裏切られてダンジョンの最下層に落とされた僕。偶然見つけたスキル、《スキル交換》でSクラスモンスターの最強スキルを大量ゲット!? 

果 一

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第二章 《最凶の天空迷宮編》

第五十三話 一矢報いること能わず

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《ウッズ視点》

 パキィイイイン!



 遠ざかる意識の向こうで、金属と金属がぶつかり合ったような甲高い音が鳴った。

 次の瞬間、周囲を包んでいた水が跡形もなく消え去り、代わりにゴツゴツとした地面が背中に触れた。



「――ッ! ゲホッ! ゴホッ!」



 肺が酸素を求めて激しく咳き込む。

 目を開くと、一片の光も通さない暗闇だった空は、分厚い雲で覆われたものに変わっていて、大粒の雨が降っていた。



 身体に絡みついていた水の不死鳥は、突然の変化に驚いたのか、俺の身体を締め付ける力が一瞬緩んだ。



(今だっ!)



 この好機を逃すまいと、俺はありったけの力を込めて水の不死鳥を引きはがし、脱出する。



(と、とにかく距離を……っ!)



 攻撃を仕掛けてきても対応できるよう、距離を取ろうと飛び下がる。

 が、着地したとき、違和感と共に寒気を覚えた。

 着地した足のかかとに、地面を踏みしめている感覚が無い。



「どわっ!?」



 バランスを崩し、後ろに倒れそうになるのを慌てて耐える。

 何か、とてつもなくイヤな予感がしたからだ。



 足下を見た俺は、「あっ!」と声を上げた。

 俺は……断崖絶壁の岩山の中腹に立っていたのだ。

 かかとは空中へはみ出していて、あと数センチ後ろに飛んでいれば真っ逆さまに落ちていただろう。



(っ!)



 全身のうぶ毛がぞわっと逆立つのを感じる。

 

 さっきまでの世界とは、まるで違う景色になっていた。

 鋭く尖った崖が幾重にも折り重なった岩山を中心に、その岩山の全高よりもさらに高い水の壁がぐるりと周囲を取り巻いている。



 まるで海原を垂直に切り裂いたような水の断面が、そのまま壁になっているみたいで、不思議な光景だ。

 遙か下にある水壁すいへきの根元には、トンネルの入り口のような穴がずらりと並んでいる。

 どんな理屈でこんな構造になっているのか、皆目見当も付かないが――



(おっと、周りに気を取られてる場合じゃねぇ!)



 なぜいきなり世界が様変わりしたのかとか、このダンジョンは一体どういう構造になっているのかとか、気になることは山ほどあるが、そんなことを考えていられる状況じゃない。



 ふと視線を空に向けると、体勢を立て直した不死鳥が、金切り声を上げながら突進してくるのが見えた。



「くっ! スキル《拘束バインド》ッ!」



 《拘束バインド》を起動すると、どこからともなく現れたロープが、不死鳥の身体を縛って無力化しようと襲いかかる。



 魔法スキルが使えない今、サポートをしゅとした通常スキルしか使えない。

 S~SSクラスのモンスターは、ときどき魔法スキルを凌駕する威力を誇る通常スキルを有しているらしいが、入手難易度は桁違いに高いらしい。



 らしい、というのはそもそも属性を有していない高威力の攻撃用スキルを使用している人なんて誰も見たことがなく、入手できるかどうかも眉唾ものだからだ。



 通常スキルは戦闘に向かない。それ単体では、高レベル・ハイクラスのモンスターには手も足も出ない。

 それが常識。



 案の定、《拘束バインド》で生み出されたロープは水で出来た不死鳥の身体をすり抜けてしまう。



 たぶん、何をやってもダメだ。

 それがわかっていても――今は通常スキルのみで対抗するしかなかった。



△▼△▼△▼



「クソ……が」



 無様に岩肌に背をついたまま、俺はそう吐き捨てた。

 

 立ち向かってから、数分もしないうちに、俺は身動きができない状況まで追い込まれた。

 せっかく、さっき謎のステージ強制変更現象が起きて、一矢報いるチャンスを獲得したのにもかかわらず、手も足も出なかった。

 ――言い訳のしようもないくらいの惨敗だ。



(ああ、今度こそ終わった)



 最早、指一本動かすことが敵わない。

 あと一撃でも喰らえば、確実に死ぬ。

 ノイズのような雨が降りしきる空中で、ホバリングしている水の不死鳥を見ながら、俺は小さく息を吐いて――



「ウッズ!!」



 不意に、水の不死鳥が羽ばたく音と、降りしきる雨の音で彩られた世界に、雑音が混じる。



(俺を呼ぶ声……誰だ?)



 仰向けのまま、首だけを回して崖の下を見る。

 周囲を取り囲む巨大な水壁。その最下部にずらりと並ぶトンネルのような黒い穴。

 うち一つの前に、何やら人影があった。



 ソイツらを目にした瞬間、俺の心臓はドクンと大きく波打ち、瞳孔は大きく見開かれた。

 何せ、俺を切り捨てた女と――俺が切り捨てた男がそこにいたからだ。

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