22 / 25
第二章 冒険カンと義弟リオン in 迷宮都市
19.力比べ
しおりを挟む「んじぁ、適当に力比べでアームレスリングでもしようや」
「アームレスリング…」
カンは対面する冒険者の一言に少し首を傾げた
(アームレリング…アームレリングねぇ…)
そして数秒後、納得の言ったような顔つきでポンと手を叩く
「…あぁ、腕相撲か…」
確かに腕相撲なら簡単に相手の力量は、まあ完璧にとは言わないまでも大体分かる
通常なら筋肉で大方勝負がついてしまう所だが
そんなものはこの世界では関係ない
筋肉より身体強化の効く魔力が
魔力の大本となる保有量を定義させることのできるレベルが
この世界で一番の重要項目
そしてそのすべての条件を満たしてるのは
今この場にいるのではカンとリオンの二人だけだろう
「良いぜ?アームレスリングで勝負しようか」
「おいおい…俺が言うのもなんだが…知らねぇぜ?どうなっても…」
意気揚々と勝負に乗るカンに最終告知と言った感じに男はそう言うと自身のポーチから銀貨を1枚取り出すと両手の指で銀貨の両端をつまんでねじ切り、威嚇するようにカンを睨んだ
「ひゅーっ!」
「良いぞォ!やっちまぇっ!!」
辺りの酔った冒険者や野次馬の冒険者は口々にカンと対面する冒険者の男に称賛のような声を浴びせる
しかし
(…わかってる、この人は別に敵じゃない…
と、言うよりか周りからも好奇心は感じられても悪意の視線は…あることにはあるけど殆ど感じないな)
カンは目の前の男が単純に絡んでいるだけではないと言うことに気づいていた
(恐らくガキの俺が冒険者ってんで、他の冒険者に絡まれたりしないように絡んできたって所か
このまま引いて帰れば自分一人が汚れ被るだけで遠巻きに俺を周りから守ろうって判断だろう)
自身の顎をひとさし指で軽く撫でながら、カンは軽く辺りを一別する
(俺もそうだがよくも悪くもお人好しってか?
…とは言え引く気は更々ねぇからな……)
考えるカンを他所に冒険者の男は引き裂いた銀貨をカンの近くのテーブルへ放り投げる
「ほら、帰る金がねぇならそれでも使えよ」
沈黙をビビったと勘違いしたのかそう言う冒険者の男に
カンはにっこりと笑みを浮かべる
(気持ちは嬉しいけどさ
引く気は無いし、このままってのもなぁ……)
カンはポケットに手を突っ込んで大銅貨を一枚取り出すと親指とひとさし指の間に挟み込む
「おいおいどうした坊ちゃん」
「そんな硬い銅貨持ち出して何見せてくれるわけェ?」
囃し立てる他の冒険者たちをスルーしたまま
カンは対峙してる冒険者のみを見続け
そして…
_______グニャンッ
一瞬で大銅貨を挟んだ指で握り潰した
「う、うむ
若いのに金の使い方を良く心得ている!」
「さ、さぁて…今日もお仕事お仕事…」
たったそれだけで悪意のある視線は全てなくなり
変わりに複数人がギルドを出ていく
彼らが悪意のある視線の持ち主だろう
カンと対峙する冒険者は銀貨を素手で引き裂いたがそれは両手での話
カンはその銀貨より更に硬い銅貨を片手で潰して見せた
端から見て戦力差がわからなかった者でもこれを見て実力に気づいたのだろう
「…で、アンタはいつまでそうやってんだ?」
いまだこちらを睨み付ける冒険者に向けてカンは肩を竦めながらそう話しかける
「ギャハハ!おいガゼルよう!
お前の魂胆はバレバレだったみたいだぞ!!」
一人の冒険者がカンと対峙し続ける冒険者、【ガゼル】へ腹を抱えながらそう言うと
言われた本人のガゼルは顔を真っ赤にして今度は逆の意味でカンを睨み付けた
「…お前なぁ…いつから気づいてた?」
「途中からさ、喧嘩吹っ掛けてきた割りに視線に悪意が含まれてないからさ?
いや見抜くの苦労したって」
アハハと笑うカンに対してガゼルはいまだに恥ずかしそうに頭をぽりぽりと掻く
「…まぁ、なんだ
いくら冒険者なんて荒くれ者でもよぅ
酔ったからって子供相手にでも喧嘩売るヤツなんて殆どいねぇんだ…」
「なるほどね、やっぱり大方の読みは合ってたわけ…俺に絡もうとしてた冒険者が何人かいたでしょ?」
カンの一言にそこまで気づいてたか、とガゼルはため息を吐いた
「おいおいどうた?これじゃあ【お節介ガゼル】が名折れじゃねぇの?」
そんなガゼルの様子を見て心底面白いと言った感じに辺りの冒険者たちが囃し立てるように言った
(お節介…ねぇ?
