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Episode.3 恋のダンスステップとプッティの逆ギレ説教
第19話 離反の密計、闇の魔人形ゾア・ラードゥー
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「現在のところ表立った反発こそありませんが、列強はズワルト・コッホの侵攻準備に対してかなり警戒しています。国境を接するリードケネス合衆国は既に軍備の増強を始めており、皇御の国とも軍事的な提携を秘密裡に画策しています」
将軍達の表情が硬くなり、外交関係の閣僚はぎょっとして彼女を見た。
高位の魔法少女ともなれば、その魔法によって如何なる国の深部も知り得るのだ。ズワルト・コッホの諜報機関ですら到底及ばない。そうと知ってはいても、彼等は驚かざるを得なかった。
「だから何だというのだ。今さら何を策動しようと取るに足らんわ」
「それは重畳。しかし、自ら孤立して諸外国すべてを敵に回すようになったとしたら、強大なズワルト・コッホ帝国といえどどこまで楽しい未来図が描けますかしら?」
「……」
強がった将軍が鼻白むと、ルルーリアは髪をかき上げて一同を見回した。
「レストリアが併合された時どう統治されるか、諸外国は固唾を飲んで見守ることでしょう。未来の自分達もそうなるかも知れないはずですから」
「……」
「そこで……です。ここで陛下がレストリア国民へ寛容な政策をお見せしたとすればどうなると思いますか? 彼等に『いずれレストリア王政よりも豊かで安全な生活を与える』と。単純なレストリア人はすぐ懐柔されるでしょう。所詮は下賤な民ですもの」
「確かに服従させやすくはなるな」
一人の閣僚が頷くとルルーリアは悪魔のような笑みを浮かべた。
「彼らは『働けば豊かになる』と告げられ、そう信じて精を出す。でもその約束が果たされることは永遠にない。ふふふ……下手に鞭打つより手懐けて搾り取るのです。僭越ながら王族の処遇についても良い方法がございます。根絶やしにせず、一人だけ残して権力を持たない傀儡とするのです。あたかもレストリアがまだ形を残しているように」
「なるほど、不満が出てもその傀儡に向けるよう仕向けれられるし都合がいいな」
「傀儡には年少で、親しむ国民も多いと云われるルーベンスディルファー殿下がふさわしいでしょう。よろしければ私が彼を篭絡し、恭順させてご覧にいれますわ」
力で従属させるより狡猾に欺いて搾取するという提言は、レストリアを見下すズワルト・コッホ人には魅力的だった。賛同した何人かがルルーリアへ素晴らしい案だとばかりに頷きかける。
「寛大な政策だと列強諸国へ見せかけながら内実はレストリア人を隷奴とする。そうとは知らぬ諸外国は思うでしょう。強大なズワルト・コッホが寛容なら、どこかで融和出来るのでは? と。後は彼等が持ち掛ける内容次第。如何でしょう、陛下」
ルルーリアが恭しく片膝を突き裁可を仰ぐと、他の人々も一斉にひざまずいた。
「……余には母親がいた。幼くして死別したがな」
ややあって、老いた皇帝の口から洩れたのは全く関係なさそうな述懐だった。
「甘い菓子、歌、新しい言葉……形あるもの、ないもの、あらゆるものを余に与えてくれた。余を騙さなかったのは母親だけだった。余が信じられたのも母親だけだった」
幼少の思い出話を訥々と話す老人に誰も口を挟めない。水を差して逆鱗に触れればどうなるか恐ろしくて、誰もが口を噤んでいる。皇帝が耄碌したなどと思った者は誰もいなかった。
「ある時、幼かった余はいつも与えるばかりの母が不憫に思えて泣いた。すると母は笑って言った。もらうばかりが人の幸せではない、自分にとって与えることそのものが幸せなのだと。与える者はより豊かになれると。余は嬉しかった。自分がいつか玉座に就いた時、同じことをしたいと幼いながらに思った」
