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第二章 《選抜魔剣術大会》編

第125話 《道化師》の怒り

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「やってくれましたね……!」



 ドンッ!

 何かが、崩れかけた障壁を突き破って、ステージ内に飛び込んできた。

 ステージ上に土埃が立ち昇る。



「なんだ……」



 俺は、背筋に走る悪寒を感じながら、そちらを見る。

 土煙で、佇む人間の陰も見えない。

 しかし、圧倒的な存在感を漂わせていた。



 あまりにも濃密で、莫大な魔力。

 以前、地下研究所で戦ったあの、聖剣のレプリカを持つ怪物よりも、なお凄まじい威圧感。



「一体、誰だ」



 ごくりと唾を飲み込む。

 立ち上る土煙が晴れ、その存在が明らかとなる。



 茜色の髪をうなじで括り、メガネのレンズの向こうで鋭い眼光を放つ、妙齢の女性だった。

 その人物に、見覚えがありすぎて動揺する。



巨乳スイカのお姉さん!?」

「その例えはよくわからないけれど、正解よ坊や」



 その女性――エリスは、忌々しげに吐き捨てた。

 今まで、こんな魔力を感じなかった。まあ、ある程度力のあるヤツは、自分の魔力を隠し通せるものだが。

 それにしても、ここまでとは。



 このタイミングで、彼女が現れる理由。

 憎々しい視線。

 シエンを救っただけなのに、それを目障りと感じていそうな雰囲気。



 そして――暴走は、悪意を持った第三者が仕掛けた者である可能性が濃厚。つまり――

 ぴこーんと、俺の中で全てが繋がった。



「わかったぞ! 裏でシエンを操っていたのは、お前だな!!」

「……そんな当たり前のことを今更得意げに言われても、反応に困るのだけど……」



 エリスは、呆れたように俺を流し見て、頷いて見せた。



「ご明察、とあえて答え合わせしましょう。私の所属する組織の名は《神命の理》」

「しんめい……? ああ、学園で暴れ回ったテロ集団か」

「そう。そして、私はそこの最高幹部、《道化師クラウン》のエリス=ロードフェリス。もうおわかりでしょう? 私達の目的は――」

「シエンを何としても優勝させて、賞金をふんだくろうとしたんだな!?」

「違うわよ」

「え」



 気まずい沈黙が、俺達三人の間に流れる。



「まあ、研究費は必要だったから、それも手に入れるつもりだったけど。一番の目的は、彼女の力を組織のために手に入れること。呪いの治療という名目で彼女を抱き込み、研究材料《モルモット》として使役する。そして、《聖剣》と《魔剣》の力を解析し、それを移植した最強の人外戦闘集団を作ろうとしていた! なのに! その悉くを台無しにしやがって!!」



 エリスは激高する。

 怒りと憎しみに呼応するように、彼女の身体から溢れ出る魔力のオーラが濃くなった。



「貴重な研究材料から力を奪い、自然に事を運ぶために必要な、シエンの勝利という芽を摘み、しかも謀ったように!! 私達の計画がメチャクチャだ!! 貴様は絶対に許さない!!」

「いや、最後完全にあんたの八つ当たりだろ?」

「ウルサイ!! これも貴様のせいだ!!」

「理不尽!?」



 俺は小さくため息をつく。

 まあ、知らぬ間に相手の逆鱗に触れてたみたいだが、正味どうだっていい。



「俺だって、お前を許さないよ?」

「はぁ?」



 エリスは、小馬鹿にしたように眉をひそめる。



 俺は、ちらりと横に立つシエンを流し見た。

 なんとなく、黒幕を予想していたのか? それとも、最初から信用していなかったのか。

 彼女に動揺の色はない。しかし、途方もない悪意にあてられて、身体が微かに震えていた。



 俺は、シエンの震える手を握りつつ、エリスを見据える。

 もう俺は、相手を敵として認識している。



 詳しいことはバカだからわからない。

 ただ、一つわかることは。



「あんたはシエンを利用して、弄んだ。こいつの自由を奪う権利なんか、誰にもないんだよ」

「だったら、なんだ?」



 俺は小さく息を吸い込んで、エリスの方を睨みつけた。



「相応の報いを受けてもらう。相手してやるから、全力でかかってこいよ」


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