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第1話 アプリの出会い。

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 (スマホをタップする音)

 「ん~。ここの内容どうしようかな。先輩に聞いてみるか……」

 俺はいま、マッチングアプリに登録している。
 先輩の勧めで俺みたいなタイプはアプリで相手を見つけた方がいいと言われたからだ。

 俺は中学までかなり太っていた。

 だが、ある不幸な出来事のおかげで心機一転、ダイエット、ジム通い等の自己研鑽により、別人級のイメチェンに大成功。

 男子校だったため、高校時代には気づかなかったが、正直、今はかなりモテる。

 とはいえ、その不幸な出来事のおかげで、女性不信になってしまった。女性を信じて、裏切られるのが怖い。だから、今まで特定の彼女を作ったことがないし、作る気も全くない。

 そうは言っても、本能的(性的)欲求が強いお年頃なのだ。言い寄ってくる相手に「付き合う気はない」と言って、そういうカラダの関係になることは少なくない。

 正直に、相手には『付き合う気はない』って伝えているんだけどね。いつの間にか、相手は期待をしてしまうものらしい。

 この前、女の子に詰め寄られたから「最初から伝えてるけど、好きなら、こんな扱いする訳ないでしょ」と言ったら、大変なことになった。

 最初に伝えた通りなのに、意味がわからない。正直、面倒くさい。
 

 
 ところで、職場はクズ兄と言われている敬愛する先輩がいる(ちなみに、クズ弟は俺らしい)。先輩に先日の大変なことになった件を相談したところ、バカだと言われた。

 先輩が腕を組んで、ため息まじりに言う。
 
 「全員に、そろそろ付き合っちゃう? とか思わせつつ、ふら~っと遊ぶのが鉄則だぞ。 あとな、職場は絶対に教えないこと、これ基本な?」

 バカにバカにされるのは心外だが、遊びの達人が言うのなら、きっとそうなのだろう。
 
 なんか、『期待するな』と伝えている俺の方がマシな気がするけれどね。
 クズ兄弟と言われているくらいだし、周りからみれば似たような物なのだろう。
 
 「それにしても、先輩こそ、本気で刺されそうですよ? 形見とか預かっておきましょうか?」

 先輩は鼻で笑う。
 大丈夫だという自信があるようだ。

 先輩が言うには、本気で割り切った相手を見つけたいなら、アプリがオススメらしい。
 
 それでいま、俺は登録をしている訳だ。
 

 名前はどうしよう。
 本名はさすがに抵抗があるし。
 クズ先輩も、個人情報は極力書くなって言ってたもんな。

 何気なしに首から下げているセキュリティカードを見ると、「営業三課 高咲たかさき なぎ」と書いてある。

 凪、ナギ。
 うなぎ?

 これだ、名前は『うなぎ』にしよう。
 

 出身地は、これも東京とは書かない方がいいよな。

 前に住んでいたことがある『埼玉』にしとこか。設定で北海道とか沖縄って書いたら、すぐにバレそうだし。

 俺は隣の島の先輩に声をかける。
 
 「先輩、誕生日はどうしたらいいですか?」

 「お前な、誕生日こそ設定が重要だぞ? お前、自分の誕生日にトリプルブッキングとかしたいわけ?」

 え。なんで。
 俺、誕生日にちゃんとお祝いとかしてほしいですけれど。

 先輩が言うには、相手の誕生日はいくつあってもカラダひとつで対応できるが、ひとつしかない自分の誕生日はカラダひとつでは対応できないらしい。
 だから、相手ごとに嘘の誕生日を教えるのが基本ということだった。
 
 
 ……さすがクズの大先輩だ。含蓄がんちくがあるなぁ。
 

 あとは、趣味とか好きな映画とか。年収とか。
 これは正直に書いてっと。

 写真は……、俺も登録しないから相手も非登録でOKかな。
 男女平等ってことで。

 では、最後の項目。
 『求める相手との関係』

 先輩のおすすめは『純愛できる彼女探してます』らしいけれど。
 それじゃ、らしくない。

 俺は、先輩が見ていない隙に、こう記入した。
 キスは、いつの日か出会う彼女のためにとっておきたいし。

 「会いたい時に会える都合のいい関係(セフレ)。キスNG、恋愛NG。どちらかが好きになった時点で関係は解消」と。
 

 俺は登録ボタンをタップした。
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