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番外編 中二少女と白忍者
第112話 失意の底にいたけれど……
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《三人称視点》
「ふんふんふ~ん♪」
休憩所内の化粧室で用を足した彩花は、鼻歌交じりに洗面台の前で手を洗う。
率直に言えば、彼女にとって初めて楽しいと思える冒険だった。
子音達を助け、良くないと思ったことは臆せず告げ、この場にいない誰かのための優しさも見せる。
腕っ節の方も磨かれてきた自覚があったから、尚更彩花は嬉しかった。
憧れのセブンス・サインに、少しでも近づけたような気がしていたから。
「ちぇっ、しかしあの直人とかいうヤツはいけ好かないわ。Aランクか何か知らんが、ただ強いだけでチヤホヤされて、鼻の下を伸ばしおって」
彩花はプンスカ怒りながら、休憩所のソファで待っているであろう4人へ合流しようと、足を向けた。
――人が殆どこない深層ということもあってか、休憩所自体はそこまで広くない。
中学校の教室一つ分のスペースにソファや本棚、自動販売機などが置かれているだけの、侘しい空間。
そんな中で、3人娘と直人が共にいるのが目に映った。
他の冒険者は、誰もいない。
4人だけの空間で、されど直人は3人の会話には参加せず、ソファに座って本を読んでいた。
「お~い。待たせ、た……」
意気揚々と4人の方へ駆け寄ろうとした彩花の足が止まる。
3人の話し声が聞こえてきたからだ。
「――なぁんかさ、感じ悪いよねあの子」
「ああ、彩花って子でしょ? わかる~! ノリが悪いって言うかさ」
「そうそう、それな」
ケラケラと楽しそうに笑う子音達。
口から滑り出してくる言葉は、昨日の夕飯のおかずを言っているように軽いもので――その内容とのギャップに、彩花は思わず近くの自販機裏に隠れてしまった。
(え? 今……妾の話、を?)
いや、そんなはずがない。
彼女たちに感謝されることはあっても、悪口を言われるようなことなんて、していないはずなのだ。
だから、今のは聞き間違いに決まっている。
そう心の中で言い聞かせる彩花に追い打ちを掛けるように、3人娘の言葉が流れ込んでくる。
「虹鉱石をたくさん採っちゃダメとかさ~、いや別にまた生えてくるからいいだろって思わない?」
「ほんそれ。「他の人達のために(笑)」とかさ。お前が一緒にいるのはウチらだろうがって話。ほーんと、優しくないよね」
「なんか1人で勝手に格好付けててバカみた~い」
またもや笑い声が響いてくる。
甲高い笑い声が重なって、彩花の鼓膜の上で不協和音を奏でる。
「…………」
彩花は、無言だった。
自販機のジジジジ……という低い駆動音を背中側に感じながら、ただ俯いていた。
「格好付けるって言えば、あの子話し方も変だよね」
「そう、それ思った! 何? 「妾」とか「のじゃ」ってw 平安時代のお貴族様かよ!」
「プロ冒険者の衣装ってわけでもないのに、なんかローブ羽織ってイタい格好してるしさ」
「…………」
3人娘がはやし立てる。
そんな中でも、あの男は――白川直人は我関せずとばかりに本のページをめくっている。
3人娘から、あんな風に思われていたのは、彩花にとってはショック以外の何物でも無い。
「はは、ははは……」
気付けば、彩花は乾いた笑いを浮かべていた。
自販機に寄りかかり、天井を見上げる。見上げた天井からつりさがっているランプが、が涙で歪んでいた。
今までやってきたことはなんだったんだろうと、彩花は自問する。
魔王セブンス・サインに憧れ、生き様を真似てきたこの1年。
Bランクの冒険者にまで成長し、実情に葛藤を抱えながらも誰かのために優しくなれる存在。
そんな素敵な人物に、少しでも近づけた。そんな気がしていた。
なんという、自惚れだっただろうか。
蓋を開けてみれば、鍛えてきた強さはぽっと出の胡散臭いヤツに奪われ、勇気を出して示した優しさも信じていた友人に簡単に裏切られた。
彩花は、何も成し遂げてはいなかった。
憧れの存在に、何一つ近づけていなかった。
強いて言えば、世界中の誰もが敵で味方なんていない。優しさが全て空回りしてしまう、哀れな存在としての部分だけ、皮肉にも似てしまった。
優しさの狭間で葛藤し、その実誰にも認めて貰えなかった哀れな存在がセブンス・サインという魔王だ。
でも、その孤高な在り方は、誰よりも強くて誰よりも優しいからこそ、格好良く映る。
対して彩花の方は、カッコいい部分は何一つ近づけていないくせに、悲惨な境遇だけが似てしまった。
これではもう、ただ可哀想なだけの人だ。
(ああ、やっぱり……妾は、どんな存在にもなれないんじゃな)
所詮は何もない真っ白な人間なのだと、このとき悟った――はずだった。けれど。
「――あーそれな!」
「強くないくせにやたらと格好付けるよね?」
「カッコいいって言ったら、やっぱ白川さんですよね!」
「……え、僕ですか」
今まで割れ関せずを貫いていた直人の方へ、3人娘が話題を振った。
「そうそう! やっぱり直人さんくらい強くないと!」
「あの程度で調子に乗って師匠面して、気に入らないことがあるとガミガミ言ってくるのって~」
「正直、不愉快だと思いません?」
ケタケタと笑いながら、3人娘は直人の方に身を乗り出す。
「…………そう、ですね。不愉快ですね」
しばらく黙っていた直人は、読んでいた本をパタンと閉じて呟く。
「ですよねー!」
「あの子、ウチらよりちょっと強いからって上から目線すぎですよね~」
「ほぉんと、感じ悪い」
今まで会話に参加せずに本を読んでいた直人からも、「不愉快」と言われ、彩花の目からは涙も涸れてハイライトが消えかかっていた。
が――
「あれ? 何を勘違いしてるんですか?」
そんな、間の抜けた声が、白川直人の口から飛び出て――その数秒後。極めて事務的に、単調な声色で直人は告げた。
「不愉快なのは、あなたたちの方ですよ?」
「ふんふんふ~ん♪」
休憩所内の化粧室で用を足した彩花は、鼻歌交じりに洗面台の前で手を洗う。
率直に言えば、彼女にとって初めて楽しいと思える冒険だった。
子音達を助け、良くないと思ったことは臆せず告げ、この場にいない誰かのための優しさも見せる。
腕っ節の方も磨かれてきた自覚があったから、尚更彩花は嬉しかった。
憧れのセブンス・サインに、少しでも近づけたような気がしていたから。
「ちぇっ、しかしあの直人とかいうヤツはいけ好かないわ。Aランクか何か知らんが、ただ強いだけでチヤホヤされて、鼻の下を伸ばしおって」
彩花はプンスカ怒りながら、休憩所のソファで待っているであろう4人へ合流しようと、足を向けた。
――人が殆どこない深層ということもあってか、休憩所自体はそこまで広くない。
中学校の教室一つ分のスペースにソファや本棚、自動販売機などが置かれているだけの、侘しい空間。
そんな中で、3人娘と直人が共にいるのが目に映った。
他の冒険者は、誰もいない。
4人だけの空間で、されど直人は3人の会話には参加せず、ソファに座って本を読んでいた。
「お~い。待たせ、た……」
意気揚々と4人の方へ駆け寄ろうとした彩花の足が止まる。
3人の話し声が聞こえてきたからだ。
「――なぁんかさ、感じ悪いよねあの子」
「ああ、彩花って子でしょ? わかる~! ノリが悪いって言うかさ」
「そうそう、それな」
ケラケラと楽しそうに笑う子音達。
口から滑り出してくる言葉は、昨日の夕飯のおかずを言っているように軽いもので――その内容とのギャップに、彩花は思わず近くの自販機裏に隠れてしまった。
(え? 今……妾の話、を?)
