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第一章 《最下層追放編》
第一話 追放と、始まりと
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『グォオオオオオオオオッ!』
猛々しい咆哮が響き渡る。
ここは第三迷宮《トリアース》の第7階層。
下の階層に降りるほどモンスターも強くなるダンジョンで、一桁の階層は然程強いモンスターは住み着いていない。
精々ランクCクラスの雑魚ざこモンスターが徒党を組んでいるくらいだ。
そのはずなのに――
「う、嘘だろ!? なんでサイクロプスがこんなところにいんだよぉ!! ランクSクラスだぞ!!」
僕――エランが所属しているパーティ《緑青の剣》のリーダー、ウッズは驚愕の叫びを上げた。
驚いているのは彼だけじゃない。
後ろに控えるメンバー全員が、脂汗を滝のように垂らして「冗談だろ?」「ここはまだ7階層だぞ……」と口々に呟いている。
サイクロプス。
全高二十メートルを超える巨体に、岩をも砕く豪腕を持つ、一つ目の巨人。
本来、ここより遙か地下の50階層より先にしかいない、正真正銘の怪物だ。
E~SSまであるモンスターランクの中でも、上位格に位置するSクラス。
こんな上層にいていいモンスターじゃない。
『ウォオオオオオオオッ!』
サイクロプスは再度雄叫びを上げると、大岩のような拳をすぐ横の土壁にたたき付けた。
現在地は、第7回層の土壁で囲まれた巨大な洞窟。
地面も床も天井も、分厚い土の層でできている。
ちょっとやそっとの攻撃で崩れるほど、柔らかくはないはずだ。
だというのに。
土壁に拳が激突した瞬間、その地点を中心にビキビキと亀裂が入り、壁と天井が轟音を上げて砕け散った。
「に、逃げるぞっ!」
ウッズの指示で、仲間達は脱兎の如く逃げ出す。
(まずいまずいマズイマズイ!)
僕も踵を返して、一目散に走り出した。
あんなの、太刀打ちできるわけがない!
洞窟を全力で逆走し、やがて石橋に差し掛かった。
ダンジョンを縦にくり抜いたような円筒形の空間に架けられている、長い橋だ。
下を見れば、まるで奈落に続いているかのごとく、暗く深い闇を湛えている。
噂で聞いたことがあるが、この下はダンジョンの最下層になっているらしい。
もちろん、ここからは遠すぎて見えないから、噂の範疇に留まっているのだけど。
けど、今はそんなこと考えている場合じゃない。
(とにかく、一秒でも早く橋を渡りきるんだ!)
橋の向こうは、せいぜい二人の人間が並んで歩けるくらいの広さしかない洞窟になっている。
そこへ逃げ込みさえすれば、もうサイクロプスは追ってこられない。
「それに、あれだけの巨体だ。移動速度が速いとも思えな――」
『グォオオオオオオオオッ!』
すぐ後ろで咆哮が聞こえて、反射的に振り返る。
なんと、僕のほぼ真上の位置にサイクロプスの股があった。
「んなっ!? 近ぁ!!」
ていうか、足速っ!?
超爆速のフラグ回収をしてしまった。
よくよく考えれば当然だ。
たとえ人間より動きが鈍重だとしても、一歩の歩幅が段違いなのだから。
(このままじゃ追いつかれる!)
「このままじゃ追いつかれる!」
心の声とウッズの声が被る。
横を見れば、必死の形相で走っているウッズがいた。
「ねぇ、どうするのリーダー?」
「どうするもなにも……いや、待てよ」
ウッズは、僕の方を見るとにやりとほくそ笑んだ。
「いいこと思いついたぜ」
「いいこと……?」
「ああ、こうするんだよっ!」
ドンッ。
鈍い衝撃が腹部に炸裂した。
ウッズがいきなり、僕を蹴り飛ばしてきたのだ。
「かはっ!」
肺の空気を押し出され、地面に転倒する。
「けほっごほっ! な、何をするんだよ!」
咳き込みながら、彼を見上げる。
ウッズは凄絶に冷たい笑いを浮かべ、僕を指さして呟いた。
「スキル《標的誘導》」
ぽわん。
不思議な音と共に、僕の身体が一瞬桃色に発光した。何らかのスキルを付与したときに起こる現象だ。
「標的を指定するスキルをお前にかけた。このスキルをかけられたヤツは、一定時間モンスターから狙われやすくなる」
「そ、それってつまり……」
「お前、囮になれよ」
「なっ……」
あまりに非道なことを言われて、絶句してしまう。
(はぁっ!? ふざけるな!!)
