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第24話 まひるのおねがいごと。

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 ———普通、フッた男に彼氏のフリを頼むか?
 
 一瞬、心がざわついた。
 でも、まひるも相当頼みづらそうにしている。

 おれは咳払いをして、突き放したくなる臆病な衝動に蓋をした。そして、ちゃんとまひるの目を見て、事情を聞いてみることにした。

 「どういう状況なの?」

 すると、まひるは右手を左腕の二の腕のあたりに添えながら、俺の顎のあたりを見つめ、心細そうに言う。

 「……うん。まず、ごめんなさい。ナギ君に頼むことが酷いことって分かってるんだ。でもね、演技でも、こういうのは他の子に頼みたくなかったの。その、わたし、友達もすくないし……」

 えっ。
 友達が少ない?

 それ自体が意外だった。

 おれが知ってるまひるは、街を歩くだけで友達100人できそうなタイプなのに。
 
 まひるは、酷いことでも、話をすり替えたりせずに話してくれている。おれも真剣に聞かないといけないと思った。

 まひるの話によると、ある男に、しつこく言い寄られているらしい。そして、相手がいるから受け入れられないと言っても、信じてもらえず、相手が先輩なこともあり、対応に困っているとのことだった。

 たしかに、それなら。
 彼氏(役)をたてるのがてっとりばやい。

 大学の先輩ということは、まひると同じ大学か。
 俺が中学の頃に、マヤに入ると豪語していた大学。

 正直、今の俺は。
 まひるにもその男にも、凄まじい劣等感を感じている。

 小さく息をすると、まひるにかっこ悪い質問をする。
 いや、これは一種の通過儀礼というべきか。

 「なぁ、俺は大学行ってないじゃん。これってかっこ悪いことだと思うか?」

 まひるは、即答する。

 「そんなことない。だって、ナギ君、あんなに勉強できたじゃん。わたしなんかより全然。そんな風に思ったことないし、わたしと同じくらいの歳で社会で頑張ってるナギ君はすごいって、尊敬しているよ」

 ありがとう。まひる。
 肯定的な答えをくれるのは分かってたんだけど、まひるの言葉が欲しかった。


 自分が本番で卑屈な態度をとらないために。
 

 「そっか。おれも、まひるを尊敬しているよ。わかった。彼氏役をするよ」

 まひるは俺に抱きついてくる。
 
 相手というのは、十中八九、前の彼氏だろう。
 
 ……俺様のイケメンっぷりを見せつけてくれるわ!!
 
 とりあえず、明日、会社に行ったらクズ先輩に相談しないと。

 ところで、いつまでに心の準備をればいいんだろう。まひるに聞いてみる。

 「んで、いつ紹介してくれるの?」

 「再来週に学園祭があるから、その時がいいかなって。学祭なら学外の人が遊びに来ても自然だし」

 おれは頷いた。

 すると、まひるが俺から身体を離す。

 「ナギ君、ありがとう。それで、何かお礼というか、わたしにして欲しいこととかない?」

 おれはニヤニヤする。
 この劣情。ED時代にはなかった新鮮な感情だ。

 「そだな。んじゃあ、当面は『つるん』としたまひるでいてくれるか? ……頬擦りした感覚が癖になっちゃってさ」

 まひるは真っ赤になる。

 「ばかっ、えっち!、変態! ……それとあのマッサージのまた試してみてもいいよ?」

 そんな意を決した表情で見つめられても……。

 「いや、それはいいや……。あいつ(聖剣デンマー)は使命を終えて聖なる大地(箱)に封印したからな」

 俺の脳裏に、デンマーの記憶がフラッシュバックする。

 本当に大変だったのだ。

 簡単にまとめると、デンマーの力で、淫魔サキュバスが覚醒して、俺はEDが再発しそうになり、まひるはお漏らしした。
 
 思い出すだけでも身の毛がよだつ。
 一番、恥ずかしい思いしたのはまひるなのに、タフだなぁ。

 「あっ、まひる。デンマは箱にあるから、1人で暇な時にとか、使っていいから」

 するとまひるは、一通りあたふたとした後、膨れる。

 「使わないよ!! ……たぶん」

 それから半年の後、なぜか、デンマーは自然に壊れ、分別ゴミに出されるのだった。
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