終焉を迎えそうな世界で、君以外はなんにもいらないんだ

朱月野鈴加

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【四十一話】母親の温もりと柔らかさ

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 *

 さすがの二人も朝を迎えて疲れが出てきた。途中、何度か癒し魔法を使っていたけど、いや、この魔法ってこんな使い方、していいんだっけ? と疑問に思いつつ、使ってはいたが、体力よりも眠気が襲ってきていた。
 そして、中央棟のある区域に人が入ってきた気配を感じて、名残惜しいと思いつつ、律はアナスタシアのナカから出た。
 その際にまたアナスタシアが感じたのを見て律も感じるモノがあったけれど、それよりも人の気配が迫ってきているのが気になって、急いで身支度をした。
 律の水魔法の浄化ですっかり綺麗になっているので、たぶんバレない。
 いや、別にナニしてたのがバレてもなんでもないけど、さすがに事後のあの状態を見られるのは恥ずかしい。
 身支度を終えて待っていると、予想通りのお迎えだった。

「アーロンとトマスって、なんだか珍しい組み合わせだね」
「なかなか帰ってこないから、なにか問題でも発生しているのか、怪我をしてるのではってランが心配してな」
「あー」
「ランには言いませんでしたが、二人、盛り上がってヤリまくりなのだろうと」
「トマス、無駄に良い声でそういうことをうかつに口にしないで?」
「ほう? なるほど、私たちに心配を掛けておきながら、予想どおり、二人はヤリまくっていた、と」
「……だから……」

 律はハーッとため息を吐いたが、アナスタシアは特に顔色を変えていない。むしろ、

「……今、色々と思い返したら、リツもその無駄にいい声で色々と言ってたわよね?」
「え? ぼくの声、別に普通だよね?」
「リツ、おまえも自覚がないのかもしれないが、結構、良い声、してるぜ?」
「え?」
「リツの声、聞いてると……たまに、その」

 そう言って、赤くなるアナスタシアを見て、律はため息を吐いた。

「アナ、お願いだから煽るのは止めて」
「あ、煽ってるわけじゃなくて! だからこれ、律のせいだから!」
「ぼくのせい……ね?」
「ほっ、ほら、そういうところ!」
「いちゃつくのは私たちがいなくなってからにしてください」
「あ、はい」
「とにかく、一度、二人とも、帰って。心配して待ってるから」
「はい、すみません」
「アナスタシアはいいんだよ。どうせリツが手を出したんだろうし」
「ぅ、そこまでバレてるっ?」
「とにかく、二人とも、お疲れさま」
「うん、ありがとう」
「ありがとうございます」

 四人は中央棟の地下から地上に戻った。
 上から見ると、中央棟はほぼなくなっていて、アナスタシアの魔法の威力のすごさを改めて知った。

「中央棟、結構大きいのに、これを吹き飛ばしたアナってすごいよね」
「だって、レジェスそっくりだったから、つい」
「実の父に似てるからって全力の魔法をぶつけるとはね」
「大異変の見た目は、やはりレジェスだったのですか?」

 トマスの質問に、律は目を丸くした。

「ぇ? あれ、知ってたの?」
「いえ、私たちが推測しただけです」
「うん、見た目は髪が黒いレジェスだったよ」
「なるほどね」
「魔王の見た目は?」
「あー。魔王ね。……うん、ぼくに似てたよ」
「ということは、ランの見た目を引き継いだ、と」
「ぼく、ラン似、なの?」
「そっくりってほど似てはないけど、四人の中でだれに似てるかと言ったら、ランなんだよな」

 結局まだ、律は蘭の顔をよく見ていない。
 律が大異変がいる部屋に突入したとき、蘭はベッドの上で寝ていて、姿を見ただけだったのだ。

「ランが待ちかねてるぞ」
「……だって、すぐに帰ったら、その、邪魔だっただろう?」
「正直に言えば、そうだな」
「イバンも馬鹿正直すぎるよ!」
「許してください。十八年ぶりだったのですから」
「……トマスに言われると、もう、なんでも許しちゃうってなるよね。……やっぱりその声、ズルいよ」
「あら、リツ。あなたの声、トマスさんに似てますわよ」
「……ぇ?」
「トマスさんに比べたらリツの声は少し高いけど、それでも、良い声ですし、色気はあるし。……その声で解説されると、ちょっと……というか、かなり困りますわ」

 声は自分で聞いているのと、人が聞いてるのと違うから、そう言われてもピンと来ない。

「とにかく! あなたの声は、ある意味、凶器だと自覚して!」
「やー、無理だよ」
「はっ? あなた、あたしを殺す気なのっ?」
「アナに死なれると困るけど、アナとはまだたくさん話したいし」
「っ! そっ、そういうところが!」
「うーん、いいね、青春!」
「かなり違うと思いますが」

 *

 アナスタシアと別れて、三ヶ月が経った。
 この間、事後処理に忙しすぎて律はアナスタシアに会えていない。それは向こうも同じなのだが。
 大異変を倒してから三ヶ月、ようやく周りも落ち着いてきた。
 そして今日も律は色々とやらなくてはならないことがあって、朝、起きて、トマスが作ってくれた朝ごはんを食べた後、中央の部屋に戻ってきたところで水晶が光っているのに気がついた。光る色を見て、アナスタシアのところからだと分かったので、律は出たのだが。

『おはようございます』

 声の主は、アナスタシア。久しぶりに聞く。
 そういえば、長じてからこちら、こんなに長い間、アナスタシアと会えなかったのは初めてではないだろうか。
 そう思っていると。

『リツはいますか?』
「ぼくだけど。おはよう、アナ」
『ぁ、ぁ、リ、リツ。あの、あたし、どうしようっ?』
「アナ、どうしたの?」
『あなたとの子どもが、出来たみたいなの』
「……ぇ?」

 思ってもみなかったことを告げられて、律は固まった。
 大異変を倒した後、貪るように身体を合わせた。律は何度もアナスタシアのナカに出した。
 そんなことをすれば、子どもが出来ていても不思議はないのだが。

「アナ、その……うん。確かにぼく、アナのナカにいっばい出した」
『ちょ、リ、リツッ! その良い声でそういうこと、言わないでッ!』

 後ろから笑い声がするところ、向こうは全員、いるような気がする。かなり恥ずかしい。

「うん、ぼく、嬉しいよ。アナ、ぼくはどうすればいい?」
『……え?』
「アナとの子ども、かぁ。出来るようなことをしたけど、出来るなんて思ってなくて、かなり驚いてるんだけど」

 律の肩にポン、と手が置かれた。
 振り返るとイバンが立っていた。

「リツはどうしたい?」
「どう、って?」
「アナスタシアと結婚して、家庭を作りたい?」
「あぁ。そんなこと、考えてもなかったよ」

 この国では、結婚して家庭を持つという形態は存在していない。
 男女がともにいるのは、あくまでも子作りのため。だから何人もの子を産みながらも、胤が違うというのは不思議はない。
 中には、同じ胤で複数人を産むこともあるが、それは珍しい。

「おはようございます。って、通信が入ってるのですか?」
「アナスタシアから、リツとの子どもが出来たって」
「……あのときの、ですか?」
「うん、そうみたい」
「あなた、一体、何回、ナカ出ししまくったのですか!」
「トマス、その声でそんなこと、聞かないで!」

 良い声で聞かれると、クラクラする。というか、内容が内容だけに、ムラムラする。

「で、何回?」
「……一晩中、ずっと繋ぎっぱなしで……数えてないから分かんないけど、十回以上は……」
「十回以上! 一人で十回以上! 体力馬鹿とはなんと恐ろしい!」
「付き合えるアナスタシアも相当だよな」

 とそこへ、アーロンと蘭がやってきた。

「おはようございます」
「おっ、おはようございます……」
「あの、皆さん。お話が」
「なんですか?」
「……その、三人の子が、出来たみたいなんです」
「……は?」
「へ?」
「え?」
『リツ-! 中央棟まで来られるぅ?』

 そういえば、アナスタシアとまだ通信中と思い出し、律は返事をした。

「今日、行く予定があるよ」
『いつ?』
「今から出る予定だったんだ」
『分かった。あたしも行くわ』

 そうして、水晶での通信は切れた。

「──いや、それもだけど! ラン、子どもってなにっ?」
「ふふっ、律、あなたの妹か弟よ」
「妹が良いな。……って! しっ、しかも三人のって! 聞き捨てならないな!」
「あなたの時と一緒よ。三人の胤をもらって、わたしの身体の中で混ぜ合わさって、一つになる。だから、三人の子、なの」

 律が魔王を、アナスタシアが大異変を倒した後、蘭が意識を取り戻してあんなに黒かった持ち物すべてが白へと戻った。
 律は髪の毛も変わるかと思っていたけど、こちらは黒のままだった。そういえば髪が黒いのは生まれつきだったと思い出したのだ。
 そして、この建物に帰ってきて、ここもすべて真っ白になっていて、驚いたのを覚えている。

「その……ラン。ぼくはぼくの弟で、ランの子どもでもある魔王を殺した」
「うん、ありがとう。あの子はほんと、どうしようもなかったわ」

 そして蘭は、少し悲しそうに笑った。

「律には、わたしの中に誕生した瞬間から、色々なものを課せてしまって……。ごめんなさい」

 そう言って、蘭は律を抱きしめて、泣いた。
 初めて蘭に抱きしめられた律は、ふわふわして、温かくて、ギュッと心を絞めつけられる存在の蘭に戸惑った。それから律は恐る恐る、蘭の背中に手を回した。
 アナスタシアとは違った柔らかさに驚く。
 母親とは、こんなに柔らかなもの、なのだろうか。
 蘭の見た目だけ見れば、律と歳があまり変わらないように見える。それでも蘭が律の母親であるのはこの温もりと柔らかさで紛れもない事実だと思い知った。
 しばらくそうしていたら、いつの間にか律の横にトマスがいて、妙ににこやかな笑みを浮かべながら律から蘭を奪っていった。

「トマス?」
「……息子に嫉妬するとか」
「重症過ぎる」
「ラン、泣くのなら私の胸にしてください」
「ぅー……。律ぅ」
「ラン?」
「うー?」
「今、あなたはだれの胸の中にいるのですか?」
「……トマス?」
「なぜ、そこで疑問形に……。たとえ律が息子でも、立派な嫉妬対象ですよ! ランは私たちだけのもの、なんですから」
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