【悲報】最弱ジョブ「弓使い」の俺、ダンジョン攻略中にSランク迷惑パーティーに絡まれる。~配信中に最弱の俺が最強をボコしたらバズりまくった件~

果 一

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第四章 大人気ダンチューバー、南あさり編

第90話 一冊の手記

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 ――そうなると、やはり気がかりなのはどうして亜利沙が、南あさりである可能性を問い詰めたとき、否定したのか。
 その理由が気になる。

 
 ――「あなたのことが好きだから、そういう行動に出たんじゃない? たぶん」――

 不意に、乃花が言った台詞が、脳内でリフレインする。
 俺のことが好きだから……そんなことは有り得ない。
 だって、俺と亜利沙は兄妹だ。普通に考えて、恋仲になることなんて有り得ない。

 現実世界はラノベとは違う。
 妹が兄にガチ恋なんて、するはずが――

 そこまで思いかけて、俺は一度自分の頬をひっぱたく。
 違う。英次も言っていたではないか。
 俺のこれは、選択を先延ばしにしているだけで、何も解決しないと。

 そんなのは有り得ないと、勝手に亜利沙の思いを決めつけ、解決をする気が無いヘタレのすることだ。

 もし、亜利沙が俺のことを恋愛的な目で見ていることなどなく、勝手な早とちりだったとしても構わない。
 そのときは「え、お兄ちゃん何夢見てんの? ガチ目にひくんだけど。ちょっと距離置いていい?」とジト目で睨まれながら罵られるだけだ。
 ショックで一週間くらい高熱で寝込むくらいで済むだろう。

 今すべきことは、亜利沙がどういう思いで南あさりとして俺に近づいてきたか、ということだ。

「覚悟を決めろよ、俺」

 言ったこともないようなキザな台詞を、自分に言い聞かせるように呟く。
 しかし、俺が今からやろうとしていることは、無断で妹の部屋に忍び込んで戸棚をひっくり返す最低極まりない行為である。
 ――凄まじい背徳感。
 たぶん、どんなに仲の良い兄妹であっても、こんなことしたら一週間は口を聞けないだろうな。

 致死レベルのダメージを喰らいそうな予感に苦笑いしつつ、俺は「ごめん」と一言謝罪してから、亜利沙の部屋に忍び込んだ。

――。

 結論から言おう。
 特に、これといってヒントになりそうなものはなかった。
 まあ、一番下の戸棚を開けた瞬間、眩い白のレース生地の何か――が見えた気がして慌てて閉じ、それ以降ちゃんと部屋の隅々まで探せていないせいなのかもしれないが。

 本当に、何も怪しいものは見ていない。
 なぜか戸棚の二段目の段から、妹ではなく俺の写真しか載っていないアルバムが5,6冊出てきたのだが、それについては考えないことにする。

「……まあ、流石にわかりやすいとこにヒントなんて残しとくわけないもんなぁ」

 彼女自身、俺に正体を暴かれたくなかったのだから、バレかけた今、細心の注意を払わないはずがない。

 やはり、何もないのだろうか?
 
 仮に、亜利沙の俺への思いがあったとして。
 それが、南あさりとして近づいてきた理由に繋がる、証拠なんて――

 俺は、ゆらりと揺れるように振り返り、半ば諦めるように部屋を後にしようとして――
 ガツンッ! と俺の肩に衝撃が弾けた。

「いだっ!」

 俺の悲鳴と共に、ドサドサと何かが床に落ちる。
 どうやら、振り返った拍子に、ドアのすぐ脇にある本棚に思いっきりぶつかってしまったようだった。

「あー……やっちゃったな」

 俺は小さくため息を吐きつつ、腰をかがめる。
 本、と言っても、意外に亜利沙は読書をしないタイプだ。
 だから、本棚には読みもしない童話全集だったり、勉強で使う英和辞典だったりが並んでいる。
 俺の本棚みたいに、ラノベや漫画がずらりと並んでいたりはしない。

 引き篭もり時代、どうやって一日を過ごしていたんだ……?
 そうして、うっかり想像してしまう。
 俺が虹ヶ丘中学校へ通うようになり、叔母さんが仕事へ行ってしまったあと。
 誰もいない家の中、ベッドの上で蹲っている亜利沙の姿を――

「っ!」

 俺は、想像を振り払うように頭を横に振る。
 たぶん大丈夫だ。
 確かに、俺が学校に行くようになるまでは、一日中部屋に籠もりっぱなしだったのだが、なぜか俺が学校に通い始めるようになってからはちょくちょく顔を見せるようになった。

 それから半年後には、外に出られるようになり、更に1年が経つ頃には学校にも通い始めた。
 きっと、彼女の中で転機があったのだろう。だから、大丈夫なはずだ。

 俺は、床に落ちた辞書やら詩集を拾いつつ、元あった場所に戻そうとして――不意に、その手が止まる。
 本棚の奥に、何かがある。

 それは、小さな古びた手記だった。
 なんとなく気になって取り出した俺は、思わず息を飲む。
 表紙に、万年筆で丁寧に書かれた文字は――『息吹亜利沙、成長の記録』。

 不自然だった。
 だってこういうのは、普通アルバムに書くものだろう。
 なのに、これは手帳。
 俺は、何か確信に触れているような気持ちになりながら、手記を開いた。

 ――一ページ目。
 20××年、6月2日。親戚の◯◯夫妻が亡くなって、1人娘の亜利沙を家族として迎え入れた。翔は、自分に妹ができたことを凄く喜んでいた。これから、兄妹として仲良く過ごして欲しい。

 ――手記に記しているのは、もう亡くなった俺の両親だろう。
 けれど、俺の目と意識が釘付けになったのは、
 
 俺は、息をするのも忘れて手記をめくる。
 もしかしたら、これ以上俺が望む答えなんて載っていないかもしれないけど。一度回り出した歯車は止められない。
 
 もしかしたら、亡き親の日記をなぜか亜利沙が持っていることを、不自然に思ったからかもしれない。
 その結果――運命は、残酷なまでに俺に味方をして、望む答えを導き出した。

 とあるページで、俺の手が止まる。
 いつの間にか、早送りのようにめくっていた過去の日付は、

 けれど、日記のようなものは続いている。
 文字の雰囲気が、若干変わって。言わずもがな、書いている人物が亜利沙に代わったのだ。

 そして、その日付が示すのは――3年弱前の平日。
 丁度、

「――、……そう、なのか」

 しばらく、時間の流れすら忘れてその内容を見つめていた俺は、やがて絞り出すように呟く。
 ――全部が全部、答えが書かれていたわけじゃないけど、なんとなく亜利沙がこれまで何を思ってきたのかは、わかった。

 そんなとき、スマホがメールを受信する。
 ポケットから取り出してメールを開くと、差出人はダンチューバーの事務所からだった。
 件名は、【南あさりとのコラボについて】

 そこには当然、日程も記載されていて――

「ちゃんと、向きあわないとな」

 俺は思わずそう呟いた。
 
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