4 / 17
受付嬢の葛藤
しおりを挟む
ある受付嬢の視点
その日は特に何かがあるわけでもなく
平和な時間が流れていた
他の受付の娘達も各々のスペースで忙しいわけでもなく
常連さん達の相手をするだけで業務が終わろうとしていた
そんな時だった
___バァアアアア…_ッ…____……
遠くの方からまるで獣の咆哮のような音が聞こえてきた
いや、正体はわかる
恐らく魔動車の排気音辺りか、ここまで大きいものとなるとハイパワーな物だろう
私は近くにいた部下の受付嬢に指示を飛ばす
「通り側の窓を開けといて頂戴!
めったに見られない貴族の魔動車が通るかも」
その言葉に部下の娘は急いで通りの窓を開ける
最近になってだんだんと新型車が出てくるようになってからはいつもこんな感じ
レーサーギルドとしては実際に走ってる新型車に対して興味はつきないところなのだ
___ゴォァアアア…ブオンッ!
目の前をゆっくりと制限速度を守り通過していったのは
今までで見たこともない流線フォルムの白いまるっこい車だった
でも見た瞬間にその車の、圧倒的なオーラのような物に気圧された
レース業界で長年培ってきた勘が
あのマシンの潜在戦闘力を教えてくれた
(あればどのギルドマスターのマシンより…恐らく多くの戦績をあげてきたのね)
恐らくパワー云々ではない
確かにあの車がハイパワーなのは代わり無い事なのだろうが
最新の魔動車は、特に王家の物になると最高速は200㎞オーバーにもなる
MaxSpeedは……たぶんトントン
故に
(あのマシンで感じたオーラは……
マシンのトータルバランスと乗り手の技量)
確信できるものは無いが
恐らくそうであろうと結論付けた
◆
しばらくしてレーサーギルドに一人の少年がやって来た
歳は……恐らく15程か?
童顔で多少整った顔をしてる
だが、注目べき点はそこではない
(……この子)
私は確信する
この子は数多のレースに打ち勝ってきたモンスターであると
普通の子と感じるオーラが全然違う
だが、少しおかしな事に少年はここに登録に来たようだ
(変ね……あの少年位のオーラがある子ならとっくに登録しててもおかしくない
……じゃあ今までは裏ストリートで生きてきたのかしら
何にしても、技量があるのなら……確りと見定めさせて貰いましょう)
しなくても良かったのだろうが
私は少年に試験レースをするように言う
勿論私の同行で
場所はギルドの保有するレース場、勿論近い
「……」
最初はあの若さなら自身の車は持っていないのでは?とも思ったが
登録書を見てみれば確りと保有していたようなので
行きは場所を教えるためにも同乗する
そのため少年の車の場所まで一緒に向かったのだが
(まさか…彼がさっきギルドを通った子だとは……
……さすがに思わなかったわね)
少年と共にギルドの駐車場まで来てみれば
彼の導く先にはついさっきギルドの前を通っていった白い魔動車が止まっていった
「……確か、シビックでしたっけ?」
ふと登録書に書かれていた名前を呟くと
少年は嬉しそうに笑う
間近で見てようやくある答えに行き着いたが
これはこの国の物では無い車だ
確かに魔動車なのだろうが、まず何処のメーカーもここまで見事なフレームを作れない
更に言えばHONDAなんてメーカー名は見たことも聞いたこともない
一瞬少年の自作かとも思ったが、彼のファミリーネームはタツキだ
ならホンダと言う誰かが作った事には間違いないだろう
それよりも……
「少し…見せていただいて宜しいですか?」
私は少年、タツキさんに車を詳しく見せてくれるよう要求した
◆
「……これは…」
タツキさんに詳しく車を見させて貰えば
さっきから驚きっぱなしだった
(モノコックは鉄製?
外装は見たこともない素材が使われてるわね……)
恐らく常人には手が出せない程手間と金のつぎ込まれたマシンとその完成度には感服させられる
「パワーは……どれ程出てるんですか?」
私の疑問に、タツキさんはボンネットを開いてエンジンを見せながら答えてくれる
「今は…排気量アップに…ポート研磨
戸田ハイカムとハイコンプ鍛造ピストン、エンジンバランス取りにROMの書き換え位かな
後はパワーチャンバーにストレートのEXマニホールドにサイドマフラーで……230ってところ」
エンジン内部を見せて貰いながら
その言葉を聞けば圧倒されそうになる
確か今年発表された王家レースカーの馬力が196馬力だったはず
つまりこのマシンはどのレースカーよりもパワーがあると言う事だ
軽量化も徹底してるようで内装は鉄板がむき出しになってる
……正直そこまで軽量化していてなぜ鉄パイプが車内に張り巡らされてるのか疑問だったが
車体のコンパクトさも考えれば
対した欠点にもならないのだろう
(しかし……わざわざ重くしてるとも考えにくいわね
……このパイプにも意味があるはず……)
疑問に思った私は張り巡らされてる鉄パイプについても聞いてみる
「このパイプは何なのですか?
……失礼ながら、タツキさんの車はとても完成度が高いと思います
ただ鉄を積んで重くしてるだけとも考えにくいのですが」
「パワーに対してボディの剛性が追い付かないんですよ
なので内部からバーで固めて剛性を上げてるんです、確かに重くもなりますが剛性がグンッと上がりますし
何より横転しても屋根がつぶれません」
タツキさんの言葉に私は言葉が出なくなった
そう、レース業界ではボディーの歪みは対敵だ
剛性アップは基本だが固くなりすぎても余計に壊れやすくなる
最近の技術としてはスポット増しか
しかし横転したときに屋根が潰れないのは大きい
実際それで何人かミンチになった人を見てきた
これは特許を取ってでもレーサーギルドで出すべき代物になる筈
「タツキさん……よろしければ試験の後でこちらの鉄パイプ……商品として出してみるつもりはありませんか?」
が、私の考えとは裏腹にタツキさんはしかめ面で考え込む
「んー……自分が発案って訳でもないので……」
なるほど…
タツキさんの言葉に合点が行くが
他国でも王家レースカーに使われてるのを見たことが無い私には
他の国でも重要視されてない物なのか?と言う考えが頭を過る
「……まぁ、商品に出すなら良いんじゃないですか?
自分の国では発案者以外の多数が同じように製品化してますし」
だが、思考に入った私の頭に
そんなタツキさんの声が響く
「良いんですかね?」
「良いんじゃないですか?」
思わず帰ってきた言葉に疑問文を疑問文で返さないでくれと思いつつ
それなら、と考える
(……なら、速攻で同じような物を作って
Tatuki-modelとして出してみましょうか……)
そうして受付嬢はロールケージに遮られた狭い助手席に座る
彼女がタツキとシビックのコンビに秘められた底力に脱帽するはめになるのはもう少しだけ先の話である
その日は特に何かがあるわけでもなく
平和な時間が流れていた
他の受付の娘達も各々のスペースで忙しいわけでもなく
常連さん達の相手をするだけで業務が終わろうとしていた
そんな時だった
___バァアアアア…_ッ…____……
遠くの方からまるで獣の咆哮のような音が聞こえてきた
いや、正体はわかる
恐らく魔動車の排気音辺りか、ここまで大きいものとなるとハイパワーな物だろう
私は近くにいた部下の受付嬢に指示を飛ばす
「通り側の窓を開けといて頂戴!
めったに見られない貴族の魔動車が通るかも」
その言葉に部下の娘は急いで通りの窓を開ける
最近になってだんだんと新型車が出てくるようになってからはいつもこんな感じ
レーサーギルドとしては実際に走ってる新型車に対して興味はつきないところなのだ
___ゴォァアアア…ブオンッ!
目の前をゆっくりと制限速度を守り通過していったのは
今までで見たこともない流線フォルムの白いまるっこい車だった
でも見た瞬間にその車の、圧倒的なオーラのような物に気圧された
レース業界で長年培ってきた勘が
あのマシンの潜在戦闘力を教えてくれた
(あればどのギルドマスターのマシンより…恐らく多くの戦績をあげてきたのね)
恐らくパワー云々ではない
確かにあの車がハイパワーなのは代わり無い事なのだろうが
最新の魔動車は、特に王家の物になると最高速は200㎞オーバーにもなる
MaxSpeedは……たぶんトントン
故に
(あのマシンで感じたオーラは……
マシンのトータルバランスと乗り手の技量)
確信できるものは無いが
恐らくそうであろうと結論付けた
◆
しばらくしてレーサーギルドに一人の少年がやって来た
歳は……恐らく15程か?
童顔で多少整った顔をしてる
だが、注目べき点はそこではない
(……この子)
私は確信する
この子は数多のレースに打ち勝ってきたモンスターであると
普通の子と感じるオーラが全然違う
だが、少しおかしな事に少年はここに登録に来たようだ
(変ね……あの少年位のオーラがある子ならとっくに登録しててもおかしくない
……じゃあ今までは裏ストリートで生きてきたのかしら
何にしても、技量があるのなら……確りと見定めさせて貰いましょう)
しなくても良かったのだろうが
私は少年に試験レースをするように言う
勿論私の同行で
場所はギルドの保有するレース場、勿論近い
「……」
最初はあの若さなら自身の車は持っていないのでは?とも思ったが
登録書を見てみれば確りと保有していたようなので
行きは場所を教えるためにも同乗する
そのため少年の車の場所まで一緒に向かったのだが
(まさか…彼がさっきギルドを通った子だとは……
……さすがに思わなかったわね)
少年と共にギルドの駐車場まで来てみれば
彼の導く先にはついさっきギルドの前を通っていった白い魔動車が止まっていった
「……確か、シビックでしたっけ?」
ふと登録書に書かれていた名前を呟くと
少年は嬉しそうに笑う
間近で見てようやくある答えに行き着いたが
これはこの国の物では無い車だ
確かに魔動車なのだろうが、まず何処のメーカーもここまで見事なフレームを作れない
更に言えばHONDAなんてメーカー名は見たことも聞いたこともない
一瞬少年の自作かとも思ったが、彼のファミリーネームはタツキだ
ならホンダと言う誰かが作った事には間違いないだろう
それよりも……
「少し…見せていただいて宜しいですか?」
私は少年、タツキさんに車を詳しく見せてくれるよう要求した
◆
「……これは…」
タツキさんに詳しく車を見させて貰えば
さっきから驚きっぱなしだった
(モノコックは鉄製?
外装は見たこともない素材が使われてるわね……)
恐らく常人には手が出せない程手間と金のつぎ込まれたマシンとその完成度には感服させられる
「パワーは……どれ程出てるんですか?」
私の疑問に、タツキさんはボンネットを開いてエンジンを見せながら答えてくれる
「今は…排気量アップに…ポート研磨
戸田ハイカムとハイコンプ鍛造ピストン、エンジンバランス取りにROMの書き換え位かな
後はパワーチャンバーにストレートのEXマニホールドにサイドマフラーで……230ってところ」
エンジン内部を見せて貰いながら
その言葉を聞けば圧倒されそうになる
確か今年発表された王家レースカーの馬力が196馬力だったはず
つまりこのマシンはどのレースカーよりもパワーがあると言う事だ
軽量化も徹底してるようで内装は鉄板がむき出しになってる
……正直そこまで軽量化していてなぜ鉄パイプが車内に張り巡らされてるのか疑問だったが
車体のコンパクトさも考えれば
対した欠点にもならないのだろう
(しかし……わざわざ重くしてるとも考えにくいわね
……このパイプにも意味があるはず……)
疑問に思った私は張り巡らされてる鉄パイプについても聞いてみる
「このパイプは何なのですか?
……失礼ながら、タツキさんの車はとても完成度が高いと思います
ただ鉄を積んで重くしてるだけとも考えにくいのですが」
「パワーに対してボディの剛性が追い付かないんですよ
なので内部からバーで固めて剛性を上げてるんです、確かに重くもなりますが剛性がグンッと上がりますし
何より横転しても屋根がつぶれません」
タツキさんの言葉に私は言葉が出なくなった
そう、レース業界ではボディーの歪みは対敵だ
剛性アップは基本だが固くなりすぎても余計に壊れやすくなる
最近の技術としてはスポット増しか
しかし横転したときに屋根が潰れないのは大きい
実際それで何人かミンチになった人を見てきた
これは特許を取ってでもレーサーギルドで出すべき代物になる筈
「タツキさん……よろしければ試験の後でこちらの鉄パイプ……商品として出してみるつもりはありませんか?」
が、私の考えとは裏腹にタツキさんはしかめ面で考え込む
「んー……自分が発案って訳でもないので……」
なるほど…
タツキさんの言葉に合点が行くが
他国でも王家レースカーに使われてるのを見たことが無い私には
他の国でも重要視されてない物なのか?と言う考えが頭を過る
「……まぁ、商品に出すなら良いんじゃないですか?
自分の国では発案者以外の多数が同じように製品化してますし」
だが、思考に入った私の頭に
そんなタツキさんの声が響く
「良いんですかね?」
「良いんじゃないですか?」
思わず帰ってきた言葉に疑問文を疑問文で返さないでくれと思いつつ
それなら、と考える
(……なら、速攻で同じような物を作って
Tatuki-modelとして出してみましょうか……)
そうして受付嬢はロールケージに遮られた狭い助手席に座る
彼女がタツキとシビックのコンビに秘められた底力に脱帽するはめになるのはもう少しだけ先の話である
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説

スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい
兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。
ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった
16歳の少年【カン】
しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ
これで魔導まで極めているのだが
王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ
渋々それに付き合っていた…
だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう
この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである
※タイトルは思い付かなかったので適当です
※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました
以降はあとがきに変更になります
※現在執筆に集中させて頂くべく
必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします
※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

元チート大賢者の転生幼女物語
こずえ
ファンタジー
(※不定期更新なので、毎回忘れた頃に更新すると思います。)
とある孤児院で私は暮らしていた。
ある日、いつものように孤児院の畑に水を撒き、孤児院の中で掃除をしていた。
そして、そんないつも通りの日々を過ごすはずだった私は目が覚めると前世の記憶を思い出していた。
「あれ?私って…」
そんな前世で最強だった小さな少女の気ままな冒険のお話である。


オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。

アレク・プランタン
かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった
と‥‥転生となった
剣と魔法が織りなす世界へ
チートも特典も何もないまま
ただ前世の記憶だけを頼りに
俺は精一杯やってみる
毎日更新中!

転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる