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はじまり
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「ふへへへ~」
自分でも気持ち悪い声出してるなぁ…と思いながら
俺、辰起紫苑は新しく届いた
愛車【S3OZ-L(悪魔のZ仕様)】を眺めてる
「遂に…遂に買った!
苦節十年、働きづめに働いて現金一括払いで…
ようやく夢のS3OZを!!」
両親が元走り屋だった俺は、当然幼少の頃から車が好きで
そんな俺には勿論憧れの車…一番好きな車があった
当時一番好きだったのは父親の乗っていた二代目ソアラ
そこから某漫画の影響でハチロクを好きになり
Rー32GT-R、EG-6とどんどん別の車を好きになっていった
ちなみに母親はEG-3と言うEGシビックの一番下のグレードに乗っていたが今は置いておこう
とにかく、俺はどんどん別の車を好きになった
そんなある時、俺はふととある本を某鑑定団で見つけた
タイトルは言えないが湾岸線を初期型Zで走るやつだ
当時俺は6歳で、そこには1巻~3巻が無かったからいきなり4巻から読んだ
そして
その車を見た瞬間ビビッと来た
事故ってボロボロになりながらも強烈な存在感を放つミッドナイトブルーの悪魔のZに…俺は漫画越しに完璧に魅せられた
そこからは話が早い、小学・中学と車に対してドッペリのめり込み
中1の夏辺りまで小遣いの全てを湾岸線を初期型Zで走るゲームにつぎ込んでた
気づけばランクが一番上になってたりした
中学二年からは貯金を開始し、バイクも好きになった
そして高校
地区内で公立ではあるが、家の都合で一番底辺な学校へ入学した
とりあえず最初はバイクが欲しかったのでバイトも開始
夏には免許を取り、SR400に乗っていた
振動は多少あるが良いバイクだったと言っておこう
2年の夏には金も貯まってたのでZ400FXに買い変えた(因みにSRは後輩に10万で卸した)
そして3年の秋の終わりには車の免許を習得
FXを手放し、親の出してくれた金を合わせてEG-6シビックを買った
そしてそれをずっと…
この10年間乗り続けていた
気づけば改造とかも自分で出来るようになってたし、仕事先のチューニングショップでも個人指名が一位だった
EG-6は本当に良い車だ、乗りやすかったしクイックだし、何より高回転エンジンでカムがブイテックに切り替わった時の音は最高だった
…でもZ購入の際に廃車にした
理由は他の誰かを乗せたくなかったから
まぁこんな感じで
十年間で貯まった金(詳しくは言えないが一千数百万)でとあるマニアの造った完全悪魔のZ仕様のS3OZーLを購入したのだった
「かっこよすぎるぜ…本当に
俺の車なんだな…コレが」
そっとボンネットからドアへと撫でていき、ドアを開けて内部へ乗り込む
フルバケ四点シートに身を任せながら内部を見る
ナルディの木目ハンドルやメーター類
340㎞まで刻まれたスピードメーターを見て心が踊った
そして視点を少し上へ上げて
車内中に張り巡らされたロールケージをコンコンと軽くこずいた
その時
テテテテテテテテテテテレン…__と
LINEの電話がなった
友達からだ
「…チッ」
もっと浸りたかったが友達からの電話なので無視するわけにもいかない
「もしもし?」
応答ボタンを押すと電話相手である友達にそう言う
『あぁ、お前さ
確か車今日が納車だったよな?S3O…もう来たのか?』
その友達の答えに俺は「あぁ」と答える
すると
『いつもの山(峠)で待ってるからさ、お前も来いよ!
新しい愛車のお披露目会と行こうや!!』
その友達の言葉にいまだにやけてきた俺は当然行くと答えた
集まってる峠は家からは結構離れてる
「…慣れるまでは飛ばせないからなぁ」
納車したてで事故とか洒落にならないので
ゆっくり急ぐ事にする
「エンジン始動…」
キーをアクセサリーまで一度捻ると、アクセルをカポカポ踏みながら今度は奥までキーを捻る
チュィイイ…ガボォオァッ!
