5 / 51
第一章 《英雄(不本意)の誕生編》
第5話 予想外の高印象?
しおりを挟む
「……は?」
面接官は、呆けたようにつぶやいた。
「えっと……それは、どういうことかな?」
「そのままの意味です。俺は別に受験とかするつもりなかったんですけど、無理矢理受けさせられて」
「ほほう。つまりリクスくんは、自分の意志で本校を受けたわけではない、と」
面接官は頷きながら、手にした紙に羽ペンで何かを書き込んでいく。
おそらく、志望動機E、とかだろう。
うん? 待てよ。
これは……使えるぞ。
俺は、内心でほくそ笑んだ。
このまま面接官を呆れさせれば、俺はきっと試験に落ちる。
倍率が鬼のように高いこのエリート高だ。俺のように「怠惰」を座右の銘とする人間が入れるような、甘い場所ではない。
そして――試験に落ちれば、ごく正当な理由で姉の臑をかじって暮らせるのだ!
俺を見る面接官の目が非難めいているのを、俺はキラキラした瞳で見つめ返した。
「えーと……ちなみに、その姉というのは?」
ここまでくると、特に聞くこともないのだろう。
呆れた面接官の聞いてきた言葉がそれだった。
「え? 姉はエルザです」
「エルザ? まさかとは思いますが、勇者のエルザ=サーマルでは……」
「はい。そうですけど」
「なんと!?」
次の瞬間、面接官は勢いよく立ち上がった。
その反動で、彼の座っていたイスが後ろに倒れる。
だが、それに一瞥すらくれず、面接官の瞳は俺を見ていた。
「ふむ……ふむふむ。確かに、言われて見ればどこか面影がある。髪色は違うが……」
面接官は、興奮を押し殺すように言った。
確かに、姉さんと俺の髪色は違う。
姉さんは雪のように白く輝く、純白。
俺は、夜の闇のような漆黒だ。
だけど瞳の色は同じ赤だし、女性的なラインを描く顔の輪郭は似ている。2人とも母似なのだ。
先程の様子から一転。
面接官のじいさんは、どこか興奮した様子でしきりに俺を眺めていた。
「あ、あの……面接の続きを」
「いや、いい。十分だ」
面接官は、なぜか1人で納得したように頷く。
「え? だってまだ面接の時間は半分以上も残って――」
「彼女が君をこの学校に推薦したのなら、その実力はお墨付きだろう。私の面接などもはや必要ない」
ま、まずい。
笑顔の面接官を見ながら、俺は戦々恐々としていた。
なぜか知らないが、面接が合格する流れになっている。なんとかしなければ――
「あ、あの。俺は姉さんの肉親ですよ? 弟を贔屓するのは極めて自然だと思いますが――」
「いいや。彼女は、実力を認めていない相手を決して褒めることはしないし、訓練の場に誘うこともない。彼女の師匠として名を馳せたある男も、とある事件で彼女を失望させて追放された。優しく人気者だが、興味の無い相手は見向きもしない。そういう孤高の女性だ。彼女が学園でなんと言われているか、君は知っているかな?」
「いえ」
あまり興味も無いし。という言葉は流石に飲み込んだ。
「周りに決して靡かぬ姿から「凪の勇者」や「鉄の生徒会長」なんて呼ばれてたりするのだ」
「え、姉さんてそんなふうに呼ばれてたの……」
家では暴風吹き荒れてるのに、と心の中で言う。
家での姉さんしか知らないから、面接官の言う姉さんの姿が想像できない。
「まあとにかく、そういうわけで君はあのエルザ会長に気に入られていると見える。であれば、私など出る幕もない。面接は合格だ。実技試験に向かいたまえ」
「そ、そんな! 俺は――っ!」
慌てて、面接で落としてくれるよう懇願しようとする。
が、そのとき転移魔法が発動したらしい。
俺の身体は、強制的に廊下に弾き出されていた。
「次の方、どうぞ」
部屋の中から、面接官のウキウキしたような声が聞こえてくる。
「ね……姉さんのばかぁああああああああ!」
こうなったのも、全て姉さんが悪い。
俺は、行き場のない怒りを吐き出して、重い足取りで実技試験の会場へ向かった。
面接官は、呆けたようにつぶやいた。
「えっと……それは、どういうことかな?」
「そのままの意味です。俺は別に受験とかするつもりなかったんですけど、無理矢理受けさせられて」
「ほほう。つまりリクスくんは、自分の意志で本校を受けたわけではない、と」
面接官は頷きながら、手にした紙に羽ペンで何かを書き込んでいく。
おそらく、志望動機E、とかだろう。
うん? 待てよ。
これは……使えるぞ。
俺は、内心でほくそ笑んだ。
このまま面接官を呆れさせれば、俺はきっと試験に落ちる。
倍率が鬼のように高いこのエリート高だ。俺のように「怠惰」を座右の銘とする人間が入れるような、甘い場所ではない。
そして――試験に落ちれば、ごく正当な理由で姉の臑をかじって暮らせるのだ!
俺を見る面接官の目が非難めいているのを、俺はキラキラした瞳で見つめ返した。
「えーと……ちなみに、その姉というのは?」
ここまでくると、特に聞くこともないのだろう。
呆れた面接官の聞いてきた言葉がそれだった。
「え? 姉はエルザです」
「エルザ? まさかとは思いますが、勇者のエルザ=サーマルでは……」
「はい。そうですけど」
「なんと!?」
次の瞬間、面接官は勢いよく立ち上がった。
その反動で、彼の座っていたイスが後ろに倒れる。
だが、それに一瞥すらくれず、面接官の瞳は俺を見ていた。
「ふむ……ふむふむ。確かに、言われて見ればどこか面影がある。髪色は違うが……」
面接官は、興奮を押し殺すように言った。
確かに、姉さんと俺の髪色は違う。
姉さんは雪のように白く輝く、純白。
俺は、夜の闇のような漆黒だ。
だけど瞳の色は同じ赤だし、女性的なラインを描く顔の輪郭は似ている。2人とも母似なのだ。
先程の様子から一転。
面接官のじいさんは、どこか興奮した様子でしきりに俺を眺めていた。
「あ、あの……面接の続きを」
「いや、いい。十分だ」
面接官は、なぜか1人で納得したように頷く。
「え? だってまだ面接の時間は半分以上も残って――」
「彼女が君をこの学校に推薦したのなら、その実力はお墨付きだろう。私の面接などもはや必要ない」
ま、まずい。
笑顔の面接官を見ながら、俺は戦々恐々としていた。
なぜか知らないが、面接が合格する流れになっている。なんとかしなければ――
「あ、あの。俺は姉さんの肉親ですよ? 弟を贔屓するのは極めて自然だと思いますが――」
「いいや。彼女は、実力を認めていない相手を決して褒めることはしないし、訓練の場に誘うこともない。彼女の師匠として名を馳せたある男も、とある事件で彼女を失望させて追放された。優しく人気者だが、興味の無い相手は見向きもしない。そういう孤高の女性だ。彼女が学園でなんと言われているか、君は知っているかな?」
「いえ」
あまり興味も無いし。という言葉は流石に飲み込んだ。
「周りに決して靡かぬ姿から「凪の勇者」や「鉄の生徒会長」なんて呼ばれてたりするのだ」
「え、姉さんてそんなふうに呼ばれてたの……」
家では暴風吹き荒れてるのに、と心の中で言う。
家での姉さんしか知らないから、面接官の言う姉さんの姿が想像できない。
「まあとにかく、そういうわけで君はあのエルザ会長に気に入られていると見える。であれば、私など出る幕もない。面接は合格だ。実技試験に向かいたまえ」
「そ、そんな! 俺は――っ!」
慌てて、面接で落としてくれるよう懇願しようとする。
が、そのとき転移魔法が発動したらしい。
俺の身体は、強制的に廊下に弾き出されていた。
「次の方、どうぞ」
部屋の中から、面接官のウキウキしたような声が聞こえてくる。
「ね……姉さんのばかぁああああああああ!」
こうなったのも、全て姉さんが悪い。
俺は、行き場のない怒りを吐き出して、重い足取りで実技試験の会場へ向かった。
165
お気に入りに追加
406
あなたにおすすめの小説
俺の××、狙われてます?!
みずいろ
BL
幼馴染でルームシェアしてる二人がくっつく話
ハッピーエンド、でろ甘です
性癖を詰め込んでます
「陸斗!お前の乳首いじらせて!!」
「……は?」
一応、美形×平凡
蒼真(そうま)
陸斗(りくと)
もともと完結した話だったのを、続きを書きたかったので加筆修正しました。
こういう開発系、受けがめっちゃどろどろにされる話好きなんですけど、あんまなかったんで自給自足です!
甘い。(当社比)
一応開発系が書きたかったので話はゆっくり進めていきます。乳首開発/前立腺開発/玩具責め/結腸責め
とりあえず時間のある時に書き足していきます!