俺が感じたお人好しとあたらからずも遠からずって訳だ)
カンはそう思いながら軽くガゼルを見据える
「んじゃ、ほとぼりが覚めたならもういいだろ?」
そう確認するようにガゼルへ言うカンに対して
ガゼルは首を振って否定した
「いや、力比べはやるぞ
一応、俺ら相手に全くビビらないお前の実力を見ておきたい」
「あぁ…そぅ…」
まるで悪戯っ子のように笑うガゼルに対し
カンは苦笑いしか出来なかった
◆
「おらァッ!準備は良いかクソ共!!」
レフェリー役のモブ冒険者の怒号に辺りの冒険者は歓声をあげる
「兄ちゃん!若さってヤツを見せてやれ!!」
「ガゼルッ!テメェに賭けてんだからな!?
負けやがったらエール奢れよなァ!!」
ギルド内の歓声は恐らくギルド内最年少のカンと中堅冒険者の一角であるガゼルで綺麗に真っ二つになった
「…これ、本気でやらなきゃダメか?」
「もちに決まってんだろ!?
ほら、お兄さんが胸を貸してやるからドーンと来なさい♪」
辺りの騒々しい歓声となんか気持ち悪いガゼルにカンはただただ苦笑いする
「ほら、構えろ」
そしてレフェリーの声に空樽の上にカンとガゼルは向かい合ってお互いの拳を握り込む
(手ェ抜いて良いよねこれ…)
ため息を吐きながらカンがちらりとガゼルを見ると
当のガゼルは無表情になっていた…
「…良いか?少年…
これは男と男の真剣勝負だ…
手なんて抜いてみろ?…末代まで祟るからな?」
「えぇ…」
何が彼をそこまで駆り立てるのか、それともまだ酒が抜けていないのか
いまだに赤い顔でそんなことを恥ずかしげもなく言うガゼルにカンはこの酔っぱらいめんどくセェと思いながら考え込む
(…まぁ、一瞬だけ本気出すのも悪くない…か?
…祟られるのも嫌だし(笑))
内心で軽くクスッと笑いながら
カンは握ったガゼルの手を軽く引き絞る
「レディファイッ!!」
レフェリーの掛声と共にほんの一瞬だけカンは全開で力を込めてガゼルの腕を倒しに掛かる
時間にしてコンマ一秒ほど、されどコンマ一秒間
レベル167の人外パワーが吹き荒れ
ぶわりと言う風切り音と共にガゼルの身体はいとも容易く宙を舞った
「はっ?えっ!?ちょっ…おいいいいいっ!!?」
そしてそんな悲鳴をミュージックに吹き飛ばされたガゼルはそのまま近くの壁に激突した
「…ごめん、やり過ぎた」
「い、いひゃ~い」
大の大人がガチで目尻に涙を為、強く打った腰を擦ると言うなんとも気の抜けた絵面の出来上がりだった。
_____________________◆
あとがき
さてさて、皆様ご機嫌いかがでしょうか
ちくわでございます。
先日新話を投稿してから早一ヶ月近く経ちまして、皆様におきましては【この作者は投稿早めると言ったくせにいつになれば投稿するんだ?】と思ったかも知れません
えー、しかしですね
ツイッターをご覧の方はご存じと思いますが、自分がお金を預けていた人が遂に警察に逮捕されました
えぇ、なんと前回の投稿の次の日ですよ!?
…もう一気に気力が無くなっちゃいまして
勉強も全く手付かずで、友達から原案を貰った新しいお話を書きながらなんとかモチベーションを上げました
その為最後の方が若干ギャグっぽいんですね
まぁあんまり長くなってしまうとアレなので積もる話はここまでに致しまして。
年内にもう一度位更新できればと思っております
_____________________◆
13
お気に入りに追加
6,273
あなたにおすすめの小説

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜
ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。
その一員であるケイド。
スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。
戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。
それでも彼はこのパーティでやって来ていた。
彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。
ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。
途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。
だが、彼自身が気付いていない能力があった。
ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。
その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。
自分は戦闘もできる。
もう荷物持ちだけではないのだと。
見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。
むしろもう自分を卑下する必要もない。
我慢しなくていいのだ。
ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。
※小説家になろう様でも連載中

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~
春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。
冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。
しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。
パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。
そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる