Another World Racer's ~異世界に愛車ごと転生したら全人類のほぼ全てが走り屋だった件~

ちくわ feat. 亜鳳

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コースレコード

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__プワァアアアアアッ!!

最終コーナーを立ち上がり、バックストレートに入る白いシビックをピット内の参加者はホームストレートの壁越しに見ていた

「速い…何なんだあれは!」

まるでカタパルトから打ち出された戦闘機が如く猛スピードで加速を続ける辰起のシビックに誰かが呟く
それはここにいる者達の総意でもある


アアアアアァァアァンッ___

バックストレートからホームストレートを抜け、二周目の第一コーナーへシビックは甲高いエキゾーストを響かせて消えていく

その姿を見届けた一同は現在進行形で辰起のタイムが書き起こされた掲示板を見て驚愕に目を染めた






プワァアアアアッ!!

「今日は一段と調子良さそうだな…」

車内に入り込む爆音と踊り狂うようなエンジンレスポンスに辰起は無意識の内に笑みを溢していた

ワァアアンッパンッ!!

迫るコーナーに辰起はそのままの速度で突っ込むとアクセルを半分戻しギアを下げる、ブレーキは踏まずエンブレのみ、マフラーから放出されるアフターファイアーが乾いた音を響かせた

ギュッとタイヤのグリップがハンドル越しに辰起に伝わる、アクセルはパーシャルのままだが徐々に後輪が慣性の法則にしたがって流れ始め、車体は不安定になる

「…」

そして徐々に車体の舵角が大きくなったのを見計らった辰起はそのままシビックのアクセルを踏み抜く
その瞬間、駆動軸の前二輪が後ろタイヤを引っ張り車体は元の直進姿勢に戻ろうとする

そのタイミングとコーナー出口が合うようにすれば無駄なく車速が立ち上がる

「…やっぱ楽しいな」

再度辰起の頬が綻ぶ、もちろんこの世には
それこそ辰起の元いた世界にはシビックより速い車はもうごまんとあった

(…例えばそう、スカイラインGT-R、あれほど化け安く、それでいて誰にも乗れる車もないよな)

当時走り全盛期の辰起がこのシビックに掛けた金は改造費だけで150万強位だ、それもパーツの取り付けにセッティング出しまで全て辰起一人で行ったから工賃は当然含まれておらず、またほぼほぼカーボンに変わってる外装等も自作だからこその価格だ
チューニング内容だけなら200万~250万程度を見積もれば作れるが、外装品やここまでのセッティングの詰めを店で頼もう物なら軽く1000万は飛ぶ、そしてそんな価格を掛けるなら、速く走りたいだけなら断然スカイラインGT-Rに金を掛けるのが返って得であると言えよう

4気筒1600ccテンロクより排気量の多い6気筒2600ccニーロクのが、NAターボなしよりTBターボありのが当然ではあるがチューニングの幅に余裕が持てる

何せノーマル170馬力でいっぱいいっぱいなシビックの心臓エンジン【B16-A】に対してノーマル280馬力で納めることが出来ず、実用可能馬力600オーバーのスカイラインGT-Rの心臓である【RB26DETT】とは雲泥の差がある

あくまでコンパクトカー派生のスポーツカーたるEG-6にはスカイラインGT-Rのようにレースで絶対に勝たなければならないという使命のもと生まれた経歴などない

遊びで済ます分には良いが、自分の生活を、ひいては人生をかけてのめり込む車ではない

金を掛けた分の結果を必ず返してくれる車では断じてない、普通の車好きからすればシビックはそんな車だ

だけど

(それでも俺は、シビックのファンなんだ…)

それでも辰起がシビックにこだわる理由は至極簡単なもので、自分がファン楽しいだからそしてなにより好きだからに他ならない

シビックより速い車は沢山あるし良い車も沢山ある、でも辰起にとってはシビックのが好きであり、それを唯一越すのがS30であっただけに過ぎない

(速さも良さも関係ない、やっぱ自分の命をのせて走るなら、自分の好きな車だろ!)

最終コーナーを全開のまま突っ込む、それを見ていた観客は一斉に息を飲む、明らかにオーバースピードだ

(コイツEG-6の癖は俺が一番知ってる、コイツEG-6の限界も俺が一番知ってる、だからコイツEG-6の良さを俺が一番生かせる)

一瞬強くサイドブレーキを引くと、強アンダーでコース外へ向かおうとしていたシビックのフロントは一気にコーナーへ向く、クラッチを踏み込み少しでも調節が誤れば失速するため慎重かつ丁寧に迅速に

ギアを4速3速と落としハーフアクセルのままパーシャル
車体は一気にバランスを崩しリアタイヤはブレークして滑り出す

ワァアアアアッ!!

その状態のままアクセルを強く踏む、緩く長い最終コーナーは高速域では魔物のような獰猛さで牙を向いているような錯覚を覚える

ドギャッ!

さらにもう一度サイドを引くと舵角はさらに大きく、俗にいうドリフト状態になり観客達を沸かせた
これは辰起なりのリップサービスというべきか、走ってる間ずっと視線を向けられていたがために何かやった方が良いだろうというサービス精神だ

ドリフト状態のままゼロカウンターでアクセル全開、はたから見ればバランスを崩して今にも回ってしまいそうな車体はコーナー終わりのタイミングで綺麗に元に修正され、何事もなかったかのようにコーナーを全開で立ち上がる






『た、ただいまの記録、【2分25秒168】…コースレコード更新です!!』

『うぉおおおおおお!!』

拡声器による辰起のタイムアタック結果、そしてそれに遅れて驚異的なそのタイムに辺りの観客は熱狂的な歓声を上げた

「カトリーナ、レミラさんに連絡だ」

「…わかってる」

そしてその観客の中から、ロックがカトリーナに指示を飛ばし、それをうけたカトリーナが自身の愛機に乗り込みテストコースを離れていく

「…これは大変なことになったぞ」

カトリーナがレミラへの報告へ向かったのを確認し、一人残ったロックは誰にともなくそう呟く

しかしその声はすぐに沸き立つ周りの声に掻き消されるのだった





______

あとがき

約二ヶ月ぶりの更新となります、先月は事前に報告した通り予定(免許合宿)があった為更新できませんでした。

さて、ここからいよいよ本格的に話を動かしていこうと思うのですが、なにぶん作者はお世辞にも頭が良いわけではありません。

この辰起の出した驚異的なタイムも実際にはありえないもので、多分プロの乗った最新型のショップデモカーくらいのタイムになってると思います。

なにせ度々お話に出てくるこのテストコースの全長は1.7㎞のハーフサーキット、それをタイムアタックの際に×2して3.4㎞にしています。
これの理由としては国内サーキットの岡山国際サーキット(全長3.7㎞)とほぼ同等になります、これにより岡山国際サーキットのコースレコードをベースに話が作れるのでは?と思ったのですが、前述した通りテストコース自体の全長は1.7㎞と非常に短いです。

そして岡山国際サーキットは全長が3.7㎞、300mの差はあるにしても長いストレートを持ってはいても狭いハーフサーキットと岡山国際サーキットのタイムを組み合わせ、どう違和感なく書けるか…と真剣に考え、とりあえずおかしいって指摘を受けたら直そうと2分25秒と言うタイムになりました。

うーん、やっぱり好きなだけじゃお話作るの難しいな…と感じた冬の午前中でございます。

______
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