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イシカワ
しおりを挟む「お前、その武器もう買い換えたらどうなんだ?」
「……あー…」
ふと仲間に掛けられた言葉で、冒険者の青年【アンドリュー】は考えるように俯く
「いや、でもさァ?
気に入ってんだよなァ…コレ」
アンドリューは俯きながらも自身の腰に差した一振りのロングソードをチラリと見る
「気に入ってんのはわかってるヨ
お前が駆け出しの頃から苦楽を共にしてきた相方だろ?」
その言葉にアンドリューは深く頷く
「そう!そうなんだ
冒険者になるならって父ちゃんが半分金出してくれてサ
駆け出しの頃は振り回すのも一苦労だったけど、今じゃ半身も同然だヨ」
それを手放すのはちょっと、と渋るアンドリューに仲間の冒険者は苦笑いした
「おいおい、お前はもう駆け出しじゃねェ
立派な中堅なんだ
変な意地貫いてると痛い目見るゾ」
◆
「はぁ…」
あの後仲間と解散して、一人で街を散策してるアンドリューの顔は優れなかった
「…確かに、いつまでも初心者の武器じゃ戦えねェよなァ……」
ため息を吐きながら、自身の得物であるロングソードに目をやる
さすがに型に嵌めて作る大量生産品では無いものの
無名の鍛冶師が打った代物であり
初心者用にしてはよく切れるし耐久力もあるが中堅クラスだとキツい
しかも手入れは欠かさず行っているもののもう5年落ちだ
只の鉄のロングソードではもはや限界、と言った所だろうか
「…一応、新しい武器でも見繕うか…ぁ…?」
今のロングソードを手放す気は無いし、出来ればずっと使い続けたいが
それは難しい所、むしろペアを組んでしまってる以上
アンドリューの戦力は自分だけの物ではないのだ
「気は…重いよなぁ」
アンドリューは街に複数存在する鍛冶屋の一店舗目に入っていく
「いらっしゃい…」
一店舗目、アンドリューを迎えてくれたのはこれぞ鍛冶屋な店主だった
背が高く、ガタイがよく無愛想
「あ、すいません…今使ってる剣が技量に着いてこなくなっちゃって…
ロングソード系をみたいんですが」
「ロングソードか…」
無愛想な店主にアンドリューは自身のロングソードを見せながらそう言うと
店主は店の奥に潜っていった
(型抜きのロングソードは大体大銀貨4枚…俺の無印は大銀貨5枚だったな…
このくらいの価格が鉄製ロングソードの中の良品だ……
最良品もあることにはあるが金貨1枚位はするし
今さら鉄製は…でも強度や攻撃力が格段に上がるレアメタル系を使えば一気に値段は跳ね上がるしナ……)
新しい武器を買うのも良いのだが、意地の次に立ちはだかって来るのは金だ
勿論無いわけではない、これからの延びしろを考えて購入となるとやはりレアメタル製を狙いたいところ
なのだが…
(今の貯蓄が金貨5枚…
鋼製なら金貨2~3枚、ダマスカス鋼や黒曜鉄なら最低金貨5枚でも足りない…)
金貨や銀貨などの単位ではお金の額はわかりづらい為
中堅の冒険者の癖に貯蓄が金貨5枚なんて…と笑うことなかれ
この世界の通貨価値を日本円に直すと以下の通りである
・石貨=1円
・鉄貨=10円
・銅貨=100円
・大銅貨=1000円
・銀貨=1万円
・大銀貨=10万円
・金貨=100万円
・大金貨=1000万
・白金貨=1億円
・黒金貨=10億円
・赤金貨=100億円
この表を見て貰うと分かりやすいと思うが、なにかとお金を使ってしまう冒険家業で約500万相当の貯蓄はちょっと珍しい
しかもアンドリューは青年であり中堅の地位になったのもまだ最近だ
「うちは鉄と鋼のロングソードしかなかったな……」
いつの間にか戻ってきた店主に掛けられた言葉でアンドリューは落胆する
「そう、ですか……」
「王都でもないしな…こんな街でレアメタル製のを作っても売れないから作らない所も多い」
「すいません、お邪魔しました…」
店主の言葉に深くため息を吐くアンドリューはそう言ってトボトボと店から出ていく
◆
「結局全滅か…」
数時間後、街の全ての鍛冶屋を巡り尽くしたアンドリューは深く項垂れていた
途中の店でレアメタルを使ったロングソードもあることにはあった
しかしどれも将来性や桁が足りなかったのだ
「…やっぱ、もうしばらくはこのロングソードしかねェか……?」
軽くロングソードの柄を撫でながら、宛もなく街をふらついていくアンドリューは気づかない間に普段は入らない裏通りに入ってしまったのに気づいたのは迷子になってからだ
「……しまった、心境がブルーだからって変な冒険したせいで迷ったじゃねぇか…」
ため息どころかもはや泣き出したい気持ちを抑えてアンドリューは辺りの建物を見渡す
「…お?」
そんなとき一軒の建物が目に入った
「こんな所に…鍛冶屋……?」
目に入った建物は外観こそどんな店にも取れる白無地1色のコンクリートの壁で作られた建物
だがそこに掛けられた看板には『WTS【ISHIKAWA】FightFactory』の文字
「WTSは何の事だかわからねぇけど…
ファイトファクトリーって事は戦う道具か何かを作る工房って事だな……」
もはや最後の賭けとばかりに
アンドリューは工房の扉に手を掛け中へ入っていき______
強く後悔した
「…何もねぇ」
店主不在の店内には簡単に棚とショーケースが置いてあるが
どちらにも武器と思えるものは何一つ、いや何も置かれていないと言った方が正しいか
店であれば商品を乗せてる筈の棚やショーケースはもぬけの殻だ
「完璧に外した…
こりゃダメだ、武器なんて一つもねェし」
はぁ、と深いため息を吐きながらアンドリューは落胆する
「これじゃファイトファクトリーなんて名前負けも良いところだナ…
ただの空家じゃん……」
「悪かったなこの野郎」
「うわっ!?」
完全に自分一人しかいないと思って散々文句を垂れていたのだが
不意に後ろから掛けられた言葉に情けない声を出してしまうアンドリュー
「あ、アンタは…?」
「あぁ?表の看板見てきたんじゃねぇのか?
店主だヨ…ここのな」
アンドリューの後ろに立ってたのは若干白髪の混じった黒髪パーマのおっさんだった
年は三十後半辺りと言ったところか
「す、すいません…つい」
「…まぁ工房らしくねェのは自分でもわかってっから良いけどヨ」
そんな堅くなんなよ、と店主と言ったおっさんはアンドリューにプラプラと手を振りながら奥の工房に繋がる間に設置された台の横にある椅子へ座った
「あのぉ…」
懐から紙巻きタバコを取り出し始めたおっさんにアンドリューはおずおずと話し掛ける
「ここって工房何ですよね?
……どんな武器が置いてあるんですか?」
「あ?」
なんだ、知らねぇのかと言った感じに紙巻きタバコに火を着けて紫煙を吐き出す
「ここはWeaponTuningShop、文字通り客の武器を改造する所だ」
「武器を…改造……」
ウェポンチューニング、その言葉をアンドリューは聞いたことがあった
いや、恐らく冒険者で知らないものなどいないだろう
今から約15年以上前、武器をチューニングするウェポンチューニングショップと言うのが現れ
その性能やレアメタル製の武器と比べ比較的安価で仕上がる事からこぞって冒険者が金を落し、あらゆる工房があとを追うように真似をしていく
しかしその後新たな問題や、工房によってチューン度のバラツキ
またぼったくり等も横行し、気がつけばウェポンチューンと言うのは闇に葬り去られてしまっていた
(…だけど、ごく一部のチューンドウェポンは本物であったのも確かなんだ……)
確かにウェポンチューンと言うのは問題が多かった
しかしその問題の8割~9割は工房のモラルの問題なのだ
特に当時ウェポンチューニングの代表と言えたのはある二人のチューナー
その腕の良さから今でも伝説と語り継がれている
その二人のチューナーは片方が名を【コレサキ】もう一人が【イシカワ】と言った
二人のチューンした武器はそれはすさまじく
フルチューンしたものは鋼の剣ですら龍種の身体に傷を付ける事が出来たらしい
また数人しかいない冒険者最高位SSSランクの内
最強と謳われる冒険者の武器もウェポンチューニングを施した物だった筈だ
……それがコレサキ製、イシカワ製のどちらかは定かではないが
(…ん?……待てヨ…イシカワ?)
アンドリューの頬に冷たい汗がたらり…と流れた
ここの工房は確かWTS ISHIKAWAだった筈だ
「あの、すいません…店主さんってなんて名前なんですか?」
ドクン、と心臓の鼓動が早まるのが感じる
もし、もし目の前のおっさんが…
伝説のウェポンチューナーイシカワなら…
自分のロングソードを改造出来るなら……
思い出のつまったこの武器を買い換える事なく、むしろここから先ずっと使い続ける事ができるのでは?
「俺の名…か
イシカワってんだ、よろしくな」
寂れた工房のおっさん店主の言葉が
アンドリューの中でとても力強く反芻した
_____________________◆
あとがき
どうも皆さんお久しぶりです
初めての方は初めまして
拝啓の方が少し行き詰まっちゃったので
うーん…どうしようか、と悩んでいた所
自分のお友だちから連絡が入り
ある程度の原案を出すからアレンジして書いてみてくれないか?と言う話しになり今に至ります。
僕も友達もお互い車やバイクが好きなんですけど
車やバイクってカスタムやチューニングってあるじゃないですか?
でもそれを応用した武器のチューニングとかって聞いたことないよね?って話しになりまして
既存武器をちょこちょこ弄るのは色んなラノベで見たことありますが
1から手を入れてフルオリジナルのチューンド武器、なんてのはまず聞かないと思います
色んなラノベで、おっこれはチューニングか……?と思った描写もよく見るとカスタム止まり何ですよね
構造変えたりするわけでもないですし
ちなみにカスタムとチューニングって何が違うの?って思う方はカスタム=アレンジ、チューニング=改良と思ってください
このお話は基本拝啓で行き詰まった時の暇潰しに書くことにしています。
ですので更新はゆっくりの予定ですが……
更新頻度が多ければちくわは今拝啓が書けないんだ、スランプなんだと思ってください
全く未知のジャンルなので皆様が見て面白いと言える物なのかは何とも言えない作品ですが……
書いてて楽しいのでよしとしましょう
では長くなるといけないのでこれで……
_____________________◆
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