隠れて物件探してるのがバレたらルームシェアしてる親友に押し倒されましたが
槿 資紀
BL
どこにでもいる平凡な大学生、ナオキは、完璧超人の親友、御澤とルームシェアをしている。
昔から御澤に片想いをし続けているナオキは、親友として御澤の人生に存在できるよう、恋心を押し隠し、努力を続けてきた。
しかし、大学に入ってからしばらくして、御澤に恋人らしき影が見え隠れするように。
御澤に恋人ができた時点で、御澤との共同生活はご破算だと覚悟したナオキは、隠れてひとり暮らし用の物件を探し始める。
しかし、ある日、御澤に呼び出されて早めに家に帰りつくと、何やらお怒りの様子で物件資料をダイニングテーブルに広げている御澤の姿があって――――――――――。
来訪神に転生させてもらえました。石長姫には不老長寿、宇迦之御魂神には豊穣を授かりました。
克全
ファンタジー
ほのぼのスローライフを目指します。賽銭泥棒を取り押さえようとした氏子の田中一郎は、事もあろうに神域である境内の、それも神殿前で殺されてしまった。情けなく申し訳なく思った氏神様は、田中一郎を異世界に転生させて第二の人生を生きられるようにした。
うちのワンコ書記が狙われてます
葉津緒
BL
「早く助けに行かないと、くうちゃんが風紀委員長に食べられる――」
怖がりで甘えたがりなワンコ書記が、風紀室へのおつかいに行ったことから始まる救出劇。
ワンコ書記総狙われ(総愛され?)
無理やり、お下品、やや鬼畜。
裏切られたあなたにもう二度と恋はしない
たろ
恋愛
優しい王子様。あなたに恋をした。
あなたに相応しくあろうと努力をした。
あなたの婚約者に選ばれてわたしは幸せでした。
なのにあなたは美しい聖女様に恋をした。
そして聖女様はわたしを嵌めた。
わたしは地下牢に入れられて殿下の命令で騎士達に犯されて死んでしまう。
大好きだったお父様にも見捨てられ、愛する殿下にも嫌われ酷い仕打ちを受けて身と心もボロボロになり死んでいった。
その時の記憶を忘れてわたしは生まれ変わった。
知らずにわたしはまた王子様に恋をする。
転移先はドラゴン三姉妹のいる島でした~神様からもらった万能クラフトスキルで、開拓スローライフを満喫します~
いちまる
ファンタジー
☆毎週月・水・金曜日更新☆
道に咲いたタンポポを避けた末に死んでしまった少年、雨宮虎太郎(あまみやこたろう)。
彼はテキトーな神様からスキルをもらい、異世界の孤島に転移させられる。
途方に暮れる虎太郎だったが、彼が手に入れたのは素材さえあれば何でも作れる『クラフトスキル』だった。
さらに虎太郎は、島で3人のドラゴン少女と出会う。
生真面目な長女、エセル。
奔放で快活な次女、ジェシカ。
甘えん坊な小悪魔三女、リタ。
過酷なはずの大自然の生活も、クラフトスキルでのんびり開拓ライフに変わる。
そしてここから、虎太郎と美少女三姉妹の、サイコーにハッピーな日々が始まるのだった。
追放された低級回復術師が実は最強の賢者候補だった件~最強の相棒を持つ名ばかりのヒーラーは自重を強いられても世界最強……だが女の子には弱い~
詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)
ファンタジー
※完結済み作品なので確実に完結します!!
とある理由で無念にもパーティーから追放されてしまったE級冒険者(回復術師)のレギルスには実は異界より転移してきた賢者見習いという裏の顔があった。
賢者の卵でありながら絶大な力を持つレギルスは魔力等を抑制する特殊な刻印を押され、師である大賢者から課せられたある課題を成し遂げるべく、同じく刻印を押された相棒のボルと共に異界での日々を過ごしていた。だがある時、二人との少女との出会いによって彼らの日々は大きく転変していくことに……
これは自重を強いられても、実の力を伏しても最強な回復術師(もとい賢者候補)が目的を達成するべく世を渡り、ときには蹂躙していく物語である。
友達のその先
ねこみ
BL
「俺なんかお前でしか勃たなくなったみたい」
友人から言われ試しにえちなことをするDKの話。乳首責めあまりない挿入なし。
誤字脱字は安定にあります。脳内変換しつつ優しい目で見守ってくれると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる