私はただのガチファンなのに、推しがグイグイきます

itoma

文字の大きさ
上 下
7 / 18

第7話:恋のキューピッド同盟

しおりを挟む

(ヴィート視点)


「ヴィート……」
「はい、皇女様」

 ある日、皇女様に呼び出された。
 部屋を訪ねてみると、それはそれは神妙な面持ちの皇女様が待ち構えていた。
 
「ラドミールはモニカ先生のことが好きなのよね?」
「はい。間違いないと思います」

 皇女様が俺を呼んだ理由は、団長とシュレフタ嬢の件だった。
 昨日のお二人の様子を見て大体のことはお察しのようだ。

「二人の出会いは?」
「1ヶ月程前、団長がシュレフタ嬢の甥を助けたことがきっかけです。団長の一目惚れだと思います」
「なるほどね……」

 シュレフタ嬢が皇女様の刺繍の先生になったと聞いた時は、お二人に新たな接点ができてとても嬉しく思った。

「モニカ先生はラドミールが初めて剣術大会に出場した12歳の時から知っていたそうよ」
「そんな前から……!?」

 そういえば彼女と直接話した時、団長のことを「一方的に応援している」と言っていた。まさか7年も前からだったとは。
 12歳の頃の団長は、剣士としてはまだまだ無名だったはずだ。

「しかし皇女様……自分にはどうもわからないのです」
「ええ……言いたいことはわかるわ……」
「何故シュレフタ嬢は、団長を避けるような行動をとるのでしょうか」
「……」

 シュレフタ嬢も団長に好意を抱いていることは間違いないと思う。「クリスト騎士団長と同じ時代に生まれてこれただけで幸せ」と言っていたようだし、実際に団長を見る彼女の瞳はキラキラしている。
 それなのに何故団長から逃げたり、「また会えますか」の問いかけに対して「無理」だなんて答えたんだろうか。
 ただ照れているだけだと思っていたけど、昨日の様子を見る限り何か理由があるような気がしてきた。

「私もラドミールのことが大好きじゃない?」
「はい。でもそれは……」
「そう……恋愛感情とは違う。私はラドミールのことは、強い生命体として好きなの」
「まさか……!」

 皇女様が団長を慕っていることは有名な話だ。しかし団長と結婚したいわけじゃない。
 以前「団長と結婚したいんですか?」と聞いてみたところ、「ラドミールはかっこいいけどオトメ心がわからないからやだ」とはっきり言われてしまった。
 
「……モニカ先生のラドミールに対する気持ちも、私と同じ感じだったわ。昨日たくさん語ったの……とても楽しかったわ……」
「!!」

 ということは、シュレフタ嬢の好意も恋愛感情ではないのか……!?
 いやでもあり得るのか?皇女様はまだしも、彼女は団長と同年代の年頃の女性だ。

「しかし団長は……」

 すっかりシュレフタ嬢の虜である。
 彼女が忘れていった賞金を家に送る際、花束も一緒に送りたいと相談を受けた時は「あの団長が……!」と感動さえ覚えた。
 昨日もデートに誘おうと頑張っていたのに……見事玉砕。こんなにも手こずるとは思ってもいなかった。

「私もラドミールには幸せになってほしいし、その相手はモニカ先生が相応しいと思うわ」
「はい」
「私達で出来る限りのフォローをしましょう!」
「承知致しました、皇女様!」

 団長大好きな皇女様にここまで言われるシュレフタ嬢はやはり只者ではないようだ。
 団長に対しての好意があるのなら、それが恋愛感情に変わる可能性は大いにあり得る。
 今ここに、団長とシュレフタ嬢をくっつけるための同盟が発足した。
 

***


 とりあえずシュレフタ嬢の方は皇女様にお任せして、俺は彼女のことをよく知る人物から話を聞くことにした。

「ティナ、ちょっといいか」
「はい!」
「シュレフタ嬢のことについて少し聞きたいんだが……」
「……あ、はい」

 ティナ。秋の入団試験に合格した平民出身の女性騎士。彼女はシュレフタ嬢の幼馴染だ。
 俺の要件についてティナは特に驚くことなく頷いた。団長とシュレフタ嬢のやりとりを間近で見ていたし、ある程度は察しているようだ。

「あの……団長はモニカのことがお好きなんですよね?」
「わかるか」
「はい。もはや知らない騎士はいないかと……」
「……」

 ……いや、シュレフタ嬢の言動に一喜一憂する団長の様子は多くの騎士が目撃している。
 幸い士気に大きな影響はないみたいだが……女性に苦労する団長の姿は、あまり下の者に見せない方がいいかもしれない。

「シュレフタ嬢から、何か団長について聞いてないか?」
「いえ……私が聞いても『そういうのじゃない』の一点張りで……」
「好意を寄せている他の男がいたりは……」
「聞いたことがないです」
「そうか……ありがとう。訓練に戻ってくれ」
「はい」

 団長への好意はあまり周囲に公言していないようだ。婚約者や、他に好きな男がいるわけじゃないならとりあえずはよかった。

「あ、皇女様。シュレフタ嬢は……」
「……」

 皇女様が刺繍の授業を終えてティータイムにやってきた。しかしシュレフタ嬢の姿はない。
 皇女様は残念そうに首を横に振った。ついに逃げられてしまったか……。
 ふと団長を見てみたら、わかりやすくしょんぼりしていた。もはや"無口でクール"な騎士団長の面影は感じられない。

「なかなか手強いっすね~、モニカさん」
「馴れ馴れしく呼ぶな」
「はーい」

 団長の気も知らないでヘラヘラと笑うシモンに釘を刺す。団長の意中の相手を名前で呼ぶとはけしからん。

「てか、普通に家同士で話せばよくないすか? 侯爵家ならシュレフタ子爵は二つ返事でOKっしょ」
「いや……クリスト侯爵はなかなか気難しい人だからな……」
「?」
「ボーイェン公爵令嬢からの求婚書も、ヘンドリクス伯爵令嬢からの求婚書も却下したらしい」
「社交界のトップ2じゃないすか!!」

 団長は容姿も家柄も騎士としての実力も申し分ない。つまりモテる。それなのに今まで婚約者はおろか女性との噂話も出ていないのは、クリスト侯爵が一因になっている。

「侯爵夫人が早くに亡くなってからクリスト侯爵は……」
「ハッ……! もしかして団長、不遇な幼少期を……!?」
「いや、その逆だ」
「え?」
「息子2人を、妻の忘れ形見として溺愛するようになったんだ」
「……」

 クリスト侯爵は息子を溺愛するあまり、政略結婚に対して慎重な態度をとっていた。下手に政略結婚の形をとったら無下にされかねない。
 それなら、息子が愛した女性を直接連れてくる方が良いはずだ。

「もしシモンが団長の立場だったら、どうやってシュレフタ嬢をデートに誘う?」
「俺だったら偶然を装って会いに行きますね」
「おお……」
「なるほど……」
「団長いつからそこに!?」
「さっきだ」

 ふむふむとシモンの話に相槌を打っていたら、いつの間にか団長も隣で興味深そうに耳を傾けていた。こういう時に気配を消すのはやめていただきたい。
 この様子だと、シモンの助言を真に受けて実行するつもりだろう。一歩間違えばストーカーのような気もするけど、シュレフタ嬢を口説くにはこのくらいした方がいいのかもしれない。

「モニカ先生は明日、友達とローヤンのケーキを食べに行くそうよ!」
「ローヤンなら俺場所わかりますよ。地図書きますね!」

 皇女様はもちろん、シモンもノリノリで団長の恋のサポートをしてくれるようだ。

「団長……市民にはバレないようにお願いしますよ」
「ああ。ありがとう」
 
 この人の力になってあげたい……周りの人にそう思わせる魅力が、団長にはあるのだ。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

【完結】身勝手な旦那様と離縁したら、異国で我が子と幸せになれました

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
腹を痛めて産んだ子を蔑ろにする身勝手な旦那様、離縁してくださいませ! 完璧な人生だと思っていた。優しい夫、大切にしてくれる義父母……待望の跡取り息子を産んだ私は、彼らの仕打ちに打ちのめされた。腹を痛めて産んだ我が子を取り戻すため、バレンティナは離縁を選ぶ。復讐する気のなかった彼女だが、新しく出会った隣国貴族に一目惚れで口説かれる。身勝手な元婚家は、嘘がバレて自業自得で没落していった。 崩壊する幸せ⇒異国での出会い⇒ハッピーエンド 元婚家の自業自得ざまぁ有りです。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/07……アルファポリス、女性向けHOT4位 2022/10/05……カクヨム、恋愛週間13位 2022/10/04……小説家になろう、恋愛日間63位 2022/09/30……エブリスタ、トレンド恋愛19位 2022/09/28……連載開始

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

処理中です...