辺りの空気をつんざく排気音がマフラーから奏でられる
「すっげ…こんな腹に響く重低音は初めてだ……」
エンジンはタコメーターの針が900回転を指した所ででアイドリングしてる
つまりこれはエンジンが絶好調の証だ
「行くか♪」
クラッチを踏んで一速に入れ、ゆっくりアクセルを踏み込むと、車体はゆっくりと滑走するように動き始める
低速なためブーストメーターはさほど動かない
「低速で走っててもこんなにエンジン音はでかいのか…
あぁ~、早くフルで回してぇ!」
フロントヘビーなS3OZで慣れない内に全開で走るのはあんまりにも命知らずな行為なので法定速度を守ってゆっくりと峠へ
◆
関東某峠
上りを登りきり
頂上に近づくと、街灯に照らされて多数の改造車が止まってるのに気づく
「大勢来てるなぁ…にしても……」
さっきから異様に視線が強い
それはもう乗り出して軽く街を流してるときから
注目度が半端じゃない
「シビックは音でよく振り返られたけど…
これは物珍しさか?それとも音でか?」
しばらくするとRー34GT-Rの近くでこちらへ手を振ってる存在に気づく
ゴボォッ__!
軽く空吹かししながら男の目の前まで走ってく
「オッス」
「おぉ、本当に買ったのかよ」
開口一番失礼な事を言いやがるこいつは祐紀也
大親友だが距離が近すぎて苗字忘れた
「当たり前だろ?
コイツ買うために大人になったようなもんだぜ俺は」
「バーカ(笑)」
二人で会話してるとチラチラと数人の人が集まってくる
「辰起ちゃーん車変えたんだねぇ」
数人の内の顔見知りの一人がそう言う、ちなみにこの人とはこの峠でよく会ったがなんの車に乗っているかは知らない
結構長い付き合いであるがやはり苗字も、意外と走り屋はそんなことがあったりする
「ああ、高かったけどな
一番下のフェラーリ位なら新車で買える値段だぜ」
「リッチィ~♪」
そんな話を進めつつ、俺は祐紀也に向き直る
「よし、じゃあ今日の一本目行ってみようか」
「おう!」
帰ってくる返事は勿論了承で
その言葉と共に俺はZに、祐紀也はRー34に乗り込みエンジンを掛ける
__ゴボボォッ!
__ガボボォ…!
地の底から沸き上がるような低くも甲高いL28改ツインターボのエキゾーストノートと地響きのような野太いRB26改ツインターボのエキゾーストノートを轟かせ
2台はスタートラインへ並ぶ
「お!【公道ノ踊子辰起】と【蒼ノ流星祐紀也】のバトルだぞ!!」
「皆下りを封鎖しろ!」
電話など周りに走ることは伝えられ
すぐに道路は封鎖される
「初めての走行だろ?事故るなよ?」
「誰に物申してんだコノヤロウ…」
二人の間に火花が散る
二人は親友であり小学来の戦友なのだ
レース法はどちらかの出たいタイミングで出る【ヨーイドン】方式
そして…
_ギャキャッ!
__ガリュォーーーオアッ!バシュバシュッ__
先に出たのは辰起のZだった
ギャキャキャキャッ_!
