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第一章 《英雄(不本意)の誕生編》

第48話 嵐のような人

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《リクス視点》



 第一円形闘技場を抜け出してきた俺は、単身、姉を探して敷地内を走り回っていた。

 

「しっかし、ここにもいるんだな……イベントモンスター」



 走りながら、周囲を見まわした俺は、ぼそりとそう呟いた。

 第一円形闘技場に現れたのと同じ、ゴーレムやら動物の群れが、さっきからあちこちで見受けられる。

 それらに対し、学校の生徒達が応戦しているのだ。



 いきなり出現した召喚獣達は、そこまで強い奴等でもない。

 事実、苦戦しながらも生徒達は、次々と召喚獣を葬っている。

 

「やっぱり、学校側のイベントっぽいな。討伐数を稼いだ人は、お金貰えるとか、そんな感じかな」



 だとしたら、小遣い稼ぎにはもってこいだ。

 ちょうど欲しいゲームもあるし。

 これからニートを目指す俺にとって、貯金は必要なことだ。できることなら、このイベントにあやかりたいが……今は、そんなことしてる場合じゃない。



「一刻も早く姉さんを止めないと。副校長に接触して、退学阻止の後押しをされたら、厄介だ!」



 俺は、姉を探して駆ける速度を速めた。

 

 ふと、前方に数人の生徒達が見えた。

 今まで会ってきた人達と同じように、召喚獣達に応戦しているみたいだが……旗色は悪そうだ。



 何しろ、相手にしているのは大型の魔獣まじゅうが5体に、ブルー・タイガーと呼ばれる大型の獣が10匹。それに豪腕を持つゴーレムが2体。

 計17体の召喚獣を相手にしているからだ。いくら相手が雑魚でも、多勢に無勢。



「助太刀しておくか」



 スルーしたお陰で彼等が死んだら寝覚めが悪いし、何より学校側のサプライズイベントで死人が出るなんて、洒落にならないからな。



 俺は、腰に佩いた剣を引き抜いて、一足飛びに間合いを詰める。



「ひ、ひぃ!」「もうだめだ!」



 震えた声を上げている生徒達の間をすり抜け、豪腕を振り上げていたゴーレムの腕を切り飛ばす。

 仰け反るゴーレムの身体を思いっきり蹴り飛ばし、後ろに控えていたゴーレムもろとも後方へ吹き飛ばした。



『ガルルル……』



 生徒達に襲いかかろうとしていたブルー・タイガーと魔獣達が、標的を俺に変え、鋭い牙をむき出しにして四方八方から一斉に飛びかかってくる。

 そいつ等の爪が、牙が、俺の身体に触れる寸前。俺は右足を軸に回転し、飛びかかってくる召喚獣達を剣で薙ぎ払った。



 俺を中心に、斬撃の軌跡が円を描く。



『グガァアアアア!』



 一緒くたに斬り捨てられた召喚獣達は、断末魔をあげて、切り口から崩れて消えていく。



「よし、完了」



 剣に付着した血を払い、鞘に収めると、呆気にとられたように立ち尽くしている生徒達を振り返った。



「気持ちはわかるけど、あんまり欲張りすぎないようにしなよ。命は大切にね」



 身の丈にあわないことをして死ぬなんて、そんなバカな話もないからな。

 未だ心ここにあらずといった表情の生徒達を置き去りにして、俺は再び駆けだした。



 今のタイムロスは、ちょっと大きいかもしれないな。

 そんなことを考えていた俺の耳に、「貴様、やるではないか。魔法も使わずにあれだけの数を撃退するとは」というお褒めの言葉が聞こえてきた。



 横を見ると、いつの間にそこにいたのか、長身の女性が俺に併走していた。

 銀碧色シルバーグリーンの長髪に、金と銀のオッドアイを持つ、どこか気品溢れる人だ。

 

 この感じ……できる人だぞ。

 たぶん、エレン先輩と同じくらいには強い。制服の肩の白いラインが二本だから、二年生みたいだな。

 一体俺に何の用だろうか。



「そう警戒するな。余は貴様に何かしたいわけではない。ただ、前々から気になっていたから、声をかけただけだ」

「はぁ……俺は、あなたみたいな人は知らないですが」

「だろうな。余も、編入試験の様子を遠巻きに眺めていただけだ。余の魔眼をもってしても、姿をとらえきれない認識阻害魔法を使う生徒だったからな。ずっと気になっていたが、先程の剣技を見て確信した。やはり余の見立ては正しかった」

「は、はあ。さいですか」



 なんだか知らないけど、妙な人に注目されてたみたいだ。



「貴様は、今回の学内決勝大会に出場しているのか?」

「いえ、全く」

「そうか。出場していないのか」



 少し考え込んでいる様子だったが、不意にニヤリと笑うと、彼女はとんでもないことを言い出した。



「よし、わかった。余が《選抜魔剣術大会》の特別選抜枠を一つ増やして貰い、そこに貴様を入れて貰えるよう、選考委員に掛け合ってみる」

「……は?」

「余には一応コネがあるからな。承諾してくれる可能性は決して低くはない。光栄に思え、少年。余の推薦など、そうそう受けられるものではないぞ」



 この人は、一体何を言ってるんだ?

 特別選抜枠を増やす? 生徒の一存でそんなことが可能だと、本気で思ってるんだろうか。

 いやそれより、この人、俺を《選抜魔剣術大会》に出場させるつもりなのか!? ただの冗談だとしても、冗談じゃないぞ!



「どうだ? 余の提案は魅力的だろう?」

「えーそのー、大変魅力的ではあるのですが、謹んで遠慮させていただきます」

「なんだ、遠慮するな。もっと自分に正直に生きるべきだ」



 いや、既に自分に正直に生きてるよ、俺は。



「お気持ちだけいただいておきます」

「ふっ、ふははは。強いくせに謙虚だな貴様は」



 ひとしきり笑い飛ばしたあと、彼女は俺の肩を勢いよく叩きながら言った。

 い、痛い。



「わかった。貴様がそう言うのなら無理強いはすまい。だが、気が変わったらいつでも言ってくれ。余は貴様を気に入った。貴様がその気なら、いつでも選考委員に掛け合ってやる」

「は、はい」



 死んでも、“その気”になることはないだろうけど。



「さて、とりあえず今はこの状況をなんとかしないとな。余は行くが、貴様も気をつけろよ」



 彼女はそう告げて、渦巻く風を纏いながら召喚獣の群れに突っ込んで行ってしまった。

 突っ込んでいった先から召喚獣が断末魔をあげ、大空を舞う。

 さながら台風の目となって、片っ端から召喚獣を屠っていった。



「なんか、嵐みたいな人だったな……いろんな意味で」



 俺は、暴れ回る彼女の背を見据えながら、呆然と呟くのだった。


―――――――――――――――――――――

あとがき

読んでいただき、ありがとうございます。
嵐のような女性は、実は新キャラではなく「第11話 それぞれの反応」で登場したリーシスさんです。

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