101 / 135
第四章 大人気ダンチューバー、南あさり編
第101話 不良のたまり場で
しおりを挟む
《翔視点》
水路脇の人目に付かない工場の扉をこじ開けると、今まさに襲われようとしている亜利沙の姿が目に入った。
――もう、ほとんど反射で行動していた。
二人の間のわだかまりとか、そんなの全部忘れて、俺はただ小さな弓矢にパチンコ玉のような小さな鉄球をのせて、タトゥー男の手に叩き込んだ。
「いっ、でぇえええええええええっ!」
絶叫と共に、手に鉄球を受けたタトゥー男が床を転がる。
「くっそが! なんだ、誰だ! こんなもん俺の手に撃ち込みやがったのは!」
血走った目で周囲を見まわすタトゥー男。
どこから攻撃されたのかにも気付いていない時点で、この街の不良が聞いて呆れるな。
ただ一人、鎖で縛り付けられた亜利沙だけが俺に気付き、小さく声を上げていた。
俺は扉を一気に開き、工場の中へと足を踏み入れる。
「ここだよ、ゲス野郎」
俺は、底冷えのする声でタトゥー男へ告げた。
「なっ……んだと」
いきなりの来訪者に驚いた様子で、固まるタトゥー男。
俺は、ゆっくりと歩みを進める。
奥の方にも数人いるな。ここは不良のアジトみたいだ。
「どう……して?」
不意に、亜利沙の口から声が漏れる。
「どうして、助けに来たの!」
「? どうしてって、まあいろいろ苦労したよ。乃花に手伝って貰って、片っ端から周囲を捜索したんだ。センター・ダンジョンの近くにいられたらお手上げだったし、半分賭けだったけど、なんとか運はこちらに味方して――」
「そういう意味じゃない! なんで? 私、お兄ちゃんに勝手に面倒ごと押しつけて、勝手に逃げた! だから、これは私の問題で、私が一人でなんとかすべきことなのに! なんで助けに来てくれるの!」
「……」
俺は、涙をボロボロこぼしながら、喉が割れんばかりに叫ぶ妹をしばらくの間無言で見つめていた。
やがて、一つだけため息をついてから答えた。
「本気でそう思ってるのなら、後でお兄ちゃん式ヘッドロックをかましてやるから覚悟しとけよ?」
「う゛っ」
とたん、亜利沙が押し黙る。
昔亜利沙が我が儘を言って家族を困らせたときに、俺がお仕置きで行ったヘッドロックで、亜利沙は大泣きした。
たぶん、そのトラウマがまだ残っているのだ。
「て、めぇ……」
そのとき。
ようやくダメージから回復したらしいタトゥー男が、手を押さえてヨロヨロと立ち上がる。
「どうやってここを探し当てた。確かに攫った用水路はすぐ脇だが、それにしたってここをピンポイントで襲撃できるはずが……、まさか!? GPSか?」
「残念外れだよ」
GPS、悪い考察ではないが残念ながら亜利沙のスマホにGPSは入っていない。
ずっと疑問だったが、たぶん彼女は有名人だから、位置情報を悪用されることを恐れてあえて入れなかったのだろう。
今回は、それが裏目に出てしまったが。
「じゃあ、一体どうやって?」
「亜利沙が道端にヒントを残しといてくれたから、見当を付けられたんだよ」
俺は、ポケットからあるものを取り出す。
それは、真っ二つに砕けた小さなカラーコンタクトだった。
「たぶん攫うときに、亜利沙の手元から落ちたんだろう。道端に落ちてるこれを踏んづけていなければ、きっと俺はまだ亜利沙を探して走り回ってた」
「ちっ、クソがっ!」
タトゥー男は舌打ちをして、俺を睨みつける。
――が、何を思ったのかここで低く笑い声を発した。
「くっくく……まあ、妹を助けるためにここまでやって来た兄弟愛は認めてやろう。けどな、こっちは武装した兵力が10人もいんだぞ! そんなチンケなパチンコでどうにかできる相手じゃねぇ! ひゃははははは、傲ったな、お前!」
高笑いをしたタトゥー男は、後ろを振り向いて手下と思われる連中に指示を出す。
「てめぇら、やっちまえ!」
「「「「うぉおおおおおおおおおお!!」」」」
上がる咆哮。
釘バットや鉄パイプを握りしめた不良達が、まとまって俺の方へ駆けてくる。
前列二人、真ん中の列と後列が三人ずつの、計八人が一斉に俺めがけて肉薄する。
「はははははっ! 止めて見やがれ!」
「たかが玩具の弓矢でこの街最強の俺達を止められるものかよ!」
高笑いとともに突っ込んでくる、道を踏み外した哀れな者達。
「この街最強、ねぇ……」
つまらない自称の称号を持つ彼等へ向け、俺は告げた。
「悪いけど、お前等が今から相手をするのは、世界最強の弓使いなんだけど」
