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第五章 『ダンジョン・ウォーターパーク』の光と影編
第116話 同行の誘いⅠ
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「――ていうことがあってさ」
翌日の木曜日。
英次と向きあって弁当を食ベながら、俺は寺島さんとの一件を話した。
「なるほど、『ダンジョン・ウォーターパーク』ねぇ……」
ふむふむと頷きながら、英次はだし巻き卵を口に放り込む。
「それでさ、友人を呼んでもいいって話だったから――」
「有り難く行かせていただきます!」
誘う前に即答だった。
こういうときは少し遠慮する素振りを見せるものだが、食い気味に答えてくる辺りぶれないなと思う。
「いやだってさ、あの『ダンジョン・ウォーターパーク』だぜ? チケットをとるにも半年待ちとかいう、今一番HOTなレジャー施設だぜ? そこにタダで行かせて貰えるとか、やっぱ持つべきものはコネだな!」
「そこは友達って言えよ、本音出ちゃってるよ」
ジト目でツッコミを入れつつ、俺は力一杯唐揚げを噛みしめる。
「しかし、俺を誘うってことはもちろん高嶺さんや潮江のヤツも誘うんだろ?」
「そりゃあね。日頃お世話になってるし」
乃花に至ってはこの間ファミレスで奢ってくれて元気づけてくれた借りを返したいし、潮江さんには衣装を作って貰った借りがある。
こう思うと、俺って結構いろんな人に貸しを作ってばかりだな。
「あとは、真美さんと、プロ冒険者で仲良くなった人も誘うつもり」
「結構な大所帯だな」
「まあね」
誰とは言わないが、調子に乗って大人の余裕を出した独身女性の懐が心配だ。
もっとも、連れてくる人数を減らせばいいだけではあるが……お世話になった人くらいは誘いたい。
もし足りなければ、俺の財布の紐を緩めるという最終手段もあるし。
「そうなると、誘うのも一苦労だな」
「人数が多いからね。英次で一人目だし、このあとみんなを誘うつもり」
俺は苦笑しつつ答える。
「まあ、頑張ってくれや」
英次は、残りのご飯を一気にかき込むと、お弁当箱に蓋をした。
「ふぃ~、ご馳走さん。と、そうだ。すぐそこにいるし、潮江のヤツは俺が誘っておくよ」
英次は、親指で教室の隅を指さす。
その先には、廊下側の最前列にある自分の席に座り、黙々とぼっち飯を堪能している潮江さんの姿があった。
教室に残っている十人程度の人達は、みんなグループを組んで喋っているのに、相変わらず一匹狼だ。
「いいのか?」
「ああ。お前はまだ食べ終わってないだろ? だから手伝ってやるよ」
「それは、どうもありがとう」
「いいってことよ! これからも俺の親友でいてくれるなら安いもんだ!」
「……コネがあるから?」
「その通り!」
いっそ清々しいほどの笑顔でサムズアップした英次は、意気揚々と潮江さんの方へ向かった。
――。
「よっ」
「……なに英次」
「いやぁなに、相変わらず一人で食べてんなと思って」
「冷やかしに来たの?」
相変わらず人を寄せ付けない冷たい態度であしらう潮江さん。
が、そんな態度を気にした様子もなく、英次は脳天気に言葉を続ける。
「いいや、お前に伝えたいことがあってきた」
「なに? 簡潔に30文字以内で言って」
「OKわかった」
「今ので6文字」
「それもカウントされんの!?」
一周回って仲の良い夫婦漫才のようなものを繰り広げる二人。
英次は「はぁ~」と小さくため息をついてから、淡々とした様子で告げた。
「じゃあ簡潔に。今度一緒に『ダンジョン・ウォーターパーク』行こうぜ」
「ッ!!?? ゲッホ! ゴッホ!」
とたん、潮江さんが弁当の中身を喉に詰まらせて激しく咳き込む。
「っておい、大丈夫か?」
「けほっこほっ……だ、大丈夫――って、そんなことはどうでもよくて!」
ダンッと音を立てて潮江さんが机に手を突いて勢いよく立ち上がり、英次をキッと睨みつけた。
「はぁ? 『ダンジョン・ウォーターパーク』!? 何!? あんた、あたしを誘って一体何がしたいの!?」
「あれ、来たくないの?」
「ち、違っ――そうじゃなくて! そんな、二人きりなんて――それじゃあまるで、で、でで、デート――」
「? いや、二人きりじゃないが」
「――え」
困ったような英次の反応に、潮江さんは目を丸くする。
「いや、実はさ。翔のヤツがプロ冒険者の仕事でそこに行く機会があるみたいで。それで、友人を誘ってもいいって言われたらしくてな。だから、一緒に来ないか誘ったわけなんだが――」
「な、な、なぁっ!?」
口をパクパクさせる潮江さんの頬が、どんどんと赤くなっていく。
「――もしかして、迷惑だったか?」
「い、いや違ッ、そんなことはない、けど……」
声を絞り出した潮江さんは、なぜか体を反転させて背中を向ける。
「どうした?」
「いや、な、なんでもないけど……ごめん!」
そう一方的に言い捨てて、潮江さんは教室のドアから、脱兎の如く廊下へ逃げ出した。
「っておい! 返事は!!」
慌てたように大声で叫ぶ英次。
「それについては前向きに検討するからぁああああああああああああああああ!!」
廊下の向こうから、そんな叫び声が聞こえてくる。
自分たちの会話に夢中で二人に意識を向けていなかったクラスメイト達は、最後の言葉のやり取りだけを見て「なに?」「告白?」などとあらぬ噂を立てている。
英次は肩を落として俺の方に戻ってくると、困り顔で俺に尋ねてきた。
「俺、なにか悪いことした?」
あえて言おう。俺がわかるわけないだろうが。
翌日の木曜日。
英次と向きあって弁当を食ベながら、俺は寺島さんとの一件を話した。
「なるほど、『ダンジョン・ウォーターパーク』ねぇ……」
ふむふむと頷きながら、英次はだし巻き卵を口に放り込む。
「それでさ、友人を呼んでもいいって話だったから――」
「有り難く行かせていただきます!」
誘う前に即答だった。
こういうときは少し遠慮する素振りを見せるものだが、食い気味に答えてくる辺りぶれないなと思う。
「いやだってさ、あの『ダンジョン・ウォーターパーク』だぜ? チケットをとるにも半年待ちとかいう、今一番HOTなレジャー施設だぜ? そこにタダで行かせて貰えるとか、やっぱ持つべきものはコネだな!」
「そこは友達って言えよ、本音出ちゃってるよ」
ジト目でツッコミを入れつつ、俺は力一杯唐揚げを噛みしめる。
「しかし、俺を誘うってことはもちろん高嶺さんや潮江のヤツも誘うんだろ?」
「そりゃあね。日頃お世話になってるし」
乃花に至ってはこの間ファミレスで奢ってくれて元気づけてくれた借りを返したいし、潮江さんには衣装を作って貰った借りがある。
こう思うと、俺って結構いろんな人に貸しを作ってばかりだな。
「あとは、真美さんと、プロ冒険者で仲良くなった人も誘うつもり」
「結構な大所帯だな」
「まあね」
誰とは言わないが、調子に乗って大人の余裕を出した独身女性の懐が心配だ。
もっとも、連れてくる人数を減らせばいいだけではあるが……お世話になった人くらいは誘いたい。
もし足りなければ、俺の財布の紐を緩めるという最終手段もあるし。
「そうなると、誘うのも一苦労だな」
「人数が多いからね。英次で一人目だし、このあとみんなを誘うつもり」
俺は苦笑しつつ答える。
「まあ、頑張ってくれや」
英次は、残りのご飯を一気にかき込むと、お弁当箱に蓋をした。
「ふぃ~、ご馳走さん。と、そうだ。すぐそこにいるし、潮江のヤツは俺が誘っておくよ」
英次は、親指で教室の隅を指さす。
その先には、廊下側の最前列にある自分の席に座り、黙々とぼっち飯を堪能している潮江さんの姿があった。
教室に残っている十人程度の人達は、みんなグループを組んで喋っているのに、相変わらず一匹狼だ。
「いいのか?」
「ああ。お前はまだ食べ終わってないだろ? だから手伝ってやるよ」
「それは、どうもありがとう」
「いいってことよ! これからも俺の親友でいてくれるなら安いもんだ!」
「……コネがあるから?」
「その通り!」
いっそ清々しいほどの笑顔でサムズアップした英次は、意気揚々と潮江さんの方へ向かった。
――。
「よっ」
「……なに英次」
「いやぁなに、相変わらず一人で食べてんなと思って」
「冷やかしに来たの?」
相変わらず人を寄せ付けない冷たい態度であしらう潮江さん。
が、そんな態度を気にした様子もなく、英次は脳天気に言葉を続ける。
「いいや、お前に伝えたいことがあってきた」
「なに? 簡潔に30文字以内で言って」
「OKわかった」
「今ので6文字」
「それもカウントされんの!?」
一周回って仲の良い夫婦漫才のようなものを繰り広げる二人。
英次は「はぁ~」と小さくため息をついてから、淡々とした様子で告げた。
「じゃあ簡潔に。今度一緒に『ダンジョン・ウォーターパーク』行こうぜ」
「ッ!!?? ゲッホ! ゴッホ!」
とたん、潮江さんが弁当の中身を喉に詰まらせて激しく咳き込む。
「っておい、大丈夫か?」
「けほっこほっ……だ、大丈夫――って、そんなことはどうでもよくて!」
ダンッと音を立てて潮江さんが机に手を突いて勢いよく立ち上がり、英次をキッと睨みつけた。
「はぁ? 『ダンジョン・ウォーターパーク』!? 何!? あんた、あたしを誘って一体何がしたいの!?」
「あれ、来たくないの?」
「ち、違っ――そうじゃなくて! そんな、二人きりなんて――それじゃあまるで、で、でで、デート――」
「? いや、二人きりじゃないが」
「――え」
困ったような英次の反応に、潮江さんは目を丸くする。
「いや、実はさ。翔のヤツがプロ冒険者の仕事でそこに行く機会があるみたいで。それで、友人を誘ってもいいって言われたらしくてな。だから、一緒に来ないか誘ったわけなんだが――」
「な、な、なぁっ!?」
口をパクパクさせる潮江さんの頬が、どんどんと赤くなっていく。
「――もしかして、迷惑だったか?」
「い、いや違ッ、そんなことはない、けど……」
声を絞り出した潮江さんは、なぜか体を反転させて背中を向ける。
「どうした?」
「いや、な、なんでもないけど……ごめん!」
そう一方的に言い捨てて、潮江さんは教室のドアから、脱兎の如く廊下へ逃げ出した。
「っておい! 返事は!!」
慌てたように大声で叫ぶ英次。
「それについては前向きに検討するからぁああああああああああああああああ!!」
廊下の向こうから、そんな叫び声が聞こえてくる。
自分たちの会話に夢中で二人に意識を向けていなかったクラスメイト達は、最後の言葉のやり取りだけを見て「なに?」「告白?」などとあらぬ噂を立てている。
英次は肩を落として俺の方に戻ってくると、困り顔で俺に尋ねてきた。
「俺、なにか悪いことした?」
あえて言おう。俺がわかるわけないだろうが。
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