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vsレミラ=マリエナ

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_フォアーーンッ!

__プワァアアアアアッ!!


「も、もう始まってるぞ…!」

ギルドにいたレーサー達が試験サーキットに着いた頃には、ちょうどレミラが先頭で第一コーナーに二台が消えていく所で、その差は三車身程開いていたものの最初のブレーキングで辰起のシビックがレミラのアルカディアに一気に差を詰める

「す、すげぇ突っ込み…」

「キレてるよ…あのタツキって新人……」

コーナー侵入に置いて押す力が働き、ノーズをコーナーに向ける一次旋回とコーナーの立ち上がりが有利なレミラの愛機とフロントが引っ張る駆動特性上侵入は鈍いがコーナリングが速く、圧倒的に軽さとピークパワーが勝る辰起の愛機

「…!」

車重が重いアルカディアを操るレミラはきっちりと減速、対し軽さを生かしてギリギリまでブレーキを粘ってレミラに迫る辰起のシビックは第一コーナーの途中でアルカディアへアウトから並びかけた

「マジかよ!?」

「そこで行くのか!」

が、そこは敢えてアクセルを抜き、減速したシビックはアルカディアの後ろへ戻っていく

(…くそ、抜く気になればいつでも抜けるってこと?
バカにして…ッ!!)

一瞬頭に血が昇るレミラだったが、冷静になるために頭を振って気持ちを落ち着かせる

(随分と向こうのマシンは性能が…いや腕も良いわね…)

落ち着いてミラー越しに辰起のシビックを見てみれば、そんな思いが自然と沸いて、どんな動きにもついてくる足にどこまでも加速していきそうなエンジンフィール、そしてそれらを十二分に引き出す辰起の腕に素直に感嘆させられた

(ちょっと見るだけでも驚くくらいスムーズね…)

まるで操縦テクニックの完成形を見せられてるかのような光景に、少しの悔しさと走り好きとしての笑みが自然と零れる

「…楽しいわね」

とても、とても楽しく感じた
今日初めて会った筈なのに、自分を否定しないその雰囲気に…
レミラは不思議と楽しく感じてきていた

__バァンッ!バァンッ!!


気づけば最終コーナーを曲がりバックストレートへ、辰起は二回の空吹かしと同時にレミラのアルカディアに並び掛けると、少し挑発的にレミラへ視線を送る

(…ついてきな、アソボーゼ?レミラ…)

(…上等よ)

お互いの窓越しに見つめ合い辰起は顎を軽くしゃくり、しかし何故かそれだけで意味をわかってしまったレミラは頷いて応える

_フォアアアッ!
_ンバァアアッワァアアアアアッ!!

出だしの加速はほぼ互角、しかし辰起のシビックが徐々に前へ前へと出ていく


「な、なんつー音なんだよ!?」

「速ェエー!?あの新人!!」

3速に入れたのはお互い同時でホームストレートへ、既に2車身程の差が出来ており、徐々にだった差は3速全開で一気に開いてしまう

「ッ…!」

まるでこちらが止まっているかのように遠のいていくシビックのテール、追っても追っても離れていく

(まだ…諦めたくない!)

_プワァアアア…パンッ

ストレートを終え第一コーナーへ、100m近く開いてしまった差はシビックが減速したことにより一度は詰まる
だが、レミラが減速した頃にはマフラーから軽く火を噴きながらシビックは曲がっていってしまう。

(速い…!さっきはわからなかったけど…すごいコーナリングスピード…あんなの着いていけない)

ストレートですら開いていた差はコーナーでさらについてしまい、もはやシビックのテールランプはどこにもない

(…これ以上は無理…か)

わずか一周足らずでここまで差が開く、5周なんて走ってる途中で一周位差が着くかもしれない
抜かれた車にもう一度抜かれるなんてことがあったら立ち直れないかも知れない、そう思ったレミラは諦めて車をスローダウンさせる

口にはしないが、内に最速を掛けたレミラと辰起の対決は挑戦者であるレミラの戦意喪失という形で完走前に決着がついたのだった





「いやぁ凄い勝負だったな…」

「今回の新人はヤバいよなぁ~」

ギャラリーに来ていたレーサー達は口々にそう言いながら自分の車に乗り込み、蜘蛛の子を散らすように帰っていく

あとにコースに残ったのはボンネットを開けてエンジンの放熱をさせてる辰起と、愛機を眺めながら悔しそうに、それでいてどこかスッキリとした面持ちのレミラだけだった

「…ねぇ、アンタ…」

「…?」

不意にレミラは愛機を眺めたまま辰起へ声を掛けた、当の辰起は話し掛けられるとは思わなかったのか少し首をかしげ、レミラへ向く

「…随分と速いわね、車事態もそうだけど
アンタ自身相当上手いわよね、どうしたらそうなれるわけ?」

「…まぁこれでも昔は毎日のように山攻めてたからな
寝ても覚めても走る事ばっかで、速く走るためには例え夢の中で思いついたことでも飛び起きて実践しに行ったもんさ
大体10個案が浮かべば9個は使い物にならないがな」

「…え?」

圧倒的速さ故に、何か学べる物があるのではないかと垂直に聞いたレミラは辰起の言葉に唖然としてしまう
速さの為に生活を捨て車に全てをつぎ込んでいたと自負していたレミラであるが辰起はさらにその上なのだから

「…じゃあ、あの速さは努力の賜物…?」

「だろうね、多い日には一週間に10日走ってたから
死にかけた回数も両手の指じゃ収まんねぇぞ」

「…レベルが違うわね」

もはや速さに対する執着とも言えるべきその言葉に思わず乾いた笑いが出てしまう
それはあれほど次元が違うわけだ、おそらくお互いの車を交換しても勝てないだろうな、なんて事がレミラの頭に浮かんだ

「…まぁ、今回はどう見ても私の負けね
…負けたし、何か私に望むものがあれば何でも言ってちょうだいな」

小さく息を吐き、負けたのは事実な為
負けたときに何も決めてなかったのだが、もはやそれもどうでもよく
なるようになれとレミラはそう言った

何でも、聞く人が聞けばそれはレミラの地獄の始まりを意味するかも知れない
いやそれでも敗者に決定権はないと、どんなことになろうがレミラは構わないと思っていた

(最後に楽しいって思えて…よかったなぁ)

いつ以来だろうか、純粋に走ることを楽しいと思えたのは…
いつからか壁に当たって、楽しい筈だった走るということが辛くなってしまったのは…

(だから…いいかな)

例え辰起が悪い男で、結果二度と表に出れなくなってしまっても…後悔はなかった

「…んー…何でもか、じゃあ__」

なにかを考えながら口を開く辰起に、強気な癖に弱い心が少し怯える
それでもどんなことを望まれても抵抗はしない気でいた
それだけに…

「…んじゃ、後でうちに大銀貨5枚程持って来てくれ」

「…あれ?」

最悪を想定していたレミラは全く違う望みに気の抜けた声が漏れ出てしまった

「あれ?っじゃねーの、とにかく後で来いよ
これうちまでの地図な」

「えー…」

本当に現在地から自宅までの地図を簡単に書いて渡してくる辰起に
いや逆に自分が魅力ないだけかと思いつつも、男というのは獣しかいないという偏見とも言える考えを改めようと少しだけ思ったレミラだった



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