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第五章 『ダンジョン・ウォーターパーク』の光と影編

第119話 同行の誘いⅣ

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《三人称視点》

 その頃――オレンジ色の瞳に長い黒髪の内側を紫色で染めた少女は、上機嫌に鼻唄を歌いながら、スマホを手に悠々とくつろいでいた。
 そんな少女――縁七禍が今いるのは、お風呂である。

「~~♪」

 立ち上る湯気で曇った画面を拭いつつ、七禍は足を組み替える。
 真っ白な足が、入浴剤で濁ったお湯の中から浮かび上がった。

「ふぃ~、極楽じゃ」

 この時間。
 何者にも邪魔されずに、お風呂の中で動画を見るのが、七禍の楽しみの一つだ。
 見る動画はもちろん、『魔法少女☆スタープリンセス』である。ただし、彼女が今見ているのはシリーズ3作目だ。好評を博した本作は、続編が作られるまでにいたり、1作目で倒されたセブンス・サインの転生体が悪役を務めているのである。

「今じゃ! そこじゃ、やれ! くぅ~、惜しい!」

 バシャバシャと浴槽の液面を揺らし、応援する七禍。
 と――不意に動画の画面が、着信画面に切り替わった。
 同時に、軽快な着信音が流れ出す。

(ちっ、誰じゃこんなときに――)

 イライラしつつ相手の名前を見た七禍は、「うにゃっ!」と叫んで、危うくスマホを取り落としそうになった。
 相手の名前は、『白爪直人』。

(な、ななな、なんじゃコヤツ! いや、むしろこれはチャンスッ! お風呂に入っている状態でいきなりビデオ通話で出れば……って、何ハレンチなことを考えているんじゃ、妾はぁあああああああああ!)

 いろんな意味でのぼせた頭をブンブンと振るい、七禍は通常の通話ボタンを押した。

『もしもし。七禍さん、今大丈夫ですか?』
「え? あ、ああ。大丈夫じゃぞ。いきなりかけてくるなどと、貴様にしては珍しいな」
『まあ……業務連絡がありまして』
「なんじゃ、またコラボかの?」
『いえ。先程矢羽くんからお誘いがありまして。『ダンジョン・ウォーターパーク』の宣伝を依頼されたらしく、その過程で友人を一緒に連れて行って遊んでも構わないとのことで。是非とも僕達に来て貰いたいとお願いされたんです』
「……それのどこが業務連絡なんじゃ。普通に遊びの誘いじゃろうが」

 相変わらず真面目なヤツじゃ、などと思いつつ、七禍は小さく息を吐いた。

「彼奴も粋なことをしてくれるのう。貴様が行くと言うのであれば、妾もありがたくご厚意に甘える所存じゃ」
『では、参加するということでいいのですね?』
「ああ、もちろん。妾からも後で彼奴には礼を言っておく……っとぉ!」

 不意に、七禍は素っ頓狂な声を上げる。
 それもそのはず。直人と通話できるということに浮かれてついつい気が緩み、またもやスマホを取り落としたからだ。

 が、間一髪――水面に触れる寸前でスマホをキャッチすることに成功する。

『どうされましt――ッ!?』
「いやぁ、実は今風呂場にいてのう。手が滑ってスマホをボチャンするところであったわ。防水加工をしておらぬ故、落とすのは怖いからのう」

 なぜか、途中で発言を飲み込んだ直人を無視して、七禍は得意げに空を仰ぎ見ながら言葉を続ける。

『え、いや……あ』
「う~ん? なんじゃ貴様。その動揺したような声は。ひょっとして、妾が湯浴みをしていると聞いて、興奮しておるのかのう? くっくっく、初心なヤツめ。なんならサービスでビデオ通話にでもしてやろうか?」

 普段、いけ好かないくらいクールでボロを出さない直人が、今日この場に至ってはなぜか慌てたような声色をしている。
 それが心地良くて、七禍はついつい調子に乗っていたのだが――

『あ、あの……七禍、さん? 大変申し上げにくいのですが……
「? なってますって、何に」
『び……ビデオ通話』
「……はい?」

 一瞬、七禍は言われたことが理解できなかった。
 しばらくの間、頭の中で反芻して――ようやく思考に追いついた七禍は、バッと手に持ったスマホを凝視する。

 そこには――耳まで顔を赤くして、視線を逸らし続ける直人の姿と。
 その左上に、発展途上の慎ましやかな胸と、くっきりと形が浮かび上がった鎖骨。濡れた髪を惜しげも無く曝す、一糸まとわぬ七禍の姿が映し出されていて――^

 さっき、取り落としたスマホを慌ててキャッチしたときに、ビデオ通話への切り替えボタンを押してしまったのだろう――などと考えている余裕などあるはずもない。

「~~~~ッッッ!!??」

 一瞬で顔が茹で上がった七禍は、反射的にスマホを放り投げる。
 そして――スマホの水没が決定した。
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