ブワーバーバーーッ__!パシュシューーンッ__
その後ろをタイヤから白煙を撒き散らせ、追っていくのは祐紀也
この時
誰も想像もしなかった
後にあんな事が起こるなんて
◆
__クァアアアア!シュパーーッ_!
「っ!」
辰起のS3Oはアクセルワークを軽く行うだけで旧車とは思えない加速を見せる
「こ、これは峠走るときはタービン外して来た方が良いか!?」
割りと本気で辰起はそう思った
何せヘアピンを抜けて速度がガクンと落ちた状態でも軽く踏めばすぐ百数十㎞だ
タイトなコーナーが連続して続く峠では1ミスで壁に突き刺さりかねない
(それにしても…)
チラリ、と辰起はバックミラーを確認する
離されてる訳では無いが近づいてくる訳でもない
そんな状態で祐紀也は食いついてくる
「……マシンの差、か」
元々辰起がEG6に乗ってい時は
0からのスタートダッシュやマシンの駆動方式、出力の差で最初は祐紀也に頭を取ることだけはどうしても無理だった
だが祐紀也のGT-Rのテールライトが見えなくなってから…コースの終盤に追い付き
抜かし返す、それが今までのセオリーだった
軽くて全開で攻めきれるEG-6とパワーに余裕があっても重く、タイヤやブレーキ等の足周りを労る必要があるGT-Rとの差だった
「はは…最高……」
だがこのS3Oは古いしFR特有の滑り出しがピーキーだと言う以外は何もかもEGに勝っていた
パワーも、軽さもである
(行ける、どこまでも踏める…)
不思議と永遠と加速していきそうなその車体に
風景に、恐怖は感じなかった
◆
「……っち」
祐紀也は目の前を走ってる辰起のZに対して舌打ちをしていた
そのありえない速さに…
「なんだよあの速さは…
それだけじゃねぇ、立ち上がりも低速と高速で離される
四駆のR-34でFRのカビが生えたような初期型Z相手に中速以外パワー負けかよ」
そして中速高速セクションを抜け
登りの低速セクションに入る
このテクニカルなコーナーが続くのがこのコースのポイントでもあった
「熟成させたマシンならまだしも…
買ったまんまの吊るしFRじゃ四駆に勝てやしない
その事を教えてやるよ」
直に低中速ゾーンを抜けて高速帯へ突入する
FF乗りだった頃の辰起は高速帯を左足ブレーキで荷重を抜く事でムダな減速は一切せず
軽さを生かした神風アタックによって祐紀也のR-34をおいつめていた
だが今の辰起はFRのZ、それも技術がまばらなせいか個体差の激しい50年も昔の初期型だ
安定性はやや欠ける
「よし……いい感じだ!」
祐紀也はステアを切りながら徐々に近づいてくるZのテールランプを見てほくそ笑んだ
そして高速コーナーの連続帯で遂にZを追い詰めたGT-Rはアウト側から抜きにかかる
「くそ…!」
キツいヘアピンコーナーの途中にもなるとメーター読み百数十㎞を指す辰起のZはリアタイヤが滑り始める
峠セッティングが施されていないZの足周りが限界を迎え始めるのだ
ギャッギャッ_!
「ここまで来て負けれるかっ!
栄光の初陣なんだぜ!?」
悲鳴を上げるZのリアタイヤのスキール音を聞きながら
それでもなお辰起はカウンターを当ててアクセルは踏み続ける
これ以上、少しでも角度を着けてタイヤ滑らせよう物なら即スピン…そんなことが辰起の脳裏をよぎる
(まだZに馴れきれてない…
今日初めてってのが一番痛いな、足も前のオーナーから変わってないのも…
あと一歩…あと一歩のギリギリのラインへ載せきれない……踏みきれない)
慣れてないのもあり
走りにおいて自分の限界付近では心許せないマシンとなっている…そんな葛藤中
フッと目の前のコーナーアウト側の茂みが明るくなる
「まずっ!?対向……!」
避けるためにふとミラーを覗くと
アウト側から抜きにかかる祐紀也のGT-Rの車体が見える
「っ!!」
咄嗟に辰起はGT-Rの進路を塞ぐようにカウンターを目一杯当てて進路をアウト側へ流した
「あぁっ!辰起テメェ!?
ミスりやがったな!!?」
突然進路を塞がれた祐紀也はイン側へ目一杯ステアを切る
_ギャィイイイイッ!!
辰起のZと祐紀也のGT-Rのタイヤからけたたましいスキール音が轟き、同時にタイヤロック
二台はスピンモードへ入った
「なッ!?