いや、そんなはずがない。
彼女たちに感謝されることはあっても、悪口を言われるようなことなんて、していないはずなのだ。
だから、今のは聞き間違いに決まっている。
そう心の中で言い聞かせる彩花に追い打ちを掛けるように、3人娘の言葉が流れ込んでくる。
「虹鉱石をたくさん採っちゃダメとかさ~、いや別にまた生えてくるからいいだろって思わない?」
「ほんそれ。「他の人達のために(笑)」とかさ。お前が一緒にいるのはウチらだろうがって話。ほーんと、優しくないよね」
「なんか1人で勝手に格好付けててバカみた~い」
またもや笑い声が響いてくる。
甲高い笑い声が重なって、彩花の鼓膜の上で不協和音を奏でる。
「…………」
彩花は、無言だった。
自販機のジジジジ……という低い駆動音を背中側に感じながら、ただ俯いていた。
「格好付けるって言えば、あの子話し方も変だよね」
「そう、それ思った! 何? 「妾」とか「のじゃ」ってw 平安時代のお貴族様かよ!」
「プロ冒険者の衣装ってわけでもないのに、なんかローブ羽織ってイタい格好してるしさ」
「…………」
3人娘がはやし立てる。
そんな中でも、あの男は――白川直人は我関せずとばかりに本のページをめくっている。
3人娘から、あんな風に思われていたのは、彩花にとってはショック以外の何物でも無い。
「はは、ははは……」
気付けば、彩花は乾いた笑いを浮かべていた。
自販機に寄りかかり、天井を見上げる。見上げた天井からつりさがっているランプが、が涙で歪んでいた。
今までやってきたことはなんだったんだろうと、彩花は自問する。
魔王セブンス・サインに憧れ、生き様を真似てきたこの1年。
Bランクの冒険者にまで成長し、実情に葛藤を抱えながらも誰かのために優しくなれる存在。
そんな素敵な人物に、少しでも近づけた。そんな気がしていた。
なんという、自惚れだっただろうか。
蓋を開けてみれば、鍛えてきた強さはぽっと出の胡散臭いヤツに奪われ、勇気を出して示した優しさも信じていた友人に簡単に裏切られた。
彩花は、何も成し遂げてはいなかった。
憧れの存在に、何一つ近づけていなかった。
強いて言えば、世界中の誰もが敵で味方なんていない。優しさが全て空回りしてしまう、哀れな存在としての部分だけ、皮肉にも似てしまった。
優しさの狭間で葛藤し、その実誰にも認めて貰えなかった哀れな存在がセブンス・サインという魔王だ。
でも、その孤高な在り方は、誰よりも強くて誰よりも優しいからこそ、格好良く映る。
対して彩花の方は、カッコいい部分は何一つ近づけていないくせに、悲惨な境遇だけが似てしまった。
これではもう、ただ可哀想なだけの人だ。
(ああ、やっぱり……妾は、どんな存在にもなれないんじゃな)
所詮は何もない真っ白な人間なのだと、このとき悟った――はずだった。けれど。
「――あーそれな!」
「強くないくせにやたらと格好付けるよね?」
「カッコいいって言ったら、やっぱ白川さんですよね!」
「……え、僕ですか」
今まで割れ関せずを貫いていた直人の方へ、3人娘が話題を振った。
「そうそう! やっぱり直人さんくらい強くないと!」
「あの程度で調子に乗って師匠面して、気に入らないことがあるとガミガミ言ってくるのって~」
「正直、不愉快だと思いません?」
ケタケタと笑いながら、3人娘は直人の方に身を乗り出す。
「…………そう、ですね。不愉快ですね」
しばらく黙っていた直人は、読んでいた本をパタンと閉じて呟く。
「ですよねー!」
「あの子、ウチらよりちょっと強いからって上から目線すぎですよね~」
「ほぉんと、感じ悪い」
今まで会話に参加せずに本を読んでいた直人からも、「不愉快」と言われ、彩花の目からは涙も涸れてハイライトが消えかかっていた。
が――
「あれ? 何を勘違いしてるんですか?」
そんな、間の抜けた声が、白川直人の口から飛び出て――その数秒後。極めて事務的に、単調な声色で直人は告げた。
「不愉快なのは、あなたたちの方ですよ?」
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