場は水を打ったように静まり返っている。
「余は即位して以来、様々なものを臣民へ与えたつもりでいた。税こそ課したが外敵に脅かされぬ安心も民に約し果たした。だが宮廷ではどうだ? 誰もが与えられるものに飽き足らず、隙あらば余から何かを奪おうとするばかり。権力、財産、信頼、果ては生命まで。ふふふ……余の玉座が欲しい者もこの場にまだおろうな」
笑いを含んだ声に人々は震え上がった。うっかり「ごくり」と喉を鳴らした大臣は、皇帝の視線を受け、震えながら額を床につけた。
「ニコラはレストリアの国益の一部を担保に共栄をと訴えたが……所詮は偽りであろう。情けも希望も無用だ。欺くのも好かぬ。与えても謀られるばかりに余はもう飽いた……」
人々が言葉もなく戦慄する中、ジーグラーは静かに立ち上がった。近習すら信用しない彼は、己の力で杖に縋ってゆっくりと退出してゆく。
後に残った者達は平伏したまま、足音がしなくなるまで顔を上げられなかった。
聖断は下った。
レストリア人には生命以外の全てを搾取される運命しかなく、王族の血統は絶たれる。
(そう……じゃあ私の道もこれで)
口には出さず、ルルーリアは心の中でつぶやいた。
会議が終わり、広間を退出すると青ざめた顔で居室へと戻る。不審に思う者は誰もいなかった。退出した他の将軍や閣僚達の誰もが同じような顔をしていたのだから。
だがルルーリアのそれは、老帝の酷薄さに恐れおののいたばかりではなかった。
レディルを救う一筋の可能性を……密かにそう考えた献策を一蹴され、心を決めたのである。この国の冷酷さを知り尽くしていたルルーリアは、既にこうなることも覚悟していた。
そして、その時のための準備もおさおさ怠ってはいなかった。
「いいでしょう、ズワルト・ゼルトバッハ・ジーグラー。貴方がそのつもりなら、私にも考えがありましてよ」
豪華にしつらえたこの部屋を探る気配がないことを確かめると彼女は呪文を唱えた。
すると、隠された闇の空間が瘴気を放ちながら開く。それはルルーリアの秘密の隠し部屋だった。
そこに、一体の魔法人形が鎮座していた。
身の丈は幼女くらいだが、冷たく妖しい美しさを纏った少女だった。長い睫毛、艶やかに光る銀の髪。真っ赤なドレスに身を包み、豪華なソファーベッドに身を沈めている彼女は、眠っているようにも見えたが……
「ゾア・ラードゥー」
呼びかけると、物憂げな瞳がすっと開いた。
見る者をぞっとさせる、黒と赤の混淆に染まった悪魔の瞳。
「はい、マスター」
「いい子にしてた? 今日も私の魔力を授けてあげる」
うなずいた彼女の顎をなまめかしく、ついと上げるとルルーリアは彼女の唇に己の唇を重ねる。そのままこじ開け、彼女の口の中へ舌を入れて荒々しくかき回した。涎がいやらしく零れ落ちる。
ラードゥーと呼ばれた魔人形は、うっとりとした表情でされるがまま、自分の口腔を凌辱するルルーリアに身を任せていた。
息を潜めるようにしてルルーリアはささやく。
「もうすぐ貴女をこの世界に放ってあげる……この世界に貴女は闇の帝国を築くの。私とレディル様以外の世界なんて何もかも滅びてしまえばいい……」
「はい、マスター。仰せのままに」
「いい子ね。さあ、いらっしゃい……」
情の欠片もなく、小国を併呑しようとする強欲の帝国。滅びから救おうとする己の手を拒絶し背を向けた愛しい少年……何一つ意のままにならない現実から逃れるように、彼女は不思議な微笑を浮べて呪文を唱えた。
「我が心に闇を見出すとき、闇もまた我を望む……闇よ、目覚めよと呼ぶ声に今ぞ応えよ。さあ、ここへ。我がしもべのもとへ……」
それは「禁呪」と呼ばれる魔法だった。性の喜びを満たすことで闇を操る禁忌の魔術。
彼女はひそかに己のしもべとして創った魔法人形に闇の魔力を授け、何ごとかを画策していたのだった。それを知る者はまだ誰もいない。
