拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳

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第一章 パーティをクビになりました。

6.森の異変①

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「で、まぁ…早速で悪いんだが
俺から直々に指名依頼をしたい」

ギルド長はカンのギルドカードをD→Bのちそう告げる
カンの表情はあからさまに嫌そうな物に変わった

「えぇー……受けなきゃならんのか?それ……
俺気軽に仕事できれば良いだけなんだけど」

「強制はしないが…
……まぁなるべく受けて欲しいんだ」

実績も必要だしな、と呟くギルド長
乗り気ではないカンだったが
久々に強制口調ではなく純粋にお願いされた為
別に引き受けても良いと内心では思っている

根は人の良いまま変わりはしないのだ、勇者パーティは許せないけど

「…別に良いんだけどな
どんな依頼だか聞いても良いか?」

「あぁ……それは_______」








「ふぅ…この辺か?」

現在カンは街郊外の森へ来ていた
場所はこの街に来たときに入った正門とは逆位地にある裏門だ

「森の調査って事だったけど……ぶっちゃけ何がどう違うのかわからんな…」

指名依頼の内容は森の調査である
ちょうど高ランカーが出払ってるのでカンに回ってきた仕事であり
調査と言えどBに上がりたてのカンには難しいだろうと踏んだギルド長が簡単な視察で良いと言ってくれた

「まぁ…フリーになってから始めての仕事だ
やるだけやってやるか……」

そしてカンは森の奥へ消えていく








場所を少し戻して同刻の冒険者ギルド

カンを送ったばかりのギルド長は頬杖を掻きながら思考に入る

(あのカンと言った少年…この俺がを使っても眉一つ動かさない所か
恐らく気づいてすらいなかったな……)

思考の中心を占めるのは先ほどまで会話をしていたカン少年についてだ

実を言うと最初からギルド長は会話の時に威圧のスキルを使っていたのだが

カンの状態異常完全無効のスキルが作動していたため何も起こらなかった

……いや、カンの高いステータスからすれば
状態異常完全無効が無くてもギルド長クラスの威圧も【何か威圧掛けられてるなぁ】程度で済んでしまうのだが

(恐らく彼は俺と同等か…もしくはそれ以上の実力者だ……
だが引っ掛かるな、何故そんな実力者が俺の耳に掠りすらしなかった?)

ふとした疑問がずっとギルド長の頭を反芻していた
そしてそのとき…

「…失礼します」

ギルド長にカンの事を報告した受付嬢【ロア】が部屋へ入ってくる

「君か、どうした?」

「いえ、カンさんについての書類の方を」

試験も無しにD~Bにあげたのでは相応の報告書が必要だ
さて、何を書くべきかとギルド長は考えつつ
受付嬢ロアにもカンについて思った事を聞いてみる

「君は、彼__カンについてどう思った?」

「…冒険者との乱闘で実力の極一部を垣間見ましたが…
高い戦闘力を有してる、それが一番に伝わってきますね
冒険者を殴った時の拳が捉えきれませんでした」

そこまでか、とギルド長は肩を竦める
総じて冒険者ギルドの受付嬢とはレベルが高い
何故ならごく稀に冒険者といざこざがあるからだ

そんないざこざがあった時、レベルが低く相手にマウントを取られては
か弱い女である以上好き放題にやられかねない

何かあるのが常にギルド内だけとは限らない以上
受付嬢には最低でも中堅冒険者並みの戦闘力を持たねばならない

そしてそんな受付嬢の中でもロアは飛び抜けて強い部類に入っており
実力はS級冒険者と疎遠の無いほど

そのロアが捉えきれない程素早い攻撃ができるとなれば最低でもSSランク
もしくはSSS並みの実力を持っていても不思議ではない

「…ギルド長、……昔流行ったあの噂
覚えていますか?」

「噂…」

ふと、ロアは過去に流れた噂の話を持ち出す
このタイミングで話すと言うことはカンに関係があると言いたげに

「曰く___彼は負け知らずで反感を買った貴族を抱えの兵隊事再起不能にした
曰く___移動中に遭遇した不運な山賊、盗賊はもれなく半殺しにされた
曰く___クラーケンを素手で仕留めた
曰く___放った魔術でスタジアムの外壁を倒壊させた」

「…おいおい、その噂って……」

ギルド長は確かにその噂を聞いたことがあった
数年前、突如として現れては国内を騒がせ
そして急に消えてしまったその人物の事を

そしてその人物に当てはめてしまえば
国内では珍しいその名も、何故ギルド長の耳に彼の名が掠らなかったのかも、何故あれほど高い戦闘力を有しているのかも

ギルド長はわかってしまう

_____彼はその力で貴族の反感を買い
そして打ちのめしたせいで表舞台に立てなくなった
故にトロフィー(冠)を獲得したことが一度もなく…_____

____人々は彼を羨望と畏怖の念を持って_______
_________【無冠の帝王】と呼び称えた_______


かつて流れ、そして忘れてしまっていたその存在に
ギルド長は背筋が冷たくなるのを感じた









「……まぁ、こんな感じかな」


カンは調査途中に現れる魔物を狩りながら進んでおり、今現在もCランクのコカトリスの群れを討伐したばかりだ

(……少し妙だな、コカトリスってこんな層に出てくるのか?)

現在値は森の中層に入ってすぐ
一般的にコカトリスはそこそこ強い為中層と深層の境い目辺りに住み着く

ほぼ浅層のここで発見したと言うことは森の生態系を脅かす何かがいると言う可能性が高い

「ッ!おいおい…」

遠目に探索途中であろう冒険者が熊の魔物と戦っているのが見えた

(あれはBランクのブラッドベア…
あの冒険者達には荷が重そうだな……)

鉄剣と鉄のプレートアーマーのみの装備をしてる冒険者を見て恐らく中堅とギリギリ呼べる程度の実力かと思いつつ

それならブラッドベアの相手は荷が重いだろうと駆け出す

「助太刀だ!
少し退いてろ!!」

「すまん助かる!」

返ってくる冒険者達の言葉を聞きながら
ブラッドベアの振るう拳を裏拳で弾く

「グォオオオオオッ!!」

簡単に自分の攻撃を弾かれたのが気に入らないのか
ブラッドベアは耳障りな咆哮を放つ

「うるせぇんだよ黙ってろボケェ!」

左手で耳をふさぎ、右手でブラッドベアを殴り飛ばす
そんな様を冒険者は信じられないと言ったような顔で見ていたがそんなことは気にしないカンである

「鼓膜が破れたらどうしてくれんだこの野郎!!」

殴り飛ばしたブラッドベアに接近し
ヤクザキックで止めを差す

「ふぅ…」

倒したのを確認すると軽く息を吐いて冒険者達へ向き直る
戦士と盾士の男二人と魔術師の女が一人
どれも装備に傷はあるが目立った怪我はない

「怪我は無さそうだな、すまんが急いでギルドに戻って少しの間森を閉鎖するようギルド長に伝えてくれないか?」

「あ、あぁ…わかった……
ところであんたはいったい?」

Bランクのブラッドベアを素手で殴り飛ばし
蹴りで仕留めた無茶苦茶なカンを相手に
冒険者たちはカンにそう聞くが肝心のカンは首を横に振る

「悪いが今は話してる時間はねぇ
ブラッドベア何かがこんな所に出るって事はもっと危険な奴が森にいるって事だろうが」

それだけ言うと更に奥の方へ走り出すカン

そして、そんなカンは気づかなかった


「…【無冠の帝王】……」

魔術師の女が、カンを見てその名を呟いていたことに……





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