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第二章 《最凶の天空迷宮編》
第四十七話 怒れる脚
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「赤炎交差!」
エナは、《火炎付与》を施した双剣を交差させ、カエラナイに斬りかかる。
二条の炎は、断末魔を上げる暇すら与えず、カエラナイの身体を四つに引き裂いた。
「やった!」
思わずガッツポーズをする。
彼女の攻撃は、完全に決まった。
四つに分かたれた肉は、まるで霧の中に溶け込むように、消えていく。
「やったな、エナ!」
着地したエナに向かって、サムズアップしてみせる。
「ええ!」
彼女は、剣を腰におさめながら笑顔で応じた。
――が、そのとき。
ぞくり。
不意に、背筋が凍るような感覚を覚えた。
それは、索敵スキルなどの類いによるものではない。
ダンジョンの最下層という、気を抜けない魔窟を、ほぼ一人で攻略してきたことで目覚めた、一種の危機感値能力。
心臓が警鐘を鳴らし、僕に危機を告げている。
まだ、奴は死んでいないと。
(そもそも、よく考えたらおかしいだろ! いくらエナが強いとは言え、エナのランクはB。対して敵はSSクラスだ。一撃で死ぬわけがない!)
じゃあ、どうしてあたかも死んだように見えたのか?
今、カエラナイの姿がどこにも見当たらないのか?
(奴のスキルを思い出せ……確か、毒の他に《幻影》と《擬態》があった……まさか!? 自分の幻を出す能力と、周りの景色に擬態し、透明化しているように見せる能力がある!?)
僕の中で、一つの答えが弾き出された。
その瞬間、僕の脚はエナに向かって勝手に走り出していた。
「構えろエナ!」
「え、どうして?」
「まだ終わってない!! 奴はまだ生きて――」
言いかけた瞬間、エナの目の前にいきなりカエラナイが現れた。
「なっ!?」
硬直してしまうエナ。
「エナッ!」
僕は、たまらず叫び声を上げ、エナの方へ駆け出した。
遠い。
彼女までの距離が、遠すぎる。
彼我の距離はたかだか数十メートル。
だが、たったそれだけの距離を僕が踏破するより早く、敵の攻撃が放たれるだろう。
加えて、今の僕はクレアととーめちゃんを背中に背負ったままだ。
(間に合わない!)
焦る僕をちらりと一瞥したカエラナイが、にやりと不気味に笑った。
『我が術を看破したのは流石だが、少々遅かったな。お前の連れは、ここで終わる』
「っ!」
カエラナイは残酷に言い捨てて、口を開く。
開いた口から飛び出した青紫色の舌がぎゅるぎゅると捻れて形を変え、尖った毒針になった。
『死ね』
その言葉と共に、エナめがけて毒針と化した舌……スキル《猛毒針》が伸びる。
(くそっ! 届かないのか!?)
彼我の距離は、あと十メートルもある。
極限状態の中、毒針がエナに向かって伸びる様子が、やけにゆっくりと映る。
思考も、視界も、まるでスローモーションにかかったかのように、一コマ一コマ鮮明に頭の中に投射される。
と同時に、モンスターを前に怯えている三年前のエナの後ろ姿がフラッシュバックし、目の前のエナと重なった。
それが、心の奥底に潜んでいる激情を呼び起こす呼び水となる。
「させるかぁああああああああッ!!」
咆哮と共に、無意識下でスキル《速度超過》と《超跳躍》を多重付与する。
爆発的に上がった身体能力に脚が軋むのに構わず、水面の下にある地面を踏み込んだ。
ドンッ!
衝撃で水飛沫が後方にカッ飛んでいく。
その音を聞きながら、僕は一息にカエラナイとエナの間に割り込んだ。
両者の間に一瞬だけ割り込んだ刹那の間隙。
そのタイミングを逃すまいと、右腕を突き出した。
「スキル《龍鱗》ッ!」
右腕に橙色に輝く龍鱗を生やし、肉薄する毒針を受け流す。
キンッ! と金属が擦れるような音を立て、毒針が弾かれる。
『バカな!』
驚愕に目を見開くカエラナイ。
両者の間に割って入った一瞬の間に攻撃を阻止した僕は、一息に突っ込んだ勢いのままにエナとカエラナイの間を通り過ぎ、空中で身を捻って体勢を立て直す。
両足で着地し、水しぶきを上げながら勢いを殺して止まった僕の耳に、「危ない!」というエナの声が聞こえた。
振り返れば、カエラナイが《超跳躍》を起動して高速でカッ飛んできているのが映った。
「逃げてエランくん!」
『もう遅い!』
こちらの身体は相手に対して後ろに向いている。
クレアととーめちゃんを背負った状態で、今から身体の向きを変えて体勢を決め、攻撃スキルを放つには、あまりにも時間がなさすぎる。
故に、勝ちを確信したカエラナイがその巨体を勢いのままに僕へぶつけようと、突っ込んで来た。
エナは、《火炎付与》を施した双剣を交差させ、カエラナイに斬りかかる。
二条の炎は、断末魔を上げる暇すら与えず、カエラナイの身体を四つに引き裂いた。
「やった!」
思わずガッツポーズをする。
彼女の攻撃は、完全に決まった。
四つに分かたれた肉は、まるで霧の中に溶け込むように、消えていく。
「やったな、エナ!」
着地したエナに向かって、サムズアップしてみせる。
「ええ!」
彼女は、剣を腰におさめながら笑顔で応じた。
――が、そのとき。
ぞくり。
不意に、背筋が凍るような感覚を覚えた。
それは、索敵スキルなどの類いによるものではない。
ダンジョンの最下層という、気を抜けない魔窟を、ほぼ一人で攻略してきたことで目覚めた、一種の危機感値能力。
心臓が警鐘を鳴らし、僕に危機を告げている。
まだ、奴は死んでいないと。
(そもそも、よく考えたらおかしいだろ! いくらエナが強いとは言え、エナのランクはB。対して敵はSSクラスだ。一撃で死ぬわけがない!)
じゃあ、どうしてあたかも死んだように見えたのか?
今、カエラナイの姿がどこにも見当たらないのか?
(奴のスキルを思い出せ……確か、毒の他に《幻影》と《擬態》があった……まさか!? 自分の幻を出す能力と、周りの景色に擬態し、透明化しているように見せる能力がある!?)
僕の中で、一つの答えが弾き出された。
その瞬間、僕の脚はエナに向かって勝手に走り出していた。
「構えろエナ!」
「え、どうして?」
「まだ終わってない!! 奴はまだ生きて――」
言いかけた瞬間、エナの目の前にいきなりカエラナイが現れた。
「なっ!?」
硬直してしまうエナ。
「エナッ!」
僕は、たまらず叫び声を上げ、エナの方へ駆け出した。
遠い。
彼女までの距離が、遠すぎる。
彼我の距離はたかだか数十メートル。
だが、たったそれだけの距離を僕が踏破するより早く、敵の攻撃が放たれるだろう。
加えて、今の僕はクレアととーめちゃんを背中に背負ったままだ。
(間に合わない!)
焦る僕をちらりと一瞥したカエラナイが、にやりと不気味に笑った。
『我が術を看破したのは流石だが、少々遅かったな。お前の連れは、ここで終わる』
「っ!」
カエラナイは残酷に言い捨てて、口を開く。
開いた口から飛び出した青紫色の舌がぎゅるぎゅると捻れて形を変え、尖った毒針になった。
『死ね』
その言葉と共に、エナめがけて毒針と化した舌……スキル《猛毒針》が伸びる。
(くそっ! 届かないのか!?)
彼我の距離は、あと十メートルもある。
極限状態の中、毒針がエナに向かって伸びる様子が、やけにゆっくりと映る。
思考も、視界も、まるでスローモーションにかかったかのように、一コマ一コマ鮮明に頭の中に投射される。
と同時に、モンスターを前に怯えている三年前のエナの後ろ姿がフラッシュバックし、目の前のエナと重なった。
それが、心の奥底に潜んでいる激情を呼び起こす呼び水となる。
「させるかぁああああああああッ!!」
咆哮と共に、無意識下でスキル《速度超過》と《超跳躍》を多重付与する。
爆発的に上がった身体能力に脚が軋むのに構わず、水面の下にある地面を踏み込んだ。
ドンッ!
衝撃で水飛沫が後方にカッ飛んでいく。
その音を聞きながら、僕は一息にカエラナイとエナの間に割り込んだ。
両者の間に一瞬だけ割り込んだ刹那の間隙。
そのタイミングを逃すまいと、右腕を突き出した。
「スキル《龍鱗》ッ!」
右腕に橙色に輝く龍鱗を生やし、肉薄する毒針を受け流す。
キンッ! と金属が擦れるような音を立て、毒針が弾かれる。
『バカな!』
驚愕に目を見開くカエラナイ。
両者の間に割って入った一瞬の間に攻撃を阻止した僕は、一息に突っ込んだ勢いのままにエナとカエラナイの間を通り過ぎ、空中で身を捻って体勢を立て直す。
両足で着地し、水しぶきを上げながら勢いを殺して止まった僕の耳に、「危ない!」というエナの声が聞こえた。
振り返れば、カエラナイが《超跳躍》を起動して高速でカッ飛んできているのが映った。
「逃げてエランくん!」
『もう遅い!』
こちらの身体は相手に対して後ろに向いている。
クレアととーめちゃんを背負った状態で、今から身体の向きを変えて体勢を決め、攻撃スキルを放つには、あまりにも時間がなさすぎる。
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