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第四章 大人気ダンチューバー、南あさり編
第107話 2人の約束
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「「いただきます」」
リビングに移動して二人で朝ご飯を食べる。
今日の朝食はパンとコーンスープ。ご飯に味噌汁と並ぶスーパーオーソドックスメニューである。もちろん、コーンスープは亜利沙お手製だ。
パンにバターを塗りながら正面を見ると、向かいに座っている亜利沙が欠伸を噛み殺しているのが見えた。
「眠いのか?」
「え? うん、まあ流石にね」
亜利沙は苦笑する。
今更二度寝してもたぶん五分と眠れないだろうから、今日はお互いに我慢するしかなさそうだ。
「眠気覚ましにテレビでも付けるか」
「そうだね」
頷いた亜利沙は、テレビのリモコンを手にとって電源を付けた。
さて、俺は俺で、温かいコーンスープを飲んで眠気を飛ばすとしよう――
『――では続いてのニュースです。昨夜、師枝町《しえだちょう》郊外の廃工場を根城とする暴力団が、高校生による活躍で逮捕されました。なお、逮捕に協力したのは今話題のSSランク冒険者、矢羽翔さんとの情報もある模様で――』
「ブーッ!」
俺はコーンスープを吹き出した。
ああ、せっかくのコーンスープが!
ていうか、この流れ少し前にもあった気がするんだが?
「うわお情報が回るの早いね。またネットニュースに載るんじゃない?」
「うぇえ……」
俺はもはや困惑するしかない。
豪気達Sランクパーティーを壊滅させたことから始まり、乃花を学校内ダンジョンで助けたことで校内でも噂になり、あげく君塚達のせいで全面的に身バレしてプロ冒険者となった。当然プロ冒険者になったこともネットで大いに話題になり、また南あさりとのコラボ配信も行った。
そして、いろいろ濃いことがありすぎて忘れがちになるが、南あさりとコラボ配信したのは昨日。
つまり、その熱もまだ冷めやらぬうちに、新たな話題が追加されてしまったことになる。
「そういえば昨日、警察の人に正体ばれてサインせがまれたっけ……まさかその経路でマスコミにバレたんじゃ」
「あー……ドンマイお兄ちゃん」
亜利沙は苦笑しつつ、パンを齧る。
俺もまた、朝から更にげっそりしつつ、パンに齧り付くのだった。
――。
朝食を食べ終えた俺達は、それぞれ制服に着替えて身だしなみを整える。
学校へ行ったら、またいろいろ突っ込まれるかもしれないと考えると、もう苦笑いしか出てこない。
が、憂鬱というわけではなかった。
俺が当初から望んでいた、当たり前で普通の学校生活とはまるっきり違う。
俺を取り巻く環境だって、正直複雑と言わざるを得ないのかもしれない。
けれど、「こんな生活望んでなかった」などと失望するには、今の生活はあまりにも魅力的すぎる。
「ま……なんだかんだありだよな」
俺は誰へともなくそう呟くと、学校の鞄を掴んで自室を出た。
と同時に、同じく部屋から出てきた亜利沙と目が合う。
「あ」
「俺はそろそろ出るけど、一緒に行くか?」
「ごめん。私はまだ、支度が終わってないから」
そう言ってはにかむ亜利沙。
「そうか。じゃあ、俺先に行くから」
「うん……あ、ちょっと待って」
玄関に向かおうとした俺を、亜利沙が慌てたように呼び止める。
「どうした」
「あのさ。今日、帰ってきたら……一緒に、アイス食べよ! 叔母さんが、チョコとバニラのアイスを、買ってきてくれてるみたいだから」
亜利沙は、思い切ったようにそう告げる。
今までも、同じようにアイスを一緒に食べる約束を交わすことは何度かあった。でも、彼女は、いつもと違う雰囲気で、俺を誘っている。
即ち――
「ああ、わかった。ただし、俺がバニラ味を食べる。お前はチョコの方が好きなんだろ?」
「うん!」
亜利沙は、パッと顔を明るくして頷いた。
いつも一緒にいて、相手のことは全部わかってるつもりだったのに、随分と遠回りをしてしまった。
けど、今日からは。
今までと何も変わらない環境で、少しだけ違う関係に変化してゆく。
この先、お互いがお互いをどういう風に認識しようとも、心の底から笑い合える関係でいたいなと、俺はそう思った。
「そろそろ行くな。お前も早くしたく済ませないと、遅刻するぞ」
「わかってる。一足先に行ってらっしゃい、お兄ちゃん」
「ああ、行ってきます」
満面の笑みで俺を送り出す亜利沙へ、俺は小さく手を振ってから玄関を出た。
―――――――――――――――――――――
あとがき
ここまで読んでいただき、まことにありがとうございます。『第四章 大人気ダンチューバー、南あさり編』は、これにて完結となります。
リビングに移動して二人で朝ご飯を食べる。
今日の朝食はパンとコーンスープ。ご飯に味噌汁と並ぶスーパーオーソドックスメニューである。もちろん、コーンスープは亜利沙お手製だ。
パンにバターを塗りながら正面を見ると、向かいに座っている亜利沙が欠伸を噛み殺しているのが見えた。
「眠いのか?」
「え? うん、まあ流石にね」
亜利沙は苦笑する。
今更二度寝してもたぶん五分と眠れないだろうから、今日はお互いに我慢するしかなさそうだ。
「眠気覚ましにテレビでも付けるか」
「そうだね」
頷いた亜利沙は、テレビのリモコンを手にとって電源を付けた。
さて、俺は俺で、温かいコーンスープを飲んで眠気を飛ばすとしよう――
『――では続いてのニュースです。昨夜、師枝町《しえだちょう》郊外の廃工場を根城とする暴力団が、高校生による活躍で逮捕されました。なお、逮捕に協力したのは今話題のSSランク冒険者、矢羽翔さんとの情報もある模様で――』
「ブーッ!」
俺はコーンスープを吹き出した。
ああ、せっかくのコーンスープが!
ていうか、この流れ少し前にもあった気がするんだが?
「うわお情報が回るの早いね。またネットニュースに載るんじゃない?」
「うぇえ……」
俺はもはや困惑するしかない。
豪気達Sランクパーティーを壊滅させたことから始まり、乃花を学校内ダンジョンで助けたことで校内でも噂になり、あげく君塚達のせいで全面的に身バレしてプロ冒険者となった。当然プロ冒険者になったこともネットで大いに話題になり、また南あさりとのコラボ配信も行った。
そして、いろいろ濃いことがありすぎて忘れがちになるが、南あさりとコラボ配信したのは昨日。
つまり、その熱もまだ冷めやらぬうちに、新たな話題が追加されてしまったことになる。
「そういえば昨日、警察の人に正体ばれてサインせがまれたっけ……まさかその経路でマスコミにバレたんじゃ」
「あー……ドンマイお兄ちゃん」
亜利沙は苦笑しつつ、パンを齧る。
俺もまた、朝から更にげっそりしつつ、パンに齧り付くのだった。
――。
朝食を食べ終えた俺達は、それぞれ制服に着替えて身だしなみを整える。
学校へ行ったら、またいろいろ突っ込まれるかもしれないと考えると、もう苦笑いしか出てこない。
が、憂鬱というわけではなかった。
俺が当初から望んでいた、当たり前で普通の学校生活とはまるっきり違う。
俺を取り巻く環境だって、正直複雑と言わざるを得ないのかもしれない。
けれど、「こんな生活望んでなかった」などと失望するには、今の生活はあまりにも魅力的すぎる。
「ま……なんだかんだありだよな」
俺は誰へともなくそう呟くと、学校の鞄を掴んで自室を出た。
と同時に、同じく部屋から出てきた亜利沙と目が合う。
「あ」
「俺はそろそろ出るけど、一緒に行くか?」
「ごめん。私はまだ、支度が終わってないから」
そう言ってはにかむ亜利沙。
「そうか。じゃあ、俺先に行くから」
「うん……あ、ちょっと待って」
玄関に向かおうとした俺を、亜利沙が慌てたように呼び止める。
「どうした」
「あのさ。今日、帰ってきたら……一緒に、アイス食べよ! 叔母さんが、チョコとバニラのアイスを、買ってきてくれてるみたいだから」
亜利沙は、思い切ったようにそう告げる。
今までも、同じようにアイスを一緒に食べる約束を交わすことは何度かあった。でも、彼女は、いつもと違う雰囲気で、俺を誘っている。
即ち――
「ああ、わかった。ただし、俺がバニラ味を食べる。お前はチョコの方が好きなんだろ?」
「うん!」
亜利沙は、パッと顔を明るくして頷いた。
いつも一緒にいて、相手のことは全部わかってるつもりだったのに、随分と遠回りをしてしまった。
けど、今日からは。
今までと何も変わらない環境で、少しだけ違う関係に変化してゆく。
この先、お互いがお互いをどういう風に認識しようとも、心の底から笑い合える関係でいたいなと、俺はそう思った。
「そろそろ行くな。お前も早くしたく済ませないと、遅刻するぞ」
「わかってる。一足先に行ってらっしゃい、お兄ちゃん」
「ああ、行ってきます」
満面の笑みで俺を送り出す亜利沙へ、俺は小さく手を振ってから玄関を出た。
―――――――――――――――――――――
あとがき
ここまで読んでいただき、まことにありがとうございます。『第四章 大人気ダンチューバー、南あさり編』は、これにて完結となります。
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