バカ!やべェッ!!」
その時祐紀也の視界にもようやく対向車トヨタMK-Ⅱの姿が目に入ったのだった
◆
「!?」
止める周囲の声を聞かずに飛び出したギャラリーの一人だった男の目に入ったのはこちらに突っ込んでくるZとGT-R
二台はスピンモードへ入っていたがなんとか真ん中を抜けて停車する
__ガッシャァアアアッ!!
停止したすぐ後ろから聞こえる音にあわてて男が振り向くとそこには内側の崖に設置されたコンクリ塀に突き刺さったGT-Rの姿のみ
(や、やっちまった!)
興味本位何かで飛び足した自身に頭を抱えながら
男は車から降りると駆け足でGT-Rに近づき運転席側のドアを開け中の運転手に声をかける
「お、おいっ
あんた、大丈夫か!しっかりしろ!!」
GT-R運転手、祐紀也はハンドルに頭を打ったのか
額からダクダクと血を流していた
「うう…ぅ……」
声を掛けてきた男の声に意識を呼び戻した祐紀也は
ダルい体に鞭を打ちながらミラー越しに辰起のZの姿を探す……が、どこにも見つからなかった
「あ、…れ?辰起……は?」
祐紀也は怪我の痛みに顔をしかめながら男に聞いた
「辰起…?」
「Z…の……」
「……そういえばもう一台車がいた筈だよな……」
祐紀也の言葉にハッとした男は辺りを見渡し
そして顔を青くした
「な、なぁ…
Zは…辰起はどうなってんだよ!」
何も答えず、目の焦点が合わなくなった男に苛立ちながら
祐紀也は車から何とか這い出て辺りを見渡し
「…え?」
散らばったZのパーツと思われる欠片と共に続くブラックマーク
……しかしそのブラックマークは谷になってるアウト側の半ばから抜け落ちたガードレールまで続いているのだけが
月明かりに照らされて確認できた
自分でも気持ち悪い声出してるなぁ…と思いながら
俺、辰起紫苑は新しく届いた
愛車【S3OZ-L(悪魔のZ仕様)】を眺めてる
「遂に…遂に買った!
苦節十年、働きづめに働いて現金一括払いで…
ようやく夢のS3OZを!!」
両親が元走り屋だった俺は、当然幼少の頃から車が好きで
そんな俺には勿論憧れの車…一番好きな車があった
当時一番好きだったのは父親の乗っていた二代目ソアラ
そこから某漫画の影響でハチロクを好きになり
Rー32GT-R、EG-6とどんどん別の車を好きになっていった
ちなみに母親はEG-3と言うEGシビックの一番下のグレードに乗っていたが今は置いておこう
とにかく、俺はどんどん別の車を好きになった
そんなある時、俺はふととある本を某鑑定団で見つけた
タイトルは言えないが湾岸線を初期型Zで走るやつだ
当時俺は6歳で、そこには1巻~3巻が無かったからいきなり4巻から読んだ
そして
その車を見た瞬間ビビッと来た
事故ってボロボロになりながらも強烈な存在感を放つミッドナイトブルーの悪魔のZに…俺は漫画越しに完璧に魅せられた
そこからは話が早い、小学・中学と車に対してドッペリのめり込み
中1の夏辺りまで小遣いの全てを湾岸線を初期型Zで走るゲームにつぎ込んでた
気づけばランクが一番上になってたりした
中学二年からは貯金を開始し、バイクも好きになった
そして高校
地区内で公立ではあるが、家の都合で一番底辺な学校へ入学した
とりあえず最初はバイクが欲しかったのでバイトも開始
夏には免許を取り、SR400に乗っていた
振動は多少あるが良いバイクだったと言っておこう
2年の夏には金も貯まってたのでZ400FXに買い変えた(因みにSRは後輩に10万で卸した)