水路脇の人目に付かない工場の扉をこじ開けると、今まさに襲われようとしている亜利沙の姿が目に入った。
――もう、ほとんど反射で行動していた。
二人の間のわだかまりとか、そんなの全部忘れて、俺はただ小さな弓矢にパチンコ玉のような小さな鉄球をのせて、タトゥー男の手に叩き込んだ。
「いっ、でぇえええええええええっ!」
絶叫と共に、手に鉄球を受けたタトゥー男が床を転がる。
「くっそが! なんだ、誰だ! こんなもん俺の手に撃ち込みやがったのは!」
血走った目で周囲を見まわすタトゥー男。
どこから攻撃されたのかにも気付いていない時点で、この街の不良が聞いて呆れるな。
ただ一人、鎖で縛り付けられた亜利沙だけが俺に気付き、小さく声を上げていた。
俺は扉を一気に開き、工場の中へと足を踏み入れる。
「ここだよ、ゲス野郎」
俺は、底冷えのする声でタトゥー男へ告げた。
「なっ……んだと」
いきなりの来訪者に驚いた様子で、固まるタトゥー男。
俺は、ゆっくりと歩みを進める。
奥の方にも数人いるな。ここは不良のアジトみたいだ。
「どう……して?」
不意に、亜利沙の口から声が漏れる。
「どうして、助けに来たの!」
「? どうしてって、まあいろいろ苦労したよ。乃花に手伝って貰って、片っ端から周囲を捜索したんだ。センター・ダンジョンの近くにいられたらお手上げだったし、半分賭けだったけど、なんとか運はこちらに味方して――」
「そういう意味じゃない! なんで? 私、お兄ちゃんに勝手に面倒ごと押しつけて、勝手に逃げた! だから、これは私の問題で、私が一人でなんとかすべきことなのに! なんで助けに来てくれるの!」
「……」
俺は、涙をボロボロこぼしながら、喉が割れんばかりに叫ぶ妹をしばらくの間無言で見つめていた。
やがて、一つだけため息をついてから答えた。
「本気でそう思ってるのなら、後でお兄ちゃん式ヘッドロックをかましてやるから覚悟しとけよ?」
「う゛っ」
とたん、亜利沙が押し黙る。
昔亜利沙が我が儘を言って家族を困らせたときに、俺がお仕置きで行ったヘッドロックで、亜利沙は大泣きした。
たぶん、そのトラウマがまだ残っているのだ。
「て、めぇ……」
そのとき。
ようやくダメージから回復したらしいタトゥー男が、手を押さえてヨロヨロと立ち上がる。
「どうやってここを探し当てた。確かに攫った用水路はすぐ脇だが、それにしたってここをピンポイントで襲撃できるはずが……、まさか!? GPSか?」
「残念外れだよ」
GPS、悪い考察ではないが残念ながら亜利沙のスマホにGPSは入っていない。
ずっと疑問だったが、たぶん彼女は有名人だから、位置情報を悪用されることを恐れてあえて入れなかったのだろう。
今回は、それが裏目に出てしまったが。
「じゃあ、一体どうやって?」
「亜利沙が道端にヒントを残しといてくれたから、見当を付けられたんだよ」
俺は、ポケットからあるものを取り出す。
それは、真っ二つに砕けた小さなカラーコンタクトだった。
「たぶん攫うときに、亜利沙の手元から落ちたんだろう。道端に落ちてるこれを踏んづけていなければ、きっと俺はまだ亜利沙を探して走り回ってた」
「ちっ、クソがっ!」
タトゥー男は舌打ちをして、俺を睨みつける。
――が、何を思ったのかここで低く笑い声を発した。
「くっくく……まあ、妹を助けるためにここまでやって来た兄弟愛は認めてやろう。けどな、こっちは武装した兵力が10人もいんだぞ! そんなチンケなパチンコでどうにかできる相手じゃねぇ! ひゃははははは、傲ったな、お前!」
高笑いをしたタトゥー男は、後ろを振り向いて手下と思われる連中に指示を出す。
「てめぇら、やっちまえ!」
「「「「うぉおおおおおおおおおお!!」」」」
上がる咆哮。
釘バットや鉄パイプを握りしめた不良達が、まとまって俺の方へ駆けてくる。
前列二人、真ん中の列と後列が三人ずつの、計八人が一斉に俺めがけて肉薄する。
「はははははっ! 止めて見やがれ!」
「たかが玩具の弓矢でこの街最強の俺達を止められるものかよ!」
高笑いとともに突っ込んでくる、道を踏み外した哀れな者達。
「この街最強、ねぇ……」
つまらない自称の称号を持つ彼等へ向け、俺は告げた。
「悪いけど、お前等が今から相手をするのは、世界最強の弓使いなんだけど」
95
お気に入りに追加
597
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?
果 一
ファンタジー
リクスには、最強の姉がいる。
王国最強と唄われる勇者で、英雄学校の生徒会長。
類い希なる才能と美貌を持つ姉の威光を笠に着て、リクスはとある野望を遂行していた。
『ビバ☆姉さんのスネをかじって生きよう計画!』
何を隠そうリクスは、引きこもりのタダ飯喰らいを人生の目標とする、極めて怠惰な少年だったのだ。
そんな弟に嫌気がさした姉エルザは、ある日リクスに告げる。
「私の通う英雄学校の編入試験、リクスちゃんの名前で登録しておいたからぁ」
その時を境に、リクスの人生は大きく変化する。
英雄学校で様々な事件に巻き込まれ、誰もが舌を巻くほどの強さが露わになって――?
これは、怠惰でろくでなしで、でもちょっぴり心優しい少年が、姉を越える英雄へと駆け上がっていく物語。
※本作はカクヨム・ノベルアップ+・ネオページでも公開しています。カクヨム・ノベルアップ+でのタイトルは『姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰し生活のための奮闘が、なぜか賞賛される流れになった件~』となります。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう
果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。
名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。
日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。
ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。
この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。
しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて――
しかも、その一部始終は生放送されていて――!?
《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》
《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》
SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!?
暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する!
※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。
※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。

異世界の英雄は美少女達と現実世界へと帰還するも、ダンジョン配信してバズったり特殊部隊として活躍するようです。
椿紅颯
ファンタジー
黒織秋兎(こくしきあきと)は異世界に召喚された人間だったが、危機を救い、英雄となって現実世界へと帰還を果たした。
ほどなくして実力試験を行い、様々な支援を受けられる代わりに『学園』と『特殊部隊』へ所属することを条件として提示され、それを受理することに。
しかし帰還後の世界は、秋兎が知っている場所とは異なっていた。
まさかのまさか、世界にダンジョンができてしまっていたのだ。
そして、オペレーターからの提案によりダンジョンで配信をすることになるのだが……その強さから、人類が未踏破の地を次々に開拓していってしまう!
そんな強すぎる彼ら彼女らは身の丈に合った生活を送りながら、ダンジョンの中では今まで通りの異世界と同じダンジョン探索を行っていく!

底辺動画主、配信を切り忘れてスライムを育成していたらバズった
椎名 富比路
ファンタジー
ダンジョンが世界じゅうに存在する世界。ダンジョン配信業が世間でさかんに行われている。
底辺冒険者であり配信者のツヨシは、あるとき弱っていたスライムを持ち帰る。
ワラビと名付けられたスライムは、元気に成長した。
だがツヨシは、うっかり配信を切り忘れて眠りについてしまう。
翌朝目覚めると、めっちゃバズっていた。
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる