー」と抱きついているが、ほのかはグッタリとしている。
俺は、ほのかから酒を取り上げ、横にすると、先輩に聞いた。
「先輩、よかったんですか? 愛の伝道師は卒業ですか?」
先輩は、片膝を抱えてグラス傾けると、真顔で答えた。
「いや、ほのかちゃんとやり取りしてたら、自分の初恋のこと思い出してさ。そういうのには、ちゃんと応えたいなって……」
そういうと、先輩は、遠くを見つめて浸っているようだった。
…………。
「まひるちゃん、こんな俺ってかっこいい?」
先輩は、眉を下げ顎を出している。
いつもながらに、なんだか得意げで小憎たらしい顔だ。
まひるは、口を『ぶー』とする。
「全然、かっこよくないです。ほのかのことちゃんとしてあげてください!!」
先輩は、まぁまぁと声援に応えるように手を振って、英雄気分のようだった。
それからは、ワイワイと飲んで、普通に楽しんだ。
俺は、高校の時は引きこもりだったし、大学もいかなかったから、こういうイベントは無縁だと思っていた。だから、時間が取り戻せたようで、嬉しかった。
まひるは、そんな俺を見てニコニコしている。
それからしばらく飲んで、もう少しで終電がなくなる頃。
ほのかが起き出した。
寝惚け眼を擦っている。
自分がどういう状況かわかっていないらしい。
まひるは、ほのかに事の経緯を説明しようと、飛び跳ねるように立ち上がった。
すると、まひるの踵が『箱』に当たった。
箱は横に転がり、中からデンマーがくるくると回転しながら勢いよく飛び出してきた。
そんな訳で、いま、俺の前には、デンマーが床に転がり、猫耳ヘアバンドと数枚のエッチな下着が散らばっている。
反射的に全員の視線が集まる。
そして、口を揃えて同じ言葉をいうのだった。
「アッ……!!」
………………。
…………。
14
お気に入りに追加
190
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる