【悲報】最弱ジョブ「弓使い」の俺、ダンジョン攻略中にSランク迷惑パーティーに絡まれる。~配信中に最弱の俺が最強をボコしたらバズりまくった件~

果 一

文字の大きさ
上 下
113 / 135
番外編 中二少女と白忍者

第113話 中二少女の初恋は

しおりを挟む
《三人称視点》

「え……」

 そのとき彩花は、呆けたように呟いていた。

(な、なに? さっきまでずっと黙ってたのに、今更なんで……?)

 眉根をよせる彩花をよそに、直人はゆっくりと立ち上がって、彩花と同じように困惑する3人娘をぐるりと見まわした。

「僕は元々、長いものには巻かれろ主義なので、こういう風に嫌われることを承知で話すのは、主義に反するのですけどね。それでも、我慢ならないときはありますよ?」
「え、でも……」
「和を乱しているのはあの子の方で」
「そ、そうだよ! いきなり「他の人のため」とか言って上から目線で注意してきたり――」

 口々に反論する子音達。
 だが、直人はそれを受け止めた上で、はっきりとこう告げた。

「それは彼女の方が正しい。だって、彼女の独断ではなく“当たり前にマナーを守るべき冒険者”として、間違ったことを注意しただけなんですから。何より、傍観者に徹していた僕とは違い、あなた達に嫌われる可能性を厭わず、他の冒険者のために行動した彼女の勇気は、賞賛されるべきものであっても、貶されるようなものではありません。だから――」

 一気にまくし立てた直人は、相変わらず胡散臭くも優しげな表情のまま、きっぱりと言い放つ。

「彼女のを悪く言うあなた達は、非常に不愉快です」

 その言葉を聞いて。
 彩花は、なんとも言えない気持ちになっていた。

「あ。あーと。そういえばウチ用事あったかも」
「ウチも。友達と課題やらなきゃ」
「う、ウチも!」

 3人娘達は、劣勢であることを悟ったのかそそくさと逃げるように去って行く。
 だが、彩花の意識はもうそちらにはない。
 子音達にはもはや興味を失ったのか、再び本を読み始めた直人の背中を見つめていた。

 事なかれ主義の傍観者で、長いものには巻かれろ主義であると直人は言った。
 だったら傍観者に徹して、3人娘達と過ごしていた方が、ずっと楽だったはずだ。なのに、わざわざ自分を出してまで彩花を庇ったのは――

 ずくんと、彩花の奥で何かが疼く。

(な、んじゃ?)

 彩花は小首を傾げて、自分の胸に手を当てる。
 心なしか心臓の鼓動が早くなっていて、頬も熱い。
 その感覚を不思議に思いながらも、彩花は直人の方へ出て行った。

「どういうつもりじゃ?」
「?」

 彩花が声をかけると、振り返った直人は本から顔を上げてきょとんと小首を傾げた。

「何がです?」
「とぼけるでないわ! 妾を庇ったのは、どういうつもりかと聞いておるのじゃ! あの者どもに媚びを売っておいた方が、楽だったろうに!」
「ああ、聞いてたんですか」

 直人は「恥ずかしい」と言いつつ頭の後ろをぽりぽりと掻く。

「別に、江西さんの強さと優しさを貶されているのが、我慢ならなかっただけです」
「っ!」
 
 彩花は、言葉に詰まった。
 自分が否定した強さと優しさを、直人は何の誇張も虚飾もせずに肯定して見せたから。
 ずくんと、また彩花の中で鼓動が大きくなる。
 そのとき、彩花は生まれて初めて自分の中に生まれたその感情の正体に、不覚にも気付いてしまった。

(う、嘘じゃろ! まさか恋をしたとでも言うつもりか!? 相手は、胡散臭いだけの男じゃと言うのに!?)

 信じたくない現実だった。
 だから彩花は、照れ隠しのつもりで言ってしまった――

「ふん! そんな歯の浮くような台詞を吐かれても説得力などないわ! 第一、糸目で胡散臭いしのう!」

 ――直人にとっての地雷となる発言を。

「ほうほう? そこに触れますか。一応、僕が一番気にしているコンプレックスなんですけどね」

 ゴゴゴゴ……と効果音が聞こえてきそうなオーラを放ちながら、彩花を睨む直人。
 見た目は優男であるが故に、そのギャップが恐ろしい。

「え? あ、いや……そ、そんなつもりは」

 慌てて彩花は後ずさるが、もう襲い。
 冷や汗をダラダラ流す彩花のこめかみに、直人のヘッドロックが決まった。

「うにゃぁあああああああああああああああああああッ!!」

 2人だけの休憩所で、彩花の叫び声が響き渡る。
 
 ――これが、彩花と直人の馴れ初め。
 そして、彩花の初恋のきっかけとなる出来事だった。

――。

 その後、二人はたまに会っては一緒にダンジョンの冒険をするようになった。
 そうして半年が経った頃、直人はSランクの冒険者、彩花はAランクの冒険者にランクアップする。
 
 プロ冒険者に勧誘される条件となるAランクを超えた二人は、ある日ダンジョン運営委員会からの勧誘でプロ冒険者としての活動を開始することになる。

 こうして二人は、息吹翔の知るプロ冒険者、縁七禍と白爪直人となったのだ。
 (なお、プロ冒険者の衣装として白忍者の格好に身を包んだ直人を見て、「似合わない!」と吹き出した七禍が、ヘッドロックで撃沈したのは言うまでもないのであるが、それはまた別の話である)

――――――――――――――――――――
あとがき
番外編はこれにて完結です。
次話以降は、第五章を連載します。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう

果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。 名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。 日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。 ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。 この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。 しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて―― しかも、その一部始終は生放送されていて――!? 《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》 《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》 SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!? 暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する! ※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。 ※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。

姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?

果 一
ファンタジー
 リクスには、最強の姉がいる。  王国最強と唄われる勇者で、英雄学校の生徒会長。  類い希なる才能と美貌を持つ姉の威光を笠に着て、リクスはとある野望を遂行していた。 『ビバ☆姉さんのスネをかじって生きよう計画!』    何を隠そうリクスは、引きこもりのタダ飯喰らいを人生の目標とする、極めて怠惰な少年だったのだ。  そんな弟に嫌気がさした姉エルザは、ある日リクスに告げる。 「私の通う英雄学校の編入試験、リクスちゃんの名前で登録しておいたからぁ」  その時を境に、リクスの人生は大きく変化する。  英雄学校で様々な事件に巻き込まれ、誰もが舌を巻くほどの強さが露わになって――?  これは、怠惰でろくでなしで、でもちょっぴり心優しい少年が、姉を越える英雄へと駆け上がっていく物語。  ※本作はカクヨム・ノベルアップ+・ネオページでも公開しています。カクヨム・ノベルアップ+でのタイトルは『姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰し生活のための奮闘が、なぜか賞賛される流れになった件~』となります。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!

果 一
ファンタジー
二人の勇者を主人公に、ブルガス王国のアリクレース公国の大戦を描いた超大作ノベルゲーム『国家大戦・クライシス』。ブラック企業に勤務する久我哲也は、日々の疲労が溜まっている中、そのゲームをやり込んだことにより過労死してしまう。 次に目が覚めたとき、彼はゲーム世界のカイム=ローウェンという名の少年に生まれ変わっていた。ところが、彼が生まれ変わったのは、勇者でもラスボスでもなく、本編に名前すら登場しない悪役サイドのモブキャラだった! しかも、本編で配下達はラスボスに利用されたあげく、見限られて殺されるという運命で……? 「ちくしょう! 死んでたまるか!」 カイムは、殺されないために努力することを決める。 そんな努力の甲斐あってか、カイムは規格外の魔力と実力を手にすることとなり、さらには原作知識で次々と殺される運命だった者達を助け出して、一大勢力の頭へと駆け上る! これは、死ぬ運命だった悪役モブが、最凶へと成り上がる物語だ。    本作は小説家になろう、カクヨムでも公開しています 他サイトでのタイトルは、『いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!~チート魔法で無双してたら、一大勢力を築き上げてしまったんだが~』となります

異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕 タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】 3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!

処理中です...