【悲報】最弱ジョブ「弓使い」の俺、ダンジョン攻略中にSランク迷惑パーティーに絡まれる。~配信中に最弱の俺が最強をボコしたらバズりまくった件~

果 一

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第四章 大人気ダンチューバー、南あさり編

第100話 絶望と希望

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《三人称視点》

「……ん」

 亜利沙の意識が、深い水の底から浮上する。
泥がこびりついたように重い瞼を開けた少女の前に広がっている景色は、不気味なものだった。
 座り込んだお尻と足に伝わる、冷たい感触。コンクリート製の床が広がっていて、無機質な壁が暗闇の中ぼんやりと見えるあたり、どこかの建物の中のようだ。

 天井はかまぼこ型をしていて高く、全体の構造は体育館を一回り広くしたようなものだろうか。
 ところどころに大きな機械が並べられているところを見るあたり、どこかの工場施設だろうか?


「あれ。ここは……私、どうなって?」
「ハッ、やっとおきたかよ。ちょっとばかし麻酔入れすぎたかな」
「っ!」

 亜利沙は、急に投げかけられた声に驚いて反射的にこの場から逃げようとする。
 が、立ち上がろうとした亜利沙の両腕を何かがぐんっと後ろへ引っ張った。

「っ! 手錠!?」

 亜利沙の両腕には金属製の手錠が掛けられていて、鎖で背後の柱に繋がれている。
 これでは、自力でこの場から逃れることもままならない。

「そう暴れんなって。お前が呑気に寝てるの間、俺達は何もせず待ってやったんだぜ? 寝込みを襲わずにいた分、紳士的だろ? なあ」

 一人の男が、亜利沙へ向けてそう言った。
 肩にバーコードみたいなタトゥーを入れた、細身の男だ。
 平気で下品な話をする男だが、亜利沙が震え上がったのはそこではない。

「え? 今……俺達って」
「むろん、お前を誘拐したのはそこの下品な人間だけじゃないってことだ」

 低い声で呟くそれは、男とは別の方向から聞こえた。
 首だけ回して振り返った亜利沙の視界に映ったのは、全身筋肉ダルマみたいなタンクトップの男だった。

 タトゥー男は高校生くらいだが、筋肉ダルマはその外見からして、本来であれば大学生くらいになっている年齢だろう。

 その他にも、幾人か柄の悪い男がいる。
 いわゆる、大通りから外れた空間を島にしている、不良集団というやつだ。

「私を誘拐して、どうするつもりなんですか?」

 気が動転して叫びたくなる思いを無理矢理堪えて、亜利沙は尋ねる。

「へっ、そりゃあもちろん、じっくりと体を堪能して――」
「おい。ガキ相手に性欲丸出しにしてどうする」
「――、……へいへい」

 タトゥー男は、つまらなそうに亜利沙へ伸ばしかけていた手を引っ込める。
 タトゥー男を止めた大男は、ゆっくりと亜利沙の方へ近づいて行って、淡々と尋ねた。

「俺達の目的は簡単だ。最近、俺達の島を荒らす連中が多くてな。報復するのに、ある程度まとまった金が必要なんだ」
「――つまり?」
「おいおい、聡い嬢ちゃんならわかってんだろ? つまり、身代金ってヤツ? それが欲しいから利用させて貰うんだよ」

 タトゥー男は、舌をだして笑いながらそう告げる。

「ふん、まあそういうことだ。大人しく身代金の餌になれ。お前のスマホはパスワードがわからずじまい。顔認証も指紋認証も設定してないときた。だが、お前から親族の連絡先を聞けば済むだけの話。大人しく連絡先を――」
「お、お断りします」

 掠れた声で、されどはっきりとそう告げる亜利沙。
 その気丈さに、さしもの大男も片方の眉を吊り上げて怪訝そうな顔をする。

「ほぅ? てっきりすぐに泣き出して根を上げるかと思ったが、意外だな」
「…………」

 亜利沙はそれには答えない。
 口を硬く閉ざし、俯いたままだ。

「親族に泣きつけば金くらい出してくれるだろうが。そんな簡単なことなのに、できない理由でもあるのか?」
「……知りません」

 亜利沙はそう答えたが、それは図星だった。
 親なんてもういないから、ではない。
 叔母さんも、きっと本気で心配して、警察に連絡するなり身代金を用意するなりするだろう。
 でも――このことを、兄に伝えるのだけは、どうしても嫌だった。

 勝手に逃げ出して。困らせて。失望させて。
 挙げ句の果てに不良に捕まって、また迷惑を掛けるのか?
 きっと、翔は「助けて」と一言いえば、地球の裏側へ立って助けに来てしまう。そういう人間だ。

 だから、もうこれ以上翔に迷惑を掛けるわけにはいかない。
 これは亜利沙自身が招いた自業自得の結末だから、亜利沙が一人で決着を付けるべきなのだ。
 ゆえに――

「何度聞かれても、私は答えません。たとえ、何をされても、絶対に」

 揺るぎない意志を込めて、大男を見上げる亜利沙。
 大男は、鋭い眼光でそれを真っ向から受け止めると、低い声で「そうか」とだけ呟いた。
 その瞬間だった。

 ゴッ! と、鋭い衝撃が亜利沙の腹部に弾けた。

「がっ!」

 亜利沙は、思わずお腹を押さえて蹲る。
 大男は、蹴り上げた足をゆっくりと振り下ろして、冷めた声でタトゥー男に告げた。

「口を割るまで、お前の好きにしていい」
「へへっ、そりゃどーも」

 タトゥー男は舌なめずりをして、激しく咳き込む亜利沙の髪をつかみ上げた。

「ってことらしい。わりぃな、うちのから独断専行の許可を貰えるのは滅多にねぇもんで。好きにやらせてもらうとするわ」

 そんなタトゥー男の下品な発言に。

「ヒューやれやれ!」
「後で俺にも一発ヤらせろ!」

 他の構成員から野次が飛ぶ。
 が、

「うるせぇぞテメェら! 好きにしろと許可を貰ったのは俺だ! 大人しく引っ込んでろ!」

 唾を飛ばして叫んだタトゥー男は、亜利沙の服に手を掛けて一気に引き裂いた。
 控えめな胸を覆う下着と、白い柔肌が衆目に曝される。

「ヒュー、綺麗な肌だな。こりゃあ、いただきがいがありそうだぜ」
「……」

 亜利沙は、ただ黙ったまま視線を逸らす。
 本当は、恐怖で今にも気を失ってしまいそうだった。
 それでも、ただひたすらに耐える。ここで自分一人が涙を流せば、また明日から大好きな兄と一緒に笑い合えると信じて。

「それじゃあ、いただくとするかぁ」

 無情に、少女の柔肌に伸びる手。
 決して声を出さない亜利沙が瞑った目の隙間から、一筋の涙がこぼれ落ちた――そのときだった。

 バシッ! と、鈍い音が目の前でする。

「いっ、でぇえええええええええっ!」

 絶叫に驚いて目を開けた亜利沙の視界に、伸ばしかけた手を押さえて転がり回るタトゥー男の姿があって。そして、その近くに小さなパチンコ玉みたいな金属球がおちている。

「くっそが! なんだ、誰だ! こんなもん俺の手に撃ち込みやがったのは!」

 タトゥー男は半狂乱で叫びながら、辺りを見まわすが誰もいない。
 ただ一人、亜利沙だけは気付いていた。

「……あ」

 工場の大きな扉。
 その扉にいつのまにか僅かな隙間が開いていて、そこから月明かりが差し込んでいることに。

「ここだよ、ゲス野郎」

 そして、聞き慣れた声と共に勢いよく工場の扉が左右へ開け放たれる。
 星明かりと月明かりが暗い工場内を照らす。
 その中心に、白い髪を持つ少女のような少年が立っていた。

 ――亜利沙は、すっかり忘れていた。
 こういうとき、彼は。息吹翔という人間は。
 助けなんて呼ばなくても、駆けつけてしまう人だと言うことを。
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