拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳

文字の大きさ
上 下
9 / 25
第一章 パーティをクビになりました。

9. ぐ り ふ ぉ ん が な か ま に な っ た !

しおりを挟む
「そうか怪我か…」

グリフォンの言葉にカンは腕を組ながらうんうんと唸る

「……もしかしてさ、怪我が完治したら万事解決な訳?」

そうだよね?だって怪我の治療の為に森に来たんだもんね
カンは頭の中でそう考えながらグリフォンの出方を待つ

『…まぁ、そうだな
怪我が完治すれば我はここにいる必要が無くなる』

グリフォンはカンの言葉を肯定する
よし、これで言質は取ったとほくそ笑むカンの顔はさぞかし悪い顔をしていたに違いない

「なら、俺が治してやるよ」

『はっ…?』

言うが早いか
カンはグリフォンの傷口付近に手を翳す

「≪リヴァイバル再上映≫… !」

無詠唱で上級回復魔術≪リヴァイバル≫を起動するカンの手から
優しく暖かな光が放たれ
グリフォンの傷口に当たるとまるで逆再生するかの如く全身の傷が塞がり
光が収まる頃には怪我一つ無い状態のグリフォンがそこにはいた

『あ、あの傷が一瞬で…!?
ここまで来るものだから只者ではないと思っていたが……』

その回復の早さに驚いたのであろう
グリフォンはそうぶつぶつと呟き続ける

「ほら、これで良いだろ?
まぁリハビリに数日かけるとしても、周りの冒険者が食扶持減っちまうし
なるべく早く森から出てやれよ?」

これで依頼も達成だな、と意気揚々と帰路へ着こうとしたカン
しかしそうは問屋が卸さず、既に背中を向けたカンへグリフォンが待ったを掛ける


『待て! 待ってくれ!!
こんな施しは受けられん!
第一対価だって何もないのだ!!』

必死に引き止めるグリフォンに対し
一度歩みを止めたカンだったが、首を横にふってから対価など要らないむねを伝える

「…なんだ、そんな事か
別に良いよ……困ってるみたいだったしな
あと、ちゃんと俺のためにもなる打算的な行動だし」

『それでもだ!
施しを受けて何も返さぬのでは我の気が済まんのだ!!
頼む、何でも良いから望む物を言ってくれ…貴金類は火龍に取られた住み処にあるせいで用意できそうもないが…それ以外なら概ね用意して見せる!!』


カンは必死なグリフォンを前にどこまで良い奴なんだコイツは…と、もはや少し呆れながら
しかしそこまで言うなら無下にしてしまえばプライドを傷つけてしまうだろうなっと考えた所で

そうだ良いことを思い付いた、と言わんばかりにグリフォンがカンへ口を開く

『そうだ…!人の子よ、御主冒険者とやらであろう?
ならば我をテイムして共に連れて行くがよい!
何、食料は自分で取ってくるから無駄な金は使わせないと断言できるし
強さにも自信がある!自慢の毛並みも好きにしてくれて構わん!!』

聞いてカンはそこまでか…と少し頭が痛くなった
ここまで恩義を感じてくれている所申し訳無いが
あれ位の回復魔術ならカンは息一つ上がりはしない

……そう、ステータスが高すぎて宮廷魔術師でも一~二発でマナ不足に陥る上級魔術でも
カンにとっては使うマナと自動回復のマナで相殺出来てしまう

いや待てよ、さっきの言葉を聞く限り
グリフォンは遠回しに仲間になっても良いと言っているのではないか?…と
そうカンは考える

(…俺くらいになれば別に、ソロでも充分やっていけるが……
……何より広い世界をたった一人で旅するのはちと苦痛だな……)

別にグリフォンを仲間にするのを渋る理由なんてない
ステータスで言えば自分よりは結構下の部類になるかも知れないが
ボケ勇者のパーティが束で掛かってきても瞬殺できるぐらいにその実力は離れてるからストレスの心配もない

何よりふわっふわな毛並みを持った癒し要因だ
こんなのこちら側からお願いしたい位である


……しかし、自身の性格には困ったものだ

ストレスによりひん曲がった性格のせいでちょっと意地悪したくなってしまう


「悪ぃけどテイムスキル持ってないんだよね」

『な、何だってぇッ!!?』

予想通り、ちょっと意地悪すると驚愕で口調を忘れると言う想像以上の反応が返ってきてしまう

(おっと、いけないいけない……)

もっと意地悪したくなるが既にグリフォンが泣きそうになってるので
その衝動を堪えてカンはクスッ、と軽い笑みを浮かべながら
口を開いて続きの言葉を紡ぐ


「そう、確かに俺にはテイムスキルが無い……
…無いが、実を言うと前にいたパーティをクビになったばかりでな
アンタさえよけりゃ、従魔なんて使役する部下としてじゃなくて…対等に肩を並べる仲間としてなら…迎え入れようじゃないか」

そんな言葉は予想していなかったのか
一瞬グリフォンは目をぱちくりし、その意味に気づいて声を弾ませる

『あぁ…、あぁッ!
是非、是非頼むッ!!』


さて、そんなこんなでグリフォンが仲間になった訳だが
仲間には仲間としての絆が必要である

「仲間同士になるなら絆が必要だ
お互い同じように痛みを共有出来たりとか……な?」

カンの言いたいことが伝わったのか
グリフォンは軽く笑うように唸る

『御主は本当に変な奴だな…』

「はっはっは……」

お互に笑い合っているが、その次の瞬間


_________ジャッ…!_____

一人と一匹の姿がぶれたかと思うと


________ズドォオオオオオォッ!!_____

辺りに轟音が鳴り響く
その中心ではカンとグリフォンの右拳と右前足がぶつかり合ってた


「ははっ結構力込めたけど……大丈夫そうで安心したぜ」

そう言うカンの右拳は爪痕の形にバックリ切れており血がだくだくと垂れ流れていた

『安心したのはこちらだよ…今の一撃、御主なら耐えると思ったが全開だった
全く…上には上がいると言うことか…強さには自信があったのにな……』

そう言うグリフォンの右前足は良く見れば先端部分が破裂し、同じく血が垂れ流しになっていた

「まぁ、これで少しは互いに痛みを共有出来たって訳で……」

カンはヒールを唱えてお互いの傷をわざと痕が残るように治す
疑似ではあるが、目に見えるもので絆を示すものを着けたのだ



「____まぁ、色々あるだろーけど
これから宜しく頼むな?」

『あぁ…』

そして一人と一匹は街への帰路へ着いたのだった



しおりを挟む
感想 160

あなたにおすすめの小説

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~

春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。 冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。 しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。 パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。 そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...