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揉め事
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「コースレコード樹立おめでとうございます、タツキさん」
ギルドに戻って早々、報酬を受け取りに受付へ赴いた辰起に笑顔でそう話掛けたのは初日に辰起担当だったあの受付嬢だった
「どうも、ってもまぁ…全開のタイムでも無いんで複雑ですけど」
「…え?」
それに軽く返す辰起であるが、まだまだ全開に遠い状態でのタイムだったため、内心ではあまり納得いっていないと語るも
その衝撃事実に受付嬢は顔をひきつらせた
(え?って…いやそりゃそうでしょ
足からギア比やら完全に峠仕様なんだからなぁ)
そしてそんな受付嬢の様子を見て内心辰起も苦笑いする、完全に峠仕様、つまり落ち葉や轍・対向車とすれ違う可能性まで考慮した上で充分なマージンを取った仕上げになってる
「直線はまだ良いっすけどね、足が山用なんでサーキットじゃバランス悪いんすわ、それら煮詰めたら7秒くらいタイム縮まると思うっすけど」
「な、7秒…」
遂に受付嬢は押し黙ったまま考え込んでしまう
「…あ、報酬お願いします」
「は、はい、少々お待ちください」
少ししてしびれを切らした辰起が急かすことによって思考の海から帰ってきた受付嬢は報酬を取りに受付の奥へ入っていった
「…とりあえず今回入った報酬でリフトくらい買うかな、あとシビックのオイル変えないと…」
受付嬢を見送った辰起は一人今後のやるべきことを呟く、整備には車を持ち上げるリフトが必要だしサーキットを一回でも全開で走ったらオイルの交換も必要だ
(タイヤはまだ持つのかな…出来れば次のアタックまでにA050のG/Sコンパウンドを用意しておきたいところだが…スリックタイヤはまだ辞めとこう、高すぎる)
車は買って終わりではないとは良く言ったもので、動かしたり維持するのにも金は消し飛ぶ
それでもライトウェイトスポーツたるシビックだからこそ、一発アタック数千円のオイル代や本気で走り込めば数日で消えてしまうフルセット八万(銀貨8枚)のセミスリックタイヤ代程度がもっぱらの出費だ
(他の車じゃ出来ない走り込みも軽くて各パーツが長持ちするシビックの特権だな…燃費も良い方だし)
__バンッ
ふとそんな思考の海に入りかけていた辰起の耳に、乱雑にギルドの扉を開ける音が入り込む
そちらに視線を向けてみると、長い赤髪の女性が不機嫌そうな顔でギルド内に視線を這わせていた
(…なんか感じ悪いな、関わらないようにしておこう)
そうと決まれば辰起の行動は早く、視界に映らないように全く自然な動作で受付脇の壁まで移動する
過去、大阪環状方面へ赴いたことのある辰起は幾多のトラブルに巻き込まれているため
不機嫌な相手に対し自分が極力絡まれない方法と言うものを熟知している
とにかく相手の視界に入り込むのは避けなければならない
がしかし現実と言うのは時に非常で、自分がどうしても避けられない面倒事というのはある
「__タツキってヤツどいつ?」
そう、例えばその不機嫌な相手が自分目当てのパターンとか…
◆
「……」
突如現れた不機嫌そうな女性の一言でギルド内は静まり返った、誰一人として口を開かず、静寂だけが支配するこのギルド内はまるで通夜状態と言っても過言ではないほどに
「いないのかしら?…他の子にギルドに向かったって教えてもらったからわざわざ来たってのに」
誰も何も言わないのを見ると女性はさらに不機嫌そうに顔を歪めた、今にもその辺の壁とか蹴り出しそうだ
「…宛が外れたわね…チッ」
遂には舌打ちまでして、もはや用無しと帰るべく踵を返す女性
その姿を見て辰起はホッと一息ついた
「タツキさ~ん!おまたせしました!」
「HolyShit…!」
が、タイミング悪くちょうど報酬を持って戻ってきた受付嬢が笑顔でタツキの元へ歩みを進めてきた
(空気読んでくれェ!)
心の中で抗議の声を上げながらそれでも相手の耳にさえ届いていなければ、と僅かな希望にすがる思いでギルドの入り口側、先程まで女性がいた場所に目を向ける
「へー…アンタが…」
…先程まで帰るために背を向けていた女性は今再びこちらを向いており、眼光だけで射殺せそうなまでに顔を歪めてこちらへ向かってくる
(…絡まれないようにするのはもう無理だな)
このあとどれ程の面倒事に巻き込まれるのか…と辰起は大きなため息を吐いた
◆
「アンタがタツキね?」
「レミラさん…」
辰起の近くまで来た女性は改めて、確認を取るかのようにそう話しかけて来た、そして受付嬢も女性に気づいたのか近づいてきた女性を見ると知り合いだったのか相手の物だと思われる名前を口にした
(レミラ…やっぱり知らねぇ名だよなぁ…)
そしてやはり名前に覚えがない、と辰起は思った
もはや何故絡まれているかわからない状態だ
「えと…なんか勘違いしてんじゃねぇか?
俺あんたに覚え全く無いんだけど?」
だから何か勘違いされて絡まれているのではないかと踏んだ辰起はレミラに対してそう言った
しかし何故だかレミラの表情は更に険しくなり、心なしか受付嬢まで眉間に手を当てて天を仰いでいる
「勘違い…?覚えがない…?
ずいぶんとアタシの事をバカにしてくれるよね」
ピクピクとこめかみを震わせてレミラはぶちギレ寸前待ったなしと言った感じだ、これはやらかしたかもと辰起が考え直すまでに時間は掛からなかった
「アタシはレミラ、レミラ=マエリナ
アンタが更新するまでずっと第一試験場のレコード保持者だったのよ」
「あ…」
そう言えば覚えがあったかもしれない、と辰起は苦笑いする、まさかレコードを塗り替えられたから殴り込み(ちょっと違うか?)に来るとは全くいつの時代の人間なのかと、がそんな辰起の思いとは斜め上の方向にこの女性は行く
「さぁ、ここまで言えばもう分かるでしょ?
アタシと最速の座をかけて勝負なさい!」
_______
あとがき
というわけで僕にしては珍しく早めの更新になっております。
そして新キャラ(?)のレミラちゃん登場、お気づきの方はいるかも知れませんが8話にレコード保持者としてしっかり出ております。
…しかし辰起くんとの間には埋めようのないタイム差があり、まぁどう健闘してくれるかが見ものでありこの物語のメインヒロインに…なるのかなぁ?
書き上がれば近日中に更新いたしますのでお楽しみに!
_______
ギルドに戻って早々、報酬を受け取りに受付へ赴いた辰起に笑顔でそう話掛けたのは初日に辰起担当だったあの受付嬢だった
「どうも、ってもまぁ…全開のタイムでも無いんで複雑ですけど」
「…え?」
それに軽く返す辰起であるが、まだまだ全開に遠い状態でのタイムだったため、内心ではあまり納得いっていないと語るも
その衝撃事実に受付嬢は顔をひきつらせた
(え?って…いやそりゃそうでしょ
足からギア比やら完全に峠仕様なんだからなぁ)
そしてそんな受付嬢の様子を見て内心辰起も苦笑いする、完全に峠仕様、つまり落ち葉や轍・対向車とすれ違う可能性まで考慮した上で充分なマージンを取った仕上げになってる
「直線はまだ良いっすけどね、足が山用なんでサーキットじゃバランス悪いんすわ、それら煮詰めたら7秒くらいタイム縮まると思うっすけど」
「な、7秒…」
遂に受付嬢は押し黙ったまま考え込んでしまう
「…あ、報酬お願いします」
「は、はい、少々お待ちください」
少ししてしびれを切らした辰起が急かすことによって思考の海から帰ってきた受付嬢は報酬を取りに受付の奥へ入っていった
「…とりあえず今回入った報酬でリフトくらい買うかな、あとシビックのオイル変えないと…」
受付嬢を見送った辰起は一人今後のやるべきことを呟く、整備には車を持ち上げるリフトが必要だしサーキットを一回でも全開で走ったらオイルの交換も必要だ
(タイヤはまだ持つのかな…出来れば次のアタックまでにA050のG/Sコンパウンドを用意しておきたいところだが…スリックタイヤはまだ辞めとこう、高すぎる)
車は買って終わりではないとは良く言ったもので、動かしたり維持するのにも金は消し飛ぶ
それでもライトウェイトスポーツたるシビックだからこそ、一発アタック数千円のオイル代や本気で走り込めば数日で消えてしまうフルセット八万(銀貨8枚)のセミスリックタイヤ代程度がもっぱらの出費だ
(他の車じゃ出来ない走り込みも軽くて各パーツが長持ちするシビックの特権だな…燃費も良い方だし)
__バンッ
ふとそんな思考の海に入りかけていた辰起の耳に、乱雑にギルドの扉を開ける音が入り込む
そちらに視線を向けてみると、長い赤髪の女性が不機嫌そうな顔でギルド内に視線を這わせていた
(…なんか感じ悪いな、関わらないようにしておこう)
そうと決まれば辰起の行動は早く、視界に映らないように全く自然な動作で受付脇の壁まで移動する
過去、大阪環状方面へ赴いたことのある辰起は幾多のトラブルに巻き込まれているため
不機嫌な相手に対し自分が極力絡まれない方法と言うものを熟知している
とにかく相手の視界に入り込むのは避けなければならない
がしかし現実と言うのは時に非常で、自分がどうしても避けられない面倒事というのはある
「__タツキってヤツどいつ?」
そう、例えばその不機嫌な相手が自分目当てのパターンとか…
◆
「……」
突如現れた不機嫌そうな女性の一言でギルド内は静まり返った、誰一人として口を開かず、静寂だけが支配するこのギルド内はまるで通夜状態と言っても過言ではないほどに
「いないのかしら?…他の子にギルドに向かったって教えてもらったからわざわざ来たってのに」
誰も何も言わないのを見ると女性はさらに不機嫌そうに顔を歪めた、今にもその辺の壁とか蹴り出しそうだ
「…宛が外れたわね…チッ」
遂には舌打ちまでして、もはや用無しと帰るべく踵を返す女性
その姿を見て辰起はホッと一息ついた
「タツキさ~ん!おまたせしました!」
「HolyShit…!」
が、タイミング悪くちょうど報酬を持って戻ってきた受付嬢が笑顔でタツキの元へ歩みを進めてきた
(空気読んでくれェ!)
心の中で抗議の声を上げながらそれでも相手の耳にさえ届いていなければ、と僅かな希望にすがる思いでギルドの入り口側、先程まで女性がいた場所に目を向ける
「へー…アンタが…」
…先程まで帰るために背を向けていた女性は今再びこちらを向いており、眼光だけで射殺せそうなまでに顔を歪めてこちらへ向かってくる
(…絡まれないようにするのはもう無理だな)
このあとどれ程の面倒事に巻き込まれるのか…と辰起は大きなため息を吐いた
◆
「アンタがタツキね?」
「レミラさん…」
辰起の近くまで来た女性は改めて、確認を取るかのようにそう話しかけて来た、そして受付嬢も女性に気づいたのか近づいてきた女性を見ると知り合いだったのか相手の物だと思われる名前を口にした
(レミラ…やっぱり知らねぇ名だよなぁ…)
そしてやはり名前に覚えがない、と辰起は思った
もはや何故絡まれているかわからない状態だ
「えと…なんか勘違いしてんじゃねぇか?
俺あんたに覚え全く無いんだけど?」
だから何か勘違いされて絡まれているのではないかと踏んだ辰起はレミラに対してそう言った
しかし何故だかレミラの表情は更に険しくなり、心なしか受付嬢まで眉間に手を当てて天を仰いでいる
「勘違い…?覚えがない…?
ずいぶんとアタシの事をバカにしてくれるよね」
ピクピクとこめかみを震わせてレミラはぶちギレ寸前待ったなしと言った感じだ、これはやらかしたかもと辰起が考え直すまでに時間は掛からなかった
「アタシはレミラ、レミラ=マエリナ
アンタが更新するまでずっと第一試験場のレコード保持者だったのよ」
「あ…」
そう言えば覚えがあったかもしれない、と辰起は苦笑いする、まさかレコードを塗り替えられたから殴り込み(ちょっと違うか?)に来るとは全くいつの時代の人間なのかと、がそんな辰起の思いとは斜め上の方向にこの女性は行く
「さぁ、ここまで言えばもう分かるでしょ?
アタシと最速の座をかけて勝負なさい!」
_______
あとがき
というわけで僕にしては珍しく早めの更新になっております。
そして新キャラ(?)のレミラちゃん登場、お気づきの方はいるかも知れませんが8話にレコード保持者としてしっかり出ております。
…しかし辰起くんとの間には埋めようのないタイム差があり、まぁどう健闘してくれるかが見ものでありこの物語のメインヒロインに…なるのかなぁ?
書き上がれば近日中に更新いたしますのでお楽しみに!
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