ウィスタリア・パープルの豪華なドレスがゆっくり床になだれ落ちる。その下には白い下着に包まれた青白い見事な肢体が妖しくこぼれていた。
抑揚もなく絡みついた魔法人形をソファ-ベッドの上で組み敷くと、ルルーリアは淫らな笑みを浮かべる。
「いい子ね……」
脳裏に、あの小癪な魔法少女と笑顔で踊る少年の姿が思い浮かぶ。愛されない切なさに身体の奥が締め付けられるように疼いた。
自分が愛されないなんて絶対間違っている。レディル様はたぶらかされているのだ。
この娘を使って何とかしなければ。
彼と踊るのにふさわしい相手は自分しかいないのに。彼に愛される資格があるのは自分だけのはずなのに。
「私だけ……私こそが彼に愛されるはずなの……あんな娘なんかじゃない。ロクな魔法も使えそうにないあんなドブネズミなんかに。きっと目を覚まして、この私のすべてを受け入れて下さる。私を愛してくださるはず……そうよ、あの女じゃなくて、私なのよ。レディル様に相応しいのは私だけなの」
あの女は女に生まれたことを後悔するくらいに嬲って嬲って嬲り殺しにしてやる……ルルーリアは悪魔のような凄惨な笑みを浮かべた。
「ふふっ」
それでも、どうしても愛して下さらないのなら、いっそレディル様もあの小娘ともども縊り殺して……
彼女は虚ろな魔法人形の瞳に向こうに広がる闇が、自分の浅ましい憎悪を嗤ったように思えた。
それを振り払うように、ルルーリアはもう一度人形に向かってささやいた。
「いい子ね……」
☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆
「いい子だからお帰り下さい……だと? どういうこったぁ!」
リードケネス首都クレンメルタの郊外に「魔法協会」の本部はあった。
大きいが、古びた瀟洒な建物。如何にも魔法使いを統括する組織の本拠地という佇まいだった。
開かれた門の内側にあるポーチにはそれぞれ異なる国から登録の申請に来た数人の少女がいて、担当の魔女から建物の中へ案内されようとしている。
声を荒げて噛みついたのは、彼等の中から一人だけ摘まみ出されようとしている小さな魔法人形だった。
「あたいだけ受け付けられないって何でだよ!」
将軍達の表情が硬くなり、外交関係の閣僚はぎょっとして彼女を見た。
高位の魔法少女ともなれば、その魔法によって如何なる国の深部も知り得るのだ。ズワルト・コッホの諜報機関ですら到底及ばない。そうと知ってはいても、彼等は驚かざるを得なかった。
「だから何だというのだ。今さら何を策動しようと取るに足らんわ」
「それは重畳。しかし、自ら孤立して諸外国すべてを敵に回すようになったとしたら、強大なズワルト・コッホ帝国といえどどこまで楽しい未来図が描けますかしら?」
「……」
強がった将軍が鼻白むと、ルルーリアは髪をかき上げて一同を見回した。
「レストリアが併合された時どう統治されるか、諸外国は固唾を飲んで見守ることでしょう。未来の自分達もそうなるかも知れないはずですから」
「……」
「そこで……です。ここで陛下がレストリア国民へ寛容な政策をお見せしたとすればどうなると思いますか? 彼等に『いずれレストリア王政よりも豊かで安全な生活を与える』と。単純なレストリア人はすぐ懐柔されるでしょう。所詮は下賤な民ですもの」
「確かに服従させやすくはなるな」
一人の閣僚が頷くとルルーリアは悪魔のような笑みを浮かべた。
「彼らは『働けば豊かになる』と告げられ、そう信じて精を出す。でもその約束が果たされることは永遠にない。ふふふ……下手に鞭打つより手懐けて搾り取るのです。僭越ながら王族の処遇についても良い方法がございます。根絶やしにせず、一人だけ残して権力を持たない傀儡とするのです。あたかもレストリアがまだ形を残しているように」
「なるほど、不満が出てもその傀儡に向けるよう仕向けれられるし都合がいいな」