囮になれなんて冗談じゃない。
僕に死ねと言っているようなものだ。
「バーカ。実際に死ねって言ってんだよ」
心を読んだかのように、ウッズは言い捨てた。それも……平然と。
「は? それ、どういう意味……なの」
「言葉通りさ。大体、お前個人ランクEで、ユニークスキルも持ってねぇ雑魚だろ。お前みたいな無能を荷物持ちとして置いとくだけでも、厄介なんだよ! だったらせめて、死んで役に立てよ。ゴミクズが」
「……くっ!」
頭に血が上る。
確かに僕は、この《緑青の剣》に荷物持ちとして雇われた身だ。
雑魚モンスターが相手だって苦戦する弱小スキルしかなく、戦闘はこなせない。
けど……
「今までお前達のアイテムを運んできたのは誰だと思ってるんだ!」
思わず激高する。
そう言わずにはいられなかった。
「はぁ? たかがアイテムを運ぶことしか脳がねぇガキが、粋がってんじゃねぇよ」
忌々しげに吐き捨てるウッズ。
何が「ガキ」か。
あんただってまだ十九歳じゃないか。十七の僕とほとんど変わりはしない。
「とにかく、俺達は逃げる。お前はそのデカブツを引き付けて殺されろ! 最後くらい俺達の役に立て!」
そう一方的に言い捨てて、ウッズは他の仲間達と共に走り出した。
「ま、待てよ!」
慌てて後を追う俺の背後で、ゴゴゴゴ……と音がした。
振り返れば、サイクロプスがその巨大な拳を振り上げ、今まさに振り下ろそうとしている。
真っ赤に光る単眼は、間違い無く僕の方に向けられていた。
(し、死ぬっ! 死んじゃう!)
全力疾走でウッズ達の後を追う。
「ちっ。だからお前……こっち来んなっ!」
ウッズは僕を振り返るや否や、僕を思いっきり突き飛ばした。
「……え」
身体が宙に浮いた感覚。
下を見れば、吸い込まれそうな程に暗い大穴が口を開けている。
突き飛ばされた衝撃で、石橋から落ちたのだ。
「た、助け……っ」
反射的に手を伸ばす。
ウッズがその手の取ってくれるわけないことは、わかりきっていたけど。
他のメンバー達は脇目も振らず逃げていて、僕のピンチに気付かない。
ただ唯一、エナだけが僕の方を振り返り、驚愕の表情を顔に貼り付けていた。
けれど、それを見たのも一瞬。
彼女の顔は縦ブレに消えた。もの凄いスピードで、僕の身体は奈落へと吸い込まれてゆく。
(こんな速度で最下層にたたき付けられたら、痛いだけじゃ済まない!)
もれなく全身ミンチになって人生終了だ。
「くっ! スキル《空気障壁》!」
一か八か、空気の防護膜で全身を覆うスキルを発動させる。
刹那、奈落に果てが見えた。
最下層に位置する場所には、小さな円形の湖が広がっていた。
僕の身体は防護膜に守られたまま湖へと落下。
もの凄い音と共に、一瞬視界が気泡で真っ白に曇り、すぐさまインディブルーへと様変わりする。
地底湖だろうけど、底が見えないくらいに深い。
(とにかく、岸へ上がろう……)
《空気障壁》を解除し、水上へと浮上するのだった。
△▼△▼△▼
ここは、第三迷宮《トリアース》の最下層・第89階層
岸に上がった僕は、ひとつ安堵の息を漏らした。
「危なかった。《空気障壁》のスキルが無かったら、たぶん死んでた」
ほっと一息つく。
と、代わりにふつふつと怒りが湧いてきた。
あいつ、僕を裏切りやがって!
絶対に復讐してやる!
そう心に決めた矢先。
ズドォオン! というけたたましい音を立てて、水柱が上がった。
巨大な何かが、空から降ってきたのだ。
「げっ! まさか……っ!?」
嫌な予感がして、僕は唾を飲み込んだ――次の瞬間。
『グワァアアアアアアッ!』
咆哮とともに水面が大きく波打ち、見上げるほどの巨体が姿を現した。
「ぎゃぁあああっ! やっぱりまだ狙われてるぅうううっ!」
サイクロプスの目は、完全に僕をロックオンしている。まったく、モテる男は辛い。
「とにかく、こいつをなんとかしないと!」
どうにかできるスキルはないかと、改めて自身のステータスを確認する。
◆◆◆◆◆◆
エラン
Lv 8
HP(体力) 122/134
MP(魔力) 47/47
STR(攻撃力) 32
DEF(防御力) 23
DEX(命中) 12
AGI(回避)19
LUK(運) 48
スキル(通常) 《空気障壁》 《アイテム効果+10%》 《サーチ》
スキル(魔法) ―
ユニークスキル ―
アイテム 《ナイフ》×1 《HP回復ポーション》×24 《MP回復ポーション》×19 《状態異常無効化の巻物》×20
個人ランクE
所属 《緑青の剣》(追放)
◆◆◆◆◆◆
あ、ダメだこりゃ。
思わず肩を落とす。
通常スキルははっきり言って使い物にならない。
強力な属性攻撃のできる魔法スキルも、稀に宝箱などから入手できるユニークスキルも所持してない。
ただでさえ、Sクラスのモンスターは、手練れの攻略者が数十人で挑んで勝てるかどうか……というレベルの攻略難易度を誇る。
マトモな攻撃手段はナイフのみ。
7階層から89階層までの距離を落下し、生身で水面にたたき付けられたというのにピンピンしているサイクロプスには、傷一つ付けられないだろう。
《緑青の剣》のお荷物だった僕は、実際に荷物持ちをしていたわけだから、所持アイテム数だけは多いけれど、現状を打破しうるアイテムはゼロだ。
ジ・エンドである。
が、そのとき僕は、近くに宝箱が置かれているのに気付いた。
そしてここは、ダンジョンの最下層。S~SSクラスのモンスターが蔓延る魔窟。
そんな場所に置かれた宝箱に、レアアイテムが入っていないわけがない!
「頼むぞ! 僕の運に賭ける!」
いいアイテムが出れば、なんとかこの状況を切り抜けられるかもしれない。
ハズレであれば命はない。
100か0。究極のギャンブルだ。
僕は宝箱に手を掛けて、蓋を開けた。その中に入っていたのは――
猛々しい咆哮が響き渡る。
ここは第三迷宮《トリアース》の第7階層。
下の階層に降りるほどモンスターも強くなるダンジョンで、一桁の階層は然程強いモンスターは住み着いていない。
精々ランクCクラスの雑魚ざこモンスターが徒党を組んでいるくらいだ。
そのはずなのに――
「う、嘘だろ!? なんでサイクロプスがこんなところにいんだよぉ!! ランクSクラスだぞ!!」
僕――エランが所属しているパーティ《緑青の剣》のリーダー、ウッズは驚愕の叫びを上げた。
驚いているのは彼だけじゃない。
後ろに控えるメンバー全員が、脂汗を滝のように垂らして「冗談だろ?」「ここはまだ7階層だぞ……」と口々に呟いている。
サイクロプス。
全高二十メートルを超える巨体に、岩をも砕く豪腕を持つ、一つ目の巨人。
本来、ここより遙か地下の50階層より先にしかいない、正真正銘の怪物だ。
E~SSまであるモンスターランクの中でも、上位格に位置するSクラス。
こんな上層にいていいモンスターじゃない。
『ウォオオオオオオオッ!』
サイクロプスは再度雄叫びを上げると、大岩のような拳をすぐ横の土壁にたたき付けた。
現在地は、第7回層の土壁で囲まれた巨大な洞窟。
地面も床も天井も、分厚い土の層でできている。
ちょっとやそっとの攻撃で崩れるほど、柔らかくはないはずだ。
だというのに。
土壁に拳が激突した瞬間、その地点を中心にビキビキと亀裂が入り、壁と天井が轟音を上げて砕け散った。
「に、逃げるぞっ!」
ウッズの指示で、仲間達は脱兎の如く逃げ出す。
(まずいまずいマズイマズイ!)
僕も踵を返して、一目散に走り出した。
あんなの、太刀打ちできるわけがない!
洞窟を全力で逆走し、やがて石橋に差し掛かった。
ダンジョンを縦にくり抜いたような円筒形の空間に架けられている、長い橋だ。
下を見れば、まるで奈落に続いているかのごとく、暗く深い闇を湛えている。
噂で聞いたことがあるが、この下はダンジョンの最下層になっているらしい。
もちろん、ここからは遠すぎて見えないから、噂の範疇に留まっているのだけど。
けど、今はそんなこと考えている場合じゃない。
(とにかく、一秒でも早く橋を渡りきるんだ!)
橋の向こうは、せいぜい二人の人間が並んで歩けるくらいの広さしかない洞窟になっている。
そこへ逃げ込みさえすれば、もうサイクロプスは追ってこられない。
「それに、あれだけの巨体だ。移動速度が速いとも思えな――」
『グォオオオオオオオオッ!』
すぐ後ろで咆哮が聞こえて、反射的に振り返る。
なんと、僕のほぼ真上の位置にサイクロプスの股があった。
「んなっ!? 近ぁ!!」
ていうか、足速っ!?
超爆速のフラグ回収をしてしまった。
よくよく考えれば当然だ。
たとえ人間より動きが鈍重だとしても、一歩の歩幅が段違いなのだから。
(このままじゃ追いつかれる!)
「このままじゃ追いつかれる!」
心の声とウッズの声が被る。
横を見れば、必死の形相で走っているウッズがいた。
「ねぇ、どうするのリーダー?」
「どうするもなにも……いや、待てよ」
ウッズは、僕の方を見るとにやりとほくそ笑んだ。
「いいこと思いついたぜ」
「いいこと……?」
「ああ、こうするんだよっ!」
ドンッ。
鈍い衝撃が腹部に炸裂した。
ウッズがいきなり、僕を蹴り飛ばしてきたのだ。
「かはっ!」
肺の空気を押し出され、地面に転倒する。
「けほっごほっ! な、何をするんだよ!」
咳き込みながら、彼を見上げる。
ウッズは凄絶に冷たい笑いを浮かべ、僕を指さして呟いた。
「スキル《標的誘導》」
ぽわん。
不思議な音と共に、僕の身体が一瞬桃色に発光した。何らかのスキルを付与したときに起こる現象だ。
「標的を指定するスキルをお前にかけた。このスキルをかけられたヤツは、一定時間モンスターから狙われやすくなる」
「そ、それってつまり……」
「お前、囮になれよ」
「なっ……」
あまりに非道なことを言われて、絶句してしまう。
(はぁっ!? ふざけるな!!)
囮になれなんて冗談じゃない。
僕に死ねと言っているようなものだ。
「バーカ。実際に死ねって言ってんだよ」
心を読んだかのように、ウッズは言い捨てた。それも……平然と。
「は? それ、どういう意味……なの」
「言葉通りさ。大体、お前個人ランクEで、ユニークスキルも持ってねぇ雑魚だろ。お前みたいな無能を荷物持ちとして置いとくだけでも、厄介なんだよ! だったらせめて、死んで役に立てよ。ゴミクズが」
「……くっ!」
頭に血が上る。
確かに僕は、この《緑青の剣》に荷物持ちとして雇われた身だ。
雑魚モンスターが相手だって苦戦する弱小スキルしかなく、戦闘はこなせない。
けど……
「今までお前達のアイテムを運んできたのは誰だと思ってるんだ!」
思わず激高する。
そう言わずにはいられなかった。
「はぁ? たかがアイテムを運ぶことしか脳がねぇガキが、粋がってんじゃねぇよ」
忌々しげに吐き捨てるウッズ。
何が「ガキ」か。
あんただってまだ十九歳じゃないか。十七の僕とほとんど変わりはしない。
「とにかく、俺達は逃げる。お前はそのデカブツを引き付けて殺されろ! 最後くらい俺達の役に立て!」
そう一方的に言い捨てて、ウッズは他の仲間達と共に走り出した。
「ま、待てよ!」
慌てて後を追う俺の背後で、ゴゴゴゴ……と音がした。
振り返れば、サイクロプスがその巨大な拳を振り上げ、今まさに振り下ろそうとしている。
真っ赤に光る単眼は、間違い無く僕の方に向けられていた。
(し、死ぬっ! 死んじゃう!)
全力疾走でウッズ達の後を追う。
「ちっ。だからお前……こっち来んなっ!」
ウッズは僕を振り返るや否や、僕を思いっきり突き飛ばした。
「……え」
身体が宙に浮いた感覚。
下を見れば、吸い込まれそうな程に暗い大穴が口を開けている。
突き飛ばされた衝撃で、石橋から落ちたのだ。
「た、助け……っ」
反射的に手を伸ばす。
ウッズがその手の取ってくれるわけないことは、わかりきっていたけど。
他のメンバー達は脇目も振らず逃げていて、僕のピンチに気付かない。
ただ唯一、エナだけが僕の方を振り返り、驚愕の表情を顔に貼り付けていた。
けれど、それを見たのも一瞬。
彼女の顔は縦ブレに消えた。もの凄いスピードで、僕の身体は奈落へと吸い込まれてゆく。
(こんな速度で最下層にたたき付けられたら、痛いだけじゃ済まない!)
もれなく全身ミンチになって人生終了だ。
「くっ! スキル《空気障壁》!」
一か八か、空気の防護膜で全身を覆うスキルを発動させる。
刹那、奈落に果てが見えた。
最下層に位置する場所には、小さな円形の湖が広がっていた。
僕の身体は防護膜に守られたまま湖へと落下。
もの凄い音と共に、一瞬視界が気泡で真っ白に曇り、すぐさまインディブルーへと様変わりする。
地底湖だろうけど、底が見えないくらいに深い。
(とにかく、岸へ上がろう……)
《空気障壁》を解除し、水上へと浮上するのだった。
△▼△▼△▼
ここは、第三迷宮《トリアース》の最下層・第89階層
岸に上がった僕は、ひとつ安堵の息を漏らした。
「危なかった。《空気障壁》のスキルが無かったら、たぶん死んでた」
ほっと一息つく。
と、代わりにふつふつと怒りが湧いてきた。
あいつ、僕を裏切りやがって!
絶対に復讐してやる!
そう心に決めた矢先。
ズドォオン! というけたたましい音を立てて、水柱が上がった。
巨大な何かが、空から降ってきたのだ。
「げっ! まさか……っ!?」
嫌な予感がして、僕は唾を飲み込んだ――次の瞬間。
『グワァアアアアアアッ!』
咆哮とともに水面が大きく波打ち、見上げるほどの巨体が姿を現した。
「ぎゃぁあああっ! やっぱりまだ狙われてるぅうううっ!」
サイクロプスの目は、完全に僕をロックオンしている。まったく、モテる男は辛い。
「とにかく、こいつをなんとかしないと!」
どうにかできるスキルはないかと、改めて自身のステータスを確認する。
◆◆◆◆◆◆
エラン
Lv 8
HP(体力) 122/134
MP(魔力) 47/47
STR(攻撃力) 32
DEF(防御力) 23
DEX(命中) 12
AGI(回避)19
LUK(運) 48
スキル(通常) 《空気障壁》 《アイテム効果+10%》 《サーチ》
スキル(魔法) ―
ユニークスキル ―
アイテム 《ナイフ》×1 《HP回復ポーション》×24 《MP回復ポーション》×19 《状態異常無効化の巻物》×20
個人ランクE
所属 《緑青の剣》(追放)
◆◆◆◆◆◆
あ、ダメだこりゃ。
思わず肩を落とす。
通常スキルははっきり言って使い物にならない。
強力な属性攻撃のできる魔法スキルも、稀に宝箱などから入手できるユニークスキルも所持してない。
ただでさえ、Sクラスのモンスターは、手練れの攻略者が数十人で挑んで勝てるかどうか……というレベルの攻略難易度を誇る。
マトモな攻撃手段はナイフのみ。
7階層から89階層までの距離を落下し、生身で水面にたたき付けられたというのにピンピンしているサイクロプスには、傷一つ付けられないだろう。
《緑青の剣》のお荷物だった僕は、実際に荷物持ちをしていたわけだから、所持アイテム数だけは多いけれど、現状を打破しうるアイテムはゼロだ。
ジ・エンドである。
が、そのとき僕は、近くに宝箱が置かれているのに気付いた。
そしてここは、ダンジョンの最下層。S~SSクラスのモンスターが蔓延る魔窟。
そんな場所に置かれた宝箱に、レアアイテムが入っていないわけがない!
「頼むぞ! 僕の運に賭ける!」
いいアイテムが出れば、なんとかこの状況を切り抜けられるかもしれない。
ハズレであれば命はない。
100か0。究極のギャンブルだ。
僕は宝箱に手を掛けて、蓋を開けた。その中に入っていたのは――
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