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第4話 見えない明日
08 希望なき旅立ち
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魔物達がティーガーと共に小さな泉の畔へと戻って休息した、その翌日。
陽は既に中天にかかり、気持ちの良い風が吹いているが、森の中で憩う魔族達を重く暗い沈黙が覆っていた。
誰もがうずくまり押し黙ったまま、暗い想念に囚われた視線を虚空に彷徨わせている。たまに視線が合えば、慌てて互いに目を逸らした。
彼らの間に諍いが起こった訳ではなく、チート勇者が追撃の手を伸ばして来た訳でもない。
捕らわれた仲間を救出した歓喜とアリスティアの戴冠式の興奮が去って、そしてこれからどうするのか……先の見えない不安が彼等の中に広がっていたのである。
だが、誰もがそれを口に出そうとはしない。言葉にしても答えられる者がいないことを皆、知っていた。
彼等のその不安を何よりも敏感に感じ取って苦悩しているのは、他ならぬアリスティアだった。
今までは逃げ隠れして、とにかく生きるだけで精一杯だった。
チート勇者は撃退されたといっても逃げた者もいる。安心して生きる日々が訪れた訳ではないのだ。「仲間を連れて戻ってくる」と言ったのは負け惜しみかも知れないが、本当に連れてくるのかも知れない。
それに、他のチート勇者もこれからもこの世界のどこかにまた転生して現れるだろう。自分達を滅ぼすために。
戦って敵う相手ではない。
だが、自分達はもう平和を脅かす存在ではないと言って認めてくれる相手ではない。聞くことさえ、してくれないのだ。
(……これからどうしたらいいの?)
魔族を率いる王姫として出来ることはないのか……為せることはないのか。
彼女は瞳を閉じ、心中の憂いを隠して思いを巡らせている。
少年も押し黙った魔物達の陰鬱な様子に気がついてはいたが、黙ったままのアリスティアの様子から自分が口を挟むべきではないと悟り、同じように沈黙を保っていた。
(アリスティア。今はわからないでしょうけれど覚えておきなさい)
(王位を受け継いだ時、貴女はどんな激しい嵐の夜も消えない「希望」を一族の心の中に灯し続けねばならないのです)
幼かった頃、子守唄と共に母の胸で聞かされた言葉をアリスティアは思い出した。
だが、毎日を怯えて生きる魔族達をどこへ導けばいいのだろう? 安全な場所など、この世界のどこにもないのに。
しかしそれを彼等に告げてしまったら、そこにはもう「絶望」という闇しか残らないのだ。
「みんな、いますか?」
ようやく、何ごとかを決心したアリスティアは静かに立ち上がると呼びかけた。
「はい。姫様の臣下はみな、ここに」
メデューサ婆が応える。魔物達はアリスティアが話し始めたのを聞いて、みな思わず立ち上がった。
これから先のことを指し示してくれるのは彼女しかいない。彼等はずっと待ち続けていたのである。
不安と期待の入り混じった眼差し……と云うよりも、縋るような、祈るような眼差しで彼等はアリスティアを見つめている。
だが、応えるべき希望はどこにもない。
だから……
――みんなが生きる為の希望を。明日への希望を繋ぐために、私は……
アリスティアは精一杯の笑顔を作って「では、これから……」と魔族達に告げた。
「西へ行きましょう」
「西へ?」
自分が大きな背信を犯しているのだと気づかれぬよう、アリスティアは精一杯演技した。
「ええ、亡き魔王様、私のお父様から聞いていたのです。西に楽園があると。どんな邪悪な力も及ばない安住の地が西の果てにある。災害や戦乱でこの地を追われることがあったなら西を目指せと」