「傀儡には年少で、親しむ国民も多いと云われるルーベンスディルファー殿下がふさわしいでしょう。よろしければ私が彼を篭絡し、恭順させてご覧にいれますわ」
力で従属させるより狡猾に欺いて搾取するという提言は、レストリアを見下すズワルト・コッホ人には魅力的だった。賛同した何人かがルルーリアへ素晴らしい案だとばかりに頷きかける。
「寛大な政策だと列強諸国へ見せかけながら内実はレストリア人を隷奴とする。そうとは知らぬ諸外国は思うでしょう。強大なズワルト・コッホが寛容なら、どこかで融和出来るのでは? と。後は彼等が持ち掛ける内容次第。如何でしょう、陛下」
ルルーリアが恭しく片膝を突き裁可を仰ぐと、他の人々も一斉にひざまずいた。
「……余には母親がいた。幼くして死別したがな」
ややあって、老いた皇帝の口から洩れたのは全く関係なさそうな述懐だった。
「甘い菓子、歌、新しい言葉……形あるもの、ないもの、あらゆるものを余に与えてくれた。余を騙さなかったのは母親だけだった。余が信じられたのも母親だけだった」
幼少の思い出話を訥々と話す老人に誰も口を挟めない。水を差して逆鱗に触れればどうなるか恐ろしくて、誰もが口を噤んでいる。皇帝が耄碌したなどと思った者は誰もいなかった。
「ある時、幼かった余はいつも与えるばかりの母が不憫に思えて泣いた。すると母は笑って言った。もらうばかりが人の幸せではない、自分にとって与えることそのものが幸せなのだと。与える者はより豊かになれると。余は嬉しかった。自分がいつか玉座に就いた時、同じことをしたいと幼いながらに思った」
場は水を打ったように静まり返っている。
「余は即位して以来、様々なものを臣民へ与えたつもりでいた。税こそ課したが外敵に脅かされぬ安心も民に約し果たした。だが宮廷ではどうだ? 誰もが与えられるものに飽き足らず、隙あらば余から何かを奪おうとするばかり。権力、財産、信頼、果ては生命まで。ふふふ……余の玉座が欲しい者もこの場にまだおろうな」
笑いを含んだ声に人々は震え上がった。うっかり「ごくり」と喉を鳴らした大臣は、皇帝の視線を受け、震えながら額を床につけた。
「ニコラはレストリアの国益の一部を担保に共栄をと訴えたが……所詮は偽りであろう。情けも希望も無用だ。欺くのも好かぬ。与えても謀られるばかりに余はもう飽いた……」
人々が言葉もなく戦慄する中、ジーグラーは静かに立ち上がった。近習すら信用しない彼は、己の力で杖に縋ってゆっくりと退出してゆく。
後に残った者達は平伏したまま、足音がしなくなるまで顔を上げられなかった。
聖断は下った。
レストリア人には生命以外の全てを搾取される運命しかなく、王族の血統は絶たれる。
(そう……じゃあ私の道もこれで)
口には出さず、ルルーリアは心の中でつぶやいた。
会議が終わり、広間を退出すると青ざめた顔で居室へと戻る。不審に思う者は誰もいなかった。退出した他の将軍や閣僚達の誰もが同じような顔をしていたのだから。
だがルルーリアのそれは、老帝の酷薄さに恐れおののいたばかりではなかった。
レディルを救う一筋の可能性を……密かにそう考えた献策を一蹴され、心を決めたのである。この国の冷酷さを知り尽くしていたルルーリアは、既にこうなることも覚悟していた。
そして、その時のための準備もおさおさ怠ってはいなかった。
「いいでしょう、ズワルト・ゼルトバッハ・ジーグラー。貴方がそのつもりなら、私にも考えがありましてよ」
豪華にしつらえたこの部屋を探る気配がないことを確かめると彼女は呪文を唱えた。
すると、隠された闇の空間が瘴気を放ちながら開く。それはルルーリアの秘密の隠し部屋だった。
そこに、一体の魔法人形が鎮座していた。
身の丈は幼女くらいだが、冷たく妖しい美しさを纏った少女だった。長い睫毛、艶やかに光る銀の髪。真っ赤なドレスに身を包み、豪華なソファーベッドに身を沈めている彼女は、眠っているようにも見えたが……
「ゾア・ラードゥー」
呼びかけると、物憂げな瞳がすっと開いた。
見る者をぞっとさせる、黒と赤の混淆に染まった悪魔の瞳。
「はい、マスター」
「いい子にしてた? 今日も私の魔力を授けてあげる」
うなずいた彼女の顎をなまめかしく、ついと上げるとルルーリアは彼女の唇に己の唇を重ねる。そのままこじ開け、彼女の口の中へ舌を入れて荒々しくかき回した。涎がいやらしく零れ落ちる。
ラードゥーと呼ばれた魔人形は、うっとりとした表情でされるがまま、自分の口腔を凌辱するルルーリアに身を任せていた。
息を潜めるようにしてルルーリアはささやく。
「もうすぐ貴女をこの世界に放ってあげる……この世界に貴女は闇の帝国を築くの。私とレディル様以外の世界なんて何もかも滅びてしまえばいい……」
「はい、マスター。仰せのままに」
「いい子ね。さあ、いらっしゃい……」
情の欠片もなく、小国を併呑しようとする強欲の帝国。滅びから救おうとする己の手を拒絶し背を向けた愛しい少年……何一つ意のままにならない現実から逃れるように、彼女は不思議な微笑を浮べて呪文を唱えた。
「我が心に闇を見出すとき、闇もまた我を望む……闇よ、目覚めよと呼ぶ声に今ぞ応えよ。さあ、ここへ。我がしもべのもとへ……」
それは「禁呪」と呼ばれる魔法だった。性の喜びを満たすことで闇を操る禁忌の魔術。
彼女はひそかに己のしもべとして創った魔法人形に闇の魔力を授け、何ごとかを画策していたのだった。それを知る者はまだ誰もいない。
ウィスタリア・パープルの豪華なドレスがゆっくり床になだれ落ちる。その下には白い下着に包まれた青白い見事な肢体が妖しくこぼれていた。
抑揚もなく絡みついた魔法人形をソファ-ベッドの上で組み敷くと、ルルーリアは淫らな笑みを浮かべる。
「いい子ね……」
脳裏に、あの小癪な魔法少女と笑顔で踊る少年の姿が思い浮かぶ。愛されない切なさに身体の奥が締め付けられるように疼いた。
自分が愛されないなんて絶対間違っている。レディル様はたぶらかされているのだ。
この娘を使って何とかしなければ。
彼と踊るのにふさわしい相手は自分しかいないのに。彼に愛される資格があるのは自分だけのはずなのに。
「私だけ……私こそが彼に愛されるはずなの……あんな娘なんかじゃない。ロクな魔法も使えそうにないあんなドブネズミなんかに。きっと目を覚まして、この私のすべてを受け入れて下さる。私を愛してくださるはず……そうよ、あの女じゃなくて、私なのよ。レディル様に相応しいのは私だけなの」
あの女は女に生まれたことを後悔するくらいに嬲って嬲って嬲り殺しにしてやる……ルルーリアは悪魔のような凄惨な笑みを浮かべた。
「ふふっ」
それでも、どうしても愛して下さらないのなら、いっそレディル様もあの小娘ともども縊り殺して……
彼女は虚ろな魔法人形の瞳に向こうに広がる闇が、自分の浅ましい憎悪を嗤ったように思えた。
それを振り払うように、ルルーリアはもう一度人形に向かってささやいた。
「いい子ね……」
☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆
「いい子だからお帰り下さい……だと? どういうこったぁ!」
リードケネス首都クレンメルタの郊外に「魔法協会」の本部はあった。
大きいが、古びた瀟洒な建物。如何にも魔法使いを統括する組織の本拠地という佇まいだった。
開かれた門の内側にあるポーチにはそれぞれ異なる国から登録の申請に来た数人の少女がいて、担当の魔女から建物の中へ案内されようとしている。
声を荒げて噛みついたのは、彼等の中から一人だけ摘まみ出されようとしている小さな魔法人形だった。
「あたいだけ受け付けられないって何でだよ!」
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