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番外編 中二少女と白忍者
第113話 中二少女の初恋は
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《三人称視点》
「え……」
そのとき彩花は、呆けたように呟いていた。
(な、なに? さっきまでずっと黙ってたのに、今更なんで……?)
眉根をよせる彩花をよそに、直人はゆっくりと立ち上がって、彩花と同じように困惑する3人娘をぐるりと見まわした。
「僕は元々、長いものには巻かれろ主義なので、こういう風に嫌われることを承知で話すのは、主義に反するのですけどね。それでも、我慢ならないときはありますよ?」
「え、でも……」
「和を乱しているのはあの子の方で」
「そ、そうだよ! いきなり「他の人のため」とか言って上から目線で注意してきたり――」
口々に反論する子音達。
だが、直人はそれを受け止めた上で、はっきりとこう告げた。
「それは彼女の方が正しい。だって、彼女の独断ではなく“当たり前にマナーを守るべき冒険者”として、間違ったことを注意しただけなんですから。何より、傍観者に徹していた僕とは違い、あなた達に嫌われる可能性を厭わず、他の冒険者のために行動した彼女の勇気は、賞賛されるべきものであっても、貶されるようなものではありません。だから――」
一気にまくし立てた直人は、相変わらず胡散臭くも優しげな表情のまま、きっぱりと言い放つ。
「彼女の強さと優しさを悪く言うあなた達は、非常に不愉快です」
その言葉を聞いて。
彩花は、なんとも言えない気持ちになっていた。
「あ。あーと。そういえばウチ用事あったかも」
「ウチも。友達と課題やらなきゃ」
「う、ウチも!」
3人娘達は、劣勢であることを悟ったのかそそくさと逃げるように去って行く。
だが、彩花の意識はもうそちらにはない。
子音達にはもはや興味を失ったのか、再び本を読み始めた直人の背中を見つめていた。
事なかれ主義の傍観者で、長いものには巻かれろ主義であると直人は言った。
だったら傍観者に徹して、3人娘達と過ごしていた方が、ずっと楽だったはずだ。なのに、わざわざ自分を出してまで彩花を庇ったのは――
ずくんと、彩花の奥で何かが疼く。
(な、んじゃ?)
彩花は小首を傾げて、自分の胸に手を当てる。
心なしか心臓の鼓動が早くなっていて、頬も熱い。
その感覚を不思議に思いながらも、彩花は直人の方へ出て行った。
「どういうつもりじゃ?」
「?」
彩花が声をかけると、振り返った直人は本から顔を上げてきょとんと小首を傾げた。
「何がです?」
「とぼけるでないわ! 妾を庇ったのは、どういうつもりかと聞いておるのじゃ! あの者どもに媚びを売っておいた方が、楽だったろうに!」
「ああ、聞いてたんですか」
直人は「恥ずかしい」と言いつつ頭の後ろをぽりぽりと掻く。
「別に、江西さんの強さと優しさを貶されているのが、我慢ならなかっただけです」
「っ!」
彩花は、言葉に詰まった。
自分が否定した強さと優しさを、直人は何の誇張も虚飾もせずに肯定して見せたから。
ずくんと、また彩花の中で鼓動が大きくなる。
そのとき、彩花は生まれて初めて自分の中に生まれたその感情の正体に、不覚にも気付いてしまった。
(う、嘘じゃろ! まさか恋をしたとでも言うつもりか!? 相手は、胡散臭いだけの男じゃと言うのに!?)
信じたくない現実だった。
だから彩花は、照れ隠しのつもりで言ってしまった――
「ふん! そんな歯の浮くような台詞を吐かれても説得力などないわ! 第一、糸目で胡散臭いしのう!」
――直人にとっての地雷となる発言を。
「ほうほう? そこに触れますか。一応、僕が一番気にしているコンプレックスなんですけどね」
ゴゴゴゴ……と効果音が聞こえてきそうなオーラを放ちながら、彩花を睨む直人。
見た目は優男であるが故に、そのギャップが恐ろしい。
「え? あ、いや……そ、そんなつもりは」
慌てて彩花は後ずさるが、もう襲い。
冷や汗をダラダラ流す彩花のこめかみに、直人のヘッドロックが決まった。
「うにゃぁあああああああああああああああああああッ!!」
2人だけの休憩所で、彩花の叫び声が響き渡る。
――これが、彩花と直人の馴れ初め。
そして、彩花の初恋のきっかけとなる出来事だった。
――。
その後、二人はたまに会っては一緒にダンジョンの冒険をするようになった。
そうして半年が経った頃、直人はSランクの冒険者、彩花はAランクの冒険者にランクアップする。
プロ冒険者に勧誘される条件となるAランクを超えた二人は、ある日ダンジョン運営委員会からの勧誘でプロ冒険者としての活動を開始することになる。
こうして二人は、息吹翔の知るプロ冒険者、縁七禍と白爪直人となったのだ。
(なお、プロ冒険者の衣装として白忍者の格好に身を包んだ直人を見て、「似合わない!」と吹き出した七禍が、ヘッドロックで撃沈したのは言うまでもないのであるが、それはまた別の話である)
――――――――――――――――――――
あとがき
番外編はこれにて完結です。
次話以降は、第五章を連載します。
「え……」
そのとき彩花は、呆けたように呟いていた。
(な、なに? さっきまでずっと黙ってたのに、今更なんで……?)
眉根をよせる彩花をよそに、直人はゆっくりと立ち上がって、彩花と同じように困惑する3人娘をぐるりと見まわした。
「僕は元々、長いものには巻かれろ主義なので、こういう風に嫌われることを承知で話すのは、主義に反するのですけどね。それでも、我慢ならないときはありますよ?」
「え、でも……」
「和を乱しているのはあの子の方で」
「そ、そうだよ! いきなり「他の人のため」とか言って上から目線で注意してきたり――」
口々に反論する子音達。
だが、直人はそれを受け止めた上で、はっきりとこう告げた。
「それは彼女の方が正しい。だって、彼女の独断ではなく“当たり前にマナーを守るべき冒険者”として、間違ったことを注意しただけなんですから。何より、傍観者に徹していた僕とは違い、あなた達に嫌われる可能性を厭わず、他の冒険者のために行動した彼女の勇気は、賞賛されるべきものであっても、貶されるようなものではありません。だから――」
一気にまくし立てた直人は、相変わらず胡散臭くも優しげな表情のまま、きっぱりと言い放つ。
「彼女の強さと優しさを悪く言うあなた達は、非常に不愉快です」
その言葉を聞いて。
彩花は、なんとも言えない気持ちになっていた。
「あ。あーと。そういえばウチ用事あったかも」
「ウチも。友達と課題やらなきゃ」
「う、ウチも!」
3人娘達は、劣勢であることを悟ったのかそそくさと逃げるように去って行く。
だが、彩花の意識はもうそちらにはない。
子音達にはもはや興味を失ったのか、再び本を読み始めた直人の背中を見つめていた。
事なかれ主義の傍観者で、長いものには巻かれろ主義であると直人は言った。
だったら傍観者に徹して、3人娘達と過ごしていた方が、ずっと楽だったはずだ。なのに、わざわざ自分を出してまで彩花を庇ったのは――
ずくんと、彩花の奥で何かが疼く。
(な、んじゃ?)
彩花は小首を傾げて、自分の胸に手を当てる。
心なしか心臓の鼓動が早くなっていて、頬も熱い。
その感覚を不思議に思いながらも、彩花は直人の方へ出て行った。
「どういうつもりじゃ?」
「?」
彩花が声をかけると、振り返った直人は本から顔を上げてきょとんと小首を傾げた。
「何がです?」
「とぼけるでないわ! 妾を庇ったのは、どういうつもりかと聞いておるのじゃ! あの者どもに媚びを売っておいた方が、楽だったろうに!」
「ああ、聞いてたんですか」
直人は「恥ずかしい」と言いつつ頭の後ろをぽりぽりと掻く。
「別に、江西さんの強さと優しさを貶されているのが、我慢ならなかっただけです」
「っ!」
彩花は、言葉に詰まった。
自分が否定した強さと優しさを、直人は何の誇張も虚飾もせずに肯定して見せたから。
ずくんと、また彩花の中で鼓動が大きくなる。
そのとき、彩花は生まれて初めて自分の中に生まれたその感情の正体に、不覚にも気付いてしまった。
(う、嘘じゃろ! まさか恋をしたとでも言うつもりか!? 相手は、胡散臭いだけの男じゃと言うのに!?)
信じたくない現実だった。
だから彩花は、照れ隠しのつもりで言ってしまった――
「ふん! そんな歯の浮くような台詞を吐かれても説得力などないわ! 第一、糸目で胡散臭いしのう!」
――直人にとっての地雷となる発言を。
「ほうほう? そこに触れますか。一応、僕が一番気にしているコンプレックスなんですけどね」
ゴゴゴゴ……と効果音が聞こえてきそうなオーラを放ちながら、彩花を睨む直人。
見た目は優男であるが故に、そのギャップが恐ろしい。
「え? あ、いや……そ、そんなつもりは」
慌てて彩花は後ずさるが、もう襲い。
冷や汗をダラダラ流す彩花のこめかみに、直人のヘッドロックが決まった。
「うにゃぁあああああああああああああああああああッ!!」
2人だけの休憩所で、彩花の叫び声が響き渡る。
――これが、彩花と直人の馴れ初め。
そして、彩花の初恋のきっかけとなる出来事だった。
――。
その後、二人はたまに会っては一緒にダンジョンの冒険をするようになった。
そうして半年が経った頃、直人はSランクの冒険者、彩花はAランクの冒険者にランクアップする。
プロ冒険者に勧誘される条件となるAランクを超えた二人は、ある日ダンジョン運営委員会からの勧誘でプロ冒険者としての活動を開始することになる。
こうして二人は、息吹翔の知るプロ冒険者、縁七禍と白爪直人となったのだ。
(なお、プロ冒険者の衣装として白忍者の格好に身を包んだ直人を見て、「似合わない!」と吹き出した七禍が、ヘッドロックで撃沈したのは言うまでもないのであるが、それはまた別の話である)
――――――――――――――――――――
あとがき
番外編はこれにて完結です。
次話以降は、第五章を連載します。
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