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番外編 中二少女と白忍者

第110話 運命の出会いと呼べるものにこれからなるのかもしれない

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《三人称視点》

「お! 前方に強敵を発見!」
「お願いします彩花さん!」
「やっちゃってください!」

 4人で行動を始めてしばらく、彩花の後ろからついてくる3人がはやし立てる。
 彼女たちが指さす方向を見た彩花は、一瞬渋い顔をした。

「い、いやあれはちょっと厳しいじゃろう? “ウィンド・バード”の群れじゃぞ」

 彩花は、困ったようにそう呟く。
 “ウィンド・バード”は、風属性魔法スキルを得意とする飛翔型のモンスターだ。
 大きさは雀よりも一回り大きいくらいの小型なモンスターだが、その実凶暴で獲物と認識したものには一切の容赦なく群れで襲いかかる。

 その凶暴性から、ランクA-に指定される大物だ。

 今更感のある説明だが、このダンジョン内では、冒険者のランクとモンスターのランクは実力がほぼ等しいことになっている。
 例えば、ランクAの冒険者とランクAのモンスターの実力が、ほぼ同じといった風に。
 まあ、SS、S、A、B、C、D、E、F――という段階になっている冒険者と違い、モンスター側はA+、A-といったように、更に細かく区分されているが。

 今回の場合、ランクBの冒険者である彩花にとって、ランクA-というのは、端的に言って分が悪い相手であった。

 こういうときは、自分の身の丈に合った戦いをするのがベストだ。
 死なないからと言って、無茶すべきではない。

(じゃから、ここは別ルートから進む選択を――)
「ええ、いいじゃないですかぁ!」
「師匠ならちゃちゃっと倒せちゃいますよ!」
「さ、お願いします師匠!」

 冷静に判断を下していた彩花を、子音達がはやし立てる。
 だが、ハイランク冒険者に片足を突っ込んだ彩花としは、ダンジョンの危険をよく知っている。そう簡単に靡くはずがない――

「うぇっ!? し、師匠!? 師匠か……えへへ、し、仕方ないのう! ここは、笑笑がお手本を見せるとしようか」

 ――チョロかった。
 悲しいことに彩花は、誰かに頼られた経験というのがいままで全くない。
 だから、頼られるのが嬉しくて、冷静な判断を欠いてしまっていた。
 それは、彼我の実力差だけに留まらず。例えば、頼られるという好意が、純粋なものなのか、それとも邪《よこしま》なものなのかということも。

――。

『『『『キュアアアアアアアアアッ!!』』』』

 金切り声を上げて、“ウィンド・バード”の群れが突撃する。

「クッ! いけ、フェニックス!」

 彩花はフェニックスへと指示を出し、“ウィンド・バード”の群れにぶつけるが、フェニックスの攻撃がなかなか通らない。火傷くらいはするが、それでも突進する速度が揺るがない。
 それもそのはず。フェニックスのランクはB+で、相手はA-。
 一匹や二匹ならば挿して問題ないだろうが、一〇匹以上の群れで来られると厳しいのである。

「ひっ! “ファイア・ボール”!」

 後ろに控える子音達も泡を食ったように魔法スキルを放って応戦するが、彼女たちは最近やっとCランクに上がったばかり。
 根本的に実力差がありすぎて、“ファイア・ボール”は着弾する前に、“ウィンド・バード”の風属性魔法スキルによって、掻き消されてしまった。

「う、うそっ! 強すぎ!」
「し、師匠! なんとかしてくださいよ」
「このままじゃ!」
「わ、わかっておる! 話しかけるでないわ!」

 彩花は、語気も荒く答える。
 足手まといになりつつある3人娘などに構っていられる暇はない。

(くっ! このままではマズいな! なんとか退きたいが……!)

 彩花は、ようやく黒焦げになって落ちていく一匹を見ながら、歯噛みする。
 突進してくる群れの勢いは止まらず、もう目と鼻の先だ。退くことは、たぶん不可能。

(くっ、そ! 妾ともあろうものが!)

 悔しげに唇を噛み、ダメージによる強制転送を覚悟した――そのときだった。

 ――時間の流れが、止まった。

「……へ?」

 自分自身の呆けたような声で、彩花は気付いた。
 ただの錯覚だ。
 時間の流れが止まったように、そう感じてしまった。

 ちらりと後ろを見た彩花の瞳に、3人抱き合って震えている少女達が映る。
 彼女たちは、動いている。彩花自身も、動いている。だから時間が止まったわけではない。
 じゃあ、なぜ――今まさに襲いかかろうとした“ウィンド・バード”達が、悉く、

「な、にが……?」
「ふむ。やはりただ張り巡らせるだけでは殺傷力はありませんか」

 涼やかな声がすぐ近くから聞こえて、彩花はそちらを見た。
 一体、いつからそこにいたのか?
 さっきまでは影も形もなかった白い影が、そこに佇んでいた。

 白髪に緑のメッシュ。糸目で柔和な顔立ちの好青年。
 彼はちらりと彩花の方を見ると、「お怪我はありませんか?」と問いかけた。

「う、うむ……お陰様で助かった……って、そんなことどうでもよいわ! き、貴様、どうやってこの数の“ウィンド・バード”を」

 そこまでまくし立てて、彩花は気付く。
 空中で制止した“ウィンド・バード”。その全身に、きらりと光る細い糸が絡みついていることに。

「まあ、蜘蛛の巣を張り巡らせたって感じですかね? ただ張っただけでは殺傷力がないのが難点ですが」

 そう言って溜め気を尽きつつ、謎の男の子はちょいっと糸の端を引っ張った。
 ただ、それだけ。たったそれだけで、“ウィンド・バード”の全身に絡みついた糸が肉に食い込み、次の瞬間“ウィンド・バード”をバラバラの肉塊に粉砕していた。

「な、なぁっ!?」

 光の粒子となって消えていく一〇匹以上の危険モンスターを眺め、彩花は開いた口が塞がらない。
 間違い無く、彩花以上の実力を持っていると思われた。

 未だ開いた口が塞がらない彩花の後ろを見た青年は、後ろで固まっている子音達の方を向いて、「あなた達も、特にケガはありませんでしたか?」とはにかみつつ問いかける。

「うえ、は、はい」
「お、お陰様で」
「助かり、ました……」

 3人もまた、呆けたように呟く。

(それはそうじゃろう。こんなのを見せられて、驚かないはずがなかろうて)

 彩花もまた、「貴様等の気持ちはよくわかる」とばかりに頷いて――

「そうですか、それはよかったです」

 青年がにっこりと微笑んだ瞬間。

「「「ひゃぁああああああっ!」」」

 黄色い歓声が上がった。
 子音達は青年に背を向けて、ひそひそ声(結構大きい)で話し合う。

「や、やばい! めっちゃイケメンじゃん!」
「それな! めっちゃミステリアスな感じするし……もうフェロモンドバドバっしょ!」
「これは……堕ちた! 堕ちちゃった!」

 完全に乙女の顔でキャーキャー言っている3人娘。
 それを見ていた彩花も、それに同意し――

(は? 此奴こやつがイケメン? ミステリアス? どっから湧いたのかもわからんし、狙ったように助けに入るし、あと糸目じゃし、どっからどう見てもストーリー終盤で裏切りそうな怪しい小僧じゃろうが)

 ――なかった。
 頭お花畑の3人娘と違って、冷め切っていた。
 しかし、3人娘の方はあっさりと堕ちていて、バッと青年の方に群がっていた。

「ねぇ、お兄さん名前は!?」
「一緒にダンジョン散策しない? どう?」
「ジョブはなんなの?」
「え、えーと……自己紹介すればいい感じ、ですかね?」

 青年は戸惑ったように苦笑いしつつ、自己紹介を始めた。

白川直人しらかわなおとです。高校1年で、ジョブは“忍者シノビ”です。よろしくお願いします」

 ――これが、白川直人――後のプロ冒険者、白爪直人と、縁七禍の出会いだった。
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