そして3年の秋の終わりには車の免許を習得
FXを手放し、親の出してくれた金を合わせてEG-6シビックを買った
そしてそれをずっと…
この10年間乗り続けていた
気づけば改造とかも自分で出来るようになってたし、仕事先のチューニングショップでも個人指名が一位だった
EG-6は本当に良い車だ、乗りやすかったしクイックだし、何より高回転エンジンでカムがブイテックに切り替わった時の音は最高だった
…でもZ購入の際に廃車にした
理由は他の誰かを乗せたくなかったから
まぁこんな感じで
十年間で貯まった金(詳しくは言えないが一千数百万)でとあるマニアの造った完全悪魔のZ仕様のS3OZーLを購入したのだった
「かっこよすぎるぜ…本当に
俺の車なんだな…コレが」
そっとボンネットからドアへと撫でていき、ドアを開けて内部へ乗り込む
フルバケ四点シートに身を任せながら内部を見る
ナルディの木目ハンドルやメーター類
340㎞まで刻まれたスピードメーターを見て心が踊った
そして視点を少し上へ上げて
車内中に張り巡らされたロールケージをコンコンと軽くこずいた
その時
テテテテテテテテテテテレン…__と
LINEの電話がなった
友達からだ
「…チッ」
もっと浸りたかったが友達からの電話なので無視するわけにもいかない
「もしもし?」
応答ボタンを押すと電話相手である友達にそう言う
『あぁ、お前さ
確か車今日が納車だったよな?S3O…もう来たのか?』
その友達の答えに俺は「あぁ」と答える
すると
『いつもの山(峠)で待ってるからさ、お前も来いよ!
新しい愛車のお披露目会と行こうや!!』
その友達の言葉にいまだにやけてきた俺は当然行くと答えた
集まってる峠は家からは結構離れてる
「…慣れるまでは飛ばせないからなぁ」
納車したてで事故とか洒落にならないので
ゆっくり急ぐ事にする
「エンジン始動…」
キーをアクセサリーまで一度捻ると、アクセルをカポカポ踏みながら今度は奥までキーを捻る
チュィイイ…ガボォオァッ!
辺りの空気をつんざく排気音がマフラーから奏でられる
「すっげ…こんな腹に響く重低音は初めてだ……」
エンジンはタコメーターの針が900回転を指した所ででアイドリングしてる
つまりこれはエンジンが絶好調の証だ
「行くか♪」
クラッチを踏んで一速に入れ、ゆっくりアクセルを踏み込むと、車体はゆっくりと滑走するように動き始める
低速なためブーストメーターはさほど動かない
「低速で走っててもこんなにエンジン音はでかいのか…
あぁ~、早くフルで回してぇ!」
フロントヘビーなS3OZで慣れない内に全開で走るのはあんまりにも命知らずな行為なので法定速度を守ってゆっくりと峠へ
◆
関東某峠
上りを登りきり
頂上に近づくと、街灯に照らされて多数の改造車が止まってるのに気づく
「大勢来てるなぁ…にしても……」
さっきから異様に視線が強い
それはもう乗り出して軽く街を流してるときから
注目度が半端じゃない
「シビックは音でよく振り返られたけど…
これは物珍しさか?それとも音でか?」
しばらくするとRー34GT-Rの近くでこちらへ手を振ってる存在に気づく
ゴボォッ__!
軽く空吹かししながら男の目の前まで走ってく
「オッス」
「おぉ、本当に買ったのかよ」
開口一番失礼な事を言いやがるこいつは祐紀也
大親友だが距離が近すぎて苗字忘れた
「当たり前だろ?
コイツ買うために大人になったようなもんだぜ俺は」
「バーカ(笑)」
二人で会話してるとチラチラと数人の人が集まってくる
「辰起ちゃーん車変えたんだねぇ」
数人の内の顔見知りの一人がそう言う、ちなみにこの人とはこの峠でよく会ったがなんの車に乗っているかは知らない
結構長い付き合いであるがやはり苗字も、意外と走り屋はそんなことがあったりする
「ああ、高かったけどな
一番下のフェラーリ位なら新車で買える値段だぜ」
「リッチィ~♪」
そんな話を進めつつ、俺は祐紀也に向き直る
「よし、じゃあ今日の一本目行ってみようか」
「おう!」
帰ってくる返事は勿論了承で
その言葉と共に俺はZに、祐紀也はRー34に乗り込みエンジンを掛ける
__ゴボボォッ!
__ガボボォ…!
地の底から沸き上がるような低くも甲高いL28改ツインターボのエキゾーストノートと地響きのような野太いRB26改ツインターボのエキゾーストノートを轟かせ
2台はスタートラインへ並ぶ
「お!【公道ノ踊子辰起】と【蒼ノ流星祐紀也】のバトルだぞ!!」
「皆下りを封鎖しろ!」
電話など周りに走ることは伝えられ
すぐに道路は封鎖される
「初めての走行だろ?事故るなよ?」
「誰に物申してんだコノヤロウ…」
二人の間に火花が散る
二人は親友であり小学来の戦友なのだ
レース法はどちらかの出たいタイミングで出る【ヨーイドン】方式
そして…
_ギャキャッ!
__ガリュォーーーオアッ!バシュバシュッ__
先に出たのは辰起のZだった
ギャキャキャキャッ_!
ブワーバーバーーッ__!パシュシューーンッ__
その後ろをタイヤから白煙を撒き散らせ、追っていくのは祐紀也
この時
誰も想像もしなかった
後にあんな事が起こるなんて
◆
__クァアアアア!シュパーーッ_!
「っ!」
辰起のS3Oはアクセルワークを軽く行うだけで旧車とは思えない加速を見せる
「こ、これは峠走るときはタービン外して来た方が良いか!?」
割りと本気で辰起はそう思った
何せヘアピンを抜けて速度がガクンと落ちた状態でも軽く踏めばすぐ百数十㎞だ
タイトなコーナーが連続して続く峠では1ミスで壁に突き刺さりかねない
(それにしても…)
チラリ、と辰起はバックミラーを確認する
離されてる訳では無いが近づいてくる訳でもない
そんな状態で祐紀也は食いついてくる
「……マシンの差、か」
元々辰起がEG6に乗ってい時は
0からのスタートダッシュやマシンの駆動方式、出力の差で最初は祐紀也に頭を取ることだけはどうしても無理だった
だが祐紀也のGT-Rのテールライトが見えなくなってから…コースの終盤に追い付き
抜かし返す、それが今までのセオリーだった
軽くて全開で攻めきれるEG-6とパワーに余裕があっても重く、タイヤやブレーキ等の足周りを労る必要があるGT-Rとの差だった
「はは…最高……」
だがこのS3Oは古いしFR特有の滑り出しがピーキーだと言う以外は何もかもEGに勝っていた
パワーも、軽さもである
(行ける、どこまでも踏める…)
不思議と永遠と加速していきそうなその車体に
風景に、恐怖は感じなかった
◆
「……っち」
祐紀也は目の前を走ってる辰起のZに対して舌打ちをしていた
そのありえない速さに…
「なんだよあの速さは…
それだけじゃねぇ、立ち上がりも低速と高速で離される
四駆のR-34でFRのカビが生えたような初期型Z相手に中速以外パワー負けかよ」
そして中速高速セクションを抜け
登りの低速セクションに入る
このテクニカルなコーナーが続くのがこのコースのポイントでもあった
「熟成させたマシンならまだしも…
買ったまんまの吊るしFRじゃ四駆に勝てやしない
その事を教えてやるよ」
直に低中速ゾーンを抜けて高速帯へ突入する
FF乗りだった頃の辰起は高速帯を左足ブレーキで荷重を抜く事でムダな減速は一切せず
軽さを生かした神風アタックによって祐紀也のR-34をおいつめていた
だが今の辰起はFRのZ、それも技術がまばらなせいか個体差の激しい50年も昔の初期型だ
安定性はやや欠ける
「よし……いい感じだ!」
祐紀也はステアを切りながら徐々に近づいてくるZのテールランプを見てほくそ笑んだ
そして高速コーナーの連続帯で遂にZを追い詰めたGT-Rはアウト側から抜きにかかる
「くそ…!」
キツいヘアピンコーナーの途中にもなるとメーター読み百数十㎞を指す辰起のZはリアタイヤが滑り始める
峠セッティングが施されていないZの足周りが限界を迎え始めるのだ
ギャッギャッ_!
「ここまで来て負けれるかっ!
栄光の初陣なんだぜ!?」
悲鳴を上げるZのリアタイヤのスキール音を聞きながら
それでもなお辰起はカウンターを当ててアクセルは踏み続ける
これ以上、少しでも角度を着けてタイヤ滑らせよう物なら即スピン…そんなことが辰起の脳裏をよぎる
(まだZに馴れきれてない…
今日初めてってのが一番痛いな、足も前のオーナーから変わってないのも…
あと一歩…あと一歩のギリギリのラインへ載せきれない……踏みきれない)
慣れてないのもあり
走りにおいて自分の限界付近では心許せないマシンとなっている…そんな葛藤中
フッと目の前のコーナーアウト側の茂みが明るくなる
「まずっ!?対向……!」
避けるためにふとミラーを覗くと
アウト側から抜きにかかる祐紀也のGT-Rの車体が見える
「っ!!」
咄嗟に辰起はGT-Rの進路を塞ぐようにカウンターを目一杯当てて進路をアウト側へ流した
「あぁっ!辰起テメェ!?
ミスりやがったな!!?」
突然進路を塞がれた祐紀也はイン側へ目一杯ステアを切る
_ギャィイイイイッ!!
辰起のZと祐紀也のGT-Rのタイヤからけたたましいスキール音が轟き、同時にタイヤロック
二台はスピンモードへ入った
「なッ!?
バカ!やべェッ!!」
その時祐紀也の視界にもようやく対向車トヨタMK-Ⅱの姿が目に入ったのだった
◆
「!?」
止める周囲の声を聞かずに飛び出したギャラリーの一人だった男の目に入ったのはこちらに突っ込んでくるZとGT-R
二台はスピンモードへ入っていたがなんとか真ん中を抜けて停車する
__ガッシャァアアアッ!!
停止したすぐ後ろから聞こえる音にあわてて男が振り向くとそこには内側の崖に設置されたコンクリ塀に突き刺さったGT-Rの姿のみ
(や、やっちまった!)
興味本位何かで飛び足した自身に頭を抱えながら
男は車から降りると駆け足でGT-Rに近づき運転席側のドアを開け中の運転手に声をかける
「お、おいっ
あんた、大丈夫か!しっかりしろ!!」
GT-R運転手、祐紀也はハンドルに頭を打ったのか
額からダクダクと血を流していた
「うう…ぅ……」
声を掛けてきた男の声に意識を呼び戻した祐紀也は
ダルい体に鞭を打ちながらミラー越しに辰起のZの姿を探す……が、どこにも見つからなかった
「あ、…れ?辰起……は?」
祐紀也は怪我の痛みに顔をしかめながら男に聞いた
「辰起…?」
「Z…の……」
「……そういえばもう一台車がいた筈だよな……」
祐紀也の言葉にハッとした男は辺りを見渡し
そして顔を青くした
「な、なぁ…
Zは…辰起はどうなってんだよ!」
何も答えず、目の焦点が合わなくなった男に苛立ちながら
祐紀也は車から何とか這い出て辺りを見渡し
「…え?」
散らばったZのパーツと思われる欠片と共に続くブラックマーク
……しかしそのブラックマークは谷になってるアウト側の半ばから抜け落ちたガードレールまで続いているのだけが
月明かりに照らされて確認できた
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アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜
ちゃぶ台
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彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。
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Sランク冒険者の受付嬢
おすし
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王都の中心街にある冒険者ギルド《ラウト・ハーヴ》は、王国最大のギルドで登録冒険者数も依頼数もNo.1と実績のあるギルドだ。
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※ほのぼので、日常:バトル=2:1くらいにするつもりです。
※前のやつの改訂版です
※一章あたり約10話です。文字数は1話につき1500〜2500くらい。
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