笑顔で告げた言葉。
それは、アリスティアが創った「嘘」という名の希望だった。
魔族達は一様に顔を輝かせた。
「本当ですか! そんな楽園が……!」
「ええ、今まで囚われていた皆を助ける為にここから離れられなかった。だけど、ようやくこうして集まったのです。これで西へ行けます」
「おお!」
「西へ! 西へ行けばきっと……」
アリスティアはうなずいた。
まるで油でも飲んだような気持ちだった。胸の中に己を恥じる冷たいものが広がってゆく。悲しみで、心の中はいっぱいだった。
アリスティアは、罪悪感に歪んだ顔を見られまいと前髪で隠した。
「西という以外はその……何もわからないの。ごめんなさい」
「……いいんですよ、そんなこと。西にさえ行けばいずれどこかに見つかるでしょう」
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
(違うの、本当は何もかも嘘なの)
(きっと、どこへ行っても私達には、もう……)
アリスティアは肩を震わせ、とうとう泣き出してしまった。
メデューサ婆は「大丈夫、大丈夫ですよ、姫様」とアリスティアの肩を抱き、少年も心配そうに彼女に寄り添った。
だがその優しさも今の彼女には辛く苦しかった。
一匹のゴブリンの子が泣きじゃくるアリスティアのドレスに取りついて、懸命に元気づける。
「そこまでどんなに遠くても僕、絶対へこたれないで歩くから! 泣かないで姫様」
魔物達はその言葉に口々に同調した。
「そうですよ。今までも助け合ってここまでこれたんだ。きっと何とかなる!」
「アリスティア様、一緒に参りましょう!」
「西へ行きましょう!」
「どこまでも、お供いたします!」
彼女が嘘で紡いだ小さな希望。
それを胸に灯した魔族達が笑顔で頷きあう。
皆が、自分達に明日があると信じているのだ。
これからの厳しい道のりの先にあるという希望、本当はどこにもない未来を。
身を切られるように苦しく、気が狂いそうなくらい辛かった。
それでもアリスティアはそれをこらえると、ドレスの袖で涙を拭いて「ありがとう、みんな……」と、魔族達へ健気に微笑みかけた。
精一杯の、今にも崩れそうな笑顔で。
「さぁ、旅の準備だ」
「すぐにここを移動だ。チート勇者のいるこの地から少しでも早く遠ざかろう」
「慌てるな。でも急げ!」
魔物達は立ち上がり、声を掛け合って協力し、旅支度を始めた。
支度……と、いっても彼等のほとんどが着の身着のままである。身に着けているものは僅かしかなく、出来ることと言ったら道中に備えて食べ物を集めたり、足を痛めぬように藁や蔓で足袋を作って足拵えをするくらいだった。
それでも彼等の表情は明るい。
所在なげに立ち尽くし、ぼんやりと見守っていた少年へドルイド爺がそっと声を掛けた。
「テツオもその……わしらと一緒に来てくれるかね?」
「うん、もちろんだよ!」
少年は声を掛けられたのがとても嬉しそうだった。照れくさそうに笑うと彼は頭の後ろを掻いた。
「僕もついてってもいいのかな? って実はちょっと心配だったんだ。あはは……」
少年の周囲にいた魔物達は、それを聞いて思わず笑いだした。
「そんな水臭いことを! 一緒に来てくれよ」
「アンタとあの神獣が一緒に来てくれるならこんなに心強いことはないよ!」
「ぜひ私らと一緒に来ておくれ」
「そ、そっか。ありがとう」
少年は「ティーガーには交代で皆を乗せよう」と申し出た。乗り心地は最悪だが、歩き疲れた者の足を休めるくらいの役になら立つだろうというのだ。
無論、魔物達に異を唱える者などいるはずがない。
「道中よろしくな、テツオ」
「うん、よろしく」
ドワーフから親しげに肩を叩かれた少年は頬を紅潮させ、「じゃあ、旅の前にしっかり点検しておかないと」と、張り切ってティーガーへ取り付いた。
キャタピラのジョイントをハンマーで叩いて緩みを調べ、砲尾のレバーの具合を検める。エンジンの伝動系統までは分からないので多分大丈夫だろうと信じるしかなかった。この鋼鉄の王虎のことを彼はすべて知っている訳ではないのだ。それでも書物で知り得た知識の範囲で出来る限り見て回った。
だが、あれだけの戦闘で激しく動き回ったにも関わらずキャタピラは緩んでいる様子はない。燃料計の目盛りに至っては少しも減っていなかった。
満タンで百キロも走らないほど燃料を大食いすると聞いていたのに……と、少年は不思議そうに首を傾げるしかなかった。
一方、少年とティーガーを仲間として迎え入れた魔物達は、付近の木々から果物を採取して袋に詰め、竹に似た木を切って水筒代わりに泉から水を汲む。
虜囚だった身でまだ体力の回復していない者や足弱の子供はティーガーの車体の上に出来る限り乗せられた。
巨大な戦車とはいえ全員を乗せるのはさすがに無理で、歩ける者は歩き、足を痛めた者や疲れた者は交代してティーガーに乗ることになった。
少年は魔物を一人でも多く載せられるよう、自分は歩くことにした。
やがて魔物達はティーガーの後ろに隊列を整え、アリスティアの合図を待った。
「西へ……」
アリスティアはためらうように震える指を西へ向け、ささやいた。
同時に、少年が高々と上げた右手を「戦車前へ!」と、振り下ろす。
ティーガーは「ゴウンッ――」と、鉄のキャタピラを軋ませ、動き始めた。
巨大な起動輪がキャタピラの一枚一枚を確かめるように噛み締め、人が歩く程の低速で鋼鉄の王虎は進み始める。
魔物達はその後ろに続くようにして長い道のりを歩き出した。
苦難に満ちた旅の始まり。
アリスティアはティーガーの上で揺られながらその小さな胸を痛め、心の中で涙を流していた。
(本当はどこにも希望はないって皆が知った時、この旅は終わる)
(でも嘘の希望をみんなが信じてくれる今だけは……)
彼女は前髪を直す振りをして、そっと涙を拭いた。
この旅路の最後に魔族達は絶望を知るだろう。
自分は、それまでの「偽りの希望」を与えたにしか過ぎないのだと彼女は思っていた。
そう、そのときは……
陽は既に中天にかかり、気持ちの良い風が吹いているが、森の中で憩う魔族達を重く暗い沈黙が覆っていた。
誰もがうずくまり押し黙ったまま、暗い想念に囚われた視線を虚空に彷徨わせている。たまに視線が合えば、慌てて互いに目を逸らした。
彼らの間に諍いが起こった訳ではなく、チート勇者が追撃の手を伸ばして来た訳でもない。
捕らわれた仲間を救出した歓喜とアリスティアの戴冠式の興奮が去って、そしてこれからどうするのか……先の見えない不安が彼等の中に広がっていたのである。
だが、誰もがそれを口に出そうとはしない。言葉にしても答えられる者がいないことを皆、知っていた。
彼等のその不安を何よりも敏感に感じ取って苦悩しているのは、他ならぬアリスティアだった。
今までは逃げ隠れして、とにかく生きるだけで精一杯だった。
チート勇者は撃退されたといっても逃げた者もいる。安心して生きる日々が訪れた訳ではないのだ。「仲間を連れて戻ってくる」と言ったのは負け惜しみかも知れないが、本当に連れてくるのかも知れない。
それに、他のチート勇者もこれからもこの世界のどこかにまた転生して現れるだろう。自分達を滅ぼすために。
戦って敵う相手ではない。
だが、自分達はもう平和を脅かす存在ではないと言って認めてくれる相手ではない。聞くことさえ、してくれないのだ。
(……これからどうしたらいいの?)
魔族を率いる王姫として出来ることはないのか……為せることはないのか。
彼女は瞳を閉じ、心中の憂いを隠して思いを巡らせている。
少年も押し黙った魔物達の陰鬱な様子に気がついてはいたが、黙ったままのアリスティアの様子から自分が口を挟むべきではないと悟り、同じように沈黙を保っていた。
(アリスティア。今はわからないでしょうけれど覚えておきなさい)
(王位を受け継いだ時、貴女はどんな激しい嵐の夜も消えない「希望」を一族の心の中に灯し続けねばならないのです)
幼かった頃、子守唄と共に母の胸で聞かされた言葉をアリスティアは思い出した。
だが、毎日を怯えて生きる魔族達をどこへ導けばいいのだろう? 安全な場所など、この世界のどこにもないのに。
しかしそれを彼等に告げてしまったら、そこにはもう「絶望」という闇しか残らないのだ。
「みんな、いますか?」
ようやく、何ごとかを決心したアリスティアは静かに立ち上がると呼びかけた。
「はい。姫様の臣下はみな、ここに」
メデューサ婆が応える。魔物達はアリスティアが話し始めたのを聞いて、みな思わず立ち上がった。
これから先のことを指し示してくれるのは彼女しかいない。彼等はずっと待ち続けていたのである。
不安と期待の入り混じった眼差し……と云うよりも、縋るような、祈るような眼差しで彼等はアリスティアを見つめている。
だが、応えるべき希望はどこにもない。
だから……
――みんなが生きる為の希望を。明日への希望を繋ぐために、私は……
アリスティアは精一杯の笑顔を作って「では、これから……」と魔族達に告げた。
「西へ行きましょう」
「西へ?」
自分が大きな背信を犯しているのだと気づかれぬよう、アリスティアは精一杯演技した。
「ええ、亡き魔王様、私のお父様から聞いていたのです。西に楽園があると。どんな邪悪な力も及ばない安住の地が西の果てにある。災害や戦乱でこの地を追われることがあったなら西を目指せと」
笑顔で告げた言葉。
それは、アリスティアが創った「嘘」という名の希望だった。
魔族達は一様に顔を輝かせた。
「本当ですか! そんな楽園が……!」
「ええ、今まで囚われていた皆を助ける為にここから離れられなかった。だけど、ようやくこうして集まったのです。これで西へ行けます」
「おお!」
「西へ! 西へ行けばきっと……」
アリスティアはうなずいた。
まるで油でも飲んだような気持ちだった。胸の中に己を恥じる冷たいものが広がってゆく。悲しみで、心の中はいっぱいだった。
アリスティアは、罪悪感に歪んだ顔を見られまいと前髪で隠した。
「西という以外はその……何もわからないの。ごめんなさい」
「……いいんですよ、そんなこと。西にさえ行けばいずれどこかに見つかるでしょう」
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
(違うの、本当は何もかも嘘なの)
(きっと、どこへ行っても私達には、もう……)
アリスティアは肩を震わせ、とうとう泣き出してしまった。
メデューサ婆は「大丈夫、大丈夫ですよ、姫様」とアリスティアの肩を抱き、少年も心配そうに彼女に寄り添った。
だがその優しさも今の彼女には辛く苦しかった。
一匹のゴブリンの子が泣きじゃくるアリスティアのドレスに取りついて、懸命に元気づける。
「そこまでどんなに遠くても僕、絶対へこたれないで歩くから! 泣かないで姫様」
魔物達はその言葉に口々に同調した。
「そうですよ。今までも助け合ってここまでこれたんだ。きっと何とかなる!」
「アリスティア様、一緒に参りましょう!」
「西へ行きましょう!」
「どこまでも、お供いたします!」
彼女が嘘で紡いだ小さな希望。
それを胸に灯した魔族達が笑顔で頷きあう。
皆が、自分達に明日があると信じているのだ。
これからの厳しい道のりの先にあるという希望、本当はどこにもない未来を。
身を切られるように苦しく、気が狂いそうなくらい辛かった。
それでもアリスティアはそれをこらえると、ドレスの袖で涙を拭いて「ありがとう、みんな……」と、魔族達へ健気に微笑みかけた。
精一杯の、今にも崩れそうな笑顔で。
「さぁ、旅の準備だ」
「すぐにここを移動だ。チート勇者のいるこの地から少しでも早く遠ざかろう」
「慌てるな。でも急げ!」
魔物達は立ち上がり、声を掛け合って協力し、旅支度を始めた。
支度……と、いっても彼等のほとんどが着の身着のままである。身に着けているものは僅かしかなく、出来ることと言ったら道中に備えて食べ物を集めたり、足を痛めぬように藁や蔓で足袋を作って足拵えをするくらいだった。
それでも彼等の表情は明るい。
所在なげに立ち尽くし、ぼんやりと見守っていた少年へドルイド爺がそっと声を掛けた。
「テツオもその……わしらと一緒に来てくれるかね?」
「うん、もちろんだよ!」
少年は声を掛けられたのがとても嬉しそうだった。照れくさそうに笑うと彼は頭の後ろを掻いた。
「僕もついてってもいいのかな? って実はちょっと心配だったんだ。あはは……」
少年の周囲にいた魔物達は、それを聞いて思わず笑いだした。
「そんな水臭いことを! 一緒に来てくれよ」
「アンタとあの神獣が一緒に来てくれるならこんなに心強いことはないよ!」
「ぜひ私らと一緒に来ておくれ」
「そ、そっか。ありがとう」
少年は「ティーガーには交代で皆を乗せよう」と申し出た。乗り心地は最悪だが、歩き疲れた者の足を休めるくらいの役になら立つだろうというのだ。
無論、魔物達に異を唱える者などいるはずがない。
「道中よろしくな、テツオ」
「うん、よろしく」
ドワーフから親しげに肩を叩かれた少年は頬を紅潮させ、「じゃあ、旅の前にしっかり点検しておかないと」と、張り切ってティーガーへ取り付いた。
キャタピラのジョイントをハンマーで叩いて緩みを調べ、砲尾のレバーの具合を検める。エンジンの伝動系統までは分からないので多分大丈夫だろうと信じるしかなかった。この鋼鉄の王虎のことを彼はすべて知っている訳ではないのだ。それでも書物で知り得た知識の範囲で出来る限り見て回った。
だが、あれだけの戦闘で激しく動き回ったにも関わらずキャタピラは緩んでいる様子はない。燃料計の目盛りに至っては少しも減っていなかった。
満タンで百キロも走らないほど燃料を大食いすると聞いていたのに……と、少年は不思議そうに首を傾げるしかなかった。
一方、少年とティーガーを仲間として迎え入れた魔物達は、付近の木々から果物を採取して袋に詰め、竹に似た木を切って水筒代わりに泉から水を汲む。
虜囚だった身でまだ体力の回復していない者や足弱の子供はティーガーの車体の上に出来る限り乗せられた。
巨大な戦車とはいえ全員を乗せるのはさすがに無理で、歩ける者は歩き、足を痛めた者や疲れた者は交代してティーガーに乗ることになった。
少年は魔物を一人でも多く載せられるよう、自分は歩くことにした。
やがて魔物達はティーガーの後ろに隊列を整え、アリスティアの合図を待った。
「西へ……」
アリスティアはためらうように震える指を西へ向け、ささやいた。
同時に、少年が高々と上げた右手を「戦車前へ!」と、振り下ろす。
ティーガーは「ゴウンッ――」と、鉄のキャタピラを軋ませ、動き始めた。
巨大な起動輪がキャタピラの一枚一枚を確かめるように噛み締め、人が歩く程の低速で鋼鉄の王虎は進み始める。
魔物達はその後ろに続くようにして長い道のりを歩き出した。
苦難に満ちた旅の始まり。
アリスティアはティーガーの上で揺られながらその小さな胸を痛め、心の中で涙を流していた。
(本当はどこにも希望はないって皆が知った時、この旅は終わる)
(でも嘘の希望をみんなが信じてくれる今だけは……)
彼女は前髪を直す振りをして、そっと涙を拭いた。
この旅路の最後に魔族達は絶望を知るだろう。
自分は、それまでの「偽りの希望」を与えたにしか過ぎないのだと彼女は思っていた。
そう、そのときは……
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