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閑話 残された者達①

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ここは地球の日本にある某県某所の病院
そこのベッドに横になった男は頭に巻かれた包帯と骨折したのか布でつり上げられた左足が痛々しかった

「……」

男は無言で病室の窓から空を眺めていた
あの日、事故にあった辰起の友人
祐紀也は辰起が谷に落ちたと言う事実を知ったのち
ショックと患部の激痛により気を失いこの病院に運び込まれ
意識を取り戻したのはつい先程のことだった

警官を名乗る私服の男達数名の取り調べに相づちを打って返し
心ここにあらずといった感じであった為か既に警官は切り上げて病室に存在しなかった

「…ざけんなよ」

ふと、表情の宿っていなかった祐紀也の顔がくしゃりと歪み
掛け布団の上にだらりとかけていた彼の手が強く握りしめられた

___ゴッ

気づけば祐紀也は握りしめた手をすぐ真横の壁に強く叩きつけていた
相当な威力だったのか壁は拳大に窪み、手のひらからはだらりと血が流れ落ちていた

「クソが……」

痛みはジクジクと襲い来るが、彼はそんな拳には気にもとめずに空を睨んだ

『君のお友達の彼…紫苑さんの行方はいまだに掴めていない…
崖から落ちたのは間違いないが…捜索しても付近に飛び散ったパーツ以外の手がかりが掴めなかった』

先程来た警官の一人はそう言った
あれだけの事故だ、生きている筈がないのは信じたくは無いがわかってる
だが何故遺体も車も見つからない?

(そもそも本当に死んでいるのか?
もしかしたら今も谷底で苦しんでるかも知れない
いや見つからないからそれは無いのか?)  

纏まらない考えが思考を埋め尽くす
信じたくは無いが崖に落ちたなら生存は絶望
だが見つかってないなら希望も持てる
でもそもそも車も遺体も…手掛かりすら見つからないのはどういう事なんだ?

そして思考は、警官が最後に放った言葉に埋め尽くされる

『まるで神隠しにあったかのように…綺麗さっぱりなにもなかった』

「……」

わずかな希望が残ってるだけに
祐紀也の鼓動は張り裂けそうな程早く鳴っていた
死んでるのか生きているのか今はそれすらわからない
わからないけど、それが嬉しい反面辛くもある

そう思った時だ

__パァアアアアアッ!!

甲高いVTECのエキゾーストノートが祐紀也の病室に届いてきた
それはどんどんこちらへ近づいてくる

「あ…」

祐紀也は自身に当てられた病室から病院の門を眺めていると
そこに現れたのはチャンピオンシップホワイトとミラノレッドのテクニカカラーのEK9シビック、病院に用があるのか傍迷惑な爆音を奏で駐車場へ入ってきた

「…真希ちゃんか」

祐紀也はEK9のドライバーに心当たりがあった
そして降りてきたのは長い黒髪の小柄で顔の整った、自分のよく知る女性と自分とそっくり(周り曰く)な青年だった為に軽くため息を吐いた

彼女の名は三好みよし真希まき
それこそ小学から付き合いがあって幼馴染み兼辰起の親戚の妹だった
そしてもう一人の青年はそっくりという言葉でわかるかも知れないが祐紀也の弟であった




「真希ちゃんさぁ、見舞いに来てくれんのは嬉しいんだけど、俺怪我人だぜ?もうちょっと気ィ使ってくれよ」

「ごめん」

現在祐紀也の病室には三人の人がいた
一人はもちろん祐紀也、そして残りはお見舞いに来た治安の悪いEK9のオーナー真希と自分の弟

「兄貴もさ~勘弁してよなぁ
あの34、引きとんのにえれェ苦労したんだけど?
俺のじゃねぇのに警察には小言グチグチ言われるし」

「あー?言わせとけっつーの!」

軽口を叩きながら話すことは状況報告のような物だ
祐紀也は見舞品として真希から貰った果物を頬張りながら病院に直管の爆音シビックで来た真希を軽く咎め
真希を庇うように祐紀也の34GT-Rを取りに行った弟が愚痴るが祐紀也は何のそのとかわした

「そう言えば…お兄ぃは?」

「……」

だが、ふと真希の口から飛び出した言葉に
祐紀也は押し黙った

「……真希ちゃん、落ち着いて聞いてくれ…
アイツは…」

真希の言うとは辰起の事だった
仲のいい親戚同士で本当に幼い頃から一緒育った真希は辰起のことを本物の兄のように慕っているし
真希より少し年下の弟がいる辰起も、一緒にいた期間が長い分本物の妹のように溺愛していた
だから現実を突きつけるのは物凄く酷なのだろう
なぜなら現状はなんの手がかりも無しに辰起は消え去ってしまったのだから

「アイツは…警察が言うには行方不明になってるそうなんだ
あの高さの崖だから死んじまってる可能性もあるが、車も遺体も見つかってない…綺麗さっぱり手がかりが無いんだと…」

「そっ、かぁ…」

祐紀也の言葉に真希は軽くうつ向いてしまった物の
意外にも泣かずにその事実を受け止めていたようだ

「…意外だな、罵詈雑言と平手打ち数発くらい覚悟してたんだが…」

「そんなことしないよ…祐紀也くんが悪いってことはわかってるもん…
それに、いつか死ぬような事故が起きるかもしれないって覚悟はしてたから
生きてるかもしれない可能性が少しでもある分気は楽だよ」

どうやら自分の思っていた以上に、真希は成長していたようだ
それこそ昔は内気でずっと辰起の後ろに隠れてたし
なんなら軽く依存も入ってた記憶がある
いつの間にかか弱い見た目と裏腹に強い精神を持った女性になっていた

「強いな…真希ちゃんは…」

「ううん、少し強がってるよ…
でも…本当に辛いのは叔母さん達だから…」

そう、辰起は家族とも普通に仲がよかった
そして仲がよかった分余計に
辰起の家族も心配しているのは考えなくてもわかることだ

「…アイツの家…行った?」

「うん…叔母さんはずっと泣いてて
叔父さんは【こんな時だからこそ口渕を稼がなきゃならない】って悲しそうな顔で仕事に行ってる
ちゃんも目に隈作ってた…」

真希は自分の知ってる範囲で辰起家の状況を話した
ポッカリと抜けた紫苑という大切な家族の欠片はあまりにも大きかったようだ

「…そうか、…そうだよな」

「本当に…どこ行っちまったんだろうな…紫苑さん」

3人のいる病室は
沈黙に包まれ、その言葉に返すものは誰もいなかった







______________◆

あとがき

車を探すようになってから結構すらすらと文章が考え付くようになりました
お陰で結構最初の方のお話を弄ったりとかしましたので
更新遅くて暇だなと思ったら是非読み返してみてください

________________◆


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